IDS/Inequitable Conduct関連CAFC・最高裁判決


Belcher Pharma v. Hospira - Fed. Cir. 2021-09-01
不公正行為(FDAに提出した重要な情報をPTOには非開示):
新薬申請時にFDAに提出した重要な情報を出願審査中には提出しなかった。地裁で不公正行為が認定されCAFCで支持された。
2011年のTherasense判決の法理に基づき地裁で「(i)重要性」と「(ii)騙す意図」の要件が審理された。本判決で新たな法理論が提示されたわけではないが地裁で不公正行為が認定された場合にCAFCで地裁判決をどのようにレビュするかの基準が再確認された。即ち、「(i)重要性」と「(ii)騙す意図」の判断の基礎となる事実に対する地裁の認定に明白なエラー(clear error)があるか否かで判断する。その判断基準を基礎とし「不公正行為があったか否か」という最終判断に対しては地裁の裁量権の乱用(abuse of discretion)という基準で判断する。Larson Mfg. Co. of S.D. v. Ali (Fed. Cir. 2009) 従って、地裁で不公正行為が認定された場合に余程のことがない場合にCAFCで覆されることはない。

 American Calcar v. American Honda Motor - (Fed. Cir. 2014-11-26) 
Post-Therasenseで不公正行為が認められたCAFC判決。
Post-Therasense不公正行為関連の判決(2:1)である。多数意見は、再審査で未提出情報の重要性が否定され、意図的に騙す意図の挙証が弱いに拘らず不公正行為を認めた。Newman判事の反対意見の方に理があると筆者は考える。即ち、重要性の要件に対しては再審査で問題となった未提出の情報が審理されたに拘らず特許の有効性が維持された。この事実のみに鑑みても不公正行為が認定されることはありえない。然し、今後は出願審査過程において未提出の文献(知る状態にあったがIDS提出し忘れたような文献)が見つかった場合にはAIAで2012年9月16日から可能となったSupplemental Examを実施し、被告の不公正行為の抗弁を封じてから訴訟を提起することが重要であろう。

 Post Therasense判決 パート3:
不公正行為(Therasense事件後):
2013年11月15日にOhio Willow Wood v. Alps South判決がでた。再審査継続中における出願人の審判趣意書における陳述(証言者の信憑性を攻撃するために証言者は利害関係者であると全く根拠なしに主張した)が問題となった。本判決で述べられているOWW側のアクション(再審査係属中)がすべて事実とするならばTherasense判決のBUT-FOR Materialityを満たすだけではなく、重要性の要件の例外としてあるAffirmative Egregious Misconduct(著しく悪質な行為)の要件をも満たすであろう。さらに、これら状況証拠から合理的に導き出される唯一の推論は「USPTOを騙す意図」である( “deceptive intent” must be the single most reasonable inference drawn from the evidence”)ことは間違いなかろう。

 Post Therasense判決 パート2:
不公正行為(Therasense事件後):
2011Therasense大法廷判決以降、4件のFed Cir判決が出た。CAFCの判決としては、20124月のAventis判決と201310月のIntellect判決のみが不公正行為を認定し、権利行使不能と判断した。尚、20129月の1st Media事件において、Fed CirTherasense大法廷判決における「騙す意図」の立証責任の困難さをより明白に説示した。その後SONY Entertainment Americaにより上告されたが、最高裁はSolicitor Generalの助言(20139)に基づき上告を棄却した(20131015)

 Sony Entertainment America v. 1st Media
不公正行為(Therasense事件後):
2011年のTherasense大法廷判決の法理、最高裁で見直しとなるか? 
CAFCは自身のTherasense判決(2011年5月25日)で確立した不公正行為を成立するための構成要件(硬直的なルール)に鑑み、1st Media側の発明者も代理人も欧州特許庁で引用された公知文献を「意図的に隠蔽した(made a deliberate decision not to disclose)」という事実を立証できていないとして地裁判決(不公正行為を認定)を破棄した。 (201334日)。連邦最高裁は総務長官(Solicitor General)に意見を求めた(2013513日)  

 Raylon LLC v. Complus Data innovation  (Fed. Cir. 2012-12-07)
根拠なき訴訟の提起と法的制裁(弁護士費用請求可):
昨今稀に見る特許権者に制裁を科した判決。CAFCはRaylonのクレーム解釈と侵害理由は著しく合理性を欠くものであり、根拠のなき訴訟の提起であり法的制裁(弁護士費用の支払い)を科すべきと判断した。

 Post Therasense Decisions and Practical Tips (Jan 2013)
不公正行為(Therasense事件後):
2011年のTherasense判決後のCAFCの判決を少しフォローしてみました。不公正行為の認定は特に「PTOを騙す意図」の証明がかなり困難になっているとみられる。 

 1ST MEDIA v. ELECTRONIC ARTS (Fed. Cir. 2012-09-13)
IDSと不公正行為(Therasense事件の後):
Therasense大法廷判決の法理を再確認するとともに明快に適用したCAFC判決。本判決は、実務において、我々がときどき直面する状況、即ち、米国出願で許可通知が発行された後に、対応外国出願(本事件ではEP出願)において関連度の比較的高い先行技術文献(本事件ではY表示の引例)が引用されたに拘らず当該先行技術文献をIDSしなかった場合に、どのような要件を満たす場合に不公正行為が認定され、米国特許が権利行使不能になるかという明白なガイドラインが判示されたと言えよう。

 Therasense v. Becton - カリフォルニア北部地区地裁判決 (2012-03-27)
IDSと不公正行為:
District Ct. Decision Remanded by CAFC
CAFC大法廷の厳格な基準に鑑みた差戻し審: TherasenseAbbott)の不公正行為を再度認定した。

 Abbott (Therasense) v. Becton (Fed. Cir. en banc: 2011-05-25)
IDSと不公正行為:
CAFC大法廷においてIDS提出不備に起因する不公正行為の判断基準に対して判決が出た。641と意見は分かれたが多数意見としては不公正行為の認定基準がかなり厳しくなった。不公正行為の構成要件である「1: USPTOを騙す意図」と「2: 情報の重要性(その情報が正しく伝えられていたら特許は成立していなかったであろう」に対して明白な判断基準が示された。即ち、被疑侵害者は[1][2]をそれぞれ明白かつ説得性の挙証基準で立証すること。

 Therasense v. Becton Dickinson & Co.
IDSと不公正行為:
2010119 (Fed. Cir. En Banc: 大法廷による口頭審理)
不公正行為の構成要素である「重要性」と「騙す意図」のそれぞれの判断基準に焦点を絞り議論が成された。近時に大法廷による判決が出るでしょう。 重要な争点は、「騙す意図」の立証においてPTOに隠蔽された情報の「重要性」は考慮に入れられるべきか否かである。⇒ 大法廷で不公正行為の認定に対する判断基準が判事された(CAFC大法廷判決2011525日)。

 Abbott Diabetes (Therasense, Inc.) v. Becton, Dickinson and Co.
不公正行為:

CAFC2010125日の判決を破棄し、大法廷で審理することを決定した(2010426日)。 特に不公正行為を認定するにあたり、PTOに開示されなかった情報の「重要性」とPTOを騙す「意図」のこれら2要件をバランスする判断基準を今後も適用するべきか、また、他の連邦事件においてより適切に不公正行為の判断基準を適用している判例はないかなどに関して審理をする意向を示した。⇒ 後に大法廷で審理され不公正行為の認定に対する判断基準が判事された(CAFC大法廷判決2011525日)。

 Abbott Diabetes v. Becton (Fed. Cir. 2010-01-25)
IDSと不公正行為:
対応する欧州特許出願(counterpart EP App)審査中に出願人が欧州特許庁に対して述べたコメントがUSPTOに対して宣誓した供述の内容に対して重大な齟齬があったとしてIDS開示義務違反(不公正行為)と判断し、権利行使不可とした。⇒ 後に大法廷で審理され不公正行為の認定に対する判断基準が判事された(CAFC大法廷判決2011525日)。

  STAR SCIENTIFIC v. RJR  (Fed. Cir. 2008-08-25)
不公正行為(Therasense前):
本判決は、不公正行為の判断基準を変更したわけではない。しかし、今回の判決は過去のCAFCの不公正行為の判断に対する判示を整理し、不正行為の立証責任の基準をより明確にしたという意味で重要であると考える。特に、2004年のMonsanto判決を今回CAFCが再確認したという点に鑑み、被疑侵害者にとっては、問題となる特許の経過書類において、IDS開示義務違反の事実を見つけたとしてもそれを根拠にして特許の権利行使不能の抗弁が困難になると予想される。逆に特許権者にとってはIDS開示義務違反をしたことが後に発覚したとしてもそれ自体で特許が権利行使不能になることはないという意味において、既存のIDS提出ルーチン(社内・所内規則)が設定されており、同ルーチン(社内・所内規則)に基づきIDS提出を実行している場合には、同ルーチン(社内・所内規則)をより厳格に見直す必要性を課す判決ではないと言える。⇒ 後にCAFC大法廷で同じ争点に関し審理され不公正行為の認定に対する判断基準が判事された(Therasense v. Becton CAFC大法廷判決2011525日)。

Semiconductor Energy Lab. (SEL) vs. Samsung Electronics Co. (Fed. Cir. 2000-03-02)
非英語文献をIDSする場合にクレームとの関連性に関わる簡潔な説明文(concise explanation of relevance)を提出することが規則1.98a3で要求されている。本事件では発明者であるSECの社長が非英語文献の関連性のある重要情報をPTOを騙す意図をもって開示しなかったとして地裁で不公正行為(権利行使不可)が認定され、CAFCにおいても地裁判決が支持された。尚、判決文を読むと同氏は単に非英語文献の重要情報を開示しなかったのみならず、IDSを促す代理人を一時解雇する等、出願審査経過中に不誠実な行為が多々あったようだ(筆者)。