Abbott (Therasense) v. Becton CAFC大法廷判決 2011年5月25日
不公正行為(Inequitable Conduct)の立証基準 Summarized
by Tatsuo YABE May 29, 2011
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2011年5月25日にCAFC大法廷においてIDS提出不備に起因する不公正行為の判断基準に対して判決が出ました。 6−4−1と意見は分かれましたが多数意見としては不公正行為の判断基準が厳しくなりました。 即ち、不公正行為の構成要件である「意図:
"Intent"」と「重要性: "Materiality"」に対して以下の判断基準が示されました:
(1) 「意図」と「重要性」は個別に判断されなければならない;
(2) 意図の証明には「特別の意図」が明白且つ説得性の証拠レベルで立証されなければならない;
(3) 但し、「騙す意図」は状況証拠によって立証することは可能である;
(4) 被疑侵害者が不公正行為の要素を立証する責任を負うので、「意図」を証明できない限りは特許権者に善意の立証責任は生じない;
(5) 「重要性」の要件を立証するには「BUT-FORテスト」を用いること、即ち、PTOに提出されなかった情報がPTOに提出されていたらクレームが許可されなかったであろうと判断される場合には「BUT−FORテスト」を満たす;
(6) 但し、「甚だしく不誠実な行為」があった場合には「BUT-FORテスト」を経ることなく「重要性の要件」を満たすと判断しても良い;
(7) 規則1.56で規定された重要性の規定は不公正行為の構成要件である「重要性」の判断基準としては採用しない。
本判決によって、今後は訴訟において、被疑侵害者によるディフェンス(抗弁)として、不公正行為の立証が困難になることが予想されます。 しかし、本判決が出たからといって社内のIDS提出ルールを見直し、直ちに簡略化するというのは懸命ではないと考えますが、過剰になっていると思える場合には米国弁護士と相談の上、見直すのは妥当であると考えます。 また、成立した特許の経過書類をレビューしていてIDS提出ミスが発覚した場合に、本判決に基づき(上記1−7を参照し)権利行使不能にされる可能性を従前よりも確かな確率で予想できると思料します。
Further comment may be provided, shortly.... May 29, 2011 By Tatsuo Yabe
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2011年5月25日に、連邦巡回区控訴裁判所における大法廷判決が出ました。
当該大法廷判決は6−4−1と意見が分かれ、多数意見(6:
本大法廷判決)はRader判事長による。
本事件の争点は不公正行為の判断基準に関し、より詳細には、不公正行為の構成要件である「意図」と「重要性」のそれぞれの要件を満たす判断基準に関する。
本事件において問題となった特許はAbbott社のUSP5820551(以下USP551)であり、当該特許は、無効、非侵害という判断に加えて、1994年1月12日と1995年3月23日にAbbott社のEP636特許出願審査中に提出された意見書(*2)をUSP551特許の審査中に米国特許庁にIDSしなかったという理由で権利行使不能と判断された。
Therasense v. Becton (N.D. Cal. 2008)
(*1:
USP551特許審査中に、Abbott社自身のEP0078,636
特許に対応するUSP4,545,382が引用された。 EP636特許の審査中にD1引例と識別するためにAbbottが供述した内容がUSP551特許の審査中に引例としてUSP382特許の開示内容に対して供述した内容と明白な矛盾があった)
上記地裁の判決を不服とし、Abbott社はCAFCに控訴したところ、CAFCの3人のジャッジパネルで2:1で当該特許の無効・非侵害・権利行使不能の地裁判決が支持された
(Abbott v. Becton; CAFC March,
2010)。 Abbott社は同判決をさらに不服とし大法廷による再審理を求めた。 CAFCは大法廷における再審理の請求を受理し、今回の判決に至った。
今回の判決で、地裁の不公正行為の認定を否定し、地裁に差し戻した。
不公正行為を成立するための構成要件、「意図」と「重要性」に関して、大法廷判決で重要なポイントを以下に要約します:
(1) 「意図」と「重要性」とは個別の要件であり、それぞれ個別に証明されなければならない
(Hoffmann-La Roche v. Promega Corp CAFC 2003)。
即ち、意図の証明レベルが低くとも重要性の証明レベルの高さで補うという「スライディングスケール(Sliding
scale)」と称される証明手法は間違いである。 重要性の要件から意図の要件が推論されてはならない。 出願人が引用文献を周知であり、かつ、その情報の重要性を認識している状況にあり、そのうえで、当該情報を開示しなかったという事実を証明されたとしても、PTOを騙す特定の意図が立証されたことにはならない。
(2) 意図を証明するためには、被疑侵害者は特許権者がPTOを騙す「特定の意図」を証明しなければならない。
Kingsdown判例に基づき、PTOに対し重過失なる誤報、あるいは、知らせなかったという事実に基づき意図の要件が満たされるわけではない。 出願人が重要な情報を意図的に開示しないという決断をしたという事実を明白且つ説得性のある証拠でもって証明しなければならない。 即ち、出願人が引用文献を周知であり、その文献の関連性が重要であることを認識しており、当該情報を開示しないという決定を意図的になしたということを明白かつ説得性のある証拠で証明しなければならない。
(3) 騙す意図を立証するための直接証拠が見つかるというのは稀であり、当該意図を間接証拠及び状況証拠によって証明しても良い。
明白且つ説得性という立証基準で証明するためには、特定の意図は、証拠から導き出される最も合理的な唯一の推論でなければならない。 依って、証拠から複数の合理的な推論が導き出される場合には、特定の意図の証明には不十分である。
(4) 不公正行為を主張する側が立証責任を負うので、立証責任を負う側が特定の意図を明白且つ説得性のある立証基準で証明できない場合には、特許権者の側が善意(誠実さ)を証明する証拠を提示する必要はない。
(5) 不公正行為を立証するための「重要性」の要件を満たすには、BUT-FORテストを満たす重要性である。 BUT-FORテストとは、出願人が当該情報を提出していればPTOがクレームを許可していなかったであろうというレベルの重要性である。
然るに、下級審でPTOに提出されなかった情報の「重要性」を判断する場合に、審査段階において当該情報が提出されていたらPTOがクレームを許可したであろうかということを判断しなければならない。 当該判断をするときの証明レベルは証拠の優越性の基準であり、クレームに対して合理的で最大限の権利解釈(意味合い)を与えなければならない。
裁判所においてPTOに知らされなかった情報(参照文献)によってクレームが無効と判断された場合には、当該情報は重要性の要件を満たすと理解される。 何故なら、裁判所においてクレームを無効にするときの立証基準は、証拠の優越性よりも高い、明白且つ説得性の立証基準で審理するからである。 故に、当該情報によって裁判所でクレームが無効と判断されない場合であっても当該情報は不公正行為を立証するための重要性の要件を満たす可能性はある。
(6) 重要性の要件は基本的には上記の「BUT-FORテスト」で証明されなければならないが、その例外として甚だしい不誠実な行為が積極的になされた場合がある。 その一例としては、意図的に偽りの内容を伴う宣誓書の提出などの行為であり、このような行為は重要性の要件を満たすと判断される。
(7) 米国特許施行規則1.56条に基づく重要性の基準は不公正行為の重要性を立証する基準としては適用しない。
規則56条で規定されたPTOの重要性の基準は低いので、これに起因する問題点の解決というのがCAFC大法廷で今回再審理をすることになった理由である。 要は、規則56条では重要と判断される情報の範囲が広範であり且つ不明瞭である(特許クレームを自明と判断するための僅かな関連性があれば重要ということになる)。
以上です。