1st Media, LLC

v.

Electronic Arts, Inc.,

Harmonic Music Systems, and

Sony Computer Entertainment America, Inc.,

 

Fed Cir. Sep. 13, 2012

 

Summarized by Tatsuo YABE

Jan. 12, 2013

 

 

筆者コメント:

 

Therasense大法廷判決(2011525日)以降、IDS提出不備に基づく不公正行為の認定基準が高くなった。 特に、2つの要件、即ち、@PTOに誤報、或いは、伝えられなかった情報の重要性、A 誤報あるいは伝えられなかったという行為(或いはinaction)が出願人の意図によって為されたことを被疑侵害者が明白且つ説得性のある挙証基準で証明しなければならないとされた。本判決は当該大法廷判決による法理を米国出願業務に携わる外国特許出願担当者が実務で遭遇する事象に適用したものである。本判決は、実務において、我々がときどき直面する状況、即ち、米国出願で許可可能通知が発行された後に、対応外国出願(本事件ではEP出願)において関連度の比較的高い先行技術文献(本事件ではY表示の引例)が引用されたに拘らず当該先行技術文献をIDSしなかった場合に、どのような要件を満たす場合に不公正行為が認定され、米国特許が権利行使不能になるかという明白なガイドラインが判示されたと言えよう。

 

ひとことで言うならば、米国特許出願で許可可能通知が発行された後に対応EPでサーチレポートにY表示の先行技術文献が引用された場合に、その引例の内容を検討することなく、提出しなかったという事実認定の場合には不公正行為を構成しない。 或いは、提出するのを単に忘れていたとか、提出するべきであったがしなかったという場合には不公正行為の認定は受けない。 本判決は、さらに、不注意、注意散漫、期限管理の不備、関連出願のマッピングの不備、或いは、その他種々の要因に起因し過失あるいは重大過失を構成することを被告(被疑侵害者側)が主張しても騙す意図の挙証責任を満たさないと説示している。

 

被疑侵害者の側が、出願人が当該情報の重要性を認識していながら、当該情報をPTOに開示しないという意図的な判断を下したということを明白且つ説得性のある理由で証明できない場合には、出願人側が提出しなかった(あるいは結果として提出されていなかった)理由を一切説明する必要もないということを再度明白に説示している。

 

依って、今後、地裁あるいはCAFCにおいて不公正行為が認定される事件が少なると予想されるが、特許無効の抗弁に有効な先行技術を持たない被疑侵害者の側としては不公正行為の抗弁をしなくなるとは考えがたい。不公正行為を立証するために「PTOを欺くための特定の意図」という要件を立証するのは困難ではあるが、当該要件を立証するための事実関係を集積するディスカバリーがなくなることはない。 ディスカバリーを終了すると被告側(被疑侵害者側)は挙証責任を満たせないということをかなりの確からしさで予想できる(Therasense大法廷判決の法理および本判決での法理の適用の明白さ)であろうが、そのようなディスカバリーの実施さえ、時間と費用の多大な負担を特許権者に強いることになる。 然るに、今後、特許権者は、2012916日以降可能となった補充審査を実施し、それを完了した状態で権利行使をするのが最も得策であると考える。 補充審査は、費用は掛かるが(約2200ドル+代理人費用)、同費用によって12アイテムまでPTOで査定系再審査を実施することが可能である。 

 

本事件においてもCAFCまで上がったのは3つの先行技術であり、即ち、3つのアイテムである。 これらはまさに補充審査で再審査を完了しておけば(勿論、本事件の当時には補充審査は存在していなかったがもし補充審査が可能であったとした場合には)、訴訟において不公正行為の抗弁の対象にならなかったであろう。

 

従って、本判決の説示に鑑み、今後は権利行使の前にIDS提出不備をチェックし、もし対応外国出願あるいは関連米国出願でそのような不備が見つかった場合には、権利行使の前に補充審査で出願経過中のIDS提出不備の問題(及び特許付与後〜権利行使までの間に見つかった新たな先行技術文献に起因する問題)を治癒しておくことが重要であるということが理解される。さらに、付け加えるならば、補充審査中においてPTOに提出する書面(特に非英語公報に対してコメントする場合)はさらに入念にチェックし、補充審査の経過書類に基づき不公正行為の抗弁をされないようにすることも重要であろう。

 

 

    判決の概要:

 

特許権者: 1st Media (譲受人)

問題となった特許:US5,464,946 (946特許)

発明者(及び出願人): Lewis博士(以下L氏と称する)

代理人: Sawyer米国弁護士(以下S氏と称する)

 

    背景:

問題となったUS5464946(本特許を946特許及び対応する出願を946特許出願と称する)は発明者L氏による、「歌、ビデオ、マルチメディア・カラオケ情報の売買に使用される娯楽システムに関する発明」であって、S氏によって19921113日に米国出願された。 同日(1113日)に実質同じ明細書でUS432特許出願がなされた。 946特許出願から優先権を主張し、19931111日にPCT出願が実施された。 さらに、432特許出願から1994624日にCIP 出願が実施された。 

 

即ち、@946特許出願と同内容、同日付のA432特許出願、さらに946特許出願と同内容で優先権を主張しBPCT出願が成された。 さらに、A432特許出願を基礎とし、CCIP出願がなされた。

 

@946特許の出願人は、拒絶理由通知に対し、クレームを減縮補正し、199552日に許可通知が発行され、199581日に登録料を納付し、1995117日に946特許が発行された。尚、BPCT出願から移行されたEP出願において1995624日にサーチレポート(Y表示のBUSH引例)が発行された。 @946特許出願人には1995724日にEPOのサーチレポートとY引例(BUSH引例)が通知された(946特許出願の登録料納付の8日前)。 EP出願はBUSH引例によって拒絶された(1998113日)。 EPOのサーチレポートおよびBUSH引例は@946特許出願中にIDSされなかった。

 

さらに、A432特許出願審査中、1993716日にBaji引例が引用されクレームが拒絶された。 CCIP出願審査中、1995612日にHoarty引例が引用されクレームが拒絶された。 これらBaji引例およびHoarty引例は@946特許出願中にIDSされなかった。

 

@946特許の譲受人である1st Media20071129日に被疑侵害者(Electric Arts, Harmonic, SONY)が少なくともクレーム16を侵害しているとし、ネバダ地区連邦地裁に訴訟を提起した。 被疑侵害者は不公正行為に基づく権利行使不能の抗弁をするとともに、同理由でもって確認訴訟を起こした。 被疑侵害者側は、上記3つの先行技術文献(BUSH引例、Baji引例、Hoarty引例)の未提出とA423特許およびCCIP出願の拒絶理由の未提出、合計5つの事象を理由として不公正行為を主張した。

 

地裁は上記5つの事象(3つの先行技術文献の未提出と2つの拒絶理由通知の未提出)が意図的に行われたと判断し、@946特許は権利行使不能であると判断した。 CAFCは、Therasense判決(2011年の大法廷判決)で要求される「特許庁に開示しないことを意図的に決断: “a deliberate decision to withhold those references from the USPTO」という要件を立証する証拠がないとして同地裁判決を破棄した。

 

    CAFCの判断に至った理由の骨子:

地裁は、S氏とL氏はこれら3つの先行技術が946特許出願に重要な関連性があったことを周知しており、SLが上記3つの先行技術文献を提出しなかった理由(単に不注意によってBUSH引例をIDSしなかった(L氏);IDSするかしないかは許可通知が発行される前までしか検討しない(S氏) これら3つの先行技術文献の重要性を認識していなかった)は信頼に値しないと判断し、特許庁を欺く意図が推定されると結論した。 依って、地裁は、L氏とS氏の行為は、不公正行為を構成すると判断し、被疑侵害者の確認訴訟の申し立てを認め、946特許は権利行使不能であり、1stMediaの訴えを却下すると判決した。 1stMediaは当該判決を不服とし、CAFCに控訴した。

 

    CAFCによる審理の基準:

不公正行為を審理するにあたり、(A)地裁の事実認定に対しては「明白なエラー(誤認)があったか否かの基準」で判断し、(B)当該事実認定に基づく法律判断に対しては「(地裁裁判官による)裁量権の濫用があったか否か」という基準で審理する。

 

    CAFCによる審理:

Therasense大法廷判決によって、PTOに先行技術が提出されないことを理由に不公正行為を立証する基準が変更された。 

 

Therasense判決の基準によると、重大な悪質行為(egregious conduct)がない場合には、被告(被疑侵害者)側は、(1)特許権者はPTOを騙す特定の意図(specific intent to deceive)を伴い行為を行った;(2)未提出の先行技術は、BUT-FOR重要であった(当該先行技術が提出され審査されていれば何れかのクレームが拒絶されていたであろう);という2つの要件をそれぞれ個別に、明白且つ説得性のある証拠によって立証しなければならない。 

 

Therasense判決の基準に基づき、上記(1)の要件を立証するには、(a) 出願人は当該情報(先行技術)を周知していた; (b) 当該情報は重要な情報である; さらに、(c) 当該情報をPTOから隠蔽するという判断を意図的に行った、ということを証明しなければならない。 上記(a)-(c)の要件の何れが欠けても上記(1)の要件の立証はできない。 

 

出願人が情報(先行技術)を周知していた; その重要性を認識するべきだった; PTOに情報をIDSしなかった; ということを立証できたとしても、「騙すという特定の意図: “specific intent to deceive”」を立証できない。

 

上記特定の意図を立証するには、(状況)証拠から導き出せる合理的な唯一の推論でなければならない。 即ち、「PTOに知らされなかった情報を出願人が周知しており、且つ、当該情報が重要であったということを示す証拠のみに基づき、騙す意図が推論される」という判断基準を裁判所は採用してはならない。 

 

さらに、被疑侵害者が上記騙す意図を明白かつ説得性のある証拠で立証できない限りは、特許権者が出願人の行為が誠実なものであったということを説明する必要はない。

 

 

本地裁判決は、上記したTherasense大法廷判決(20115月)が出る前の判断であり、当該大法廷判決の法理に基づき判断されたものではない。 従って、大法廷判決による法理では、出願人が情報をPTOに誤報した、或いは、伝えなかった理由が、過失あるいは重大過失によるものと判断されたとしても上記騙す意図の要件の挙証基準を満たさない。 今回の地裁での審理において、PTOBUSH引例を開示しなかった理由がL氏或いはS氏の意図的な判断に拠るものであったか否かということに関して一切審理されていない。 依って、CAFCは地裁判決を支持することはできない。 さらに付け加えるなら、不注意、注意散漫、期限管理の不備、関連出願のマッピングの不備、或いは、その他種々の要因に起因し過失あるいは重大過失を構成することを主張しても騙す意図の挙証責任を満たさない。

 

Baji引例に対しても同様の結論であり、Hoarty引例に関して同様の結論である(PTOを欺くという特定の意図が立証されていない)。

 

上記したように、要約すると、地裁の証拠においては、3つのいずれの先行技術に対しても、結局は、(1)出願人が周知していたこと;(2)それらが重要であるということを出願人が周知していたかもしれない(CAFCでは審理していない);及び、(3)PTOに知らされていない;ということを証明しているにすぎない。 これでは騙す意図の証明に不十分である。 Therasense大法廷判決の法理に基づくと、(1)周知、(2)重要性の認識;及び(3)重要情報を開示しないという意図的な判断;の3つの要件を被告が立証しなければならない。 地裁での審理においては上記(3)の要件が欠落している。

 

然るに、不公正行為を認定した地裁判断は間違いである。 「騙す意図の要件」が満たされていないことが明らかなので、CAFCにおいて、「BUT-FOR重要性(3つの先行技術の何れかが審査されていればクレームの何れかが許可されなかった)の要件」に関して審理する必要はない。

 

地裁判決を破棄する。