■ DOE (Doctrine
of Equivalents) Fundamentals - 2019-12-10
均等論まとめ:
昨今セミナーをさせていただいて参加者の大多数が2002年以降にこの業界に入ってこられた方々であることに気づきました。即ち、均等論に関して2002年のFesto判決をリアルタイムでは知らない方が多いです。このような事情に鑑みて米国の均等論に関する最高裁及びCAFC大法廷判決の概要を纏めました。
■ Pharma Tech
Solutions v. LifeScan - Fed. Cir. 2019-11-12
経過書類禁反言と均等論:
本事案は経過書類禁反言(Prosecution
History Estoppel)により均等論の適用が禁止されたことを示す分かりやすい判決である。
■Advanced
Steel v. X-Body (Fed. Cir. 2015-11-12)
均等論:
本事件は久々に見るDOE侵害の適用に対する判決である。争点はクレーム1の文言で「AがBの隣接端部に連結されている」という特徴が規定されている。なお、Aは油圧ピストンでBはAの作動によって水平方向に摺動するコンテナーでAの位置から見て遠方端部と隣接端部があり、「Aは当該隣接端部に連結されている」と規定されている。イ号の形態は、AとBに相当する部材は存在しており、BはAの作動によって摺動する、但し、AがBの長手方向の隣接端部から35%程度離間した部位に連結されているという状態であった。文言上侵害なしということは明白であり、均等論侵害の判断として機能・手法・結果テスト(3パートテスト)を適用した。少なくとも3パートテスト(機能・手段・結果)の手法Prongを満たさないとして均等侵害が否定された。
■ Festo v. SMC (Fed. Cir. 2007-07-05)
均等論(Festo最終確定判決):
侵害の判断において、まずは文言侵害が大原則であり、第1段階の例外として均等論適用による侵害があり、均等論を適用できない条件の一つとして特許性に関わる理由により限縮補正された要素という第2段階の例外(禁反言の法理)がある。 さらに、第3段階の例外(禁反言の法理適用の例外規定)として、特許性に関わる理由で限縮補正された構成要素であっても所定要件を満たす場合には均等論の適用が許可されるというのが現行の判例法である。
本判決の争点は上記第3段階の例外を判断する上で、イ号の形態が forseeable(予測可能性)であったか否かという要件を如何に判断するかであり、本判決によると、foreseeability(予測可能)であったか否かを判断するときに
Function/Way/Resultの3要素テスト(機能・方法・結果の実質同一性を判定するテスト)あるいはInsubstantial
Changeなるテスト(非実質的な違いか否かを判断するテスト)を適応する必要はない。イ号の問題となる構成要素がクレームの補正時に先行技術文献(引例)に開示されているという場合には、問題となるイ号の構成要素は当業者にとって予測可能であったであろうと判断される(即ち、第3段階の例外規定の適用無し)。
■Insituform
Technologies v. Cat Contracting. (Fed. Cir. 2004-10-04)
Festo判決後の均等論適用の例:
本事件は1991年6月の陪審審理に起源をもち、原告・被告の控訴・反訴を経てさらに、2000年のCAFC大法廷によるFesto判決(I)、2002年最高裁によるFesto判決(II),さらには2003年のCAFC大法廷によるFesto判決(III)を経て、最高裁からの差し戻し後、本CAFC法廷における判決に至った。 本判決の核心部は2003年のFesto判決(CAFC大法廷判決であって、最高裁からの差戻しでFesto推定の反証の条件を判示したもの)の第2番目の反証手法として、クレームを減縮補正した理由が被疑侵害の形態とは表面的な関係しかない(要は補正理由が被疑均等物の形態を避けるためのものではない。さらに言い換えると特許性を主張するために回避した先行技術文献の開示部と被疑均等物との形態が異なる場合)ことを証明できた場合にはクレームの補正箇所であっても均等を認めようというものである。 即ち、同第2番目の反証手法をどのように使えるかを判示したCAFCの重要な判決である
■ Honeywell v.
Hamilton Sundstrand (Fed.
Cir. en banc: 2004-06-02)
均等論(Festo判決後:)従属クレームを独立形式に補正すると従属クレームの特徴には均等論は適用されない。
Delaware地区連邦地裁ではSundstrand社の行為はHoneywell社の米国特許第4380893号(及び米国特許第4428194号)のクレームを均等論適用の基に侵害し、同侵害行為は故意侵害を構成するとしSundstrand社に合計約50億円の損害賠償の支払いを命じる判決がくだされた。 然しながら問題となったクレームは元々従属クレームであり審査中に拒絶通知を受けて独立クレーム形式に補正したものである。今回CAFC大法廷において、従属クレームを独立形式に補正することによって同補正部分(従属クレームにしか存在していなかった特徴)に対して均等論の適用を禁止する推定が働くことを確認した。依って、Sundstrand社の非侵害と判断するも、同推定は反駁可能な推定でありますのでFesto最高裁判決で判示された手法で推定を覆せるか否かを判断することが可能であります。そのような事実判断は当裁判所の下級審である連邦地裁において審理されるべく差し戻しがされた。
NEWMAN判事は112条第4項を参照し、従属クレームは独立クレーム形式で記載されるべきものを便宜上従属形式で表現したものであるとして従属クレームを独立形式に補正することは減縮補正にならないとして反対意見を述べている。
■ FESTO CAFC大法廷判決(II) (Fed. Cir. en banc: 2003-09-26)
均等論(Festo最高裁判決後):
クレームの構成要素が減縮補正された場合に当該補正された構成要素に対して均等論の適用を禁止するという推定が働く。当該推定に反証するため最高裁が提示した3つの反証手法のうち第1手法の「unforeseeable(クレーム補正時に問題となる侵害の形態が予見不能であったことをFESTO側が立証責任を負う)」 の判断をするために地裁に差戻した。
■ Festo判決に基づく均等論適用可否に関するFlow-Chart
均等論(Festo最高裁判決):
Festo最高裁判決を基にどのようなクレーム補正の場合に均等論を適用できるか否かをフローチャートで説明した。
■ Festo最高裁判決 (Supreme Court: 2002-05-28)
均等論(Festo最高裁判決):
CAFC大法廷判決破棄、差戻し
最高裁は、出願経過において減縮補正されたクレームの構成要素にも均等論適用の余地が有ることと判示した。経過書類禁反言は、発明者が減縮補正された構成要素に対する均等物の全てに侵害を主張することを禁止するものではない。 禁反言は広範な範囲の均等論の適用を禁止することはできるとしても禁反言の適用域を決定するには、当該減縮補正によって放棄された主題がなんであるかを検討することが必要である。即ち、減縮補正されたクレームの構成要素に対する均等物の全てに対して均等論の適用を禁止する(Complete
Bar
: CAFCの法理)と解釈する必要はない。減縮補正された構成要素が特定の均等物の形態を含む場合とは、例えば、①出願時に均等物の形態が予想できなかった、②減縮補正の理由が問題となる均等物と非実質的な関連性しかない場合であって、特許権者は「経過書類禁反言は均等物を排除する」という推定に対して、クレームの補正時に問題となる均等物の形態を文言上含めるようにクレームをドラフトすることが当業者にとって合理的に期待できなかったことを証明することによって当該推定に反駁することが可能である。
■ Johnson
& Johnston v. R.E. Service Co (Fed. Cir. en
banc: 2002-03-28)
クレーム解釈:(明細書で開示しているがクレームに含まれない特徴)
Johnstonの5,153,050特許の明細書では「アルミは基板にとって好適な材料であるが、ステンレス鋼或いはニッケル合金をアルミの代わりに使用することも可能である」と記載している(コラム5の5-10行目)。しかし、050特許のクレームでは「アルミ製のシート」であると規定している。CAFC大法廷は、050特許のアルミ製というクレームの構成要素を、明細書に開示したがクレームしなかった鋼製の基板を包括するべく、均等論を適用しクレームの権利範囲を拡大解釈できないと判示した。その理由は、特許権者は、開示したがクレームしなかった主題を諦める必要はなく救剤措置がある。特許が発行されて2年以内であれば特許権者は権利範囲を広げる再発行特許出願が可能である。さらに、特許が発行される前に継続出願をすることも可能である。従って、明細書に開示したがクレームに文言上含まれていない特徴は公共に譲り渡したもの(dedication
to public)と理解される。
■Marquip, Inc. v. Fosber America, Inc., (Fed. Cir. 1999-12-06)
均等論による侵害判断時において、その均等の適用幅を検討するときの手法に関する判決である。即ち、均等侵害の対象となるクレームをベースに被疑社製品(イ号)を文言上含む仮想クレームを作成し、その仮想クレームが引例(公知技術)によって特許性があるか否かを検討する。もし仮想クレームの特許性が無いと判断されるとその仮想クレームによる均等幅は不適切であり、そのような均等幅での均等論の適用を受けないとした。この仮想クレームによる均等幅の判断に関する法理論は、1990年のCAFC判決 Wilson Sporting Goods Co v. David Geoffrey & Assoc., 904 F.2d 677, 683 (Fed. Cir. 1990)で判示された。然し、実務上この法理論の適用は困難を極める(仮想クレームの妥当性の判断+仮想クレームの特許性の判断:陪審には理解不能!)ので実用価値はかなり低い(筆者)。
■ Hilton Davis最高裁判決No. 95-728速報 (Supreme Court: 1997-03-08)
本判決によって均等論の適用に関し以下が明瞭となった:
□ 均等論を適用するうえで、侵害者の侵害行為に対する意図の有無は無関係である;
□ 均等物の判断は、クレームの構成要素ごと(element by element)に客観的に検討されるべきであり、クレーム全体として検討されるものではない;
□ 均等論を適用するタイミングは特許日ではなく侵害の起こった時である;
□特許出願審査中に追加された限定事項には、その理由が特許性と関係ないと立証できない場合には裁判所は推定的に審査経過における禁反言(file wrapper
estoppel)を適用する。