FESTO CORP.
V.
SHOKETSU KINZOKU KOGYO KABUSHIKI CO., LTD.,
Festo (上告人)
SMC (被上告人)
Supreme Court判決 Decided: 2002年05月28日
Summarized by Tatsuo YABE on June 08, 2002
要約:
上告人FESTO 社は産業用装置に関する2つの米国特許の所有者である。一つ目の特許の審査時に特許庁審査官は記載不備を理由に112条拒絶をしたときに、出願人は一対の一方向型のシーリングリング及びその外周部が磁性材で作られているという新規の特徴を追加するように補正した。 2つ目の特許は再審査時に当該シーリングリングの特徴を追加するべく補正された。 Festo社が装置を販売開始した後に、SMCが当該市場に参画し、単一の両方向型シーリングリングと非磁性体のスリーブを備えた類似する装置の販売を開始した。 Festo社はSMC社の製品は良く類似しているので、Festo 社の当該特許を均等論適用のもとに侵害するとし地裁に提訴した。地裁においてはFestoに有利な判決が出された、即ち、経過書類禁反言によってFesto社がSMCの装置を均等物であると主張できないとするSMC の反論を否定した。連邦巡回控訴裁判所(以下CAFC)では初期には当該地裁の判断を支持したが、本最高裁は裁量上訴を認め、Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chemical Co., 520 U.S. 17 29,に鑑みて当該CAFC の判決を棄却し、差戻しと判事した。その後差戻しによって、CAFC は大法廷によって審理し、経過書類禁反言が成立すると判断した。当該CAFC 大法廷では、地裁が判事したように、経過書類禁反言は先行技術を回避するための補正に限定されることなく特許法に準じるための如何なる補正においても成立すると判事した。当該CAFCにおいて先例の基に、経過書類禁反言は柔軟な禁止(flexible bar: 均等論の適用に対して補正の目的或いは代替物の特性に準じて全てを禁止するのではなく、幾らかの制限を加えるということ)を認識するも、先例の事件毎の性質による判断基準を採用することは均等論の適用解釈に対して機能していなかったことは歴然であるとして先例を無効とした。
判決:
経過書類禁反言は、先行技術を回避するための補正に限定されることなく、特許条文の要件を満たすための全ての補正に適用されうるものであるが、補正されたクレームの構成要素に対する均等物の全てに対して均等論の適用を禁止すると解釈する必要はない。 本判決文の5−17ページ参照
特許権者が何を所有し、公共が何を所有しないかを明白にするためには、発明者は自己の発明を十分に明瞭に、端的に、且つ、正確な用語で表現しなければならない。 しかし特許のクレーム用語は、発明者の発明の新規性たる領域を完全に正確なレベルで表現することができない場合がある。 もし特許がそのクレームの文言上の意味合いでのみ解釈されるとすると、特許の価値はかなり減じられることになるであろう。 即ち、特許クレームの所定構成要素を非実質的な代替物で置換することによって特許侵害を免れることになり、発明者にとっての特許の価値はそのような模倣によって破滅に追いやられることになる。 従って、特許のクレームはその文言上の解釈にのみ限定されることなく、全ての均等物を包括する。 See Winans v. Denmead, 15 How. 330, 347 しかしながら、クレームの均等物であるか否かを判断するのが困難となる場合があるので、競合他社は特許クレームの権利範囲外にある正統な製造者に関与すること、或いは、競合製品を開発することが抑制されてしまう。 裁判所が均等論を審理するときには、この不確実性というものを発明に対する適切なインセンティブを確保するための代償であるとその都度認識し、より明白な規則を切望する反対意見を抑えてでも均等論を支持してきたのである。 See, e.g., id., at 343, 347. Warner Jenkinson, supra, at 28, 均等論を再度支持した。 5−8ページ参照のこと。
経過書類禁反言は、特許クレームの解釈を米国特許庁での審査経緯に鑑みてなすことを要求している。 出願人が侵害形態に相当するクレームを出願時に持っており、その後、拒絶通知に応答するためにクレームを減縮補正した場合には、放棄された領域が予期できない均等物を含むことを議論できなくなるかもしれない。 See Exhibit Supply Co. v. Ace Patents Corp., 315 U.S. 126, 136-137 拒絶というものは審査官が原クレームは特許性がないと信ずることを意志表示することである。 特許権者は審判請求することもできたに拘わらず、その機会を活用せずにクレームを補正したということは、発明が原クレームの域まで及ばなかったことを認識したと解釈される。 See, e.g., Goodyear Dental Vulcanite Co. v. Davis, 102 U.S. 222, 228 もしそうでなければ、発明者は特許庁の門番(特許性の判断)の役割を回避し、特許を取得するために放棄した発明主題それ自身に対する侵害行為を再度捕獲しようとすることになるであろう。
経過書類禁反言は、先行技術を回避するために実施された特許主題を減縮するための補正にのみ適用されるのではなく、特許出願の形式に関する112条を含む米国特許法条文の要件を満たすための減縮補正にも適用される可能性がある。 Warner-Jenkinsonにおいては、最高裁は、禁反言は特許性に関わる実体的な理由によって実施された補正に適用されることを明示 “520 U.S., at 33,”したが禁反言を生じる理由の全てを列記することをしなかった。 実際には、もし補正の目的が特許性に関係なくとも、裁判所はその補正が生じせしめるものであるか否かを審理するかもしれないと述べた。 Id., at 40-41 先行技術を回避するために実施した補正に対して禁反言が適用するかしないかが最も頻繁に議論されるからといって、それ以外の目的で実施された補正には禁反言は適用されないと結論づけることはできない。 米国特許法第112条は、発明を実施するための明細書の開示要件、実施可能な説明、及びベストモードの開示を要求している。 これら要求事項が満たされないときには特許は発行されるべきではなく、出願人がこれら要求事項を満たしていないという場合には、後の訴訟において発行された特許を無効にすることができる。「112条拒絶を満たすために実施した補正は出願明細書の形式に関するものであって、特許主題に関するものではない」とするFesto社の議論は特許権者の補正を実施する目的と当該補正の特許主題に及ぼす影響という異論を重ね合わせている。 経過書類禁反言は、特許を取得するための補正であり、且つ、それが特許の権利範囲を減縮するときに発生する。 もし112条拒絶を克服する補正が単に外面(実態のないもの:cosmetic)の場合には、そのような補正は権利範囲を減縮するものではなく、それは経過書類禁反言を構成しない。 しかし112条の補正が必要であり、その補正が権利範囲を減縮するものであれば(もし仮にそれがより好ましい記述表現をするというだけでも)禁反言は生じるかもしれない。 Pp. 10-12
経過書類禁反言は、発明者が減縮補正された構成要素に対する均等物の全てに侵害を主張することを禁止するものではない。 禁反言は広範な範囲の均等論の適用を禁止することはできるとしても禁反言の適用域を決定するには、当該減縮補正によって放棄された主題がなんであるかを審査することが必要である。 CAFCの「完全禁止ルール: “complete bar”」は経過書類禁反言を適用する目的(発明者を、出願審査時に表現したこと、及び、補正から妥当に導き出せると思える推論に固定させる)に鑑みて、まず第1段階で矛盾している。 出願クレームを補正することによって、発明者は特許が原クレームまで拡大されないことを認めたと見なされる。 しかし、その補正は、誰もが均等物を作ることができないくらいに完璧に実施されたものとは見なされない。 最高裁の見解は特許庁の実務と先例とに整合性を維持するものである。 最高裁は、均等論の適用を完全に禁止をするのではなく、出願審査中にどの均等物が放棄されたかを検討するというやり方で、均等論を継続的に柔軟に適用してきた。 E.g., Goodyear Dental Vuicanite Co. v. Davis, 102 U.S. 222, 230. CAFCは、Warner-Jenkisonでの最高裁の指令「発明者(全般)において定着した法的期待を混乱させるような判決変更をするときには十分に注意をするべきである」を無視した。 See 520 U.S., at 28 先の判例を基礎としてクレーム補正を今まで実施してきた発明者が、今後はその補正によって全ての均等物を譲渡したという解釈を強いられるその根拠は存在しない。 もしそうなることを知っていたならば、発明者は、特許庁の拒絶通知に対し補正をせずに審判部に審判請求をしていたかもしれない (Festo側のBork弁護士の最終弁論でのTakingの反論がみごとに反映されている:著者注)。 Warner-Jenkinsonにおいては、審査中に実施された補正が経過書類禁反言を起因する理由のために実施されたものではないということを証明する責任を特許権者に負わせることで適当なバランスを確保しようとした。 Id., at 33 同様に、特許権者は特定の均等物の形態(被疑侵害の形態)を放棄するように補正が実施されたのではないことを証明する責任を負うべきである。 クレーム用語に対する著者として、発明者が補正時にクレームを減縮補正する決断を下したということは、原クレームと補正クレームとの間の領域を一般的には放棄したものであると解釈される。 Exhibit Supply, supra, at 136-137 しかしながら、当該補正が特定の均等物の形態を放棄したと妥当しない場合には(例えば、出願時に均等物の形態が予想できなかったとか或いは補正の根拠が理解されるものであっても、それが当該均等物と非実質的な関連性しかない場合など)特許権者は「経過書類禁反言は均等物を排除する」という推定に対して、補正時に当該均等物の形態を文言上含めるようにクレームをドラフトすることが当業者にとって妥当に期待できなかったことを証明することによって当該推定に反論することが可能である。 Pp. 12-16
Festo社が、禁反言が生じるということおよび問題となっている均等物(被疑侵害品の形態)の形態が放棄されたものであるという推定に反論をしたか否かは第1段階として審理されるべきである。 Pp. 16-17
破棄、差戻し