Case Laws

 

Hilton Davis最高裁判決No. 95-728速報
(Supreme Court: March 3, 1997)

本判決によって均等論の適用に関し以下が明瞭となった:
均等論を適用するうえで、侵害者の侵害行為に対する意図の有無は無関係である;
□ 均等物の判断は、クレームの構成要素ごと(element by element)に客観的に検討されるべきであり、クレーム全体として検討されるものではない;
均等論を適用するタイミングは特許日ではなく侵害の起こった時である; 
□特許出願審査中に追加された限定事項には、その理由が特許性と関係ないと立証できない場合には裁判所は推定的に審査経過における禁反言(file wrapper estoppel)を適用する。

 

Date: 03/08/1997 Summarized By Tatsuo YABE



I.     Summary

II.     Birch, Stewart, Kolasch & Birch事務所による判決の要約

III.     Hilton Davis Supreme Court Decision No. 95-728 Bench Opinion

  1. Supreme Court No. 95-728抜粋

  2. References


I. Summary:

米国時間1997年の33日、米国最高裁は均等論に関するWarner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chem. Co., No. 95-728の判決をくだし、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)の判決を破棄しCAFCに差し戻した

本最高裁判決の判示を要約すると:

均等論適用の判断と侵害行為に対する意図の有無は無関係である;

□ 均等物の決定は、クレームの構成要素ごと(element by element)に客観的に分析されるべきであり、クレーム全体として分析されるものではない;

均等論を適用するタイミングは特許日ではなく侵害の起こった時である; 

□特許出願審査中に追加された限定事項には、その理由が特許性と関係ないと立証できない場合には法廷は推定的に審査経過における禁反言(file wrapper estoppel)を適用するとした。

(II) BSKB法律事務所のコメント:(see Ref. #1)

最高裁において、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)におけるHilton Davisの判決は破棄、差し戻しとされた。

米国時間1997年の33日午前に、米国最高裁は均等論に関するWarner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chem. Co., No. 95-728の判決を発表した。 最高裁はCAFCの判決を破棄し、本事件をCAFCに差し戻した

破棄及び差し戻しは、CAFCで判示された“非実質的差異のテストinsubstantial test”を構築することよりも、本件の事実関係に基づく特定の結論に関するものである。 最高裁は、文言で定義されたフレームワーク(linguistic framework:判断基準)を適用とすることは、均等に対する本質的な検討をすることに比べて意味がないとし、分野の異なる技術に対しては異なったフレームワーク(判断基準)を使用することが適切かもしれないとした。

最高裁は均等論と正義公正面からの論議(equitable prong)とは関係がないことを再確認した。 従って、特許権者である以上は、いかなる侵害者に対しても均等論を適用のもとに侵害行為とし提訴することが可能である。 最高裁はさらに、侵害の認定はその意図を証明することを必要としないので、特許権を回避するために設計変更を実施したのか、或いは、明瞭な模倣であるのかを証拠として、相違点の本質性を判断しようとしたCAFCの試みは妥当ではないとした。

最高裁はさらに、均等の判断は、客観的な見地から、クレームの構成要素ごと(element by element)に判断することを基礎とすべきであり、クレーム全体にとして判断することを否定した。 最高裁は、さらに、均等論を適用する適切なタイミングは侵害の起こった時期であるとした(特許出願が許可された時点ではない)。 従って、均等物となりうるものは、特許明細書に開示された事柄に限定されるものではない。

最後に、(もっとも重要な事柄と思えるが)最高裁は特許審査中に追加された限定事項(特徴又は要素)に関しては、均等論を適用するにあたり、推定的に審査経過における禁反言が課せられるとした。 審査経過における禁反言を回避するための立証の責任は特許権者に課せられ、特許権者は、審査経過中における追記事項(特徴又は要素)が引例を回避するためのものではなかったことを証明しなければならない。 ここでいう禁反言に関して、CAFCはその適用を誤っているので、再度、審査経過における禁反言が成立するかどうか再度検討し、特許権均等侵害を判断しなければならない。

従って、本最高裁判決によって、CAFCが設定した均等論の法的判断基準は実質的には影響を受けない。 本判決での強調されるべき変更点としては、審査経過の役割の再見直しと均等論の適用においてあらゆる面で“(侵害行為実施の)意図”は関与しないということである。

(III) 米国最高裁No. 95-728 -- Warner Jenkinson Co. Inc. vs. Hilton Davis Chemical Co. Bench Opinion (see Ref. #2)

Supreme Court of the United States

Syllabus

Warner Jenkinson Co., Inc. vs Hilton Davis Chemical Co.

No. 95-728. Argued October 15, 1996 -- Decided March 3, 1997

上告人:Warner Jenkinson (以下Warner社とする)

被上告人:Hilton Davis―‘746特許権者(以下Hilton社とする)

Warner社及びHilton社は共に、不純物を除去されなければならない染料の製造メーカーである。 Hilton社の‘746特許は1985年に発行され、改良された浄化(精製)プロセスを開示している。 該プロセスにおいてpHレベルが6.0-9.0のレンジ内で多孔性の皮膜を通過する限界濾過される染料に関する。 発明者は特許審査中の段階でクレームのpHに関する要件を引例“Booth”(限界濾過プロセスをpHレベルが9以上で実行することを記載している)の開示に鑑みて審査官の拒絶に対応するために補正した。 1986年にWarner社はpH5レベルで作動する独自の濾過プロセスを開発した。 Hilton社は’746特許をGraver Tank v. Linde Air Products 339 U.S. 605, 609での均等論(製品又は製法が特許クレームで定義された用語を文言上侵害していない場合でも特許発明でクレームされた部材と告訴された製品又は製法の部材(要件)とが均等と判断された場合には侵害となる)の適用の基に侵害しているとして告訴した。 Warner社の異議(本件は均衡法−Equitable Doctrine−であり、それは法廷によって判断されるべきである)にも関わらず、均等に関する事案も陪審に委ねられ、当陪審はWarner社は‘746特許を侵害していると判断した。 地裁においてWarner社に永久的制裁措置が科された。 連邦巡回裁判所(CAFC)は、均等論が継続的に存続しており、均等の問題は陪審によって判断されることであり、さらに、陪審はWarner社のプロセスが’746特許に開示されたプロセスと本質的には違わないということを結論づけるのに十分な証拠を有していたという判決を支持した。

判決:

1. 最高裁は均等論を支持する

(a) Graver Tank, supra, at 609において、法廷は均等論を適用する場合の検討事項を説明した。 それらは、例えば、特許の内容、引例、及び事件ごとの特異性(特許において成分が使用される目的、他の成分と組み合わせることによって生じる特質、それに意図された機能、及び、当業者が特許に含まれた成分とそれ自身との互換性に関して周知できたか否かであった。)

(b) 最高裁は、Warner社の事前の論点(1950年のGraver Tank に定められた均等論は米国議会によって1952年に改定された米国特許法100条の内容と矛盾するものであり、従って、均等論を却下する。)を破棄する。 本件に関するWarner社の3つの論点 ―(1)均等論は112条の要件、即ち、「特許権者は包括されるべき発明を具体的にクレームしなければならない」と矛盾する; (2)均等論は米国特許法251及び252条に規定された再発行手続き(reissue)を妨害するものである;(3)均等論は特許の権利範囲を決定する米国特許庁の首位性を脅かすものである―は1870年の特許条例によって、Graver Tank, supra, at 613-615において決定されたが、一般を説得できなかった。 1952年の法改正は、上記論点に関しては、1870年の法改正と本質を異にするものではない。 さらに、Warner社の4番目の論点、即ち、議会が特別に追加した米国特許法112条の第6パラグラフによる一般事項として、均等論は暗に却下されたとする論議は、説得性に欠ける。 この新規の条項(第6パラグラフ)はHalliburton Oil Well Cementing Co. v. Walker, 329 U.S. 1,8において必要な救剤措置として制定されたものであり、発明の部材を達成された効果、及び、果たされた機能を記載することによって特許発明の部材を定義すること(一般にMeans Claimと呼称される)を許可した。 さらに、法的見地での米国特許法112条第6パラグラフに対する理解は、上記救剤措置の副次的効果の波及を阻止する予防策にほかならない(言い換えるならば、広範な文言で表現されたミーンズクレームの権利範囲の解釈を特許明細書に開示されている実際の手段に対する均等物に制限をした)。

(c) 均等は、各部材(要素)どおし(element by element)に客観的な分析を基に判断されなければならない。最高裁は、Graver Tankで広く適用されたとする均等論が、特許はクレームの権利範囲以上を超えて拡大解釈されてはならないという数多くの判決と衝突を避けられないということを危惧している。 これら2つの権限(判決と実際に適用された均等論)の領域を調和させる方法としては、均等論を告訴された製品又は製法の全体に適用するのではなくクレームされた部材の各々に適用することである この手法によって、それら全体として発明の権利範囲を決定するに不可欠なクレーム部材の各々の意味合いを維持することが可能となるであろう。 均等論がこれら境界を超えず、又は、法廷の意見書 at 11-15, n8, & 21-22)によって議論されたことに関連する境界を超えない以上、発明を定義し、公共に特許の権利範囲を知らせるという特許クレームの中核的機能を均等論が無効にすることはない。

(d) Warner社の主張である「Graver Tankは、“審査経過に基づく禁反言(prosecution history estoppel又は、file wrapper estoppel)”として周知された均等論の適用の限界に取って代わるものではない」は正しい。 ここで、審査経過に基づく禁反言によって、特許出願審査中に諦めた(降伏した)主題に関しては、それが如何にクレームに明瞭に表現された事項に対する均等物であったとしても、その主題のいづれの部分をも再度取得することを阻害されることになりうる。 しかしWarner社は、その降伏した事項(諦めた事柄)のいづれもが、それを超えて均等物を請求できないという明瞭な線(境界)を設定するものであって、審査経過中における補正の根拠(理由)は、その後の禁反言とは関連がないと主張したが、その主張は行き過ぎと考えられる。 特許庁がクレーム用語の補正を請求するには種々の理由があり、もし特許権者が補正を行った根拠が、特許性とは関係がないということを立証できれば、法廷がその根拠を考慮し、禁反言が適用されるべきか否かを決断しなければならない。 ところが、特許権者がそのような理由(根拠)を立証できない場合には、裁判所は補正の根拠は、禁反言が適用されると推定するべきである 746特許において、pHの上限9.0が追加されたのはBooth特許と識別するためであったということは議論の余地はない、しかし、下限値6.0を追加した理由を見出せなかった。 従って、下限値を6と減縮補正した理由が禁反言を十分に回避しうるものかどうかを判断するのは不可能である。

(e) 最高裁は、Warner社の主張、即ち、Graver Tankは告訴された侵害社の法的な意図、又は、均等論を適用する以前に本件に関わる衡平法の必要性に対する主張を棄却する Graver Tankは確かに均等論で意図された部材を含むという点に対して議論の余地を残しているが、最高裁は本件を、意図の証明を要求する事案とは認めない。 Graver Tank以前の判決、Winans v Denmead 15 how 330, 343と一致しより良い見解、及び、他の侵害に対する客観的なアプローチとしては、均等論を適用することに対しては(侵害行為に対する)"意図"は何の役割も果たさない

(f) さらに、最高裁はWarner社の提案事項(特許クレームの公共に対する通知機能との対立を最小限に留めるために、均等論は特許自信に開示された均等物に限定してはどうか)を破棄する。 訴えられた部材がクレームされた部材の均等物であるのか否かという均等論の質問に関して言えば、均等性の評価(即ち、部材同士を交換できることに対する知識)の適切なタイミングは、侵害の起こった時点であり、特許が成立した時点ではない

(g) 最高裁は、均等論の適用は裁判官の仕事か或いは陪審の仕事であるかに関して検討することを控える、なぜなら本質問を解決することは必ずしも本法廷での質問に回答することにはならないからである。

(h) 最高裁の見地では、言葉で定義されたフレームワーク(linguistic framework: 判断基準)、即ち、三者同一性テスト (triple identity test) 、または、非実質的相違テスト (insubstantial differences test)のいづれを基に均等を判断するかは、均等の本質的な問題を検討する(即ち、訴えれた製品またはプロセスが特許発明でクレームされた各々の要素と同一であるか又はその均等物であるか)のと比べると重要ではない ある事実に基づく(技術分野の)異なる事件によっては、違うフレームワーク(判断基準)がより適切かもしれない。 最高裁は、ケースバイケースで対応可能な均等論適用のテストを設定(公式化)することをCAFCの本分野に詳しい専門家の健実な審理に依存する所存である。

2. CAFCでは、本法廷で説明した均等論の適用に関する要件の全てを検討してはいない、特に、特許審査中における禁反言に関すること、及び、クレームで定義された部材(要素)の意味を維持することに関して検討がされていないので、さらなる継続審理が必要である。

62 F. 3d 1512は撤回され、差し戻しとする。

(IV) Supreme Court of the United States No.95-728 (後半部分訳) see Ref. #2

(前略)…、(中略)…、

Warner社の意見は、均等論とクレームの要件とのWarner社の申し立てによる矛盾を通り越して、陪審の均等論に関わる役割に発展している。 法廷において均等論の適用に対して、解決できるのか、又は、どの程度まで解決できるのかに関しては当法廷において答える必要がないものなので、我々はコメントを控える。 該連邦裁判所において、告訴されたプロセスはクレームされたプロセスと均等であるか否かは陪審によって判断される事項であるとした。 これに関して過去の多くの判例が支持している。

Machine Co. v. Murphy, 97 U.S., at 125 (侵害を判断するときには、裁判官又は陪審は、事件に依って…、機械又は、それら装置又は部材が、何をするものか、どのような機能をするのか、どのように機能するのか、という問いに鑑みて、観察するべきであり、もし、それが他の部材と実質的に同じ機能を実質的に同じ方法によって実行し、同じ結果を達成するときに他の部材と実質的に同じと判断される。);

Winans v. Demead 15 How., at 344 -(被疑装置が、同質のものであるか、特許権者の操作モード(要領)を駆使して操作(使用)されるものかどうかという質問は、陪審によって判断されるものである)

昨今のMarkman判例は該連邦裁判所(CAFC)における判断事項の変更を要するものではない。 事実、Markmanでの、裁判官と陪審との役割に関する論議においてWinans判決を支持するものであった。 Markman v. Westiew Instruments, Inc., 517 U.S._(1996) もし本論題を杓子定規に当法廷で論議された場合には、該CAFCとは異なる判決に到達していたかもしれないが、これは当法廷で今現在結論を出すべきものではない。

“均等論”を適用するときの基準とすべきその“言語で定義したフレームワーク(linguistic framework:判断基準)”に関する論議に対して評することが当法廷の唯一懸案事項として残っている。 当事者とCAFCは共に“3者同一性判断テスト(triple identity test)”―特定のクレーム部材によって生じる機能 (function) 該部材が機能する方法 (way) 及び、該部材がそのようにして生み出す結果 (result)―が均等を決定するのに適切な方法であるのか、及び、“非実質的な相違 (insubstantial difference) ”のアプローチが適切であるか検討するのに非常に多くの時間を費やした。 機械的装置を分析するのに“3者同一性判断テスト”を適用するのは適切であるが、機械以外の製造物、又は、プロセスに対しては3者同一性判断テストを適用するのは適切ではない場合が多いということは十分な同意がなされていると思える。 しかしながら、“非実質的相違テスト”を適用されたとしても、検討されるべき相違点に対してそれが“非実質的”であるか否かの判断を促すようなガイドラインを殆ど提供することはできない。

我々の見解としては、均等論の判断において、特定の“言葉で定義されたフレームワーク(linguistic framework: 評価基準)”によって検討されたかどうかというよりも、本質的な疑問を解決するための検討:(即ち、告訴された製品又はプロセスが特許された発明でクレームされた部材と同一のもの、或い、は均等物を有するのか否か?)がなされたかということが重要である。 異なる状況(技術分野)においては、その特定の事実に鑑みて、違った言語定義されたフレームワーク(linguistic framework: 評価判断基準)が適切となるかもしれない。 部材を全く消失するところまで均等論の概念の適用を許容すること避けるべく、それら個々の部材に注意を注ぎ、集中して検討することによって、(均等論適用の際のフレームワーク:判断基準に)どのような言葉を使用するのか、その言葉によって生じる不正確さを十分に削減するであろう。 特許クレームの文言におけるそれぞれの部材(要素)の各々の役割を分析することによって、その部材(要素)に置換された代替物が、クレーム部材(要素)自身の機能、方法、及び結果と適合するのか否か、又は、代替部材がクレーム部材(要素)と実質的に異なる役割を果たすのかという疑問を投じるであろう。 これら制限された論理を背景として考えると、CAFCにおいてどの言葉(フレームワーク)によって均等論を分析したかを、今現在、詳細に渡って、検討していくことの意味を見出せない。 当法廷は、CAFCにおいて事件(技術分野)ごとに理路整然とし、洗練された均等論適用のテストを構築(公式化)することを希望する、さらに、この洗練された均等論の適用テストの構築(公式化)を、当該CAFCで本分野に特に詳しい専門家による審理に委ねることとする。

今日、我々は均等論を支持する。 均等決定をする場合には、(均等論を)各部材ごとに客観的に適用して判断されなければならない。 審査中の禁反言は、侵害者のひとつの防御策として継続的に有効であるが、もし特許権者が特許審査中における補正が特許性に関わるものではない理由(目的)で実施されたことを証明できた場合には、法廷が該理由(目的)を考慮し、禁反言を回避するべきか否かを判断しなければならない。 ところが、特許権者がそのような理由(特許性に関係ない)を立証できなければ、裁判所は、そのような補正には禁反言が適用されると推定するべきである。 本日当法廷が判示した全ての要件に対してCAFCで検討されていない(特に、審査経過中での禁反言及びクレームの各部材の意味合いを保存すること)ので、我々は本法廷において、CAFCの判決を破棄し、継続審理のために差し戻しとする。

(V) References

#1 Birch SKB's comment on Supreme Court decision No.95-728:

http://web.archive.org/web/20001213020900/http://www.bskb.com/announce.html

#2 Supreme Court Decision No. 95-728 for its Syllabus & Opinion

supct.law.cornell.edu/supct/html/95-728.cpanel.html