Insituform Technologies, Inc., 

Insituform (Netherlands) B.V., and Insituform Gulf South, Inc.,

v. 

Cat Contracting, Inc., et al. 

and 

Michigan Sewer Construction Company, 

and

Kanal Sanierung Hans Mueller GmbH & Co. KG

 

C.A.F.C.判決 200410月04日

 

1991年6月から陪審審理が始まり、原告・被告の控訴・反訴を経て

さらに、Festo判決(I)、Festo判決(II),さらには Festo判決(III)を

経て最高裁判所から差戻され、実に審理開始から約14年後に本法廷における

判決に至った事件

 

United States Court of Appeals for the Federal Circuit Nos. 99-1584, 00-1005

 

Summarized BY Tatsuo YABE on October 30, 2004

 

  

■ 概要:

 

本事件は1991年6月の陪審審理にその起源をもち、原告・被告の控訴・反訴を経てさらに、2000年のCAFC大法廷によるFesto判決(I)、2002年最高裁によるFesto判決(II)、さらには2003年のCAFC大法廷によるFesto判決(III)を経て、最高裁判所から差戻されて、実に地裁での審理が開始されてから約14年後に本CAFC法廷における判決に至ったものであります。 本判決の核心部は2003年のFesto判決(CAFC大法廷判決であって、最高裁からの差戻しでFesto推定の反証の手法を判示したもの)の第2番目の反証手法として、クレームを減縮補正した理由が被疑侵害の形態とは表面的な関係しかない(要は補正理由が被疑均等物の形態を避けるためのものではない。 さらに言い換えると特許性を主張するために回避した先行技術文献の開示部と被疑均等物との形態が明白に異なる場合)ことを証明できた場合にはクレームの減縮補正箇所であっても均等を認めようというものであります。 即ち、同第2番目の反証手法をどのように使えるかを判示したCAFCの重要な判決であります。

 

問題となる特許(Wood特許:米国特許第4366012号)は地下に配備された下水パイプの損傷箇所を地面を掘り起こすことなく下水口の入り口から柔軟なライナーチューブを挿入し、問題となるパイプの箇所に近接するチューブの部分に窓(開口部)を形成し、そこに真空カップを取り付け真空吸引し、同チューブ内の樹脂をライナー外側面に浸透させて補修を必要とするパイプの内面に付着させて漏れを防ごうという当時の画期的なパイプ修繕の手法に関するものであります。 

 

同米国特許の出願人は審査中に引用された先行技術文献(Everson:USP4182262)を回避するために実態的には原クレーム1に原クレーム2−4の特徴をすべて盛り込む補正を行いました。 (実質そこまでの減縮補正が必要であったか否かは大きな疑問であります:著者注) Everson特許には樹脂が満たされるチューブの先端部(下流端部)とは非常に距離のあいた箇所に真空吸引の供給源(コンプレッサ)を配置しているので非常に大きなコンプレッサの容量を必要とするのに対してWoodの発明はチューブ内の樹脂の下流部近接位置にカップを配備し、同位置に形成されたチューブの開口部(window)から真空吸引するので真空吸引を効率的に行うことができコンプレッサの容量を小さくすることができると意見を述べた。

 

問題となった被疑侵害の形態は同様に地下パイプを修繕するチューブ挿入手法に関するものであって、プロセス(I)において挿入するチューブの複数の箇所に切込み(開口部)を形成し、同複数の箇所に複数のカップを取り付け同カップによって真空吸引するという手法であります。 樹脂の含浸によるパイプ内面の保守の仕方は問題となったWood特許と同じような手法のようであります。 

 

ここで、Wood特許を補正するときに上記のように原クレーム2−4の特徴を追加したわけですが、その中でチューブに a windowを形成するという要件があり、この a windowおよびそれを引用する特徴に対して、被告は被疑侵害形態ではあくまで複数のカップを複数の開口部に使用するとして、減縮補正部に均等論が適用できないとして、Wood特許の権利範囲は単一の window を形成する手法に限定されるので、被告の手法(プロセスI)は文言上も、均等論を適用しても非侵害であるとの主張でありました。

 

本裁判所は、Wood特許審査中の補正はその補正理由が明示されており、その補正理由は「被疑均等の形態と非実質的な関係しかない」とする上記第2番目の反証手法の要件を満たすので、Festo推定を覆すことができ、拠って同補正部分に均等を認められるので、被疑侵害の形態を均等論適用の基に侵害すると判示しております。

 

著者注:

本事件に鑑み、OA等の中間手続き時に補正理由を適切に明示しておくことの重要性は明瞭となりました。 「適切に明示しておく」のであって、「詳述しておく」ことは必要ないと考えます。 審査中に言及した補正理由が被疑均等の形態とは非実質的な関係しかないということを後に主張し、FESTO推定に反証するための重要な根拠になることが明白になりました。 しかしWood特許の forming a window in the impermeable outer layer of the tube at a distance from said one end of the tube というクレーム1の要件を判断するときに、何故、複数の windowsを備えた形態(被疑侵害の形態:プロセス I)を除外するようにクレーム解釈されたのかが疑問が残ります。 要は、少なくとも一個そのような windowが形成されるというように権利範囲の解釈が何故されなかったのでしょうか? さらに、出願人はEverson引例を回避するため(Everson引例しか引用されておりません)に何故クレーム2−4の特徴の実質的に全てを原クレーム1に盛り込んだのでしょうか? Everson引例を回避するのであればライナーチューブの供給された樹脂フロント近接部に少なくともひとつの開口部を形成することと当該開口部から真空吸引するということを言及すれば十分であったのではないでしょうか? その理由として考えられるのは、Wood特許は英国人Wood氏による1981年の米国特許出願なので、米国特許代理人が関与しているとはいえ、当時の英国出願用の明細書記載のプラクティスに合うレベルで元々が起案されたのであろうということと、中間処理の対応に関しても米国特許訴訟を念頭に入れた十分な検討が行われていなかったということかもしれません。

■ Opinion BY:

Before MAYER, Chief Judge, MICHEL, and SCHALL, Circuit Judges.

 

 

■ 事実関係:   

 

(A)関連技術:

 

地下に配備された下水のパイプは過度の圧力が掛かる場合が多く、長期間その状態にさらしておくことによってパイプにクラックが入ったり構造的な欠陥を生じ、その結果として漏れをきたす場合がある。 過去においては(本件関連特許出願以前)同欠陥を生じた部分を掘り出し、その部分を新品と取り替えるという手法においてしか保守保全ができなかった。 Eric Wood氏(本事件の特許)の発明者はこのような地下のパイプを地面を掘り起こすことなく再建する技術に関する先駆者である。 Wood氏の米国特許第4366012号は地下パイプの修繕を掘り起こしなしで実行するその手法に関する特許であり、同特許のクレーム1のみが本裁判にかかわる発明である。 

同クレーム1に規定された手法では、地下パイプにライナー(裏地)を据える技術に関し、損傷のあるパイプの部分にライナー(裏地)を据える前に、柔軟なチューブ裏地に樹脂をしみこませるものである。 同ライナーは浸透不能な層を外側に形成し、樹脂を吸収したフエルト層を内側に形成している。 このライナーの外側の不浸透性の層を切開して窓(Window)を形成し、同窓の外側に他端が真空力生成源に連結されたカップ(真空カップ)を取り付けて、同ライナーの内面に吸引力を発生させるというものである。 この吸引力によってライナーの所定部分は樹脂で満たされることになる。 さらに、真空を生成するべく吸引のために使用された窓(Window)を塞ぎ、同カップをライナの他の必要な箇所に移動させ、同箇所に新たな開口部(Window)を形成し、上記ステップを繰り返し、ライナの所定部分に樹脂を満たすという作業をするものである。 このようにして必要なライナの箇所のみを樹脂で含浸させることによって既に樹脂で満たされた過剰な重量を備えたライナーを目的地まで搬送する必要がなくなるという効果を生ずる。

 

(B)被疑侵害の形態:

 

プロセスI: (問題となったプロセス)

被告のライナー含浸手法であって、複数の真空カップ(吸引カップ)を使用する技術である。 チューブ状ライナーの4〜6箇所に切込みを形成し、同切込み部に対応する箇所にカップを使用し、真空吸引するという手法である。 然るに、樹脂の移動先端部に最も近い真空カップを取り外すとともに、対応位置のスリットを閉じることによって残りの下流位置のカップによって継続的に真空吸引が実行されるという形態である。

 

プロセスII:

上記プロセスIのカップの代わりに金属製のチューブ(ニードルと称する)を使用したる手法である。 上記プロセスIのように形成された切込み(穴)の箇所のカップを配置するというのではなく、同ニードル(複数)を樹脂で含浸されたライナーの所望する位置に差し込むという手法である。

 

 

(C) 問題となった特許:  

USP4,366,012 ('012 Patent) 

発明者: Eric Wood,  Ossett, England

譲受人: Insituform International Inc., 大英帝国

出願日: 1981年2月5日

特許日: 1982年12月28日

審査で引用された先行技術文献: Everson et al.  USP4,182,262

 

 

● 出願時のクレーム:

 

原クレーム1:

1. A method of impregnating a flexible tube comprising an inner layer of resin absorbent material and an outer layer in the form of an impermeable film, wherein the resin absorbent layer is impregnated with a curable resin by applying a vacuum to the inside of a flexible tube whilst the resin is brought into impregnation contact with the resin absorbent material, the impermeable film serving as a means to prevent ingress of air into the interior of the tube, whilst the impregnation process is taking place.

原クレーム2: 

2. A method according to claim 1, wherein the resin is introduced into one end of the tube in a quantity calculated effectively to impregnate all of the resin absorbent material of the tube, and the vacuum is applied to the interior of the tube, downstream of the resin mass, so that the resin will tend to flow towards the vacuum application region.

 原クレーム3:

3. A method according to claim 2, wherein the lining tube containing the mass of resin is fed through a pressure applying nip, such as may be defined by a nip roller, which, together with the movement of the tube, squeezes the resin in a direction towards the region of the application of the vacuum, at the same time flattening the tube and assisting in the even distribution of the resin.

 原クレーム4:

4. A method according to claim 2, wherein the vacuum is applied through a window in the film in the wall of the tube by means of a cup applied to said window and connected to a source of vacuum by means of a flexible hose, whereby the cup can move with the tube during its movement relative to said nip, the cup being moved and applied to a position spaced downstream from the previous window, said previous window being sealed by means of a patch or the like, whereby the process is repeated for respective lengths of the tube until the entire tube length has been impregnated.

 

上記のように原クレーム1には真空カップの位置あるいは設置場所が規定されていなかった。 さらに、原クレーム1では真空源の設定位置も規定されていなかった。

審査中にUSP4182262(Everson特許)が引用され出願時のクレーム1から4すべてが拒絶された。 同拒絶を克服するため出願人は原クレーム1に実質的に原クレーム2−4のすべての特徴を盛り込んだ。

 

● 補正されたクレーム1:(権利化されたクレーム1)

 

Only claim 1 of the ‘012 patent was asserted at trial.  It recites:

 

1. A method of impregnating with a curable resin an inner layer of resin absorbent material disposed in an elongate flexible tube having an outer layer formed by an impermeable film, the method comprising the steps of

(1) introducing into one end of the elongate tube a mass of the curable resin sufficient to impregnate the entire resin absorbent inner layer of the tube,

(2) forming a window in the impermeable outer layer of the tube at a distance from said one end of the tube,

(3) drawing through the window a vacuum in the interior of the tube downstream of said one end by disposing over the window a cup connected by a flexible hose to a vacuum source which cup prevents ingress of air into the interior of the tube while the tube is being evacuated, the outer layer of the tube being substantially impermeable to air,

(4) beginning at or near the end at which the curable resin mass was introduced, passing the tube between squeezing members which force the resin to flow towards the region of vacuum application as the tube progresses through the squeezing members,

(5) when the resin reaches the vicinity of the region of vacuum application, removing the cup and sealing the window,

(6) providing another window in the impermeable layer of the tube downstream of the previously formed window,

(7) drawing through the new window a vacuum in the interior of the tube while progressively moving the tube through the squeezing members to force the resin to flow toward the new region of vacuum application, and

(8) repeating steps 5, 6, and 7, where necessary to impregnate the entire resin absorbent inner layer of the flexible tube.  

■ Discussion:

 

Everson特許には樹脂供給源とは反対側端部に設置された単一の真空生成源によって真空状態が生成されることおよび同真空状態を連続的に使用することが開示されている。 原クレーム1に原クレーム2−4の特徴を盛り込むことによって拒絶は回避された。 さらに、経過書類によると出願人はEverson引例の装置の不具合を述べており、それは長いチューブに使用されるときに異常に大きな容量のコンプレッサが必要となるからである。 Insituform社は上記問題点を空気吸入用のコンプレッサを樹脂前部(resin front)に近接する位置に設けることによって小規模なコンプレッサの使用でも可能としており、Everson引例の問題点を解決しているということを我々は指摘する。

 

The stated reason .. for Insituform's amendment to overcome the Everson reference was to avoid the need to use a large compressor when the vacuum is created a significant distance from the resin source.  The Warner Jenkinson presumption, therefore, which comes into play only when NO EXPLANATION is given for a claim amendment, is not applicable to this case because Insituform made clear that the reason fro the amendment was to overcome the prior art teaching creation of a single source vacuum at the far end of the liner.

 

当法廷はInsituform社はFesto推定に対する反証に成功したと判断する。 経過書類および当法廷による同経過書類の検討結果を踏まえて判断するに原クレーム1を単一のカップによるプロセスに文言を限定するに至った補正は均等が問題となっている複数のカップをライナーチューブに沿う複数の箇所に適用するという手法(Process I:被疑均等物)とは僅かな接点しか有さない。 ここでの重要な質問は、Insituform社の当該補正は被疑均等物と表面的なあるいは直接の関連性がないかどうか(**)である。 従って、我々は下級審の均等論適用の基に侵害するとの判決を支持する。

 

(**) Second, the patentee may demonstrate that "the rationale underlying the narrowing amendment bore no more than a tangential relation to the equivalent in question."  (citing Festo II, 5353 U.S. at 740-41)

■ 結論:

原告は均等論の適用を禁止されていないので、被告のプロセス(I)はWood特許を均等論適用のもとに侵害するとした判決を支持する。

(上記均等論侵害以外の争点、被告たる要件、原告たる要件、侵害幇助、損害賠償、故意侵害に関する判決は省略しております。)

 

*********************** 参考 ***************************

 

FESTO判決(III)

CAFC en banc. 2003

 

3つの反証理由(*1)

 

FESTO最高裁判決において、FESTO推定(*a)に反証するための3つの理由(手法)に関してCAFCで再審理するよう差戻された結果が以下であります:  

 

FESTO推定(*a):クレームの減縮補正部分には均等論の適用を完全に禁止する:

 

*************************************

 

FESTO最高裁の推定(反証可能な推定)に反証するための3つの方法に関しては詳細な指針を示しませんでしたが以下のようなガイダンスを示しております:

 

反証手法1に関して: 

 

      「予期不能性」の判断基準はクレーム補正時において当業者にとってどうであったかが判断の基準である;

      後に開発された技術(真空管に対してトランジスタ等)は「予期不能性」を満たす;

      公知技術は予期可能性の範疇に入りやすい(然し、必ずしもそうではない)

      今回の事件に関して地裁において「予期不能性」を外部証拠及び専門家の証言を考慮し判断されるべきである。

 

反証手法2に関して:

 

      減縮補正をした理由が問題となる均等の形態に直接関連するものであったか否かを判断する

      問題となる均等の形態を包括するような先行技術を回避するべく補正された場合には反証手法2は適用できない

      着眼されるべきは経過書類より理解できる特許権者の補正を為した客観的な理由である;

      判断基準としては経過書類を参酌されるものとし、経過書類を理解するために当業者の証言が必要である場合を除いて証拠を追加することはできない;

 

反証手法3に関して:

 

      補正時に何故問題となる均等の形態を包括できなかったのかを示す「用語の不適切な使用」などを証明することで反証可能となる;

      本反証手法を実行する場合において経過書類の枠内でおこなうこと;

 

 

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