KSR v. Teleflex (Supreme Court,
Oral Arguments) 合衆国最高裁で口答審理 2006年11月28日 去る11月28日午前11時より約1時間に渡り、合衆国最高裁判所においてKSR事件の口答審理が開催されました。 被疑侵害者KSR側の代理人Dabney弁護士; 政府側(米国特許庁の代表弁護士)としてHungar弁護士(KSR側を支持している);及び、特許権者であるTeleflexを代理するGoldstein弁護士の順に最高裁判所で意見が述べられました。 以下は口答審理のトランスクリプトとAIPLA(アメリカ知財弁護士協会)の速報を基に抜粋したものです。 口答審理のトランスクリプトを読んでも今後の判決の行方は明瞭には浮かんできませんが、(筆者の個人的見解ですが)少なくともTSMテストは維持されると思いますが、当該TSMテストは絶対唯一のテストではなく、Graham事件で判示された非自明性を証明する副次的要件(客観的要素)の考慮、さらに、TSMの存在を主張する根拠(証拠)の拡大が明示される可能性が予想されます。 注意: TSMテスト(Teaching, Suggestion, Motivationの存在を判断するテスト) By Tatsuo YABE on November 30, 2006 |
Visit also KSR v. Teleflex (Supreme Court Decision: April 30, 2007)
USP6237565
(Engelgau) Teleflexの特許
In KSR v. Teleflex, the Supreme Court is
questioning whether the TSM test should exist as the sole determinant of
obviousness. |
合衆国最高裁での争点: |
Question presented: Whether the Federal Circuit has erred in holding that a
claimed invention cannot be held ‘obvious’, and thus unpatentable
under 35 U.S.C. § 103(a), in the absence of some proven “‘teaching,
suggestion, or motivation’ that would have led a person of ordinary
skill in the art to combine the relevant prior art teachings in the manner
claimed.” |
CAFCの判断、「関連先行技術の教示内容(複数)をクレームされたように組み合わせるべく当業者を導いたであろう教示、示唆、或は、動機、の存在が証明されることなしに、クレームされた発明を“自明”と判断し、米国特許法第103条(a)項の基に特許不可とすることはできない」は誤りか? |
【事件の背景】
KSR社は地裁判決(特許無効)を破棄差戻ししたCAFC判決に不服を唱え、最高裁に裁量上訴しており、同裁量上訴が認められました。 争点は、「先行技術の教示内容をクレームされた態様に組み合わせるように当業者を導いたであろうという教示、示唆、或いは、動機付けの存在を示す証拠がない場合には、103条(a)項の基に自明で、特許性がないと言えないとしたCAFCの判示が正しいか否か」であります。 今回問題となった特許のクレーム4は前後方向に取付け位置が調整可能なペダルを規定しており、同ペダルの踏込み量を電子制御装置で検出し、信号を生成することを規定しており、無効を主張したKSR社はAsano特許(踏込み量を機械的にリンクしスロットルを開口するという形態)と市販されていた制御ボックスの存在とを組み合わせて無効性を主張しました。 地裁においては無効が認められましたが、CAFCにおいて同無効が破棄されました。 その理由は、Asano特許と市販品の制御装置をクレーム4のように組み合わせるという
teaching / suggestion / motivationが証明されていないということであります。 言い換えると、特許クレームを無効にするときに先行技術文献の組合せは、当業者にとって一般技術常識であったと主張するのは不十分で、同組合せに関する
teaching, suggestion, or motivationがどこかに記載されている必要があると判断するのと同等になります。 当初24名で構成される全米ロースクールの知財専門の教授陣もKSR社の裁量上訴を支持するとともに法廷助言者としての意見書を提出し、数多くの関連組織・団体が裁量上訴を支持し、さらにTeleflex側の支持者も数多く意見書を提出しました。上記経緯を踏まえ、最高裁は2006年6月26日に裁量上訴を認めるに至り(約1%以下の確率です)、去る2006年11月28日に口答審理となりました。
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(1)KSR側の意見:
【Dabney弁護士:】 CAFCのTSMテストは発明がいかに広範であろうが、発明と先行技術との差異がいかに小さかろうが杓子定規に適応されており、昨今の判例においては同杓子定規な適応を回避する手法があることを認めるものの、然しながらそのような回避の手段を使用するためには陪審の判断事項である事実問題の解明が必要になるので、特許の有効性に対する判断を迅速に、効率よく、且つ、費用を節減して実行することに対する大きな障害となる。
【最高裁裁判長Robert裁判官】
もしTSMテストを採用しなければ、後知恵でもって、殆どの発明を自明にするのが容易になるのではないか? 【Dabney弁護士】
後知恵による考察をさけるには、Graham判決に基づき副次的要件を用いるなどの多数のやりかたでそれを回避することができる。
【Kennedy裁判官】
これらTSMなる要素の考察は、唯一のテストとしてではなく、自明性を判断する上で要因として有効か?
【Dabney弁護士 】 Anderson判決(1969)に適切な判示(自明性の結論は先行技術の構成要素による法的帰結にすぎない)がある。
(2) 政府側を意見:
【Hungar弁護士】
Kennedy裁判官の問いに対してTSMなる要因は有効な検討事項であるが、CAFCはこのTSMテストを唯一のテストであるかのように活用している。
【Souter裁判官】
このTSMテストは20年以上に渡って活用されてきたので、仮にこれが間違っていたとしても、今やこれが確固たる法律の地位を確立し、今になって、このテストを誤りとすることは、それを正当化するよりも被害を増大させることになるのではないか? 現実に何千、何万もの米国特許の有効性がこのテストを基礎としているのではないか? 然るに、このTSMテストを変更することによって特許の有効性を攻撃する特許訴訟の洪水を引き起こすことにはならないか? 【Hungar弁護士】
たとえそうであっても、それは間違った規則(TSMテスト)を維持することを正当化するものではない、且つ、さらなるルール(規定)を特許の有効性の外縁に追加するべきである。
【Ginsburg裁判官】
政府はTSM質問(テスト)を唯一のテストとするではなく、クレームされた装置は十分な革新(sufficient
innovation)を示しうるかというさらなる質問をすることを提案しているようだが、然しながら、このような質問(テスト)は非常に不明瞭である。 それに対して、【Hungar弁護士】
この表現(質問)はGraham判決で判示された要件のもとに自明性を判断する手順を説明するためのものである。
【Scalia裁判官】 TSMテスト(CAFCのテスト)はCAFCで使用されているにとどまらず、特許庁においても使用されており、もしこのテストを基礎として成立した特許に有効性が推定されているとしているのに、このテスト自身が誤りであったと判断された場合にはどうなるか? 同質問に対して【Hungar弁護士】
テスト(判断基準)を修正したとしても当該有効性の推定に大きな影響を与えることはない、何故なら本件のように先行技術との差異が微小なときにのみ当該テストを適用するからであると返答した。
【Hungar弁護士】
CAFCのテストは非自明性の法的問題を予期が困難な陪審の事実問題に変更してしまった。 それに対して【Kennedy裁判官】
本件で陪審が判断する事項が存在するのか? Hungar弁護士はそれを否定し、自明性の判断は陪審の助言なしに法的問題として完璧に対処できると述べた。
(3) Teleflex側の意見:
【Goldstein弁護士】
CAFCはTSMという用語を自明性判断テストに内在するものとして使用しているのであって、制限的な用語として使用しているのではない。 これら用語の意味合いは、「先行技術より明白であるものとそうでないもの」を識別する特許法条文で規定される特許要件に基礎付けられている。
この質問(TSMテスト)は、クレームされた発明を当業者が発案することが可能であったか否かではなく、先行技術に鑑みて当業者が“そうしたであろう”かどうかということを判断するのである。 CAFCは自明性の略式判決を破棄するときに、地裁に自明性を立証する事実証拠を提示するよう求めた。
【Breyer裁判官】
そのようなシンプルな装置に特許が付与される理由が理解できない。 【Goldstein弁護士】
昨今のCAFCの判決ではTSMは一般知識でサポートされても良いとしている。 【Kennedy裁判官】
しかし本件においては、昨今のCAFCの判決を基礎とするのではなく、本事件の意見に基づき判決が支持されなければならない。 【Goldstein弁護士】
現行の法律は変更されたわけではなく、昨今のCAFC判決はTSMテストが包括的であることを明示したにすぎない。
【Scalia裁判官】 包括的とはどういう意味か? それはまったく意味をなさない、Goldstein弁護士の説明ではKSR側が主張する分析(テスト)に何ら新規なる要素を追加するものではない。 【Goldstein弁護士】 Teleflex側が主張しているのは何が当業者にとって明白であったであろうかというのに対して、KSR側はクレームされた発明が当業者にとって思いつくことが可能であったか否かということである。 もしTSMテストを黙示(暗示)的に捕らえると上記質問と自明性の究極の質問との差を理解するのが困難になる。
【Goldstein弁護士】 上述のテストは質問に対するフレームワークを付加するにすぎない。 …と述べているのに対して、【Robert裁判長】 それはCAFCの専門用語で言うところの(弁護士の押・引き可能な:結果的に質問をより複雑にするだけである)“レイヤー(層)”を提供することになるだけだ。 【Scalia裁判官】特許を自明に至らせるように、TSM(teaching,
suggestion, motivationなる用語)を定義するのは本質を惑わせることになるであろう。
【Breyer裁判官】 昨今、過剰な保護が与えられるのに対して十分な競争がないという特許法における重大な議論がされているのではないか?【Goldstein弁護士】 そのような論議は、連邦議会が関与して進められている、然しながら、本件で正しく適応されたTSMテストによる相応しいバランスをCAFCが破棄したかどうかという議論はなされていない。 我々は特許の過剰性(数)に対して懸念する必要はあるが、自明性の判断を後知恵による判断で行うことに対しても懸念しなければならない。
【Goldstein】: 本法廷がTSMテストが究極の自明性判断基準であると判示するならば、本国の特許制度に莫大な不安をもたらしかねない(新規の)規則を構築しないですむという意味で好ましい。 然しながら、本法廷が、審査官は実は長年に渡り誤った自明性の判断基準を適用してきたのであると判断すると、その判示は既存の特許の有効性に対し、多大な影響を及ぼすであろう。
【Breyer裁判官】 TSMテストに、さらなる自明性判断の要件を加え、究極の自明性の判断基準は証拠に基づくことを強調するという意見に対して異議はあるか?【Goldstein弁護士】 異議はない。
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Oral
Argument Transcript; 口答審理のトランスクリプトへのリンク
http://www.patentlyo.com/patent/KSR_20Transcript.pdf
Dannis Crouch弁護士の Patently-O: Patent Law Blog より
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