CAFCの103条(自明性の判断基準)に関して最高裁に裁量上訴

Status: 2005年4月6日付けでKSR社が最高裁に裁量上訴; 全米Law Schoolの24名の知的財産権専門の教授陣及びPFF(Progress & Freedom Foundation:非営利法人)がKSR社の裁量上訴を支持するとともに、法廷助言者としての意見書を提出

 

KSR International Co., (Petitioner)

- against -

Teleflex In, and Technology Holding Co., (Respondents)

 

 

By Tatsuo YABE on May 25, 2005

Visit KSR v. Teleflex (Supreme Court Decision: April 30, 2007)  

 

要約:

KSR社は地裁判決(特許無効)を破棄差戻ししたCAFC判決に不服を唱え、最高裁に裁量上訴しております。 争点は、「先行技術の教示内容をクレームされた態様に組み合わせるように当業者を導いたであろうという教示、示唆、或いは、動機付けの存在を示す証拠がない場合には、103条(a)項の基に自明で、特許性がないと言えないとしたCAFCの判示が正しいか否か」であります。 今回問題となった特許のクレーム4は前後方向に取付け位置が調整可能なペダルを規定しており、同ペダルの踏込み量を電子制御装置で検出し、信号を生成することを規定しており、無効を主張したKSR社はAsano特許(踏込み量を機械的にリンクしスロットルを開口するという形態)と市販されていた制御ボックスの存在とを組み合わせて無効性を主張した。 地裁においては無効が認められたが、CAFCにおいて同無効が破棄された。 その理由は、Asano特許と市販品の制御装置をクレーム4のように組み合わせるという teaching / suggestion / motivationが証明されていないということであります。 言い換えると、特許クレームを無効にするときに先行技術文献の組合せは、当業者にとって一般技術常識であったと主張するのは不十分で、同組合せに関する teaching, suggestion, or motivationがどこかに記載されている必要があると判断するのと同等になります。 24名で構成される全米ロースクールの知財専門の教授陣もKSR社の裁量上訴を支持するとともに法廷助言者としての意見書を提出しております。 24名の教授陣の助言においてもKSR社の主張を支持しており、より適切な特許性の判断基準(より厳格な特許性の判断基準)を設定することを支持しております。 さらに、PPF (Progress  Freedom Foundation:非営利法人)もKSR社の裁量上訴を支持するとともに、自明性の判断基準を低く設定することによってもたらされる弊害を指摘しております。

 

USP6237565 (Engelgau) Teleflexの特許

本件の裁量上訴が認められ、最高裁において自明性判断基準のガイドラインがでることを希望しております(著者)。 

 

 

【問題の特許: 米国特許第6237565号のクレーム4 (Teleflex社)】

 

本件特許 USP6237565

クレーム4

 

4. A vehicle control pedal apparatus (12) comprising:

a support (18) adapted to be mounted to a vehicle structure (20);

an adjustable pedal assembly (22) having a pedal arm (14) moveable in force and aft directions with respect to said support (18);

a pivot (24) for pivotally supporting said adjustable pedal assembly (22) with respect to said support (18) and defining a pivot axis (26); and

an electronic control (28) attached to said support (18) for controlling a vehicle system;

said apparatus (12) characterized by said electronic control (28) being responsive to said pivot (24) for providing a signal (32) that corresponds to pedal arm position as said pedal arm (14) pivots about said pivot axis (26) between rest and applied positions wherein the position of said pivot (24) remains constant while said pedal arm (14) moves in fore and aft directions with respect to said pivot (24).

 

【背景技術】

 

本特許(USP6237565)は基本的にはアクセルペダル(或いはブレーキペダル)に関する発明を開示しており、ペダル14をガイドロッド62の長手方向に変位可能であって、ドライバーの体格に合わせてペダル14を適切な位置に移動し、同選択位置で固定可能であります。 この前後方向での位置調整可能なペダル構造はAsano特許(USP5010782)にズバリ開示がありますが、Asano特許はUSP’565の審査中に引用されておりません。 ペダルの回動と連動連結された揺動軸に取り付けて、その回転量を検出し、検出値に相当する信号を生成する電子制御装置は本特許出願前に市販されていたとのことです。 このようにAsano特許のペダル位置調整可能構造と市販品である制御装置を組み合わせるとUSP565特許のクレーム4の構成要素はすべて満たされることになります。

 

← Asano特許(USP5010782) Fig. 5

 

レバー52は揺動軸54回りに回動可能な状態でBKT50(車体に固定)に支持されており、ペダル74は図のように前後方向にシフト可能で位置決めをすることができる。 ユーザーの体型に合わせてペダル74を最前端の状態(実線)と最後端の状態(二点鎖線)との間の所望する位置で固定し、同ペダルをユーザーが踏みこむとレバー52が揺動軸54回りに揺動し、同レバー52の回動運動が、第2揺動軸60回りに揺動支持された操作レバー58に連動され、操作ワイヤ61を後方に移動させるという水平運動に置換する。 このようにAsano引例ではペダル74の前後方向位置の調整が出来る構造を開示しており、但し、ペダル操作量(踏込み量:⇒揺動軸周りの角度変位)と、それに比例して開口するスロットル(操作ワイヤ61の引張り量)が機械的に連動連結されている構造であります。

 

 

 

 

 

 

 

【本事件の概要】

 

Teleflex社は米国特許第6237565号の所有者で、KSR社の「調整可能なアクセルペダル」をGMに販売する行為が同特許クレーム4を侵害するとしてミシガン州東部地区連邦地裁に侵害裁判を提訴しました(2002年11月18日)。 同連邦地裁において、KSR社はAsano 特許(USP5010782:問題となる特許の審査中に引用されなかった)と当時市販されていたペダル位置検出センサ(如何なる揺動軸にも取付け可能なタイプのもの)とを組み合わせることによってUSP’565のクレーム4は無効であると主張した。 KSR社は同地裁に最高裁判例(Sakraida判決)を引用し、特許の有効性を判断してもらえるように申し立てたが、同地裁はCAFCでの判断基準( teaching-suggestion-motivationテスト)を採用し、有効性を判断した。 その結果、KSR社の主張したAsano特許と公知の市販品の組合わせによって同特許クレーム4の特許性を否定した。 同地裁の判決に不服を申立てTeleflex社は連邦巡回控訴裁判所(CAFC)に控訴したところ、Asano引例の教示内容を市販品である電子制御装置とクレーム4で規定される態様になるように組み合わせることに対する示唆または動機があったことを明白で説得性のある証拠によって示していないとして同特許クレーム4を無効とする下級審の判決を破棄し、同地裁に差戻すと判決した(2005年1月6日)。 

 

■ KSR社の裁量上訴:

 

現在、KSR社は、特にCAFC判決の103条の自明性判断基準に照準を絞り、同争点に関して最高裁に裁量上訴をしております。

 

尚、裁量上訴の争点は、「先行技術の教示内容をクレームされた態様に組み合わせるように当業者を導いたであろうという何らかの証明された教示、示唆、或いは、動機付けが存在しない場合には、103条(a)項の基に自明で、特許性がないと言えないとしたCAFCの判示が正しいか否か」であります。

 

KSR社は今回のCAFCの判断は最高裁の判示と矛盾するとし、その根拠となる最高裁の判例としては、Anderson’s - Black Rock, Inc. v. Pavement Salvage Co., 396 U.S. 57, 60-61 (1969) と Sakraida v. Ag Pro, Inc., 425 U.S. 274, 281-81 (1976)を引用し、これら判決において「クレームされた発明が、個々の機能を変えることなく、従前の構成要素の組み合わせによってのみ構成される場合には、特許法第103条はそのような発明が権利化されることを阻止する」と満場一致で判示された。

 

KSR社によると、最高裁における103条の解釈とCAFCでの103条の解釈は、以下のように対比されます: 

 

最高裁では、クレームで規定される構成要素(複数)の各々が従前から周知であるか、または、意図された機能を実現するというに過ぎない場合には103条(a)項で規定された特許性の要件を満たさないと判断する。 それに対してCAFCのアプローチは、当業者を、関連技術の教示内容を組合せてクレームされた態様に導くような教示、示唆、或いは、動機の存在を示す証拠が存在しない場合には周知の構成要素であってもその組合わせは常に103条の特許要件を常に満たすと判断する。

 

■ BRIEF OF TWENTY-FOUR INTELLECTUAL PROPERTY LAW PROFESSORS AS AMICI CURIAE IN SUPPORT OF PETITIONER:

 

24名の教授陣の助言においては概要以下の表題でより厳しい特許性(非自明性)の判断基準の設立を要請しております。

 

I. The Federal Circuit’s Rule that Patent Obviousness Can Be Shown Only By Producing a

“Teaching, Suggestion, or Motivation” to Combine Prior Art Is Contrary to the Approach

Mandated by Statute and Inconsistent with this Court’s Precedent.................................................. 2

II. The Federal Circuit’s “Suggestion Test” Sets Bad Patent Policy.................................................. 10

III. This Case is an Excellent Vehicle for Addressing the Conflict Between this Court’s Precedent and the Federal Circuit’s “Suggestion Test”...................................................................... 15

 

■ BRIEF OF THE PROGRESS & FREEDOM FOUNDATION AS AMICUS CURIAE IN SUPPORT OF THE PETITION FOR A WRIT OF CERTIORARI

 

PFF: Progress & Freedom Foundation; non-profit research and educational institution.  The principal mission is to study the impact of the digital and electric revolution and its implications for public policy.

 

PFFもKSR社の裁量上訴の受理を希望しており、裁判所の友(法廷助言者)としての意見書を提出しております。 同意見書においてPFFはKSR社の主張を支持しており、CAFCが採用する自明性の判断基準の低さが米国特許審査官に及ぼす悪影響(即ち、本来的には特許にするべきではない発明を審査の段階で除去することができない)、或いは、後続する特許出願の発明主題に与える負のインセンティブ(微少な改良を加えてとにかく権利化はしておく)、及び、その結果として成立する特許が経済に与える負の影響(特許クリアランス処理のコストと猥雑性)を指摘しております。

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