Innovation Act 2013年12月5日に連邦議会(325-91)下院通過 (トロール対策法案) Jan. 10, 2014 Tatsuo YABE |
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H.R.3309はPAE
(Patent Assertion Entity:自身では特許に関する物の製造には携わらず権利行使のみをする組織)による侵害訴訟の濫用を抑止することを主目的とする法案である。2013年12月5日に連邦議会下院を325-91で通過し、現在上院で審議されている。 以下の概要にあるように、本法案において、訴訟開始の段階において原告は真の特許権者及び利害関係者の情報を被告に(且つ、USPTO及び裁判所にも)提供すること、さらに、訴状において特許とそのクレーム及び被疑侵害品を特定し、侵害理由(クレームの構成要件とイ号との関係)を示すことが要求される。 さらに、裁判所は侵害判断にクレーム解釈が必要と判断する場合には、クレーム解釈に関わる範囲にディスカバリーを制限することと規定している。 最もドラスティックな改定は敗訴側による訴訟費用(弁護士費用など)の負担であり、現行285条では「例外的な事情のあるとき」のみ弁護士費用の支払いを規定しているが、裁判所が285条を発動するその件数(see
*1)は少ない。本法案においては原則がloser
paysになる。 さらに、原告(PAE)が敗訴し被告側に訴訟費用の支払いができない場合に真の権利者に費用の支払いを求めることを許容している。
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2013年12月5日に革新法案(Innovation
Act: H.R.3309)が連邦議会の下院を325-91の賛同を得て通過した。現在上院にて審理中。 下院を通過した革新法案(Innovation
Act)の概要は以下参照:
(1)Heightened
Initial Pleading Requirements(訴答内容の詳述化);
35 U.S.C. 281A
侵害訴訟における訴状に少なくとも以下の内容を盛り込むこと。 権利行使の対象となる特許とそのクレーム;被疑侵害品或いは方法の特定;被疑侵害品のモデル番号など;クレームの構成要素が被疑侵害品或いは方法に存在することを示すこと。 原告はさらに、権利行使の対象となる特許権を所有することを証明する;
原告の主たる業務と当該特許に基づく他の訴状のリスト、及び、当該特許を基礎とするライセンスを開示すること; もし特許権者が上記要件(開示要件)を満たせない場合にはどの情報を開示できないかを示し、非開示理由の説明あるいは非開示情報を入手するべく妥当な努力を支払ったことを示す。
注釈(筆者):現行の訴状において原告は、原告、被告、と問題となる特許(或いは問題となる特許と被疑侵害品)のみを特定している場合が多い。 然るに、被告(被疑侵害者側)は訴訟の開始段階において漠然とした情報の基に訴訟対応を迫られることになり、訴訟の行方および方針を決定するのに多大な費用と時間を要する。 しかし本法案が成立すれば、原告による侵害判断の確からしさを被告が初期の段階において予想でき、和解するべきか、訴訟を継続するべきかの判断を立てやすい。 本法案が通れば、被告側が非侵害或いは権利無効の確信を初期に得ることができれば、以下(2)285条と共働によって被告側による訴訟の最終段階まで引き伸ばし、或いは、有利な和解条件の獲得が可能となるであろう。
(2)Loser
Pays(敗訴側による訴訟費用「“弁護士費用など”」の支払い);
35 U.S.C. 285
基本ルールとしては、敗訴側に勝訴側の訴訟費用(弁護士費用含む)の支払いを裁判所が命じること; 但し、法的或いは事実に鑑み、そのような支払いが寧ろ正義に適わないと判断される場合には命じない。 但し、敗訴側(例えばNPEの場合)が訴訟費用を負担できない場合には利害関係者(NPEの親玉)に負担を求めることも可能とする。
注釈(筆者):現行285条においては、「特別の事情:35
U.S.C. 285 “exceptional case”」の場合においてのみ裁判所が相手側の弁護士費用の支払いを命じることができるとしている(即ち、現行法においては、原則として訴訟の勝ち負けに拘わらず弁護士費用は互いに負担することになっている)。 この「特別の事情」に関して2件の事件(see
*2)が現在合衆国最高裁に上訴されており、最高裁裁判所が審理をしている段階である。 しかし本法案が通れば、原則として敗訴側が相手側(勝訴側)の弁護士費用を負担することになる。 これはドラスティックな改訂である。 上院においてこの本法案285条の可否が大きく議論されると予想される。 然しこの法案285条が通れば、PAEによる訴訟濫用に対する抑止力が増すであろう。 仮にPAEに支払い能力がない場合には真の権利者或いは利害関係者(上記(1)281条で特定される)に負担を強いることも可能となるので、ダミー訴訟に対する抑止力も強くなるであろう。 但し、改正285条の弁護士費用の支払いの例外規定(敗訴側が支払わなくても良いとする条件)が非常に漠然とした短文(…unless
the court finds that the position and conduct of the nonprevailing party or
parties were reasonably justified in law and fact or that special circumstances
(such as severe economic hardship to a named inventor) make an award unjust.とのみ規定されている)で基準が曖昧である。 この点を含め、本条文に関しては上院においてこのままの文面で賛同を得るのは困難になると予想される。
(3)Discovery(ディスカバリーの制限);
35 U.S.C. 299A
地裁が侵害判断をするために、クレームの解釈(claim
construction)が必要と判断した場合に、裁判所は、ディスカバリーを問題となるクレームの用語の意味合いを決定するのに必要な範囲に制限する。
注釈(筆者):現行法の下では訴訟開始初期段階におけるディカバリーの費用もかなり高額となる場合が多い。 その理由はディスカバリーの範囲が本来の争点(まずは問題となるクレーム解釈)をピンポイントで抑えるのではなく、両当事者の合意のもとに広範となる場合が多く、訴訟弁護士に対する抑止力が働かないからである(成功報酬に寄らない通常の特許訴訟弁護士は問題が複雑化することでビラブルアワーが増大するも、訴訟がシンプルに簡略化されることによる大きなメリットはない。see
*3)。 本法案においては弁護士にディスカバリーを制限することのインセンティブを与えることはできないので、裁判所にまず訴訟の順序として最も重要なるクレーム解釈とそれのみに関わるディスカバリーを初期段階で命じることとした。 上記(1)によって訴状においても原告に、侵害品を特定し、いかに侵害しているかをある程度立証することを要求しているので、(3)と組み合わせることによって侵害訴訟の入口における無用な訴訟費用(弁護士費用)を軽減できることになるであろう。 また、侵害訴訟において、クレーム解釈が決まれば訴訟の結末が予想しやすいので(勿論、無効、権利行使不能の抗弁はあるが)両当事者合意に基づく(単に訴訟の経費を節減するという目的ではなく侵害か非侵害かを納得の上で)早期に和解することが可能となる。
(4)Transparency
of Patent Ownership(真の権利者を可視化);
Hatch-Waxman法に関わる事件を除いて、特許権者は訴状を提出する際に米国特許庁、裁判所、および、相手側(被疑侵害者側)に対して、譲受人、サブ-ライセンスを付与できる人、権利行使可能な人、問題となる特許に関わる利害関係人、及び、譲受人の究極の親玉を開示すること;尚、ここで言う利害関係人とは権利行使によって利益を享受する権利を有する者、および、原告に対する5%以上の支配力(例:5%以上の株を保有する)を直接或いは間接的に持つ人を意味する。 注:「人」は自然人と法人の両方を含む。
注釈(筆者):PAEは多くの場合に真の権利者(当事者)のダミー会社であり、実際には真の権利者が訴訟を遂行している。ダミー(PAE)を原告として訴訟を起こすメリットは、PAEは製造に一切関与していない単なるペーパーカンパニーのようなもので原告側としてのディスカバリーの負担が殆どない、且つ、敗訴しても業界における信用を失墜することもない。 真の権利者を開示することによって上記(2)285条のloser
paysの法理を真の権利者に適用することが可能となる。また、真の権利者によるダミー訴訟を抑止することになる。
(5)Customer
Suites Exception; 35 U.S.C. 296
ユーザー(顧客)に対する侵害裁判において、被疑侵害品の製造業者(或いは、提供者または製造或いは提供させている者:以下製造者と称する)が訴訟に加わる場合には、顧客と製造者が合意し、書面にて製造者による裁判の結果に従うということを顧客が同意する場合には、顧客と製造者による訴訟停止の申立てを裁判所は認めなければならない。
注釈(筆者):近時PAEによる訴訟は製造者に対してのみではなく、その顧客に対して起こされる場合が多い。 典型的なPAEの手法としてまずはエンドユーザーを含む多数の小規模事業者に大雑把な内容の警告書(demand
letter: “purposely
evasive demand letters”)を送付し、所定金額(例えば1000-3000ドル)を一定期間に支払わない場合には訴訟を提起すると脅す。 訴訟が提起されるとディスカバリーなどで多額の費用(弁護士費用)が嵩むので、明らかに非侵害、或いは問題となる特許とはほど遠い技術分野の製品のユーザーであったとしても2000-3000ドル支払い和解してしまうケースが多い(そもそも小規模事業者或いは個人レベルで特許侵害の警告に適切に対応できない)。被疑侵害品を製造している製造者(少なくとも法務部があるか、特許弁護士を雇用でき、特許訴訟に対応できる能力を備えている)がそれら多数の顧客を代表し訴訟に参加できることによって、(顧客に対する訴訟は停止する)数多い顧客を代表し特許侵害の問題を解決できる道を与えている。
*1: Raylon, LLC
v. Complus Data Innovations, Inc. et al., (Fed. Cir. Dec. 7, 2012)
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}
原告(Raylon)のクレーム解釈は根拠がない。クレーム解釈において負けたからといって訴訟が根拠のないものとは断言できない。しかし、クレーム解釈において、通常の訴訟弁護士が勝訴する合理的な可能性がないというレベル(閾値)を下回る場合には、その訴訟は根拠のない訴訟と判断される。 Raylonの「表示部がハウジングに対して搖動的に取り付けられている」という特徴に対するクレームの解釈(表示部は見る者の相対位置によって搖動可能である)は当該閾値を下回る顕著な例である。Raylonは訴訟の中で一貫してこの主張(理不尽なクレーム解釈)を通した。しかし当該クレーム解釈は内部証拠(出願審査経過書類など)に鑑みても全く根拠のないものである。依ってRaylonの主張は客観的に合理性を欠くもので、連邦民事訴訟規則11条を違反する。 当該規則11条を違反する場合には裁判所は適切な制裁措置を課せなければならない。
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(判決文抜粋)
}
Specifically,
Raylon alleged that the accused devices all literally met the “display
being pivotally mounted on said housing” element
because they each had “a display that is mounted
on the housing and can be pivoted relative to the viewer’s
or user’s angle of visual orientation.”
J.A. 4223; J.A. 4912; J.A. 5768. In other words, under Raylon’s
theory of infringement a display with a fixed-mounted screen meets the ‘pivotally
mounted on said housing’ limitation when the user
pivots the device by moving his elbow, wrist, or other joint. (opinion
paragraph bridging page 6 and page 7)
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*2: Highmark Inc.
v. Allcare Health Mgmt. System., Inc., Supreme Court No. 12-1163;
Octane Fitness, LLC v. Icon Health and Fitness, Inc., Supreme Court
No. 12-1184;
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2013年10月01日、合衆国最高裁は以下の2つの事件(共に非侵害)に対して、米国特許法第285条に基づく「例外的な事案”case
is exceptional”(敗者に相手側弁護士費用の支払いを命じる)」を認める基準に関してレビューすることを決めた。
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Highmark
Inc. v. Allcare Health Management Sys.
U.S. No. 12-1163
地裁は、本事案は客観的に根拠のない(“objectively
baseless”)、悪意(”bad
faith”)に基づく訴訟であると判断し特許権者Allcareに勝者側弁護士費用の支払いを命じた。 しかしCAFCは、「客観的に根拠のない訴訟」という地裁判断をde
novo reviewするとし、弁護士費用支払いを否定し、大法廷によるヒアリングを6-5で否定した。メインの争点:地裁の判断、即ち、「客観的に根拠のない訴訟と判断された場合には285条に基づく「例外的な事案」とする」に一定の敬意を支払うべきか?
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Octane
Fitness LLC v. Icon Health and Fitness
U.S. No. 12-1184
CAFCで地裁判決「Octane:非侵害」を支持したが、285条の「例外的な事案」とは認めなかった。CAFCの「例外事案の認定(285条)」は硬直すぎるとし、「例外事案の認定(285条)」の基準を「客観的に妥当性を欠く場合(“objectively
unreasonable”)」に下げるべきであると主張。
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*3:
“Of
those documents, only…0.000183% …appeared
on an evidence list as possibly being introduced at trial.” –
at 32: GAO Report: Intellectual Property: Assessing Factors That Affect Patent
Infringement Litigation Could Help Improve Patent Quality (Aug. 2013) ディスカバリーで収集したドキュメント(証拠資料)のうちで僅かに、0.000183%しか公判で使用される証拠のリストに入らない(約5500件の資料のうち僅か1件しか証拠リストに入らない):
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