Ultramercial
v. Wildtangent
Fed.
Cir. Decision 2014/11/14
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Alice
v. CLS後の101条関連のCAFC判決 By
Tatsuo YABE 2014-11-29 |
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まとめ:
本事件はAlice v. CLS Bank事件(最高裁判決:2014年6月19日)後、101条適格性が否定された数多くのCAFC事件の一つである。 UltramercialのUS7346545特許の権利者である。 当該特許は、宣伝を見ることを条件にメディアコンテンツの視聴を許すというビジネス手法に関する発明をクレームしている。 従来、一般ユーザー(視聴者)は希望するメディアコンテンツにアクセスする前に受け身で宣伝を見ているに対して本特許においては宣伝を見ることを承諾するステップがある点で新規でありAlice最高裁判決にある103条紛いのInventive
Concept(発明概念)に結び付けAbstract Ideaに関連する発明であっても101条を満たすとUltramercialは主張した。Fed
Cirはそのステップがクレーム1にあることは認めたが、その特徴(ステップ)があるからといって抽象的なアイデアに関するクレームを101条保護適格性を満たすレベルに変換するものではないとして101条適格性を否定した。
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昨今の101条関連のCAFC判決をレビュする限り101条適格性は二つのステップで判断するということは定着してきているようだ。即ち、第1段階としては特許保護適格性を否定された101条の例外事象(自然法則、自然現象、Abstract
Idea)に関するものかを判断し、第2段階ではクレームがそれ全体として単なる101条の例外事象を顕著に超えたものになっているかを判断する。 即ち、本事件の場合には例外事象であるAbstract
Ideaをクレーム全体として101条適格性を満たす主題に変換する発明概念(Inventive
Concept)が問題となるクレームに含まれているか否かを判断する。 101条適格性の判断に関しFed
Cirにおいて、この2段階の手法(Mayo最高裁判決とAlice最高裁判決より)が今後は採用される。 但し、第2段階で、クレームに発明概念(Inventive
Concept)が含まれているかの判断をどうするのかの基準は本事件からは明白には見いだせない。 寧ろ今回の判決文を読む限りでは1998年のState
Street Bank事件(State Street Bank v. Signature:
Fed. Cir. July 23, 1998)以降成立したビジネス手法に関する多くの特許(既存のもの)は無効理由を内在しているように理解される。
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即ち、ビジネス手法関連の発明であるからといって101条を否定されるわけではないというState
Street Bank事件の法理はMayo最高裁判決およびAlice最高裁判決においても否定されていない。 しかし、ビジネス手法関連の発明において出願審査において新規・非自明と判断された特徴がビジネスの手法(ステップ)である場合には訴訟においては、おそらく101条を満たさないと判断される可能性が高いと予想される。然るに、ビジネス手法に関する発明がFed
CirにおいてAlice事件に鑑みて101条を満たすという判例がでるまでは権利行使に耐えうるビジネス手法特許のポイントを理解するのは困難であろう。
Mayo判決(2012年)およびMyriad判決(2013年)を考慮にいれたPTOの101条審査ガイドラインが2014年3月4日に発行された。当該審査ガイドラインで取敢えず101条の審査基準は落ち着くと思われた。 然し、その僅か3か月後にAlice最高裁判決(2014年6月)がでた。 依って、現在PTOにおいて101条の審査ガイドラインを再度見直し中であり修正バージョンが近日発行される予定である。 出願審査を主とする実務者にとって近日中に発行されるであろう修正バージョンを学習することが重要であろう(但し、言うに及びませんがPTOの審査ガイドラインは訴訟における拘束力はない)。
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Lourie, O’Malley, Mayer
(Concurring Opinion):
Lourie判事による多数意見(2014年11月14日)の概要:
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特許権者: Ultramercial社
問題となった特許:米国特許第7,346,545号
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545特許クレーム(発明)の概要:
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本願発明は、スポンサーからのメッセージ(宣伝)を視聴することを条件に著作権保護されたメディアコンテンツへの無料でのアクセスを許可し、スポンサーの宣伝(メッセージ)の視聴回数を記録し、仲介者がスポンサーから金銭収入を得るというビジネス手法に関する。 即ち、本願発明における登場人物(Entities)は、著作権保護されたコンテンツの提供者、スポンサー(宣伝メッセージ)、一般視聴者、それらの間に介在する仲介業者である。
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545特許のクレーム1は11のステップよりなり、第2ステップにおいてメディア(著作権保護された金銭価値のあるもの)に応じた(適した)宣伝メッセージを複数の選択肢よりチョイスするとあり、第5ステップにおいて一般ユーザーに宣伝メッセージを見ることを条件にメディアコンテンツに無料でアクセスできるとオファーをし、第6ステップでユーザーより視聴したいという要請を受けるとあり、第8ステップと第9ステップにおいてスポンサーのメッセージが一方向(視聴者に問いかけ無し)のものか双方向(視聴者に質問があるか)のものかと規定している。
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依って、本特許出願(仮出願2000年5月27日)以前からあるようなYahoo画面を開くと常に宣伝の動画(バナー)が表紙されているという形態あるいは無条件に数秒間のコマーシャルの後にメディアコンテンツが視聴可能になるというような形態とは上記ステップ第2,5,
6, 8,9ステップによって新規性があるようだ(筆者注)。
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■背景及び判決文の概要:
Ultramercialは545特許を侵害しているという理由でHulu、YouTube、及び、WildTangentを相手に侵害訴訟を起こした。カリフォルニア中央地区連邦地裁はWildtangentの訴え却下の申立て(545特許のクレームは101条を満たさない)を認めた。 控訴審(Fed
Cir)は当該地裁の判断を破棄した。当該判決を不服としWildTangentは最高裁に裁量上告していたところMayo
v. Prometheus(最高裁判決)判決が出たので、最高裁は控訴審にMayo判決に鑑み審理をするよう差し戻した。 控訴審は再度地裁の判断を破棄した。 再度WildTangentが裁量上告をしたところ、Alice
v CLS Bank最高裁判決がでたので、最高裁は裁量上告を許可し、Alice判決に鑑みて再度審理をするように控訴審(Fed
Cir)に差し戻した。
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今回の判決はAlice v CLS Bank事件を経た控訴審(Fed
Cir)の判決である。
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■CAFCの判断:
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545特許で規定するクレームは特許保護適格性を欠くAbstract
Idea(抽象的なアイデア)を超えるものではない。 依って、地裁判決を支持する。
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USP7346545--クレーム1 |
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1.
A method for distribution of products over the Internet via a facilitator,
said method comprising the steps of: |
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◎地裁判決を支持した理由:
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クレームが特許保護適格性を満たすか否かの判断において、まず第1段階として、特許保護適格性を欠く主題に関連するものかどうかを判断する。 当該判断においてNOの場合には101条のテストをパスする。 第1段階のテストでYESの場合に、第2段階として、問題となるクレームが、「当該特許保護適格性を欠く主題を顕著に超えた特許」にするための他の構成要素或いはその組み合わせを含んでいるかを判断する(Mayo,
132 S. Ct. at 1294)。
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◎Ultramericalの主張:
545特許のクレームはAlice事件で言うところのAbstract
Ideaの範疇に属するものではない。 Alice事件において最高裁は101条判断をするのに103条のようなテスト(103条紛いのinventive
conceptの考え方:筆者注)を採用した。 クレームが仮にAbstract
Ideaに関するものであってもそれが新規な発想であって、周知のものではなく、且つ、通常使用されていなかった場合には101条の範疇(101条を満たす)である。545特許においてはユーザーが主体となって宣伝の視聴を選択するという積極的なステップが介在しており、従前の受け身体制の宣伝の視聴とは異なるので単にAbstract
Ideaを実行するものではない。
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◎WildTangentの主張:
545特許はAbstract
Ideaに関するものである。即ち、宣伝メッセージを視聴する代わりに無料のメディア視聴をオファーするというAbstract
Ideaにすぎず、そのようなAbstract Ideaをコンピューター上で実行するというというだけでAbstract
Ideaの域を超えるものではない。545特許のクレームはAbstract
Ideaを基本的なステップに分解し、形式的な別行為(ステップ)を追加したにすぎず、クレームは当該Abstract
Ideaを保護適格性を満たす発明に変換できる構成要素を含んでいない。
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◎Fed Cirの意見:
WildTangentの意見に同意する。 即ち、545特許は保護適格性を満たす手段をクレームしていない。 Alice最高裁判決に鑑み2段階のテストで判断する。
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第1段階としては、545特許クレーム1の構成要素をレビュすることから始める。 11のステップが規定されている。しかしこれらステップの組み合わせは具体的な形態を備えないAbstract
Ideaにすぎない。 所謂、著作権で保護されたメディアにアクセスする方法であって、宣伝物を選択するステップ;選択された宣伝を視聴することの引き換えにメディアを提供するとオファーするステップ;宣伝を表示するステップ;消費者がメディアにアクセスするのを許可するステップ;宣伝のスポンサーから費用を受け取るステップ;・・これらステップの全てはAbstract
Ideaを記載しているにすぎない。 活用ログ(Activity
Log)を参照するステップなどの追加されたステップによってクレームの詳述度が増すが、規定されたステップの大半が、無料のコンテンツを提供する前に宣伝を表示するというAbstract
Ideaを記載したにすぎない。
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Alice最高裁判決にあるように、全ての発明は程度の差こそあれ・・・・自然法則、自然現象、或いは、Abstract
Ideaを包括する、活用する、反映する、或いは、それらを適用する。Alice,
134 S. Ct. at 2354 (quoting Mayo, 132
S. Ct. at 1293) 我々(Fed Cir)はこの現実を認識しており、ソフトウエア関連特許の全てがAbstract
Ideaに関連するものであると主張する意図はない。しかし545特許のクレームは地裁が判断したようにスポンサーの宣伝メッセージを交換条件或いは金銭として使用する方法というAbstract
Ideaにすぎない。
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第2段階としてクレームが単なるAbstract
Ideaを記載したものを顕著に超えた方法になっているかを判断する。 即ち、クレームに、Abstract
Ideaを保護適格性を備える主題に変換する発明概念(Inventive
Concept)が含まれているか否かを判断することである。 Abstract
Ideaを保護適格性を有する発明主題に変換するにはAbstract
Ideaを記載し、これらを適用せよ(“apply
it”)!・・というような用語を追加するのでは不十分である。Abstract
Ideaを規定しているクレームが適格性を得るためにはクレームに“さらなる特徴”が付加されており、クレームドラフターの腕によってAbstract
Ideaを独占するように記載されたようなものであってはならない。ここで言う“さらなる特徴”とは「周知」、「通常」、「一般的な行為」を超えるものでなければならない。
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上記観点で考察するに、545特許のクレームの構成要素はAbstract
Ideaを保護適格性を備えた主題に変換するものではない。
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さらに、クレームされたステップがインターネットの使用と関連するということで発明概念(Inventive
Concept)を与えることにはならない。 一般的に普及したインターネットの活用という事実に鑑み、Abstract
Ideaを、インターネットを介して実行するという形式にクレームしたとしても、クレームドラフターの技能によるドラフティング能力の域を超えるものではない(Mayo,
132 S. Ct. at 1297)。
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Machine
or Transformationテストは101条適応性を判断するのに唯一のテストではない(Bilski,
561 U.S. at 604)が、有益なテストである(Bancorp
Servs v. Sun Life Assurance: Fed. Cir. 2012)。 545特許のクレームは新規なる特定の機械或いは装置との連携がない、寧ろ、汎用コンピューターを一般的に活用しているにすぎない。依って、MOTテストのMachine要件を満たさない。 さらにMOTテストのT要件も満たさない。545特許のクレームは消費者が宣伝を視聴することを許可する;コンテンツの提供者によるアクセスを許容する;スポンサーとコンテンツ提供者間の金銭のやり取りなどを含む取引(商取引)に関するもので、いわゆる抽象概念の範疇であり、実体を伴う物理的なもの、物質をクレームしているわけではないので物(Article)を他の状態或いは他のものに変換することはない。 依って、MOTテストのT要件も満たさない。 上記したようにMOTテストは唯一のテストではないが545特許のクレームが宣伝の視聴を金銭として扱うことに関連する通常のステップを超えないというさらなる裏付けとなる。
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上記したように545特許のクレームは保護適格性のない抽象的なアイデア(Abstract
Idea)を超えるものではない。 依って、地裁判決を支持する。
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■Mayer判事によるConcurring
Opinion:
545特許のクレームは保護適格性を有さないという多数意見に同意する。 但し、以下の3点を注記したい。(1)訴訟においてまずは101条の判断をすることが望ましい。(2)282条のPresumption
of Validity(有効性の推定)は101条には適用されない。(3)Alice最高裁判決は101条を満たす技術的な発明が何であるかを規定した。アイデア(発想)はその初期段階(不完全な状態)では101条の保護に値しない。発想がAbstract
Ideaの領域から離脱するに具体的な適用(concrete
application)をもってのみ可能となる。 545特許の新規な発想部分は技術的ではなく起業家的な領域に属する。
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