YBM Case (CAFC判決) decided on May 27, 1998
Before: Rich, Smith, Newman (Circuit Judges)
Summarized by Tatsuo YABE on March 10, 2002
Revised on April 14, 2002
控訴人: YBM MAGNEX, Inc
被控訴人: International Trade Commission
San Huan New Material High Tech, Inc.,
Ningbo Konit Industries, Inc.,
Tridus International, Inc.,
問題となる特許:
YBM社のUSP4,588,439 マグネット合金の組成に関する特許:
USP4,588,439号のクレーム:
1. A permanent magnet alloy consisting essentially of, in weight percent, 30 to 36 of at least one rare earth element, 60 to 66 iron, 6,000 to 35,000 ppm oxygen(下図の"excellent resistance"に相当する領域:著者注) and balance boron.
2. The alloy of claim 1 wherein at least one of said rare earth elements is neodymium.
3. The alloy of claim 1 wherein at least one of said rare earth elements is dysprosium.
当該特許によると磁石は酸素成分の含有量が少ないと高温、高湿下で性質の安定性を発揮することができない。
1930年の関税法第337条に基づき実施された調査報告書第337TA372号での同意判決の執行に対して不服を唱えたYBM社がCAFCに控訴した。
行政法審判官(Administrative law judge: ALJ)によると、酸素含有量が5450 ppm - 6,000 ppm(下図のexcellent resistanceの下の "nearly disintegrated"に相当する領域:著者注)含むマグネット合金であってもYBM社のUSP‘439号特許を均等論侵害すると判断した。
委員会(commission)は上記行政法審判官の判断を採用し、それを当委員会の判断としたが、1996年3月4日にMaxwell事件の判決がでた。 そこで、被告に相当する3社は、Maxwell事件は過去の判例を変えるものであり、明細書に開示されたがクレームされなかった、5459ppm - 6000ppmなる範囲(上図のexcellent resistanceの下の "nearly disintegrated"に相当する領域:著者注)の酸素含有量を備えたマグネット合金に対する均等論の適用が禁止されると主張した。
行政法審判官はMaxwell判例は、5459ppm −6000ppmの範囲の酸素含有量を備えたマグネット合金に均等論をを適用することを禁止したことにはならないと判断した。 なぜなら、Maxwell以前の判例及びGraver Tank判例によって明細書に開示されているがクレームされていない主題を均等論の適用判断の基礎とすることを許容しており、Maxwell事件は、当該事件の固有の事実に鑑みた判決がなされたのであって、過去の判例を覆すものではない。
ところが、委員会はMaxwell判決に対する上記行政審判官の解釈を否定し、Maxwell判決は、「明細書に開示されたがクレームされていない主題を均等論適用によって包括することを禁止する」新しい規準を提供するとした。 即ち、Maxwell判決は重大な判決であるとした。
YBM社は、上記の委員会のMaxwell事件の均等論適用に関する判断を不服としCAFC(本法廷)に控訴した。
■ CAFCによる審理:
Maxwell事件における事実関係は通常の均等論適用をするときの判断規準となる事実とは異なる。Maxwell事件(Maxwell社の特許)においては、ペアとなる靴を一対の状態に維持するための2つの識別される代替案が明細書に開示されており、そのうちの一つがクレームされた。 これら開示された2つの実施形態が明白に識別されるものであったので、CAFCはクレームされなかった実施形態をクレームされた特許主題に均等論を適用し、包括することを否定したのである。
委員会はMaxwell事件は新しい判断基準を提供すると主張しているが、これは間違いである、何故なら、委員会のMaxwell事件の解釈によるとMaxwell判決は最高裁判決及びCAFC判決と矛盾することになるからである。
最高裁においては、 Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chemical Co.及び Graver Tank & Mfg. Co. v. Air Products Co.の両事件において、開示されているがクレームされていない主題に、事実関係、状況、及び、証拠の如何に拘わらず均等論の適用を阻止するというような短絡的な規則の適用を許容していない。
Warner-Jenkinsonにおいては、均等物は周知であるというだけではなく、明細書に開示されていなければならないという要件を否定し、均等物を判断するには、特許に開示されているものに限定されることはないと言及している。 このように当該裁判所は、均等物は特許に開示されているものでも良いと判断している。
このように最高裁判所が、開示されているがクレームされていない主題は公共に提供されたものであるという考え方を否定しており、当該考え方は一般的に適用可能な法理ではない。 Maxwell事件においてCAFCが判断したように、固有の事実関係が均等論の適用を否定することになったと思慮されるが、委員会が行ったように、Maxwell判決を拡大解釈し、新たな規準をつくるのはMaxwell判決を間違って解釈したというだけに止まらず、当該Maxwell判決自体を最高裁の判決と矛盾する判断にすることになる。
何もMaxwell事件のみが、開示されたがクレームされなかった主題を放棄された判決に関する唯一の判決ではない。 事実、Unique Concepts, Inc. v. Brown, 939 F.2d 1558, 19 USPQ2d 1500 (Fed. Cir. 1991)などもある。
均等論は、クレームの権利範囲を決定する目的と何が特許されているかを通知する機能とのバランスをはかるためのものであり、且つ、司法当局は、特許された発明に実体的に意味の無い変更を加えただけのフロード行為を取り締まることを目的とする。
従って、Maxwell事件は全ての事実関係と全ての事件に適用可能な法理を作ったとする委員会のMaxwell判決の解釈は間違いである。