Phillips v. AWH Corp.
En Banc Decision on July 12, 2005
米国連邦巡回控訴裁判所での大法廷判決
判決: 2005年7月12日
(判決原文)http://patentlaw.typepad.com/patent/Phillips_20en_20banc_20Decision.pdf |
Summarized
By Tatsuo Yabe
On July 16, 2005
(Revised
on July 21, 2005)
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CAFC大法廷は自身の2004年4月8日付けのパネル判決(AWH社の製品ではバッフル30に相当する部材が両壁面11, 12に対して垂直なのでバッフル30が壁面に対して傾斜した状態しか開示していないPhillips社の特許USP4677798を非侵害)を取り消し、クレーム解釈に関して大法廷で審理することを決定した。 CAFCは大法廷審理に入る前に7つの質問に対して法廷助言者 (amicus curiae)から意見を求め、2005年2月8日にはCAFC大法廷でヒアリングが実施された。
同CAFC大法廷判決によって、クレームの用語を解釈するときに何を参酌するべきか、また、その優先順位(クレーム解釈の手法・手順)が判示された。
Michel判事に代表される大法廷判決多数意見によると、@クレーム用語を解釈するときに内部証拠(クレーム; 明細書; 経過書類)を重視すること、A辞書及び専門書(外部証拠)を使用することを否定しないが、内部証拠以上に過渡に依存するのは妥当ではない。 また、本大法廷はTexas判例(CAFC2002年の判決)においては、クレーム解釈時に過度に外部証拠を参酌する判示をしたことを認めた。 クレーム用語を解釈するときに、まずはクレーム自身、それから明細書を当業者がどのように理解するかという観点で解釈するというのが最良の手法であるとし、しかし裁判官がクレーム解釈をするときに内部証拠と外部証拠をどの順序で参酌するかは裁判官の裁量権の範囲であると述べた。
Phillips特許の代表図 |
AWH社の形態 |
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左図のバッフル30に相当する部材が壁面12、11に対して垂直に設けられている。 |
Lourie判事とMayer判事は個別に、事実審である地裁でのクレーム解釈に対してCAFCが全く既判事項として認識をしないでよいとする法理には反対意見を述べている。
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今回の多数意見を読むに、クレームの構成要素を明瞭に表現すること及び当該構成要素をサポートする明細書の開示の重要性を再認識することは当然であるが、従属クレームの重要性を再認識する必要性があると考える。 今回クレーム1のバッフルの意味合いを明細書の開示に限定解釈しないという判断に至った重要な理由としては従属クレームで言及している特徴(或いは別の独立クレーム)をメインクレームに読み込まないという Claim Differentiationの理論が適用されていることである。 即ち、Claim Differentiation Theoryの基に、従属クレームで独立クレーム1のエレメントAをA1であると規定しておくことによってクレーム1のエレメントAは少なくともA1を含み、A1以外のものを含むと主張ができるということです。(筆者注)
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事件の経緯:
Phillips氏は米国特許第4677798号の特許権者であり、1989年AWH社との間で同特許に基づく製品の販売に関する実施契約を締結した。 同契約は1990年に満了し、その後1991年初頭にPhillips氏がAWH社の販売用カタログを確認したところPhillips氏の技術と関連する製品をAWH社が継続的に販売していることが判明した。 1991年1月から1992年6月にかけて当事者間で書面のやり取りが行われた。 Phillips氏の所有する同特許は(798特許)は刑務所の建造物に使用される暴力&破壊行為に対抗可能な建築モジュール(基準型壁パネルで構成される)をクレームしており、同パネルは同用途に所望される防音性、耐火性、衝撃抵抗(弾丸或いは爆弾などに対抗する耐久性)、及び軸方向及び横方向の加重支持性能を有することが記載されている。
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@ | 1997年2月3日にPhillips氏はAWH社を相手取り同特許クレーム1,21,22,24,25,26を侵害しているとしてコロラド地区連邦地裁に訴訟を提起した。 |
A | 2002年11月には連邦地裁は798特許のクレームの解釈を発表した。 同解釈によると798特許のクレームで規定されている “baffle”という用語は112条第6項の means plus functionクレームと解釈され明細書(図面)の開示を読み込むべく減縮的に解釈されると結論づけた。 同明細書の開示内容とは(1)バッフルは壁面に対して鈍角或いは鋭角である(即ち、対パネル面配置角度が90度以外);(2)バッフルは壁モジュールの中間部において係合バリアを形成するである。 |
B | 地裁は2003年1月22日、上記クレーム解釈によればPhillips氏はAWH社の侵害を証明することができないのでAWH社の非侵害の略式判決の申し立てを認めると判断した。 |
C | Phillips氏はコロラド地区連邦地裁が下した798特許非侵害の略式判決(2003年1月22日:コロラド地区連邦地裁判決)を不服としてCAFCに控訴した。 |
D | 2004年4月8日、CAFCのはNEWMAN判事、LOURIE判事)らの多数意見の下に、控訴棄却 (下級審の非侵害の略式判決を支持する。)の判決を下した。 |
E | 2004年07月21日 CAFCは2004年4月8日付けの判決(AWH社は米国特許4677798を非侵害とする地裁の略式判決を支持した)を取り消し、クレーム解釈に関してCAFCの大法廷で審理することを決定した。 審理に先立ち大法廷は7つの質問に対して法廷助言者 (amicus curiae)から意見を求めることにした。 |
F | 2005年2月8日CAFC大法廷でヒアリングを実施。 |
G | 2005年7月12日今回のCAFC大法廷判決。 |
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CAFC大法廷判決:(2005年7月12日)
破棄差戻し
AWH社のバッフルに対する限定的な解釈(バッフルが壁面に垂直な形態は含まないという解釈)を認容しない。 よって、侵害クレームに関し、再審理のため地裁に差戻す。
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■ 以下多数意見(概要):
Michel判事
クレーム用語の意味合いを解釈する際まず、クレーム用語自身を参酌すること(See Vitronics: see also ACTV, Inc.
v. Walt Disney Co: 2003)。
その補足として明細書の開示内容を参酌し、さらに経過書類の内容を参酌するという内部証拠で実行することを基本とする。
クレーム用語の意味を解釈するために辞書などの外部証拠を参照することも許容されるが、外部証拠は、特許(クレームと明細書)及び経過書類と比較し、概してその信頼性が欠ける。 その理由は、外部証拠は特許(明細書)の一部ではない、即ち、特許出願をするときに明細書が果たすべき役割を備えていない。 クレームは仮想的な当業者が理解すると思料される意味合いに拘束されるが、外部証拠はそのような当業者によって作成されているとは限らないし、また、そのような当業者の理解を反映している必然性が欠如している。 このように、外部証拠は使用(参照)しても良いが特許クレームの権利範囲の解釈に対しては多大な信頼性をおけるものではない。
然しながら、外部証拠というものは裁判所(判事)が発明の技術分野を理解する一助となるし、当業者がクレーム用語をどのように解釈するかということを判断する助けにはなる。
数多くの判例は上記のクレーム解釈の原則を明確に示してきたが、一部の判決では、クレーム解釈に対し幾分異なったアプローチを示した。 その代表的な判例がTexas Digital Systems. Inc. v. Telegenix, Incであって、クレーム解釈に対して辞書の定義の重要性を強調し、その結果として明細書及び経過書類のクレーム解釈に対する役割を軽視した判断をしている。 このように、Texas判例のクレーム解釈理論に基づくと、クレーム用語を解釈するときに明細書の役割を制限してしまうことになり、『問題となるクレーム用語の意味を解釈するのに明細書がベストガイドであり、クレーム用語を明白に明細書で規定している場合に、明細書は辞書の役割を果たす』とする我々の過去の判決と矛盾することになる。
内部証拠とかけ離れた辞書に過渡に依存すると、明細書という特定の文脈における当業者によるクレーム用語の理解を、抽象的な用語の意味合いに変化させてしまう危険性が生じる。 特許権者の発明を描写し、クレームするという責任と、辞書編集者の用語に対する可能な限り全ての定義を凝集しようという目的とは、意を別にすることである。
技術辞書或いは専門書においても、所定の状況下で上述の問題が生じる。 そもそも専門書の用語が、特許権者が使用する用語と同じように使用されているという保証がない。 専門書といえども発明者の進歩の度合いに追従しているとは必ずしもいえない。 さらに、辞書は辞書ごとに幾分異なる用語の定義を規定しているので、どの辞書編集者を選択するかということによって特許クレームの有効・無効が決まるというのは妥当ではない。
上記のように説示するも、辞書の適切な使用を否定するものではない。 辞書はバイアスの掛かっていない中立的な情報源である。
Texas判例において辞書を参照することに重きが置かれたのは、「明細書の記載内容をクレームに読み込んでクレームを解釈する」という危険性を回避するという目的があったものといえる。 明細書の開示内容をクレームに読み込んでクレームを解釈することと、クレームを解釈するために明細書を参酌することとは識別されることである。 明細書に一つの実施例しか開示されていない場合であっても、クレームはその実施形態に限定されることはない。
Gemstar-TV Guide。
明細書のそもそもの役割は当業者に発明の製造、その使用を教示し、それを実施可能にすることであり、且つ、それを実施するときのベストモードを提供することである。 See Spectra-Physics, Inc. v. Coherent, Inc (1987)
裁判官がどのような順序、手法で内部証拠或いは外部証拠を参酌し、クレームを解釈するかは重要ではなく、重要なのは特許法とその指針に鑑みて、裁判官がクレームを解釈するための情報源(内部証拠と外部証拠)の各々にどれだけのウエイトを以って配分するかである。
上記に鑑みて我々(CAFC大法廷)はMarkman判決とInnova判決で説示したクレーム解釈論の基準を本事件に適用する。
米国特許第4677798号: クレーム1:
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1. Building modules adapted to fit together for construction of fire, sound and impact resistant security barriers and rooms for use in securing records and persons, comprising in combination,
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an
outer shell of
substantially parallelepiped shaped with two
outer steel plate panel sections of greater surface area serving
as inner and outer walls for a structure when a plurality of the
modules are fitted together, |
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sealant
means
spacing the two panel sections from steel to steel contact with each
other by a thermal-acoustical barrier material, and
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further means disposed inside the shell for increasing its load bearing capacity comprising internal steel baffles extending inwardly from the steel shell walls.
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上記クレーム1において重要なクレーム用語は “further means disposed inside the shell for increasing
its load bearing capacity comprising internal steel baffles extending inwardly
from the steel shell walls” であって、バッフル (baffles)に対して以下の3つの要件を付与する:
第1: バッフル(baffles)は鋼性が高い;
第2: バッフル(baffles)は壁の重量を支持する部分である;
第3: バッフル(baffles)は内側を向いている;
内部証拠によると、当業者はバッフルという用語を一般的な意味合いで理解できるということが認識される。 従属クレーム2及び独立クレーム17においてバッフルが壁面に対して角度を持って設けられている(壁面に対して垂直ではない)ことを規定しているので、もしバッフルという用語がそれ自体で傾斜していることを当業者が理解するのであれば、これらクレームは意味をなさない。 また、従属クレーム6においてもバッフルが壁面に対して角度を持って設けられており、バッフル同士がインターロックするということを規定している。 もしもクレーム1で規定するバッフルそれ自体に壁面に対する傾斜の意味合いが含まれているのであればそれらは互いにインターロックするはずなので、クレーム6の規定は必要ないはずである。
さらに、明細書の開示には複数の目的(構造的なサポート; 弾丸を偏向する等)が記載されており、その一つが弾丸等を偏向するということであって、明細書で使用されるバッフルが全て当該機能(弾丸を偏向する)を備えているということを示唆する記載はない。
上記の理由によって、当業者が798特許の明細書及びクレームを読んで、壁面から垂直に延設するバッフルを本願において除外されたと解釈することはないであろう。
拠って、当法廷はAWH社の本件特許におけるバッフルに対する限定的な解釈を認めることはできない。 故に、侵害クレームに対するさらなる審理のため地裁に差戻す。
■ 反対意見:
Lourie判事は、クレーム解釈に対する多数意見に同意するも、地裁のPhillips特許のクレーム解釈のため差し戻しするということに対して反対意見を示しております。 即ち、クレーム解釈は法律問題で地裁の判断に一切拘束されることなくCAFCにおいて一から判断可能であるが、地裁のクレーム解釈に対する判断に明白な間違いがあるか否かという基準で判断されるべきである。
Mayer判事は「クレーム解釈は純粋に法律問題であるという法理」に真っ向から反対意見を述べております。 即ち、CAFCでのクレーム解釈は、地裁におけるクレーム解釈に対して明白な間違いがあるか否かという基準で判断するべきであり、同一の用語が別特許のクレームで使用されている場合に、それぞれの特許の周辺に存する事実関係によって用語の解釈が変わるのであって、事実問題をクレーム解釈において全く隔離することのほうが現実には無理であり、そのような事実問題の解明は地裁が最適なる立場にあると述べております。 地裁のクレーム解釈に対して全く既判性を認めないという姿勢を堅持すると無用な訴訟費用の負担を当事者に強いることになり、さらには、司法当局の資源の浪費となると述べております。
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