Edward H. Phillips, v. AWH Corp.  

CAFC 03-1269, -1286

Decided: April 08, 2004

 Commented by Tatsuo YABE on April 19, 2004

 

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原告: Edward H. Phillips, (Phillips)     被告: AWH Corp., Hopeman Brothers, Inc., and Lofton Corp. (まとめてAWH)

多数意見: NEWMAN判事、LOURIE判事

本事件は明細書の開示によってクレーム用語の権利範囲が減縮的解釈されることを肯定した判決であります。 問題となった特許USP4677798(以下798特許と称する)はPhillips氏の米国特許で、刑務所の建造物に使用される暴力&破壊行為に対抗可能な建築モジュール(規格壁パネルで構成される)をクレームしており、同パネルは同用途に所望される防音性、耐火性、衝撃抵抗(弾丸或いは爆弾などに対抗する耐久性)、及び軸方向及び横方向に優れた荷重支持性能を示す構造となっている。

  争点となったのはクレーム1の" baffle(以下バッフルと称する)" という用語の解釈であって、NEWMAN判示及びLourie判示(多数意見の著者)によると同用語 "baffle"は構造的な表現であるので means plus functionクレームとは解釈しないと判断しながらも、明細書中に開示のあった実施例の形態及び図面で"baffle"は全てパネル壁面に対して90度を除く角度で配置されているものしかないという理由で、同実施形態の特徴をクレーム1の "baffle"に読み込んで "baffle"の権利範囲を限定的に解釈し、AWHのイ号形態を非侵害と判断したコロラド地区連邦地裁の略式判決を支持しました。

クレーム1

1. Building modules adapted to fit together for construction of fire, sound and impact resistant security barriers and rooms for use in securing records and persons, comprising in combination,

an outer shell of substantially parallelepiped shaped with two outer steel plate panel sections of greater surface area serving as inner and outer walls for a structure when a plurality of the modules are fitted together,

sealant means spacing the two panel sections from steel to steel contact with each other by a thermal-acoustical barrier material, and   

further means disposed inside the shell for increasing its load bearing capacity comprising internal steel baffles extending inwardly from the steel shell walls.

  コロラド州法に基づく出訴期限に関する判示は略します。

反対意見: DYKE判事

上記多数意見に対してDYKE判事は、上記出訴期限に関しては同意するものの、"baffle"(バッフル)の解釈に対して真っ向から反対しております。 上記多数意見に基づく baffle(バッフル)の解釈は過去のCAFC判決の判示事項と矛盾するので下級審で言い渡された略式判決を破棄するべきであるとコメントしております。 

  著者コメント:

争点となったバッフルを規定しているクレーム1の関連箇所は以下のとおりであって、

1. Building modules adapted to fit together for construction of fire, sound and impact resistant security barriers and rooms for use in securing records and persons, comprising in combination, an outer………..; an outer shell……, sealant means….., and

further means disposed inside the shell for increasing its load bearing capacity comprising internal steel baffles extending inwardly from the steel shell walls.

即ち、当該箇所では「加重を支持する能力を増強するための内部に設けられた鋼製の壁面より延設する鋼製のバッフル」というように定義されております。 しかしながら壁面を進入してくる弾丸の貫通を阻止するための機能をバッフルが備えていることに関してはクレーム1では一切言及されておりませんのでクレームのNotice機能を重視するのであれば耐荷重支持性を増強させるために配置された鋼製バッフルという構成要素に壁面との角度関係の特徴を盛り込んでクレームを限定的に解釈するのは妥当ではないと思料します。

事実、従属クレーム2において以下のように規定されております:

  2. Modules as defined in claim 1 wherein the steel baffles are oriented with the panel sections disposed at angles for deflecting projectiles such as bullets able to penetrate the steel plates.

このように従属クレーム2においてバッフルがパネル面に対して弾丸を偏向させるような角度を持って配置されていると規定しており、これは出願人の意図としてクレーム1ではバッフルの弾丸偏向機能を持つような配置角度を特定せずに、荷重支持性能の増強のみに機能を絞った定義であり、クレーム2において対荷重支持性能に加えて、弾丸偏向機能を実現するための配置角度なる特徴を追記したということは明瞭であると考えます。 また、クレームドラフティングストラテジーの観点からもクレーム1,2の記載は適切なクレーム展開であると思慮します。 然るに、コロラド地裁の略式判決及びそれを支持したCAFC多数判決に疑問を感じます。

AWH社が上記バッフル(クレーム1)の広範な解釈に反対であるのは自明であり、クレーム1を無効にしたかったはずであります。 それではAWH社はPhillips氏との契約が切れてから798特許の有効権利期限(2004年6月7日)満了までの間に798特許クレーム1の有効性に実質的な問題があるとして何故再審査請求を申請しなかったのでしょうか?  やはりクレーム1のバッフルの広範な権利範囲を減縮するための有効な先行技術文献を見つけることができなかったのではないでしょうか?  

さらに、Phillips氏(その代理人)がクレーム1を上記意図(即ち、クレーム1ではパネル内に荷重支持性能増強のためのバッフルの存在のみ定義し、クレーム2で弾丸偏向機能を実現するための配置角度なる特徴を定義する)でドラフトしたのであれば「バッフルの配置角度は傾斜角度に限定される必要はない」という一文を明細書のどこかに挿入しておくべきであったと思慮します。

  今後本事件の展開を暫くWatchingしたく存じます。


 

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以下判決分抄訳

Summarized by Tatsuo YABE

 

このウエブサイトに掲載している情報について細心の注意を払っておりますが、このウエブサイトをご利用になったことにより生じるいかなる損害についても責任を負いかねますのでご了承ください。

 

原告: Edward H. Phillips, (Phillips氏)

被告: AWH Corp., Hopeman Brothers, Inc., and Lofton Corp. (AWH)

背景:Phillips氏は米国特許第4677798号の特許権者であって1989年AWHと同特許を基礎とする販売活動に対する契約を締結した。 同契約は1990年に満了し、その後1991年初頭にPhillips氏がAWH社の販売用カタログを確認したところPhillips氏の技術と関連する製品をAWH社が継続的に使用していることが判明した。 1991年1月から1992年6月にかけて当事者間で書面のやり取りが行われた。 1997年2月3日にPhillips氏はAWH社を相手取り同特許クレーム1,21,22,24,25,26を侵害しているとしてコロラド地区連邦地裁に訴訟を提起した。 2002年11月には連邦地裁は798特許のクレームの解釈を発表した。同解釈によると798特許のクレームで規定されている “baffle”という用語は112条第6項の means plus functionクレームと解釈され明細書(図面)の開示を読み込むべく減縮的に解釈されると結論づけた。 同明細書の開示内容とは(1)バッフルは壁面に対して鈍角或いは鋭角である(即ち、対パネル面配置角度が90度以外);(2)バッフルは壁モジュールの中間部において係合バリアを形成するである。 同クレーム解釈の基にはPhillips氏はAWH社の侵害を証明することができないのでAWH社の非侵害の略式判決の申し立てを認めると判断した。

Phillips氏はコロラド地区連邦地裁が下した798特許非侵害の略式判決を認めるという判決(2003年1月22日:コロラド地区連邦地裁判決)を不服として本CAFCに控訴した。

Phillips氏の所有する同特許は(798特許)は刑務所の建造物に使用される暴力&破壊行為に対抗可能な建築モジュール(基準型壁パネルで構成される)をクレームしており、同パネルは同用途に所望される防音性、耐火性、衝撃抵抗(弾丸或いは爆弾などに対抗する耐久性)、及び軸方向及び横方向の加重支持性能を示すことが記載されている。

 

多数意見: NEWMAN判事、LOURIE判事:

  控訴棄却 (下級審の非侵害の略式判決を支持する。)

  下級審の判断を支持する理由:

争点となったクレームの構成要素は “baffle”という用語であって、以下の要件を明細書及び図面から盛込んで解釈する:(A)バッフルがパネル表面に対して傾斜しているというバッフルの配置角度に関する特徴;(B)互いに係合する配置であるという特徴

  バッフルという用語はそれ自体構造的な用語であるのでmeans plus function形式のクレームではない(112条第6項に基づく解釈はしない)。この点に関して地裁は間違ったクレーム解釈を(地裁においては112条第6項が適用されると判断した)した。

  しかし我々の分析はここで終結しない。 即ち、明細書を検討し、特許権者がバッフルという用語の権利範囲を限定的に解釈している個所がないかを判断しなければならない。 用語の通常の意味は内部証拠(明細書及び経過書類)に鑑みて判断されなければならない。 Rexnord Corp. v. Laitram Corp., 274 F.3d 1336, 1342-43 (Fed. Cir. 2001)  もし内部証拠によって特許権者が特定の実施形態を基礎として先行技術文献を回避したり、主題を明白に放棄した場合、或いは、特定の実施例を発明にとって重要であると記載したることが明瞭となった場合には、クレームの用語は通常の意味を保持するものではない。 CCS Fitness, Inc. v. Brunswick Corp., 288 F.3d 1359, 1366-67 (Fed. Cir. 2002) 然るに、我々はバッフルというクレーム用語が発明者によって発明全体の趣旨としてどのように使用されたかを確認するために明細書を検討する。

  798特許の明細書は、特に弾丸に対する衝撃抵抗に関する開示の根拠である。 

  アブストラクトは…………….モジュールは補強され、且つ、弾丸偏向型内向き鋼バッフルを備えとし、さらに、弾丸を偏向する傾斜した内側バッフルと記載している。 

  明細書コラム2,13−15行目の”disclosure of the invention”(発明の要約に相当すると思慮します:訳者)に以下の記載がある:

  コラム3の28−31行目には「外側の鋼板を貫通するかもしれない弾丸を偏向するような角度にバッフルが配置されている。」 

 

DISCLOSURE OF THE INVENTION

This invention provides modular equipment for formulating detention structures comprising of a multiplicity of interchangeable modules of similar size having steel plate inner and outer wall sections defining end closures and internally directed load supporting baffles. The modules comprise three steel plate wall panel sections of partially triangular cross section shape positioned to provide the internally directed baffles and the end closure walls. Modules of a size that may be manually processed are abutted together end to end in registration and welded together along two weld lines to form walls for the detention structure. The ends are indented so that the two weld lines at the wall section surfaces are the sole lines of registered contact.

The baffles provided by the triangular shaped panels to extend inwardly form an intermediate interlocking barrier
with the baffles disposed at such angles that bullets which might penetrate the outer steel panels are deflected. Flanges are formed between the inner and outer wall panels between which a ropelike insulating seal is compressed to isolate the two walls. Two different kinds of filler insulating material may be inserted on opposite sides of the intermediate layer to increase the versatility of the modules. Thus, insulation properties, impact properties or load bearing properties may be emphasized by the appropriate filler materials.

Accordingly jail or other detention structures may have substantially sound, impact and fire resistant characteristics. Thus, vandalism resistance is provided. The exterior steel plate walls are smooth and strong and easy to decorate and maintain. The modules may carry utility instruments and utility flow lines. This construction is also ideal for storage vault use, safety barriers and other secure facilities.

従来の記載欄には、「先行技術には安価なハウジングに強力な衝撃を与える武器に対応する有効な方法がなかった」と記載している。

明細書(コラム5の17−19行目)において図6を参照し、外側の壁を貫通しようとするような弾丸を偏向するような角度でバッフルは配置されている。 

上記のような明細書での明白な説明によって、特許権者は、発明は耐衝撃性また弾丸に対する耐久性に優れたパネルであって、バッフルは90度以外の角度で配置されなければならないと考えていると判断する。 798特許に開示されているように、バッフルが90度で配置されている形態では弾丸を偏向することはできない、且つ,当該90度の配置状態は先行技術(USP2717664及びUSP4505101)に開示されている。

バッフルという用語は今回問題となったクレームの全てにおいて上記意味合いと整合性のあるように使用されている。 

我々は798特許の権利範囲を上記のように限定的に解釈するので、且つ、AWHの形態が鋭角或いは鈍角なるバッフルの配置をしていないので、連邦地裁の非侵害の判断を支持する。

反対意見DYKE判事)で本法廷は好適な実施例にのみ照準を合わせてクレームを間違って解釈したという議論があるが、我々はそれには反対である。 本明細書において開示された発明ではバッフルが90度以外の角度で配置されたものしか開示されていない。 明細書においてバッフルに対応する部材は16,26,27,30,31であった、これら全てはパネル表面に対して傾斜している。 

然るに図6に破線で示すように、外側鋼壁を貫通するかもしれない弾丸が進入してくるときにバッフルによって偏向される傾向がある。 バッフルの配置角度が90度ではない状態ではない形態(即ち90度の形態)を開示した図面が存在しない。

まとめ: クレームで定義されたバッフルという用語は制限を加えられることなく許可された。 しかしながら明細書はクレームをサポートし、且つ、情報を与えるものと意図されているので、本件においては当該発明のバッフルが90度以外の角度配置されているものであるということは全く明白である。 本特許を開示範囲に維持することは健全な特許システムと発明者及び一般のために重要である。 下級審の裁判官は確かにmeans plus functionの解釈に関して間違ってはいたものの、上記重要性を正しく認識し、当該明細書に基づきクレームを解釈した。

 

  反対意見: BY DYKE判示

  DYKE判事は以下の理由で上記多数意見に反対しております:

  上記多数意見は、本法廷の下した過去の多くの判決と昨今の判決Liebel-Flarsheim Co. v. Medrau, Inc. 358 F. 3d 898 (FCAFC2004)に反し、クレームを好適実施例に限定して解釈している。

― バッフルは means plus functionクレームではない。

― バッフルの配置角度が90度ではないという特徴はバッフルという用語の一般的な意味に反する。

@       特許権者はバッフルが90度以外で配置された形態しか明細書に開示していないからといって、その形態にクレームを読み込むことには反対である。 Liebel, 358 F.3d at 906

  本法廷において明白になったが、明細書により広範な実施例が存在しないというのみではなく、明細書、クレーム,或いは、経過書類において発明を特定の構造体に限定することが明瞭に表現されている場合に裁判所は関連するクレーム用語を限定的に解釈する。 Liebel, 358 F. 3d at 907-08   798特許の明細書においてバッフルの配置角度は90度以外であるということが必須であるということ、または、バッフルが90度配置されている形態を発明から除外するということを開示或いは示唆していない。

 

A 多数意見ではバッフルの配置角度が90度以外でないと弾丸を偏向することができないとし、弾丸の偏向があたかも必須の効果のように述べているが、本願においては他の目的も開示されている。 Liebel判決において明記しているように、特許された発明が幾つかの目的を達成するというときに、権利範囲を解釈するときに、同特許の全てのクレーム記載された目的の全てを満たすような構造に限定解釈する必要はない。さらに、特定の主題を除外するという明白なディスクレーマーがない場合には、たとえ発明者が当該発明を特定の方法で使用することを予期していたとしても当該クレームの権利範囲を同予期した内容に限定的に解釈されるものではない。 Liebel, 358 F.3d at 909 (quoting Northrop Grumman Corp. v. Interl Corp., 325 F.3d 1346, 1355 (CAFC 2003)  バッフルが90度配置されている場合には多数意見に基づく構成からは排除される、然しながら、本願明細書で開示された耐荷重支持性能及び温度,音響の隔離という目的を達成する.クレームに通常の意味合いを持たせると満たされない目的を認識するということはそれ自体では当該通常の意味合いを限定的に解釈するために十分な放棄ではない。

 

Bバッフルが90度配置されている状態は先行技術文献に開示されていると多数意見は述べているが、それは通常の意味合いをバッフルという用語に与えた場合のクレームの無効を示唆しているのかもしれないが、特許クレームの一つの特徴が先行技術文献に開示されているということ自体は特許クレームの有効性に重大な疑問を投げかけるものではない。 クレームされた発明の各要件と全ての要件を単一の先行技術文献が満たす場合に新規性を失うことになる。 クレームはその有効性を維持するように構成されなければならないという一般論があるからといって、不明瞭なクレーム用語を通常の意味に則さないに拘わらず限定的に解釈してもよろしいということではない。

 

 

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