米国特許庁審判部(審決) Ex Parte CAROLYN RAMSEY CATAN 審決: 2007年7月3日 (USPTO
Appeal Board decided on
本事件はKSR最高裁判決が出てから先例(Precedent)の地位が与えられたUSPTO審判部による審決であります。 然るに今後暫くは、米国特許庁での審査及び審判における自明性の論争は本審決が頻繁に参酌されることになると思います。 従って、米国特許実務者は本先例で引用された最高裁判決並びにCAFC判決の判示事項を再確認することが重要と考えます。
本事件においてはCarolyn社の米国特許出願09・734,808号クレーム5の自明性が争われた。 同クレーム5の発明主題は、ネットで商品を購入をする場合の口座利用者の認証を行うのに、通常のパスワード(PIN)情報を使用する代わりにバイオ認証情報を利用するという装置に関し、バイオ認証装置以外はNakano引例に全て開示があり、バイオ認証(指紋等)に関してもHarada引例に開示があり、さらに、Dethloff引例にバイオ認証とPIN情報による認証との互換性が開示されており、審査官はこれら3つの引例を組み合わせることによってクレーム5は自明であると判断した。 出願人(審判請求人)はこれら引例を組み合わせることに対するTSMを審査官が明示していないとして反論したが、
本事件は、Harada引例とNakano引例とを組み合わせることに対するTSM(教示・示唆・動機付け)がHarada引例(及びDethloff引例)に明示されていたので、先般4月30日のKSR合衆国最高裁の判決がなくとも自明と判断されたであろう明白な事件(clear cut case)と思われる。
しかし本事件において非自明性を主張する場合には少なくとも以下のポイントの何れかを主張する必要があることが確認された:
(1) 当業者にとって第1引例と第2引例を組合わせることの困難さ; (2) 当業者はクレームが関連する技術分野において先行技術を周知していると推定される仮想人なので、当業者のレベルを審査官が高く推定していると思える場合には反論可能; (2) 第1引例の要素と第2引例の要素を組合わせることによって予期せぬ機能・効果が現出される; (3) Graham最高裁判決で判示された2次的考察(市場での成功; 長期にわたるニーズと長期に渡る数々の失敗; など) (4) 審査官は自明性拒絶をするときには自明であると結論づけるだけでは不十分で、その理由を説明しなければならない。 但し、TSMテストを硬直に適用する必要はない。 ⇒ 然るに審査官はあくまで一応の自明性拒絶の最初の立証責任を負う。 従って、自明とする理由が明示されていない場合はその旨反論可能である。
参考: 審査便覧MPEP 2143 第1要件: 先行技術を改良、あるいは先行技術文献の教示内容を組み合わせるということに対する「示唆」或いは「動機付け」が先行技術文献、或いは、当業者の知識で一般的に周知でなければならない。 第2要件: 上記改良或いは組み合わせが成功するということが先行技術によって合理的に期待できるものでなければならない; 第3要件: 先行技術文献(或いはそれらが組み合わされるとき)がクレームの構成要素の全てを教示或いは示唆していなければならない。
Summarized
By Tatsuo YABE On
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Case
Briefing:
米国特許庁審判部(審決)
審決: 2007年7月3日
米国特許出願09・734,808のクレーム5−11及び13−16はHarada引例及びDethloff引例に鑑みNakano引例によって自明であると判断された。
(クレーム6−11,13−16の特許性はクレーム5の特許性に依存する)
審査官の自明性の判断を支持する。
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5.
A consumer electronics device, comprising:
a
memory which stores account information for an account holder and
sub-credit limits and bioauthentication information for authorized users
of the account;
a
bioauthentication device which provides bioauthentication information to
the memory;
a communication link; and
a processor, which compares received bioauthentication information
to stored bioauthentication information to detect a match, and finds an
associated sub-credit limit corresponding to the received bioauthentication
information, to enable a purchase over the response network via the
communication network up to a maximum of the sub-credit limit, the
processor sending the account holder information over the communication
link only if the match is detected and the sub-credit limit is not
exceeded. |
クレーム5: 消費者用電子装置であって以下の構成要素を含むことを特徴とする:
記憶部(口座保有者の口座情報及び貸付の限度額及び口座利用者のバイオ認証情報を記憶する);
バイオ認証装置、これはバイオ認証情報を前記記憶部に提供する;
通信用のリンク部材; 及び
処理部、これは受信したバイオ認証情報と記憶されたバイオ認証情報とを比較し、その整合性を検出し、当該受信したバイオ認証情報に対応する貸付限度額を探し、購入者が当該通信ネットワークを介して最大貸付額の範囲内での買物をすることを可能にする、当該処理部は、上記整合がとれた場合で、且つ、貸付限度額を超えていない場合にのみ当該口座保有者の情報を通信リンクを介して送信する。 |
■ 争点:
クレーム5はNakano引例の消費者用電子装置及びDethloff引例及びHarada引例のバイオ認証手段によって自明とする審査官の判断が正しいか。
■ 事実関係:
(省略)
■ 適用される法律:
KSR最高裁判決
米国特許法第103条は、発明がなされた時点で、発明主題と先行技術との差異が全体として当業者にとって自明と判断される場合には同発明主題に特許を付与することを禁止する。
Hotchkiss判決の「機能的アプローチ」を再確認し、先例(過去の最高裁判決)での法理、「周知なる要素の周知の方法に基づく組み合わせは、その組み合わせが予想される結果を創出する」に留まる場合には、同組み合わせは自明と判断されるであろう。
然るに、上記「機能的アプローチ」とは、発明の改良が先行技術の要素(複数)に対する確立された機能に基づく予想される使用を超えるものかどうかを判断することである。
自明性の判断理由は結語(結論を記載するのみ)によって支持されるものではなく、法的結論としての自明性をサポートする合理的基盤を伴う明白な理由でなければならない。 しかし上記分析は問題となるクレームの主題に関する正確な教示を求めるものではなく、当業者の推論及び想像力を考慮に入れることも可能である (In
re Kahn, 82 USPQ2d at 1396 Fed Cir. 2006)。
Graham最高裁判決
- Graham v. John Deere Co., 383 U.S. 148 USPQ (1966)
自明性は、(1)先行技術の開示範囲と内容;(2)クレーム主題と先行技術との差異;及び(3)当業者のレベルを含む事実の分析に基づき判断される。 さらに、市場での成功、長期に渡り必要性が認識されたが実現しえなかった、他者による数々の失敗などの客観的証拠なども発明主題の根幹を取り巻く状況を理解するために考慮に入れても良い。
クレーム主題が公知技術の構造を他の公知技術の一つの構成要素によって置換される場合に機能的アプローチを使用されるべきである。
特許クレームが公知の構造を他の公知技術の要素で置換するような組み合わせで構成される場合に同クレームが特許を得るためには、そのような組み合わせ(置換)が予想される結果を超えるものでなければならない。
Leapfrog
Ent., Inc. v. Fisher-Price, Inc., 485 F.3d 82 USPQ2d (fed. Cir.
2007)
自明性の判断は本件の事実関係を無視するような法理(TSMテスト:筆者加筆)を硬直的に適用するのではなく、当業者の一般常識によってある組み合わせが自明であることを証明できる。
Custom
Accessories, Inc. v. Jeffrey-Allan Indus., Inc. 807 F.2d 1 USPQ2d (Fed. Cir.
1986)
当業者とは発明が関連する公知技術を周知していることが推定された人のことである。
当業者のレベルを判断する上で、裁判所は、公知技術が遭遇した問題のタイプ、同問題に対する公知技術の解決策、業界における技術進歩の速度、関連技術の洗練度合い、関連技術分野に従事する人の教育レベルなどの事実要素を考慮に入れても良い。
■ 検討:
クレーム5の特許性はDethloff引例及びHarada引例に鑑みNakano引例によって自明であるか否かで決まる。
本願発明クレームとNakano引例との唯一の違いは、Nakano引例には個人認識のためにパスワードの使用が開示されているが、バイオ認識装置による認識をすることは開示していない点である。
Harada引例にはバイオ認識装置、および、指紋による認識と遠隔地に設置されたセンサーで同指紋情報を認識する技術が開示されている。
Dethloff引例にはPIN情報(パスワード)による認識の代わりに音声(バイオ認識情報の一例)による認識でも良いということが開示されている。
出願人(審判請求人)はNakanoの手動式認識手段(パスワード入力)をHarada引例で周知なバイオ認識手段に置換することによる予期し得ない結果の存在、あるいは、そのような置換が当業者の技術のレベルを超越しているという証拠を一切示していない。
Leapflog判決のように、クレーム5の装置はNakano引例の旧式の発明にHarada引例に開示のある比較的モダンな周知の技術を適応したものであり、バイオ認識の技術をNakano引例の装置に採用したところで同バイオ認識技術を他の装置に採用した場合となんら効果は変わらない。 即ち、機能は同一である。
出願人は、引例を組み合わせることに対する十分な理由を述べていない(TSMテストを適用し、組み合わせに対する教示、示唆、動機が引例に開示されていない、若しくは、当業者の一般知識で周知であるということを明示していない)として審査官の拒絶理由を非難しているが、KSR事件で判示されたようにTSMテストは自明性判断に有効な洞察となるが、自明性判断において問題となるクレーム主題に対する正確な教示内容を先行技術に見つけることを要求するものではない。
上記理由によって我々審判部はクレーム5の発明主題は、Nakano引例とHarada引例の教示内容を学習した当業者にとって自明であったであろうと判示する。
さらに、Dethoff引例の教示内容によって上記判示はさらに支持される。 即ち、当業者がDethloff引例の教示内容(PIN情報とバイオ認証情報との置換可能性を開示)を学習することで、Harada引例のバイオ認識装置をNakano引例のシステムに組み合わせることに対する動機づけになったであろう。
■ 結論:
拠って、審査官のクレーム5−11、13−16に対する自明性拒絶を支持する。
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