World Class Tech v. Ormco Corp.
Fed.
Cir. Decision 2014/10/20
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従来例の問題点とそれを解決する実施例によって クレームが減縮解釈された判決 By
Tatsuo YABE 2014-12-07 |
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まとめ(筆者コメント):
本事件は歯列矯正ブラケットの構造に関し、さらに詳しくはセルフライゲーションタイプの歯列矯正用のブラケット(★)である。 OrmcoのUSP’896特許は当該ブラケットに対してスライド14を開閉するときに(アーチワイヤー18を着脱するため)スライド14が歯茎61と干渉しないようにスライド14が係合するブラケットの係合面46がベース面60に対して所定角度(鋭角A)傾斜しているということが特徴である。尚、クレーム1にはスライド14をブラケットに対してその下方(歯茎の方)から着脱するということが規定されていないが実施例にはそれ以外の形態は開示されていない。 World
Class Techの被疑侵害の形態はスライドをブラケットに対して上方から着脱可能とし歯茎との干渉を回避できるようにした(Ormcoの侵害の主張より理解した:筆者)。
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本事件は、クレームの文言がイ号(被疑侵害形態)を含みうる広さで記載されていたが明細書に記載された従来例の問題点とそれを解決する実施例に鑑み、クレームが減縮解釈された判例の一つである。クレームを解釈する基本ルール
(Canons of Claim Interpretation)として、@クレームは好適実施例を包括するようにクレームを解釈するべきである、しかし、A好適実施例の限定事項によってクレームが限定される必要はないという一見すると相反する規則がある。 今回に関して言うならば明細書の従来技術の記載欄における従来技術の問題点と当該問題点を解決するための実施例の形態に減縮解釈された。 即ち、クレーム1には記載されていないが、以下の特徴をクレーム1に読み込んだ:
★スライド14はブラケットの上方から挿入される形態ではない。
★★スライド14は閉じ位置の時だけではなく開閉時において係合面46と係合するという特徴。
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Ormco特許の従来例の記載(問題点)とその解決手段としての実施例に鑑みて上記解釈は妥当と考える。 Gentry
Galley (Fed. Cir. 1998)の判示,
“While a limitation from the
specification should not be read into a broadly written claim, a claim
interpretation must be supported by the specification to avoid a potential
written description problem under section 112.”によっても本判決におけるクレームの減縮解釈は妥当であろう。 さらに昨今のAriad
Pharm v. Eli Lilly (Fed Cir. en banc. 2010)の判示によって支持されていると理解する。 Ariad
Pharamの判示要約:Witten-Description”
under §112(1) is separate requirement from “enablement requirement” under §112(1). To satisfy W-D
requirement, the spec should include disclosures (embodiments) such that PHOSIA
understands that the inventor was in
procession of the invention of its scope as claimed. 即ち、クレームが広範に記載されている場合には、その広さに相当する発明を発明者が有していたことを当業者が理解できるレベルに明細書の開示(実施例)で支持されていなければならない。
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一言で言うならば、「昨今の訴訟におけるクレーム解釈の傾向は実施例相当レベル」と言えよう。 従って、@明細書の要所・要所に「この実施例の形態に限定されるわけではない・・・XXXXの形態も可能である・・・」などの注意書きとA従属クレームによって実施例に相当する特徴を規定しておくことが重要であろう(即ち、claim
differentiation theoryをうまく活用できるように)。 例えば、Ormco
USP’896特許の従属クレームで「スライドをブラケットの下方より挿入する」という実施例から見て当たり前の特徴が規定されていれば独立クレーム1では下方から挿入する以外の形態を含むという主張により説得性を持たせていたかもしれない(勿論、実施例によるサポートがないでのAriad判決に鑑み112条第1項のW-D要件で否定される可能性大ではあるが)。[注意:本事件においても従属クレーム6とその親クレーム1との間でclaim
differentiation がOrmcoによって主張されたが従属クレーム6の規定が親クレーム1においてスライドの着脱方向に広範な解釈を与える記載ではなかった] 以上(筆者)
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Prost, Taranto, Hughes判事:
Taranto判事による意見(2014年10月20日)の概要:
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特許権者: Ormco社
問題となった特許:米国特許第8,393,896号
被疑侵害者: World Class Tech
被疑侵害の形態:スライドをブラケットに対して上方から着脱可能とし歯茎との干渉を回避できるようにした(Ormcoの侵害の主張より判断した:筆者)。
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問題となった特許クレーム(発明)の概要:
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歯列矯正用のブラケットであってスライドを取り付ける時に歯茎との干渉を軽減するもの。
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代表的なクレームは以下の通り:
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1. A self-ligating orthodontic bracket for
coupling an archwire with a tooth, comprising:
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a bracket body configured to be mounted to the tooth, the bracket body including
a support surface, a ledge (90), and an archwire slot (16) including a base
surface(58) and opposing first and second slot surfaces extending from the base
surface, the base surface being interposed between the opposing first and second
slot surfaces, the support
surface (46) being acutely angled with respect to the base surface (58),
and the ledge (90) opposing the support surface (46) across the archwire slot
(16) and including a surface that is generally parallel to the base surface
(58); and
a movable member (14) coupled with the bracket
body and movable between an
opened position (Fig. 1) in which the archwire (18) is insertable
into the archwire slot (16) and a
closed position (Fig. 2) in which the
movable member (14) retains the archwire (18) in the archwire slot (16),
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wherein the movable member (14) comprises a first portion(86) and a second
portion (88) extending at an acute angle from the first portion, the
first portion (86) engaging the acutely angled support surface (46) of the
bracket body when the movable member (14) is in the closed position (Fig. 2),
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the second portion (88) being generally
parallel to the base surface (58) and extending across the archwire slot (16)
from the first slot surface to the second slot surface when the movable member
(14) is in the closed position (Fig. 2).
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■争点:
主たる争点はクレーム1の「支持面46」の解釈である。クレーム1の文言では、スライド14(可動部材)が開放位置(opened
position: 図1)と閉じ位置(closed
position: 図2)との間で移動可能であり、スライド14が前記閉じ位置(closed
position: 図2)にあるときにスライド14の第1面が支持面46と係合すると規定されている。即ち、スライド14が前記解放位置から前記閉じ位置に移動する過程においては係合するとは規定されていない。 またクレーム1の文言ではスライド14が上方から挿入可能な状態をも文言上は権利範囲にはいると理解される。
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明細書及び図面の開示によるとスライド14が開放位置から閉じ位置に移動するその過程においても摺動(係合)すると記載されている。
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CAFCの判断:
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クレーム自身は本事件の争点である解釈に対して明白な文言を含まない。スライド(可動部材)14が閉じ位置にあるときに支持面が係合するということはクレーム1に規定されているが、スライド(可動部材)が開放位置から閉じ位置に移動する間に係合するかは明白ではない。さらにクレーム1では2つの面を規定していることは明白である。 それらは支持面(support
surface 46)と縁面(ledge surface 92)であり、支持面46は基礎面58に対して鋭角をなしており、縁面92は当該基礎面58と概ね並行であると規定している。
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このような状況において、不明瞭さを解消するために明細書を参酌する(Bates
v. Coe, 98 U.S. 31, 38 – 1878)。 クレームの意味合いをよりよく理解するために明細書を適切に参照するべし(White
v. Dunbar, 119 U.S. 47, 51 – 1886)。 クレームは常に明細書の開示を参酌しながら解釈されるべし(Schriber-Schroth
v. Cleveland Trust, 311 U.S. 211, 217 – 1940)。 クレームを解釈するために明細書を参酌する、及び、発明を明白にするという目的でクレームと明細書の両方を参照するというのは基本である(United
States v. Adams, 383 U.S. 39, 49 – 1966)。 クレームの文言に合致し、明細書で開示された発明と最も自然に整合性を持つ解釈が最終的には正しいクレーム解釈である(Renishaw
PLC v. Marposs Societa’per Azioni – Fed. Cir. 1998)。
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本件特許の明細書(Col. 1, line
66 – Col. 2, line 5: Col. 2,
lines 50-44)には、セルフライゲーションタイプのブラケット(★:see
below)において、アーチワイヤーを受けいれるためにスライド14を(ブラケットに対して)開口状態にするときに臼歯(奥歯)の歯茎61と干渉しないということが唯一の解決課題(目的)であり、それを解消するために支持面46がスロットの基礎面58と鋭角(A)をなすことで目的を達成するということが明細書より明らかである。Ormcoの主張するクレームの解釈(スライド14はブラケットの上方から着脱可能である:被疑侵害者の形態)ではスライドのブラケットへの着脱時に歯茎に干渉するということは起こらない。 言い換えると、Ormcoの主張するクレーム解釈を認めるとクレームの当該鋭角を形成せずとも歯茎と干渉しないので当該鋭角をなすという特徴は意味をなさない。
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Ormcoの主張する形態(スライドをブラケットの上方から着脱可能である:被疑侵害者の形態)は明細書或いは図面に開示されていない。寧ろ明細書には平らな支持面46は溝48,50を有し、案内部52、54によって摺動係合通り道(track)が形成され、それがスライド14が摺動する平行移動面60を構成する(コラム5、61行〜コラム6,4行)。
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次に、Ormcoの主張する従属クレーム6の存在によってクレーム識別論の法理(doctrine
of claim differentiation: a presumption that distinct claims, particularly an
independent claim and its dependent claim, have different scopes. See Kraft
Foods v. Int’l Trading Co: Fed. Cir. 2000)に基づき上記Ormcoのクレーム1の解釈(スライドをブラケットの上方から着脱可能である:被疑侵害者の形態も含む)を正当化するものではない。 従属クレーム6は支持面が第1、第2スロット面のいずれか一方と交わり、そこでアーチワイヤースロットの縁を構成し、支持面は前記第1、第2スロット面の他方と交わる平行面を形成すると規定している。 即ち、クレーム6は支持面がスロットの一方側の縁部を形成することを規定しているのであって、この特徴はクレーム1では詳述されていない。という意味でクレーム識別論”claim
differentiation theory”の法理を満たしている(クレーム6はクレーム1よりも減縮された特徴が規定されており、互いに権利範囲が異なる)がOrmcoの広範なクレーム解釈を正当化するものではない。
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さらに、896特許出願時の経過書類を参酌するもOrmcoのクレーム解釈を肯定する記録はない。
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上記理由によって、Ormcoのクレーム解釈は認められない。 地裁判決(非侵害)を支持する。
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参考:
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★:Self-ligation
orthodontic bracketに特に詳しくない人のために:
(ワイヤーがブラケットのスロット内周面にゴム部材などによって強固に終結されず、以下の図のようにワイヤーはスロットから外れないようにシャッターにて。)
http://www.e-hanarabi.net/column/column000008/より
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