Ariad Pharmaceuticals, Inc. v. Eli Lilly & Co F.3d 1366 Fed Cir. March 22, 2010
En banc Decision Affirms "Written Description Requirement" under 112(1) is separate from "Enablement Requirement" under 112(1).
Summarized by Tatsuo YABE On
|
昨年、2009年8月21日にCAFCは112条第1パラグラフの開示要件(Written Description)に対して以下の2つの問いに対して大法廷で審理をすることを決定し、
(1) 112条第1項の「開示要件: Written Description Requirement」は実施可能要件とは別のものか?
(2) もし(1)がYesの場合には当該要件の範囲と目的は何か?
その結果が去る2010年3月22日に出された。
9:2の大法廷判決によると、112条第1項の「開示要件」は、同第1項の実施可能要件とは別に存在する要件であり、明細書はクレームされた発明に対する開示を含んでいなければならないとした。
大法廷判決では、明細書は2つの記載要件を満たす必要があり、(1)発明に対する開示をしており、(2)同開示は当業者にとって当該発明を実施できるレベルに記載されていなければならない。 本大法廷審理においては、(2)の実施可能要件は争点ではなく、上記(1)の要件が特許法の条文において別個に要求されているものなのか、それが要求されているとする場合には、どのようにその要件が満たされるのかが審理された。
大法廷判決では上記(1)の要件は特許法の条文でサポートされているのみではなく、最高裁判決、CAFC判決によっても支持されているとし、同要件を満たすには発明者がクレームしている発明を所有していたことが当業者に理解できるように明細書で開示することであるとした。 どの程度記載すれば同要件が満たされるのかは事案ごとに変わるとし、明白な基準を示さなかった。 但し、大法廷は次のようなヒントを述べた。 包括的なクレーム(generic claim)はそれに属する代表的な実施形態を複数記載しておくことで、当業者が包括的なクレームに属する構成物を理解することができるであろう。
------------------------------------
筆者コメント:
従って、発明のコンセプトの段階(発明の初期段階)で出願をした場合には、112条第1項の「開示要件(written description)」を満たすための代表的な実施例がない、即ち、発明者がクレームした発明をまだ所有していなかったとして拒絶される危険性がある。 本事件は薬学系の技術に関る発明であったが、それ以外の技術分野の発明にも当然適用されることになるであろう。 最高裁が本件の裁量上訴を認めない場合(認める可能性は略0%)には、本大法廷判決はこれからの「開示要件」に対する完全な法律となるため、今後、実施例のわりに広いクレームを持つような出願が拒絶されたり、或いは、そのような米国特許が裁判所で無効と判断されるケースが増えてくると予想される。
1998年のCAFCの判決、Gentry Galley v. Berkline Corpにおいては、ソファーのリクライニング用のボタンの位置がクレームで規定されていなかった(明細書では唯一コンソールにボタンが取り付けられている実施例があった)ことで裁判ではクレームは112条第1項の「開示要件」違反として無効と判断された。 勿論、特許権者は再審査(或いは再発行出願)を請求し、当該ボタンの位置がコンソールにあるとクレームを減縮補正することで特許全体の無効は回避できるが、そうすることでイ号の形態を含めないことになってしまうという結論が待っていた。 当時この判決はある程度、特殊な判決であるかのように実務者の間で話題となったが、今回の大法廷判決に鑑みると、全く持って正当な判決であったということになる。