■LKQ v. GM (Fed.Cir. en banc: 2024-05-21)
CAFC大法廷は意匠の自明性判断に適用されてきたRosen-Durling テストを覆しUtility 特許と同じく103条と1966年のGrahamテストとした。
■Amgen v. Sanofi - (Supreme Court: 2023-05-18)
2023年5月18日、米国特許法第112条(a)項の明細書に課せられた「実施可能要件」に関する合衆国最高裁判決がでました。一言で云うと最高裁はAmgenの特許クレームは112条(a)項の実施可能要件を満たさないとした地裁・CAFCの判決を認容した。
■United
States v. Arthrex Inc. -(Supreme Court: June 21, 2021)
IPR手続きを担当する行政府の特許判事は合衆国憲法に鑑み違憲:
IPRを担当する行政府の特許判事(Administrative
Patent Judges: APJ)に付与されている権限は合衆国憲法第2章2条2項の「任命条項」に鑑み違憲であると最高裁は判断した。即ち、APJはPTAB(審判部)のIPR手続きにおいて成立した特許のクレームの有効性に対して行政庁としての最終決定を出すことができる。しかしIPR手続きにおいてAPJの最終決定はUSPTOの長官によってレビュされるということはない。従って、そのような権限を持つためにはAPJは「principal
officer」という行政府のStatus(即ち、大統領による任命)を得ていなければならない。
■ THRYV Inc. v.
Click to Call Tech - (Supreme Court: April 20, 2020)
IPR手続き:
315条(b)項で規定する請求可能期限(訴訟提起後1年以内)を渡過しIPRが請求されPTAB(PTOの審判部)が審理を開始した場合に、当該請求期限に対するPTABの判断を不服とし控訴することはできない。
■ Helsinn
v Teva Pharm. - (Supreme Court: January 22, 2019)
AIA102条(新規性)におけるon-sale
bar(販売行為):
2019年1月22日、合衆国最高裁は、米国特許改正法(America
Inventors Act: AIA)によって102条(a)(1)項の on-sale(有効出願日前の販売行為によって新規性を失う)は守秘義務のある販売行為を含むと判示した。Pre-AIAの"on-sale
bar"とAIAにおける"on-sale
bar"は法的に同じ解釈とする。
■ WesternGeco
LLC v Geophysical Corp - (Supreme Court: June 22, 2018)
271条(f)(2)に基づく侵害行為に起因する外国での遺失利益:
米国特許法第271条(f)(2)に基づく侵害行為に起因する外国での遺失利益(Lost
foreign Profits)を284条で規定する損害賠償額の基礎となるかに関して最高裁の判決が出た。7:2の多数意見で諸外国におけるLost
Profitsは284条の損害賠償の基礎となると判示した。
■ Oil States
Energy v. Greene's Energy Group - (Supreme Court: April 24, 2018)
IPR:
最高裁によるIPR関連の判決。1件目はOil
States事件で、IPRを合憲と判断した。依ってIPRは今後も継続される。2件目はSAS事件で、IPRが開始された場合、USPTOはIPR請求人によって無効を主張されたクレーム全ての有効性を判断しなければならないとした。
■ Impression v
Lexmark (Supreme Court: May 30, 2017)
国際消尽(使用済のトナーカートリッジの再販):
最高裁特許権の国際消尽を認めた。販売(米国及び外国において)後の使用済トナーカートリッジにトナーを充填し再販する行為は特許法では制限(禁止)できない。
■ SCA Hygiene
v. First Quality Baby (Supreme Court: March 23, 2017)
286条で規定する損害賠償の訴求期間内にラッチス(懈怠)の抗弁は可能か?
本判決はラッチス(懈怠)の抗弁に関する。即ち、権利者が侵害行為を周知していながら訴訟の開始時期を大幅に遅らせ、結果的に被疑侵害者に侵害行為の継続を容認したかのような印象を与えたという事実に基づく抗弁。最高裁は7:1でCAFC大法廷判決を破棄し、286条で規定する損害賠償の遡及期間である6年間(訴訟提起前の6年間)に生じた損害賠償に対してラッチスの抗弁は適用されないと判示した。
■ Life
Technologies v. Promega Corp. (Supreme Court: February 22, 2017)
271条(f)(1)項の侵害(構成要素の一部を外国に輸出する行為):
クレームの単一の構成要素を米国で製造し、外国に輸出する行為 (外国において組合されてクレームの構成要素を全て満たす)は271(f)(1)項の基に侵害となるか? 最高裁は271条(f)(1)項の”…all or a substantial portion of the
components of a patented invention…”というフレーズの”a
substantial portion”という用語は質的(qualitatively)な実質性ではなく量的(quantitatively)な実質性を意図しており、複数であって、単一の構成要素ではないと判示した。然るに、被疑侵害者Life
Technologiesの行為(単一の構成要素を英国に輸出し英国でクレームのごとく組み合わされる)は271条(f)(1)項の基に侵害行為を構成しないと判断した。然し、271条(f)(2)項は271条(f)(1)を補完する条文である。271条(f)(2)で規定されているように、「・・・汎用品ではなく、且つ、特許発明を意図して作られており、実質的に特許非侵害の使用にそぐわない如何なる部品(any
component of a patented invention)を米国に輸入或いは米国から輸出する行為は・・・」とあり、”any component of a patented
invention”であり、単一(単数)の構成要素の場合を含むと明瞭に規定されている。
■ Samsung v.
Apple Inc. (Supreme Court: December 6, 2016)
デザイン特許侵害の損害賠償額の算定(289条):
地裁で、SamsungのスマートフォンはAppleの3件のデザイン特許を侵害しているとし、Samsungに399Millionドル(約440億円:\110/$)の損害賠償額の支払いを命じた。損害賠償額の算定に際しSamsungのスマートフォン(侵害品)の総売り上げから生じる総利益を基礎とした。Samsungは、侵害の対象”article
of manufacture”となるのはスマートフォン全体ではなく、その前面、或いは、スクリーンであり、損害賠償の対象を限定するべきであると主張したが、Samsungのスマートフォンはその部品を本体と分離して販売されることはないという理由でCAFCはSamsungの主張を否定した。依って、CAFCは地裁の判決(侵害と損害賠償額)を支持した。
■ Apple v.
Samsung (Fed.
Cir. en banc: 2016-10-07)
自明性:
CAFC大法廷は自身のパネル判決(3件のApple特許に対する判決)を8-3で破棄し異例の速さでApple勝訴の判決をだした。Appleの申し立てを受け、何故、CAFC大法廷が異例の速さで審理を開始し、僅か7か月足らずで判決を言い渡したのか不明である。判決文が非常に長いのでその中でもAppleのslide to
unlockという特徴をクレームした特許に関してまとめた。このSlide
to unlock(画面のアイコンを横方向にスライドしないと携帯が作動しない)という特徴はまさに発明者の年齢、学歴・職歴を一切不問で本来の特許の醍醐味と言えよう。即ち、日々の暮らしで不便を感じたとこに着眼し、ふと思いついたことを文字にしたら権利が取れたというレベル。しかしこのような特許が何十億円もの価値になるのは面白い(筆者)。
■ Cuozzo Speed v.
PTO - (Supreme Court: June 20, 2016)
IPRを開始するか否かのPTOの判断に対し控訴可能か?
第1争点はIPRを開始するか否かの審判部の判断に対して控訴可能か否かであり、最高裁はAIA_35
USC §314(a)の条文で明白に規定されている通りUSPTOの判断は確定(最終)判断とし控訴不可であると判示した。第2争点はIPRにおけるクレーム解釈の基準であり、AIA_35
USC §316(a)(4)で規定されているように、IPRにおけるクレーム解釈基準はUSPTOに決定する権限が与えられていると判示した。PTOが採用しているBRI基準は、再審査、インターフェアランス等の基準と同じでIPRにおいて同基準が採用されることは妥当性を欠くものではない。
■ Halo
v. Plus (Supreme Court: June
13, 2016)
284条の賠償額増額の発動基準(地裁裁判官に与えられた裁量権):
最高裁は、米国特許法284条に基づく懲罰規定(所謂上限3倍賠償)の発動の基準に関して判示した。Seagate判決(2007年のCAFC大法廷判決)で判示された284条の賠償額増額の発動基準(主観要件と客観的要件:
Subjective knowledge & Objective recklessness)は全面的に否定された。即ち、地裁裁判官に与えられた裁量権の行使に適切な自由度があることが確認された。今回の判決は、285条の発動(弁護士費用の負担)に関する2014年のOctane判決及びHighmark判決からある程度予想された。要は、条文に特定の規定がない限り地裁裁判官に与えられた裁量権の行使はある程度の自由度が認められるということだ。とはいえ裁判官がきままに発動できるというほど安易なものではないと注意を喚起している。
■Akamai
v. Limelight (Fed. Cir. en banc: 2015-08-13)
直接侵害(271条a項)方法クレーム:
方法クレームの直接侵害(271条a項)の成立要件である「single
party ルール」の解釈の仕方に関して大法廷が判示した。複数の当事者で方法クレームのステップを実行する場合に直接侵害の有無を判断するには、裁判所は一方の当事者の行為が他の当事者に帰属し、全体として単一の当事者が侵害行為に責任を負うか否かを検討する。次のような場合に当事者が他者によるステップを実施する行為に対しても責任を負う(1)当該当事者が他者の行為を指揮(指示)・監督している場合、(2)複数の行為者(例:当事者と他者)が共同事業体を構成する場合。
■Williamson
v. Citrix - (Fed. Cir. en banc: 2015-06-16)
MPF解釈と112条2項のクレームの明瞭性:
CAFC大法廷はmeansという用語を使用しない構成要素にMPF解釈(112条第6項解釈)を適用する基準を明示した。しかし、当該基準(3Prongテスト)はWilliamson判決以前からMPEP2181に記載されていたので審査においてクレーム用語のMPF解釈の判断基準は変わらない。問題となった構成要素は”distributed
leaning control module”で”module”は”means”を置換したにすぎない、”module”以外でも、例えば、mechanism、 element、 deviceなども十分明白な構造をその用語に内在(含意)するものではなくmeansを使用するのと等価である。さらにlinking
wordとして”for
・・・ing[機能]”の代わりに”configured
to”或いは”so
that”に書き換えてもMPF解釈に影響を与えない(詳細はMPEP2181参照)。
■Commil
v. Cisco - (Supreme
Court: May 26, 2015)
271条(b)項の教唆侵害(特許無効を善意で信じている場合):
最高裁は6:2の多数意見で、「被疑教唆者が問題となる特許が無効であると善意で信じていた(alleged
inducer’s belief in invalidity)」という挙証は教唆侵害(271条(b)項)の責任を免れないと判示した。最高裁は本題に入る前にCommil社と政府(Solicitor
General)の教唆侵害に対する理解を正した。即ち、教唆侵害を構成するには問題となる特許の存在を周知していることのみならず被疑教唆者の行為によって他者が当該特許を侵害することを周知しているという2つの周知要件を挙証することが必要である(2011年Global-Tech最高裁判決)。
■ Teva v.
Sandoz - (Supreme Court: January 20, 2015)
下級審の事実認定に対する控訴審での判断(review)基準:
合衆国最高裁(7:2)は、クレーム解釈の基礎となる地裁の「事実認定」に対する控訴審でのレビュー基準はCLEAR
ERROR基準が妥当するとした。本事件の争点(控訴審における地裁のクレーム解釈に対するレビュ基準)は1995年のMarkman判決(CAFC大法廷判決)で始まり、翌年1996年のMarkman最高裁判決、そして1998年のCybor判決(CAFC大法廷)を経て2014年にLighting
Ballast判決(CAFC大法廷)に至った。CAFC大法廷判決(Markman: Cybor: Lighting Ballast)は全て満場一致ではないが多数意見では地裁のクレーム解釈に対しては事実判断であるか否かに拘らずde
novo基準が妥当するとした。2014年のLighting Ballastにおいては6:4で際どいところでCybor判決の判示(de novo基準)が先例の拘束性という消極的理由でもって支持された。そもそも1996年のMarkman判決において今回の争点に関して最高裁がもう少し明瞭に言及できたのにそれをしなかったことで約20年経過した今になって当時のMarkman判決で言及できたであろうことを最高裁が名言した。従って、1998年のCybor大法廷判決及び2014年のLighting
Ballast大法廷判決は共に否定されたことになる。
■ 特許関係の合衆国最高裁判決とCAFC大法廷判決のまとめ
(1994年~2014年)
Table
for Patent Related Supreme Court and Fed Cir en
banc Decisions (1994 to 2014)
■
Alice v. CLS
Bank - (Supreme Court: June 19, 2014)
101条、特許保護適格性:
最高裁は、Aliceの特許(4件)のクレーム(方法、記憶媒体形式、及び、システム形式のクレーム)は第3者機関(supervisory institution)を介在し金融取引のリスクを軽減(risk
hedge)する手法に関し、実体的には「抽象的なアイデア(Abstract Idea)」を規定しているのみであるとして101条保護適格性(Eligibility)を満たさないと判断した。尚、本判決までは最高裁にて主に方法クレームの適格性が審理されたが、本Alice判決によって抽象的なアイデアを規定した方法クレームをシステムおよび記憶媒体の形式に書き換えることはclaim
draftsmanにとっては容易なことであり、そのような小手先対応で「抽象的なアイデア(方法クレーム)」を保護適格性を有する発明に変換することはできないと判示した。
■ Limelight v.
Akamai - (Supreme Court: June 2, 2014)
271条(b)項の教唆侵害(271条(a)項の直接侵害との関係):
271条(a)項による直接侵害が成立しない場合には被告Limelightは271条(b)項の教唆侵害の責任を負うことはないと判示した。 CAFCに271条(a)項の直接侵害の成立要件(方法クレームのステップを複数人で満たす場合の要件)を再度審理するよう差戻した。
■ Nautilus v.
BioSig - (Supreme Court: June 2, 2014)
112条2項の明瞭性の要件:
最高裁はCAFCの112条(2)項要件の判断基準、即ち、「クレームの意味合いが分析可能(“amenable to construction”)である場合、或いは、クレームが解消不能(“insolubly
ambiguous”)な程度まで不明瞭ではない場合には112条(2)項の要件を満たす」を否定した。 最高裁が示した新基準は、112条(2)項の要件を満たすには「明細書および経過書類を参酌しても当業者が合理的な確証をもって(with
reasonable certainty)発明の権利範囲が理解できる」ことである。即ち、”solubly ambiguous”から”reasonable
certainty”とクレームの明瞭性のハードルを上げた。
■
Octane事件、Highmark事件 (Supreme Court: April 29, 2014)
285条に基づく「例外的な事案」:
本判決は285条に基づく「例外的な事案”exceptional
case”:弁護士費用を相手側当事者に負担させうる」に関する事案である。最高裁はCAFCがこれまで適用していたBrooks判決(Brooks
Furniture v. Dutailer :2005年CAFC判決)の法理(判断基準)を全面的に否定した。Brooks事件の法理では285条の例外的な事案を認定するには①客観的に根拠のない訴訟(objectively baseless)、且つ、②主観的悪意(subjective
bad faith)で訴訟を起こしたという2つの要件を「明白かつ説得性」のある挙証基準(C&C基準)で証明しなければならない。
最高裁判決では、285条の「例外的な事案」とは通常の意味合いで解釈するべきで、即ち、訴訟における一方当事者の実質的な強さ(準拠法および事実関係の観点から)が他方当事者と比べて顕著に秀でている、或いは、不合理に訴訟が行われたという意味である。地裁は、事件の全貌を考慮しながら、事案が例外的なものであるか否かを事案毎に判断する裁量権を有する。
■ Lighting
Ballast v. Phillips Elec. (Fed.
Cir. en banc: 2014-02-21)
上級審における下級審のクレーム解釈に対するReview基準:
今回の大法廷判決の多数意見(6:4)は、1998年のCybor大法廷判決の法理(上級審でクレーム解釈をする場合に下級審の判断に拘束されることなく新たに審理する:de
novo review)を支持した。⇒ 最高裁上告受理可能性?要Watch!
■ Medtronic v.
Mirowski (Supreme Court: January 22, 2014)
ライセンシーによる確認訴訟:
通常、侵害訴訟において特許権者が侵害の挙証責任を負う。本事件のユニークな点は、実施権が与えられたライセンシーによる確認訴訟(非侵害を主張する確認訴訟”DC
Action”)における挙証責任の行方である。即ち、このような確認訴訟において挙証責任は特許権者から被疑侵害者(ライセンシー)にシフトするか否かが争点となった。最高裁判決によると、ライセンシーによるDJアクションにおいても特許権者が侵害の挙証責任を負う。要は特許権者による侵害の主張が曖昧のままで非侵害の反訴をするのは暗中模索の対応となる。
■ Associate for
Molecular v. Myriad Genetics (Supreme Court: June 13, 2013)
101条、特許保護適格性:
Myriadは、変異することで乳がん、および、子宮がんの原因になる確率が顕著に増大するという遺伝子の位置とその配列(BRCA1とBRCA2と称する)を発見した。Myriadの発見は染色体の一部に含まれる800万にも及ぶヌクレオチドのペアーの中からの発見であり、革新的なものであるが、それは反復解析の手法によるものであり、それ自体で保護適格性を満たすことにはならない。合衆国最高裁:(1)そもそもDNAは情報であり、単離されたDNAは、自然界に存在するDNAとその情報の成分に違いはないとして101条の適格性を満たさないが、(2)研究室で生成されたcDNAは自然界に存在する状態のものではないとして101条適格性を満たす。
■ Bowman v.
Monsanto (Supreme Court: May 13, 2013)
特許権の消尽(自己再生可能な特許された種):
最高裁は、特許権消尽の法理は、特許されたものに対しそれが最初に販売された時点で権利が消尽することを確認した。今回の特許対象物は自己再生可能な種であり、当該種を購入した時点で当該種に対する特許権は消尽するものの、当該種を植え付けて栽培される作物(穀物)からとれる第2世代の種には消尽の法理は適用されないとした。その理由は第2世代の種は特許された種を新たに製造する行為による産物であり、特許されたものを新たに生成する行為は侵害を構成する。
■ CLS bank v.
Alice CAFC en banc (Fed.
Cir. en banc: 2013-05-10)
101条、特許保護適格性:
この度(2013年5月10日)、長らく待たれたCLS bank判決(CAFCの大法廷判決)が出た。10人の判事による大法廷判決は過半数の多数意見(Majority Opinion)に至らず、5人の判事を代表しLourie判事によって書かれた意見がPer
Curium(今回の大法廷判決とする)の判決となった。そもそも101条(保護適格性)のハードルは低いもので多くの場合には他の条文、記載要件或いは新規性・進歩性の判断をすることで特段101条の審査さえする必要はなかった。しかし、2012年に最高裁がMayo判決において適格性に対する新しい法理(保護適格性に対する新規判断基準)を判示した。当該法理論には「発明概念」の必要性を盛り込むなど、実務者には到底理解し難いもので裁判官が適用するには余りにも無理があり、過去にはあり得ないSplit
Decisionとなった(6
opinions)。
■ Kirtsaeng
v. John Wiley & Sons (Supreme Court: March 19, 2013)
著作権の国際消尽:
最高裁において6:3で「著作権の国際消尽」を認めた。即ち、一度外国において正規に販売される(販売行為が米国領土の外)と著作権は消尽するという”first
sale doctrine”を支持した。 これによって、本の購入者が古本屋にその本を販売する行為、あるいは、古本屋が他のユーザーに再販する行為は著作権の侵害を構成しないということが確定した。
■ Gunn v.
Minton 合衆国最高裁判決 (Supreme Court: February 20, 2013)
州の裁判所における事物管轄権(特許クレームに関わる弁護士の過失):
合衆国最高裁は、特許クレームに絡む弁護士の過失に対する事物管轄権(弁護士の過失を判断するうえにおいて連邦特許法の解釈を必要とする)を州の裁判所は有すると判断した。連邦法28章1338条(a)項は、弁護士の過失を判断するうえにおいて連邦特許法の解釈をする必要がある場合であっても、州の裁判所がそれを行うことを否定するものではないとして最高裁は全員一致で州裁判所の事物管轄権を認める判決をくだした。
■ Akamai v.
Limelight v. Epic (Fed. Cir. en banc:2012-08-31)
方法クレームに対する間接(誘因)侵害:
大法廷(6:5)の僅差で、2つの事件(Akamai事件とMcKesson事件)に共通する方法クレームの誘因侵害(米国特許法第271条b項)に対し重要な判決をくだした。 多数意見(6:5)によると、方法クレームに対する誘因侵害を成立するには、誘因者(教唆者)が問題となる方法クレーム(特許)を周知しており、方法クレームの全てのステップが満たされている(侵害がある)ことが大前提である。しかし、方法クレームの全てのステップを満たす(実施する)のに、教唆者がステップの一部を実施し、残りのステップを被教唆者によって実施されても良い(Akamai事件)。 さらに、教唆者が方法クレームのステップの何れも実施せずに、複数の実行者(被教唆者)によってステップが分割的に実施され、全体としてステップの全てが実施されている場合であっても良い(McKesson事件)と判示した。
■ Marine v. HemCon (Fed. Cir. en banc: 2012-03-15)
再審査におけるIntervening
Rights:
米国特許においてIntervening
Rightsという用語は、通常252条に基づく再発行出願(特許発行後2年以内のBroadening Reissue)によって権利範囲が拡大された場合に、権利範囲の拡大によってのみ侵害となった第3者の行為(クレームが拡大される前は非侵害)を特許再発行後も一定の範囲で許容しようとする米国特許法252条の規定に基づく権利である。再審査においてはクレームの権利範囲を部分的であっても拡大することはできないので再発行出願におけるIntervening
Rightsの考え方とは性質を異にする。今回、大法廷判決(6:4)によって、307条(b)項のIntervening
Rightsの意味合いが説示された。即ち、再審査によってクレームが減縮補正された場合には
(減縮補正された後も第3者の行為が侵害と認定されたとしても)
再審査以前の侵害行為に対する損害賠償を免責するという侵害者にとって非常に有利な権利である。この法理の考え方は、再審査によってクレームが減縮補正されるということは再審査前、即ち、減縮補正前のクレームは無効であったと解釈できる、依って、無効な特許クレームの権利範囲を侵害する行為はそもそも損害賠償の対象とならないという考え方である。
■ Mayo v Prometheus - (Supreme Court: March 20, 2012)
101条、特許保護適格性:
治療方法(免疫介在性胃腸疾患の治療効果を最適化する方法)に関する101条適格性に関して最高裁判決がでた。最高裁はCAFC判決を破棄し、Prometheusの特許を無効とした。最高裁は、Bilski判決 (2010年)後に、本事件の審理をCAFCに差戻した。同差戻し審において、CAFCはPrometheusの特許クレームの特許主題適格性(101条)を認めた(2010年12月)。当該判決を不服とするMayoの裁量上告が認められ、この度、合衆国最高裁の判決が下された。最高裁によるとPrometheusのプロセスクレームは自然法則を適用するにあたり特許可能な主題にまでクレーム全体の性質が変換されていない(自然法則に追加されたステップは周知のルーチンである)という理由でPrometheusの治療方法に関するクレームの101条適格性を否定した。
■ MS v. i4i Limited P'ship (Supreme Court: June 9, 2011)
被疑侵害者の挙証責任:
争点は、訴訟において特許の有効性を争うときに審査段階で考慮されなかった先行技術で無効を主張するときの挙証責任の基準は「明白、且つ、説得性のある証拠: “Clear and
Convincing evidence”:以下C&C基準とも称する」によるべきか、それとも「証拠の優越性: Preponderance of Evidence: 以下、P基準とも称する」の基準によるべきかである。即ち、審査段階で引用されたか否かでそれぞれの先行技術に対して挙証基準を変えるのかが争点となった。そもそも、そのような判断は現実的に不可能(引用されたA引例「C&C基準」と引用されなかったB引例は「P基準」との組み合わせで自明性を主張する)であり結論として最高裁はいずれの先行技術に対してもC&C基準が妥当すると判示した。
■ Stanford v. Roche (Supreme Court: June 6, 2011)
Bayh-Dole法(政府補助による特許権の帰属):
今回の事件はBayh-Dole法による発明(HIVウイルスの血中濃度を測定する手法に関する発明)の帰属が問題となった。連邦政府による財政支援の基に発明がなされた場合に、Bayh-Dole法(1980年成立)によって、その発明に対する権利が発明者から自動的に連邦政府との契約者であるStanford大学に移譲されるのか否かが争われた。最高裁の多数意見(7:2)では、連邦政府の支援で生じた発明であっても当該発明は発明者に帰属するというのが大原則であり、Bayh-Dole法はその原則を変えるものではない。連邦政府との契約者(Stanford大学)に権利を帰属させるためには発明者から書面で譲渡を受けることが必要である。(※ Bayh-Dole法とは連邦政府の支援のもとで生まれた発明の活用を促進するために1980年に成立した法律)
■ Global-Tech
Appliances v. SEB. S.A. (Supreme Court: May 31, 2011)
271条(b)項の間接(誘因)侵害:
271条(b)項の「侵害の誘因(inducement)」を成立する要件が争点となった。
米国特許法第271条(b)項:Whoever actively
induces infringement of patent shall be liable as an infringer;
271条(b)項の誘因侵害を成立するには被告が侵害行為を周知していることが要件である。或いは、故意の盲目(Willful Blindness)は「侵害行為を周知している」という要件の代わりとなる。合衆国最高裁(8:1)はCAFCの判断基準(Deliberate
Indifference:故意の無関心)を否定するも、最高裁は「意図的に盲目(willful
blindness):刑事法で採用されるより悪質性が高い」という基準に鑑みCAFCの誘因侵害の判断は正しかったであろうという理由でCAFC判決を支持した。 尚、この基準(willful blindness)を満たすには2つの要件が必要であるとした;(1) 被告がその事実(特許侵害)が高い確率で起こるという危険性を周知している;(2)被告はその事実(侵害)を知ることを意図的に避ける行動をした。
■ Abbott
(Therasense) v. Becton (Fed.
Cir. en banc: 2011-05-25)
IDSと不公正行為:
CAFC大法廷においてIDS提出不備に起因する不公正行為の判断基準に対して判決が出た。6-4-1と意見は分かれたが多数意見としては不公正行為の認定基準がかなり厳しくなった。不公正行為の構成要件である「1:
USPTOを騙す意図」と「2: 情報の重要性(その情報が正しく伝えられていたら特許は成立していなかったであろう」に対して明白な判断基準が示された。即ち、被疑侵害者は[1]と[2]をそれぞれ明白かつ説得性の挙証基準で立証すること。
■ Bilski v. Kappos (Supreme Court June 28, 2010)
101条、特許保護適格性:
Bilski事件で問題となった発明は、商取引分野におけるリスクをヘッジ(リスク防止策)する方法に関し、CAFC大法廷判決(2008年10月)においては方法クレームが特許保護適格であるか否か(即ち、米国特許法第101条を満足するか)の判断は1972年の合衆国最高裁判決(Benson事件)の法理の適用が妥当すると結論づけた。この度最高裁は、Machine
or Transformation (MOT)テストは方法クレームの保護適格性(101条)を判断する上で有用な判断基準であるが唯一の基準ではないと判示した。⇒ここからが101条の適格性に対する混乱の始まり!
■ Ariad Pharmaceuticals v. Eli Lilly & Co. (Fed.
Cir. en banc: 2010-03-22)
112条第1項の「記述要件」と「実施可能要件」:
9:2の大法廷判決は112条第1項の「記述要件」は「実施可能要件」とは識別される要件であり、発明者がクレームしている発明を本当に所有していたかどうかを当業者が理解できるように明細書に記載しなければならないとした。大法廷は、「記述要件」を満たす明細書の開示に対する明白な判断基準を示さなかったが、包括的なクレームが当該記述要件を満たすには、当該クレームの範囲に属する代表的な実施例(複数)が明細書で開示されていることで満たされるであろうと説示した。 拠って、今後は、実施例のわりに広すぎるクレームがある場合には、発明者が当該広さに対応する発明を所有していなかったという理由で出願審査時には記述要件違反で拒絶、或いは、そのようなクレームは裁判所で無効と判断されるケースが増えると予想される。
■ ABBOTT LAB. v. SANDOZ (Fed.
Cir. en banc: 2009-05-18)
プロダクト・バイ・プロセスクレーム:
プロダクト・バイ・プロセスクレーム(product
by process claim)のプロセス部分をクレームの構成要素と解釈するか否かに関して、CAFCは1991年のScripps判決(侵害判断時にプロセス部分は構成要素とは解釈しない)と1992年のAtlantic
Thermoplastics判決(侵害判断時にプロセス部分も構成要素と解釈する)で真っ向から対立していた。 Scripps判決もAtlantic
Thermoplastic判決もCAFCの3人のジャッジパネル判決だったので、今回CAFC大法廷判決でAtlantic
Thermoplastic判決が正しく、Scripps判決は間違いであると明言した。 即ち、侵害判断時にはプロダクト・バイ・プロセスクレームのプロセス部分は構成要素と解釈し、同プロセス部分を被疑侵害物が文言上あるいは均等論の基に満たさなければ非侵害であると判示した。
■ In re BILSKI (Fed.
Cir. en banc: 2008-10-30)
101条、特許保護適格性:
CAFC大法廷判決は「プロセス発明」が特許可能主題か否かを判断する基準は、1972年の合衆国最高裁判所、Benson事件で判示されたテスト( Machine
or Transformation テスト)を適用するとした。 当該Machine or
Transformationテストとは以下の(1)または(2)が満たされれば101条で規定するところの特許適格性のあるプロセスクレームであると判断する
(1) クレームされたプロセスは特定の機械 (Machine)、或は、装置に関連付けられているか? 又は
(2) クレームされたプロセスは特定の物(Article)を異なる状態或は別の物に変換 (Transformation)するか?
■ KSR v. Teleflex (Supreme Court April 30, 2007)
自明性:
2007年4月30日、合衆国最高裁判所のKSR事件の判決が出た。
CAFCの判決は破棄された。即ち、自明性の判断において、引例の組み合わせに対するTSM(teaching,
Suggestion, Motivation)の存在が証明されない場合には自明と判断しないとしたCAFCの判示は否定された。 即ち、TSMテストを厳格に(硬直的に)適用することは最高裁のこれまでの判決と矛盾するとし、TSM以外にも当業者にとっての一般知識・常識が参酌され、自明性の判断が行われることが判示された。
■ eBay v.
MercExchange (Supreme Court May 15, 2006)
差し止め請求の4要件テスト:
最高裁は連邦地裁の判断とCAFCの判断をともに否定した。連邦地裁の判断、即ち、特許発明を自分で実施せず、他者にライセンスのみ与える者に対して差止め請求権は認められないというもので、同判断を “Categorical Rule”と称し、そのような特許権者にも差止め請求権を認める場合もあるとした。さらにCAFCの判断、即ち、特許の有効性と侵害の判断が下されれば差止め請求が可能という判示も否定した。
最高裁は、差止めは、衡平(エクイティ)の原則に基づき、4項目テストを適用することによって、連邦地裁の裁量で『認めても良い』と判示した。
■ Phillips v. AWH
Corp. (Fed.
Cir. en banc: 2005-07-12)
クレーム解釈:
クレームの用語を解釈するときに何を参酌するべきか、また、その優先順位は如何にというクレーム解釈の手法・手順に対する大法廷判決がでた。後に訴訟におけるクレーム解釈の基準をPhillips基準と称する根拠となった重要判決である。
Michel判事に代表される大法廷判決多数意見によると、クレーム用語を解釈するときに内部証拠(クレーム; 明細書; 経過書類)を重視すること、辞書及び専門書(外部証拠)を使用することを否定しないが、内部証拠以上に過渡に依存するのは妥当ではないと述べております。 また、本大法廷はTexas判例(CAFC2002年の判決)においては、クレーム解釈時に過度に外部証拠を参酌する判示をしたことを認めた。クレーム用語を解釈するときに、まずはクレーム自身、それから明細書を当業者がどのように理解するかという観点でクレームを解釈するというのが最良の手法であるとするも、裁判官がクレーム解釈をするときに内部証拠と外部証拠をどのような順序で参酌するかでは自由裁量であって、重要なことは、各証拠にどれだけのウェイトを配分するかであると述べた。
■ Knorr-Bremse
Systeme v. DANA Corp (Fed.
Cir. en banc: 2004-09-13)
秘匿特権行使による不利益の推定:
被疑侵害者(被告)が弁護士から鑑定を得なかったこと、或いは、弁護士・顧客間の秘匿特権で保護された情報を開示しなかったことによって、弁護士の意見は被告にとって不利になっていたであろう、或いは、弁護士の意見は不利なものであったと推論するべきではない。先例において本判示に反するものは無効とする。従って、CAFCは地裁(本審の下級審であるバージニア州東部地区連邦地裁)の故意侵害の判決を破棄し、同地裁に本件の弁護士の意見は不利益なものであった、または、そうであったであろうという不利推論を廃し、再審理をするべく差戻す。
■ Honeywell v.
Hamilton Sundstrand (Fed.
Cir. en banc: 2004-06-02)
均等論(Festo判決後:)従属クレームを独立形式に補正すると従属クレームの特徴には均等論は適用されない。
Delaware地区連邦地裁ではSundstrand社の行為はHoneywell社の米国特許第4380893号(及び米国特許第4428194号)のクレームを均等論適用の基に侵害し、同侵害行為は故意侵害を構成するとしSundstrand社に合計約50億円の損害賠償の支払いを命じる判決がくだされた。 然しながら問題となったクレームは元々従属クレームであり審査中に拒絶通知を受けて独立クレーム形式に補正したものである。今回CAFC大法廷において、従属クレームを独立形式に補正することによって同補正部分(従属クレームにしか存在していなかった特徴)に対して均等論の適用を禁止する推定が働くことを確認した。依って、Sundstrand社の非侵害と判断するも、同推定は反駁可能な推定でありますのでFesto最高裁判決で判示された手法で推定を覆せるか否かを判断することが可能であります。そのような事実判断は当裁判所の下級審である連邦地裁において審理されるべく差し戻しがされた。
NEWMAN判事は112条第4項を参照し、従属クレームは独立クレーム形式で記載されるべきものを便宜上従属形式で表現したものであるとして従属クレームを独立形式に補正することは減縮補正にならないとして反対意見を述べている。
■ Festo最高裁判決 (Supreme Court: May 28, 2002)
均等論(Festo最高裁判決):
CAFC大法廷判決破棄、差戻し
最高裁は、出願経過において減縮補正されたクレームの構成要素にも均等論適用の余地が有ることと判示した。経過書類禁反言は、発明者が減縮補正された構成要素に対する均等物の全てに侵害を主張することを禁止するものではない。 禁反言は広範な範囲の均等論の適用を禁止することはできるとしても禁反言の適用域を決定するには、当該減縮補正によって放棄された主題がなんであるかを検討することが必要である。即ち、減縮補正されたクレームの構成要素に対する均等物の全てに対して均等論の適用を禁止する(Complete
Bar
: CAFCの法理)と解釈する必要はない。減縮補正された構成要素が特定の均等物の形態を含む場合とは、例えば、①出願時に均等物の形態が予想できなかった、②減縮補正の理由が問題となる均等物と非実質的な関連性しかない場合であって、特許権者は「経過書類禁反言は均等物を排除する」という推定に対して、クレームの補正時に問題となる均等物の形態を文言上含めるようにクレームをドラフトすることが当業者にとって合理的に期待できなかったことを証明することによって当該推定に反駁することが可能である。
■ Johnson
& Johnston v. R.E. Service Co (Fed. Cir. en
banc: 2002-03-28)
クレーム解釈:(明細書で開示しているがクレームに含まれない特徴)
Johnstonの5,153,050特許の明細書では「アルミは基板にとって好適な材料であるが、ステンレス鋼或いはニッケル合金をアルミの代わりに使用することも可能である」と記載している(コラム5の5-10行目)。しかし、050特許のクレームでは「アルミ製のシート」であると規定している。CAFC大法廷は、050特許のアルミ製というクレームの構成要素を、明細書に開示したがクレームしなかった鋼製の基板を包括するべく、均等論を適用しクレームの権利範囲を拡大解釈できないと判示した。その理由は、特許権者は、開示したがクレームしなかった主題を諦める必要はなく救剤措置がある。特許が発行されて2年以内であれば特許権者は権利範囲を広げる再発行特許出願が可能である。さらに、特許が発行される前に継続出願をすることも可能である。従って、明細書に開示したがクレームに文言上含まれていない特徴は公共に譲り渡したもの(dedication
to public)と理解される。
■ Hilton Davis最高裁判決No. 95-728速報 (Supreme Court: March 8, 1997)
本判決によって均等論の適用に関し以下が明瞭となった:
□ 均等論を適用するうえで、侵害者の侵害行為に対する意図の有無は無関係である;
□ 均等物の判断は、クレームの構成要素ごと(element by element)に客観的に検討されるべきであり、クレーム全体として検討されるものではない;
□ 均等論を適用するタイミングは特許日ではなく侵害の起こった時である;
□特許出願審査中に追加された限定事項には、その理由が特許性と関係ないと立証できない場合には裁判所は推定的に審査経過における禁反言(file wrapper
estoppel)を適用する。