LKQ v. GM Global Tech
Operations LLC
Federal Circuit
(en banc) overrules Rosen-Durling Test for Determination of Obviousness in
Design Patent Summarized by Tatsuo YABE – 2024-05-27 |
本事件は米国意匠特許(design patent)の自明性の判断に関するCAFCの大法廷判決である。大法廷は1982年から使用されてきたRosen-Durlingテストは硬直的であり無効であると判示した。
Rosen-Durlingテストを簡潔に云うと、意匠の自明性の判断において、主引例(問題となる意匠と基本的に同じ外観)をサーチし、そのような主引例が無ければ意匠は非自明と判断し、主引例があれば副引例によって当業者が主引例に欠落している特徴を適用することが示唆されているかで判断する。 今後適用される判断基準は、技術特許(utility patent)のそれと同じで、米国特許法103条及び1966年のGraham最高裁判決並びに2007年のKSR最高裁判決に鑑み判断する。 即ち、103条及びGraham判決の法理では、引例の開示内容を把握し、引例とクレームとの違いを確定し、当業者のレベルを判断し、発明全体としてみた場合に当業者にとって自明であるか否かで判断する。さらに商業上の成功などの副次的な証拠も考慮する。 なお、KSR最高裁判決において引例同士を組み合わせで自明とする場合にTSMテスト(引例を組み合わせることに対するTeaching, Suggestion, Motivationがあるか?)を硬直的に適用しないことが強調された。
唯一技術特許との違いは意匠における引例は基本的には同類(analogous)であることが要件とされる。
本判決日を持って意匠の自明性判断はGraham最高裁判決の法理に基づき判断することになる。本判決の翌日(5/22)、USPTOは審査官に対してメモランダム(審査手順の改訂)で周知徹底するように指示した。(以上筆者)
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■ 特許権者:GM
(General Motors)
■ 控訴人:LKQ (車体修理部品の販売業者)
■ 被疑侵害者:LKQ
■ 関連特許:US Design Patent
No. D797,625 (以下D625と称する)
GM車両のフロンフェンダーの外観に関する意匠特許。
■ 事件の背景:
LKQはGMの多くの意匠特許に対する使用許諾(ライセンス)を得ており、D625に対するランセンスが2022年2月に満了となった後も問題となる製品の販売行為を継続していたのでGMがLKQに対し侵害を警告した。同警告に対してLKQはGMの意匠特許D625を無効にするべくIPRを申請した。IPR手続きにおいて、D625は無効とならず、CAFC(3人の裁判官による通常のパネル判決)においても審決が支持された。CAFCのパネル判決の後に、LKQが大法廷でのヒアリングを申請したところ、認められ、本大法廷の判決に至った。
■ CAFC大法廷での争点:
PTAB及びCAFCのパネル判決でD625の自明性を判断する基礎となったRosen-Durlingテストは米国特許法103条、並びに、最高裁判決Graham(1966年)及びKSR(2007年)に鑑み妥当するのか? 一言で云うと米国意匠特許の自明性判断の基準は?
■ PTABの判断:
D625はLianによって新規性を否定されない。D625はLianと2010年のHyundai Tucsonのフロントフェンダーの販促用カタログとを組み合わせても自明ではない。
PTABは意匠の自明性判断の法理論として長きにわたり使用されてきたRosen-Durling[*1]テストを適用しD625の自明性を判断した。Rosen-Durlingテストは2パートのテストであり、第1ステップでは、クレームされた意匠とデザインが基本的に同じ(“basically the same”)と解される引例を見つける(この引例をRosen引例と称する)。
[*1] In re Rosen (CCPA 1982): Durling v. Spectrum Furniture Co., (Fed. Cir. 1996)
もしRosen引例が見つからなければ自明性の判断はここで終わる、即ち、問題となる意匠特許は非自明である。第2ステップでは(Rosen引例がある場合)、他の引例(複数でも可)を用いてRosen引例を変更することによって問題となる意匠と全体で視覚的に同じ外観となるか否かを判断する。尚、他の引例が何たるかに制限がある。即ち、他の引例の特定の装飾的な特徴が主引例に適用されることを示唆するように主引例と密接な関連性(“so related”)があること。
■ CAFCパネルの判断
PTABの判断(審決)を支持した。
■ CAFC大法廷による判断:
米国特許法第171条に基づき、米国意匠特許は製造物品の新規、独創的且つ装飾的なデザインを保護する。米国特許法において、例外規定を除いて、技術的な特許(utility patent)に対する法律が意匠特許にも適用される。従って、意匠特許に対する自明性の判断も技術特許と同様に、まず第1に米国特許法第103条によって判断される。さらに1966年の最高裁判決(Graham v John Deere)で判示された判例法及び2007年のKSR最高裁判決(KSR v.
Teleflex Inc.)の法理論に基づき判断する。尚、意匠特許の訴訟における有効性判断に関しては1893年の最高裁判決(Smith v. Whitman Saddle Co.)が本事案にも適用される。
結論から云うと、意匠特許の自明性を判断する際に長きにわたり使われてきたRosen-Durlingテストは上記条文及び最高裁判決に鑑み、不必要に硬直的であり、正しい判断基準ではない。
■ 米国特許法第103条の観点:
意匠特許及び技術特許は確かに異なるものである。しかし意匠特許であっても、技術特許と同様に、米国特許法103条の要件を満たさなければならない。103条ではクレームされた発明と引例との差が発明全体として当業者にとって自明であったかを判断する。しかしRosenはクレームされた意匠と「基本的に同じデザイン」である主引例に限定することになり、もし主引例に相当する引例がなければこの時点で自明性の判断は終わるので本来103条に意図された広く且つ柔軟な判断基準に規定されていない制限を加えることになる。Rosenの「基本的に同じ」という要件は1893年のWhitman最高裁判決に鑑みても妥当しない。同最高裁判決においてサドルの前半分(Granger引例)と後半分(Jenifer引例)に2つの引例(Granger: Whitman)を組み合わせて判断したのであって、Granger或いはJeniferの何れも主引例(Rosen引例)に該当しない。さらにいずれの引例もクレームされた意匠特許と基本的に同じではない。これら2つの引例を組み合わせてクレームされた意匠特許は特許性がないと判断した。
2007年のKSR最高裁判決において、103条及びGraham最高裁判決は自明性に対して広範で柔軟なアプローチを規定していることを強調するとともに、構成要素の組み合わせが引例に基づく発明に特許を付与する際の留意事項を再確認した。
Rosen-Durlingテストの第2ステップに対しても同じ結論となる(硬直的であり103条の趣旨に反する)。第2ステップの事実判断において主引例に欠落している装飾的な特徴を開示している副引例を探すことになるが、この副引例とはその特定の装飾的な特徴が主引例に適用されることを示唆しているように主引例と密接な関連性(“so related”)がなければならない。しかし103条には副次的な先行技術が主引例に対してそのような関連性(“so related”)を要件としていない。
上記のように、我々CAFC大法廷は、長期にわたり使用されてきたRosen-Durlingテストを無効とする。そこでどのように意匠特許の自明性を判断するかに関しては、究極的には103条で規定され1966年のGraham最高裁判決で適用された事実認定の上、判断するとした我々の先例に同意する。 Hupp v. Siroflex of Am., Inc., (Fed. Cir. 1997)
Graham判決による第1の事実認定において、先行技術(引例)の範囲と内容を検討する。この事実認定で、何が先行技術となるかに際し、Rosenテストのように「基本的に同じ」という要件はない。但し、引例となるものはクレームされた意匠と同類(Analogous)であることが必要で、これは後知恵による考察を防ぐためである。引例たるものクレームされた意匠と同類でなければならないという要件は103条の文言においても当業者の知識によるものであると規定されている。その理由は、当業者は全ての分野に知見を持つことは不可能であり、当業者にとって同類の分野の範囲に限定されるのである。
技術特許の場合には「同類であるか否か」を2つのステップで判断する:(1)クレームされた発明と同じ技術分野によるものか;及び(2)引例が他の技術分野の場合には当該引例が発明者の特定の問題に合理的に関係しているか否かで判断する。意匠特許において前記(1)はそのまま適用される。しかし前記(2)は意匠特許にはそのまま適用することはできない。何故なら、意匠特許は意匠考案者が抱えた問題点を明確に示していないからである。
我々CAFCは意匠特許に対して何が「同類」の引例であるかを判断する基準を現時点で正確に判示することはできない。従って、今後の裁判所の判例の蓄積に期待する。
■ Graham判決
[i] 第1の事実認定(主引例を特定し、その開示内容と範囲を検討する)
主引例を特定するにあたり上記したように「問題となる意匠と基本的に同じ」である必要はない。主引例はすでに存在しているものでなければならない。主引例は問題となる意匠に最も類似するものとなるであろう。主引例がクレームされた意匠特許に目視で類似の度合いが高いほど当該意匠特許の自明であることの証明となる。
[ii] 第2の事実認定(第1の事実認定に基づき引例と意匠との違いを決定する)
意匠特許においては、問題となる物品のデザイナー(意匠における当業者)の観点で、主引例と意匠の視覚による全体的な外観の類似性で判断する。Apple Inc. v. Samsung Elects (Fed. Cir.
2012) 引例と意匠との部分的な相違点を見つけたとしても、意匠の全体の外観に影響を与えることは殆どない。本事案において問題となるクレームは全体としての意匠であって、その部分的なものではない。従って全体としての新規性と侵害を判断しなければならない。Dobson v. Dornan (1886)
[iii] 第3の事実認定(当業者のレベルを解明する)
意匠における当業者とはクレームされた意匠に関連する分野の通常のデザイナーとする。
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上記3点の事実認定の後に、当業者であればクレームされた意匠と全体として視覚的に同じ印象を持つように、引例のデザインを変更する動機があったか否かを判断する。Campbell Soup v. Garmon Plus (Fed Cir.
2021) この判断は、クレームされた意匠全体の視覚的印象に焦点を当てるのであって、個々の特徴ではない。In
re Borden (Fed. Cir. 1996)
クレームされた意匠が主引例によって自明とならない場合には副引例を用いて自明性を判断してもよい。主引例及び副引例は、一方の特徴が他方に適用することを示唆するほどに密接に関連している必要はないが、共に意匠特許に対して同類のものでなければならない。KSR最高裁判決にあるように、これら引例を組合せる動機は引例自身に見いだせなくても良い(KSR最高裁判決:TSMテストを硬直的に適用することを否定した)。
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[iv] 第4の事実認定
なお、Graham最高裁判決にあるように、副次的な検討事項(”secondary consideration”:市場での成功、長期に渡り知られていたが解決されなかったニーズ、他者の失敗、等々)も考慮に入れる。しかし、意匠において、市場での成功、業界における賞賛、他者によるコピー等の証拠が非自明性の挙証に使われたが、長期に渡り知られていたが解決されなかったニーズ、他者の失敗などの証拠が意匠の非自明性の証拠として使用できるのかは確かではない。
■ GM及び他者が主張する懸念事項
GM及び他の意見書(裁判所への助言)で、今回Rosen-Durlingテストを無効にし、新しいテストを適用すると意匠における自明性判断が不確定なものとなり業界に混乱を齎すと述べている。しかしGrahamテストは技術特許に対して1966年から適用されており、意匠に関してもGrahamテストを適用し判断したUSPTOの記録(先例)は多数ある。Graham最高裁判決においても述べられているように、これら事実に基づく硬直的ではないテストを活用するにあたり幾分からの困難は生じるであろう、しかしその困難さの度合いは異常なレベルではない。事実、Grahamテストは長年にわたり活用され実用可能であることが証明されている。 今回の変更によって、意匠の自明性判断において多少不確定な期間を経るかもしれないが、103条の条文の趣旨及び最高裁判決よって硬直的なRosen-Durlingテストを廃止せざるを得ない。
■ 本事件に適用
上記に鑑み、本事案をPTABに差し戻す(即ち、Rosen-Durlingテストではなく上記したGrahamテストに基づきD625の自明性を判断すること)。
結論:
D625はLianによって新規性を喪失しないとした審決には同意する。しかし自明性の判断に関しては審決を破棄し、再審理をするべくPTABに差戻す。
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