In re Cellect 2023年8月28日 自明性ダブル特許拒絶を解消するためのターミナルディスクレーマーはPTAには影響するがPTEには影響しない。 OPINION by Lourie, joined by Dyk and Reyna
(Circuit Judges) |
本事案は自明性ダブルパテント(ODP)拒絶を解消するために提出するTD(ターミナルディスクレーマー)が特許期限延長(PTAによる延長とPTEによる延長)に対する影響に関して明示した判決である。当事者(Cellect社とUSPTO)以外にもAmicus
Curiae brief(裁判所の友としての助言)が6通も提出された重要な判決である。結論を一言で云うとTDはPTA(特許庁の審査の遅れに起因する特許満了期限の調整:154条)の延長日数を削減することにはなるがPTE(政府食品医薬品局等の認可手続きに起因する権利行使期間の喪失を回復するための期限延長:156条)による延長日数には影響を与えない。
本判決によると以下の例の場合、即ち、B特許出願審査中にA特許(同一人所有)をもとに自明型ダブルパテント(ODP)の拒絶を受け、B特許出願人はターミナルディスクレーマー(TD)でODP拒絶を回避した。この場合のA特許の存続期間は2036年1月1日となり、B特許の存続期間は2031年1月1日となる。
もしA特許にPTEが付与されていなければTDによってA特許とB特許は同日に存続期間を満了することになるが、共にPTAが存在するのでPTA2の後半部分はPTA1の終日と合わせることになり、A特許及びB特許の存続期間は2031年1月1日(同日)までとなる。本判決によってTDをすることでPTAに影響を与えることが明示されたがPTAの全てを喪失させることにはならない。(以上筆者)
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■ 特許権者:Cellect, LLC
■ 控訴人:USPTO(米国特許商標庁)
■ 被疑侵害者:Samsung
■ 関連特許:USP 6,982,742: USP 6,424,369: USP 6,452,626: USP 7,002,621 (以下特許)
それぞれ、742 Patent; 369 Patent; 626 Patent; 621 Patentと称する;
出願日:上記4件の特許はUSP6275255(255 Patent)の出願日(1997年10月6日)を優先日とする;
■ 上記4件の特許の関連性:
■ 事件の背景:
CellectはSamsungを相手に上記4件の特許に基づき侵害裁判を起こした。Samsungはそれぞれの特許に対して再審査を提起した。その結果上記4件の特許は次の表で示すように互いに自明性のダブルパテントの拒絶を受けて問題となったクレームは全て無効と判断された:
4件の特許は自明性ダブルパテント(ODP)拒絶の対象となる特許はそれぞれ異なるが、それら対象となる特許の基礎となる特許は036 Patentであり、PTAは0である。特許権者Cellectは再審査におけるODPによる拒絶を不服とし、且つ、Novartis判決(Fed. Cir. 2018)に鑑みODPがPTAを削減することにも異議を唱え、さらには再審査の不当性(特許性に対する新たな争点がない)を訴えPTABに審判を請求した。
■ PTABの判断:
再審査の結果を支持する。
Merck判決(Fed. Cir. 2007)において、権利者はODP拒絶を解消するためにTDを提出した後にPTEによる期限延長を受けることになった。Merck判決は米国特許法154条で規定されたPTAと同法156条で規定されたPTEの違いを説示している。即ち、ODP拒絶をTDで対応した場合に同法154条で規定されたPTAによる延長日数を削減することになるが、米国特許法156条で規定したPTEによる延長日数には影響しない。PTAの日数を削減することは、同法154条(b)(2)(B)にTDによる期限の放棄はPTAに適用されることが明記されている。しかし同法156条にはそのことは一切言及されていない。156条で規定するPTEはTDによって放棄されるものではなく、PTEによる期限延長はTDにより放棄された日が起算日となり、その日から積算(期限延長)される。
4件の特許の出願審査の段階でいずれにおいても審査官はODP拒絶をしていない。従って、再審査を開始するための閾値(特許性に対する新たな疑義が存在するか否か)を満たす。
上記理由によってCellectの4件の特許はそれぞれODP拒絶によって無効(再審査の結果を支持する)である。
■ CAFCの判断
審決を支持する。
CellectはODPの影響を検討するにあたりPTAとPTEを同様に判断するべきであると主張した。即ち、PTAとPTEは共に連邦議会が条文で規定した特許期限の延長であり、司法の法理(ODPをTDで解消する)によって奪うことはできない。さらに、PTA及びPTEも共に政府機関の手続きの遅れに起因する権利期間のロスを補償するものである。
Merck判決及びNovartis判決において本事件で問題となるTDのPTAに対する影響に関して直接言及していないが、両判決は連邦議会がPTEとPTAを立法した趣旨に違いがあることを明瞭に説示した。154条に詳細に規定されているようにPTAはそれら条件を満たすときに特許期限の延長日数が調整される。しかしPTAの日数を調整するに際し、TDを提出した場合には制限があることを規定している(米国特許法154条(2)(B)参照)。本事案においてODB拒絶(再審査係属中)に対してTDが提出されていないので同条文を直接適用できないが、同条文は本事案の解決の要となる。
TDは殆どの場合にODP拒絶を解消するためにとる手段であり、TDとODPはコインの表裏の関係にあると言えよう。本事案の場合に、もしTDが提出されていれば、同条文154条(2)(B)が適用されていたことになる。連邦議会の立法趣旨によると、もし本事案においてPTAが加算された特許に対してODP拒絶を回避するためにTDで対応されていたとしたら、TDで放棄された期間(PTAの一部、或いは、全部)を維持することはできない。
本事案においてはTDでの対応がないので4件の特許はそれぞれODPによって無効とした審決を支持する。さらに、再審査を開始するための閾値(特許性に対する新たな疑義が存在するか否か)を満たすとした審決を支持する。
結論:
審決を全面的に支持する。
筆者コメント:
Samsungによる再審査においてCellectの4件の特許はそれぞれが互いにODP(自明型のダブルパテント)で拒絶された。権利者CollectはTDによってODP拒絶を解消できたに拘わらず、そうしなかった。この点は不思議である。Collectは少なくともTDで対応し、4件の権利の有効性を担保したうえで、TDはPTAを喪失しないという争点で争うことも可能であった。何れにせよ本判決によってTDはPTA(PTOの審査の遅れによる特許期限の調整)を喪失することになるが、PTE(政府の認可手続きによる権利行使期間の喪失を回復措置:特許期限の延長)には影響しないということが明示された。尚、本判決に至った根拠となる判例はMerck判決(2007)とNovartis判決(2018)であり、これら判決の趣旨を理解していると本判決文を理解しやすい。共に時系列が文言だけでは複雑なので以下に図示し両判決の骨子をまとめた(参照ください)。
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References:
Pre-Gatt Patentとは:
Pre-Gatt Patentとは1995年6月8日以前に出願され同日において有効な米国特許であって、その権利存続期間は最も早い優先日より20年或いは特許日より17年の何れか長い方となる。米国特許出願がGATT日(1995年6月8日)及びそれ以降の場合の特許をPost-GATT特許と呼び、その存続期間は出願日から20年となる。
154条によるPTAとは:
PTAとはPatent Term Adjustment(特許期間調整)の略で1999年の米国特許改正法(American Inventors
Protection Act of 1999)によって2000年5月29日以降の米国出願に対して米国特許法154条で規定する米国特許庁の審査の遅れに相当する日数分を通常の存続期間20年(出願から)に追加することを規定している。(ごく短く言うと14-4-4-3年ルール)
156条によるPTEとは:
PTEとはPatent Term Extension(特許期限の延長)の略で、1984年に成立したハッチ・ワックスマン法により成立した条文(米国特許法156条)で薬品などのFDA(連邦食品薬品局)認可手続きなど行政の規制によって特許権の行使期間が短くなった場合にその期間を回復するための制度を規定した条文である。
ODP/TDとは:
同一人による複数の米国出願において互いのクレームが(同一ではなく)実質的に同一の場合にはODP(Obviousness-type Double
Patenting:自明性型の二重特許)拒絶を受ける。ODPという言葉は条文にはなく裁判所で使用されたのでjudicially-created
double patentingと呼ぶ。通常は米国特許法253条に基づきTD(Terminal Disclaimer)で当該拒絶は回避できる。TDによって存続期間の長い方の特許を短い方の特許の存続期間にあわせる(terminal
disclaim)ことに加えて同一人所有でないと権利行使ができないという制限が掛かる。Pre-GATTの時代は18か月公開もない、所謂、サブマリン特許の時代であり特許されてから17年の権利期間が保証されていたのでTDは権利期間を短い方に合わせるという意味では大きな損失があったが、1995年6月8日(GATT日)以降の出願の権利期間は20年となったのでTDによる権利期間を合わせるという損失は大きな意味はなくなり、寧ろ、今日においては同一人所有でないと権利行使不可という制限がTDによる現実的な影響と言えよう。
Merck判決 (Fed. Cir. 2007):
Merck & Co. v. Hi-Tech Pharmacal Co., (Fed. Cir. 2007)
Merckは2件のPre-GATT特許を有し(USP4797413:USP4677115)、US413の出願審査の過程でUS115を基にODB拒絶を受けTDで拒絶を解消した。US413の権利存続期間は、権利化から17年又は出願から20年の長いほうとなり、権利満了日は2004年12月12日となった。従って、後願の権利満了日も同日となった。さらに1997年にMerckのハッチ・ワックスマン法(1984年)に基づく申請が認められ特許法156条で規定するPTE(1223日)が付与された。MerckはHi-Techに対してUS413を基に特許侵害裁判を起こした。
Hi-TechはMerckのUS413はTDにより権利化されているのでPTEで加算される1223日を喪失すると主張したが地裁及びCAFC共に米国特許法156条(a)項に基づきPTEはTDによって無効とはならないと判示した。その理由は156条(PTEに対する条文)にはTDされた特許に関して一切言及していないが、154条(b)(2)(B)では、TDされた特許に対してはUSPTOの手続き遅れによるPTAを加算することを禁止している。さらに、156条(a)項には154条(b)項によるPTAにさらにPTEを加算することが規定されている。
Novartis判決 (Fed. Cir. 2018):
Novartis AG v. Ezra Ventures LLC (Fed. Cir. 2018)
NovartisはUS5604229(Pre-Gatt特許)とUS6004565(Post-Gatt特許)の権利者であり、US229の権利満了日は出願から20年又は特許されてから17年の何れか長い方が保証されており、即ち、2014年2月18日が存続期限である。しかしNovartisはハッチ・ワックスマン法(米国特許156条)に基づくPTEを申請し、最長の5年(156条(f)(6)(A))が付与された。NovartisはEzraに対して229特許を基礎とし特許侵害裁判を提起した。
EzraはNovartisの229特許は565特許クレームに鑑みODP拒絶となり、少なくともTDをしないと権利を維持できないと反論した。さらに、156条(c)(4)でPTEは1件の特許にのみ適用されると規定されており、Gilenya®の主成分(fingolimod)に対する229特許にPTE(5年)を付与するということは実質的には、fingolimodの投与方法に関する565特許の存続期間を延長するのと同じことになると反論した。
CAFCはEzraの反論を認めず、229特許に付与されたPTEはTDの影響を受けないと判示した。 尚、156条(a)で規定するPTEはNovartisのGilenya®という薬剤の認可手続きに起因するもので、Novartisの2件の特許(229特許と565特許)はGilenya®に関連する特許であり、PTEの適用の選択(どの特許にPTEを適用するか)は権利者に任されていると説示した。
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