Fresenius USA v. Baxter Int’l
Inc. Fed.
Cir. Decision 2013/07/02
再審査の結果(問題となるクレームは無効)は係属している訴訟のどの段階まで有効か?
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まとめ:
本事件は再審査の結果(確定判決)の係属中の訴訟に対する影響に関して判示した。 より詳細には係属中の訴訟がどの程度進行していれば再審査の結果が考慮されないかが判示された。 3人の判事うち2人の多数意見によると再審査結果が確定した時点における訴訟の進行状態がFINALである場合には再審査の結果(問題となるクレームが無効)が考慮されない。 ここでいうFINALの状態とは特許侵害訴訟において全ての争点の最終結論がでており(CAFCで確定)、唯一、判決の執行を待つ状態を言う。 本事件は、被疑侵害者Freseniusによる2003年にDJアクションからスタートし、それと並行して2005年にPTOで再審査請求がなされ2012年5月にCAFCで再審査結果が確定された(問題となるBaxterの434特許クレームは無効:
In re Baxter, Fed. Cir. 2012)。 再審査が提起されているにも拘わらず、地裁は侵害裁判を中断することなく審理を進め、CAFCに控訴され、問題となった434特許に関する地裁判決(434特許クレームを無効とする十分な証拠が提示されていない)が概ね支持され、地裁判決が確定し(Fresenius
v. Baxter: Fed Cir. 2012/03)、被疑侵害者は損害賠償額の算定に関して不服を唱え、判決の執行を停止する申立てをし、当該申立てが認められた。 このように、再審査結果が確定した時点では、損害賠償額の算定を残し訴訟が中断(STAY)された状態であった。 PTOでの再審査結果(問題となる434特許クレームは無効)に対する確定判決(In
re Baxter: 2012/05)がでたので、CAFCは地裁判決を破棄し、訴訟を終了するよう判示した。
筆者注:
本事件は査定系再審査の結果(確定判決)が係属中の訴訟に及ぼす影響に関して判示したが、この判決は昨年9月16日より施行された@当事者系レビュー(IPR)、Aビジネスモデル特許に対するPGR(異議申し立て)、及び、Bやがてビジネスモデル特許以外にも利用可能となるPGRに対しても適用されるうる判決である。そもそも特許庁審判部(PTAB)における審理(IPRとPGR)は訴訟件数を減らすために対特許庁で実施可能な手続きとしてAIAで新設された。 これら手続きにおいては無効を主張する側の挙証責任(「明白かつ説得性のある証拠」ではなく「証拠の優越性」)が低いので問題となるクレームを潰しやすい。In
re Swanson (Fed. Cir. 2008)で明白に判示されたように審査(1997年のPortola判決)あるいは訴訟で既に引用された先行技術文献でもって再審査を提起可能である。 さらに、IPRもPGRも共に特別の理由のなき場合には1年以内に最終結論がでるという超高速な手続きであり、且つ、訴訟費用に比べると安価なために今も訴訟係属中に被疑侵害者の側がこれらPTOのPTABの手続きを多く活用している。地裁で進行中の訴訟は査定系再審査、IPR或いはPGRなどUSPTOの手続きが開始されると多くの場合にSTAYすると予想されるが、STAYを確実にするためには訴訟開始後できるだけ早い段階でPTOでの手続き(査定系再審査は手続きを1年以内に終了するという期限が設定されていないためIPRまたはPGRが望ましい)を開始するべきであろう。
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以下本判決(Dyk判事による多数意見:2013年7月2日)の概要:
多数意見: Dyk判事、Prost判事
反対意見: Newman判事
特許権者: Baxter社
問題となった特許:米国特許第5247434号(最終的に問題となった特許)、6284131号、5744027号
特許クレームの概要(Baxter社の発明の概要):
血液の透析器に関する発明をクレームしており、当該透析器は血液中の毒素が透析液を通過する構成であり、434特許のクレームにおいては、タッチパネル型のインターフェースが接続された透析器の使用方法をクレームしている。
背景及び判決文の概要:
Baxterは上記3つの米国特許の権利者であり、これら特許は血液の透析器に関する発明をクレームしており、当該透析器は血液中の毒素が透析液を通過する構成であり、434特許のクレームにおいては、タッチパネル型のインターフェースが接続された透析器の使用方法及びその装置をクレームしている。
Freseniusは透析器を製造しており、2003年にBaxter特許の無効と非侵害を訴える確認訴訟をNDCA連邦地裁に提起した。Baxterは侵害の反訴を提起した。 Freseniusは434特許の侵害を認めたが当該特許クレームの無効を主張した。 陪審は問題となる434特許クレームを無効と判断した。しかし、2007年にJMOLが認められ、地裁はFreseniusは434特許クレームが無効であることを示す十分な証拠を提示できていないとし、問題となるクレームの無効を否定した。 その後陪審による評決で損害賠償額を14.266Million(ドル)とされた。 両当事者はCAFCに控訴した。
2009年9月10日にCAFCは地裁判決を一部認容、一部破棄とし地裁に差し戻した(027特許と131特許は無効、但し、434特許の無効を示す十分な証拠が提示されていない)。434特許クレームのmeans
for delivering dialysate limitationに相当する構成およびその均等物が先行技術に開示されていないとして無効理由を却下した。 依って、CAFCは434特許に対する地裁のJMOLを支持した
(Fresenius v. Baxter Fed. Cir. 2009: Fresenius I)。
問題となる434特許は2011年4月で有効期限の満了となった。
2012年3月16日に地裁はBaxterの勝訴判決(地裁の最終判決)を言い渡した(損害賠償額14.3Mドル、判決前の損害賠償額9.3Mドルと利息、評決後の侵害品に対する実施料とその利息、さらに残存する侵害品の販売に対する追加の実施料の支払いを命じた)
Fresenius v. Baxter: Fed.
Cir. 2012: Fresenius II。当該判決を不服としFreseniusは控訴した(判決前の損害賠償額の算定にはさらなる事実認定が必要である)。2012年5月3日、地裁はFreseniusの控訴中における地裁判決の執行停止の申立てを認めた。
上記が裁判所における履歴の概要であり、裁判の進行と並行して2005年にFreseniusはPTOでの査定系再審査を提起した(434特許の問題となるクレーム26−31の有効性が争われた)。 2007年12月、PTOは問題となるクレームの無効を決定した。 2010年3月18日にPTOの審判部においてPTO審査官の再審査結果が支持された。 2012年5月17日にCAFCでPTO審判部の判断を支持し434特許クレームの有効性に対する確定判決となった(Baxterは上訴しなかった)In
re Baxter, Fed. Cir. 2012。 2013年4月30日に再審査のCertificateが発行された(434特許クレーム26−31は無効)。
本事件の争点は、一般的には訴訟係属中におけるPTOの再審査結果の影響という点にある。 より詳細には訴訟は係属しているが訴訟が最終段階近くに到達している状況においてもPTOの再審査結果を考慮に入れることが正しいのかである。
3人の判事のうち2人(Dyk判示とProst判事)による多数意見は、PTOの再審査結果(434特許の問題となるクレームは無効)は本事件のレベルまで進行した訴訟においても影響すると判断した。 即ち、係属中の訴訟がどの段階に到達すればFINALと見るかであり(即ち、他の関連する訴訟における判断の影響を受けない)、CAFCは1922年の最高裁判決、Simmons
Co. v. Grier Bros Co (1922)を引用し、裁判における争点の全てに対して最終の判断がなされており、判決の執行を待つのみという状態と解釈している。
Simmons事件(Simmons
Co. v. Grier Bros Co.: Sup Ct., 1922)において、地裁は特許侵害の判断をしたが、控訴審(第3地区連邦控訴裁判所)において、再発行出願において問題となる特許クレームが拡大補正されたという理由で特許が無効と判断された。 同控訴審において侵害判断と共に不正競争防止法に基づく損害賠償額の算定をするように地裁に差し戻した。 この状況下において別の裁判で問題となった同じ特許に対して合衆国最高裁が再発行出願においてクレームの拡大補正がされていないと判断した。 依って、最高裁は問題となるクレームを有効と判断した。 この合衆国最高裁判決に基づき地裁は特許を有効と判断し、損害賠償額を決めた。 再度控訴され、控訴審において当該合衆国最高裁判決は本事件には影響を与えるものではないとして地裁の判決を破棄した。 上告が認められ最高裁は控訴審の判決を破棄した。 このようにSimmons事件においては控訴審における判決が最終ではないということが特許権者に有利に働いたが、これは本事件のように被疑侵害者に対しても同じ効果を及ぼす。
さらに、Mendenhall事件(Mendenhall
v. Barber-Greene Co., Fed. Cir. 1994)において、特許の無効が否定され、損害賠償額の算定のために地裁に差し戻した。 この状況をFINALではないと判断した。Mendenhallは2社に対してそれぞれ個別に侵害訴訟(Astec訴訟とCedarapids訴訟)を提起しており、Astec裁判においては地裁と控訴審ともに特許の無効が否定され、損害賠償額の算定のため地裁に差戻した。このAstecの差戻し審が係属中にCedarapids裁判において同じ特許が無効と判断され、控訴審においても無効判決が支持された。 同無効判決に鑑みAstecは特許侵害に基づく損害賠償という不利な判決を無効にするよう地裁に申立てた。地裁は申立てを却下したが、控訴審において地裁判決を破棄した(特許を最終的に無効と判断した)。
本事件においては、地裁判決の幾分(例えば侵害品の実施料、特許期間満了までの侵害品の処分に関わる実施料など)かが最終決定されていない状態にある。
上記したように、Simmons最高裁事件、Mendenhall事件に鑑みて明らかなように、本事件が、これら判決から導き出される法理の適用を受けないという理由はない。 PTOがBaxter特許クレームを無効と判断した(無効の判断が確定した)以上は、BaxterはFreseniusに対し訴訟を係属する法的根拠が存在しない。 依って、係属中の訴訟の争点は消滅したことになる。 然るに、地裁判決は破棄、地裁での訴訟を終了すること。
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NEWMAN判示の反対意見に対する多数意見の見解:
(1)PTOの再審査結果は係属中の訴訟に影響を与えない;
特許法の条文に依って再審査の確定判決は係属中のFINALではない訴訟に影響がある。
(2)2007年の地裁判決(Freseniusに損害賠償を命じた)は当事者にとって既判力(res
judicata)がある;
上記判決文で詳述したとおりである。
(3)中間判決であっても争点効(collateral
estoppel)を持つ場合がある。
地裁において無効と判断されていない場合には争点効はPTOの再審査を中止させるという効果はない。
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