AmericanAxle & Manf’g v. Neapco Holdings

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最高裁裁量上告受理せず

2022630
訟務長官の上告受理の助言全く無視された。

Summarized by Tatsuo YABE  2022-07-04

既にご存知の方も多いと思いますが、1年半以上待たれた表題の事案は、5月24日の訟務長官(Solicitor General)による上告受理を推奨する意見書の提出にも拘わらず上告不受理となりました(2022年6月30日)。 最高裁から上告不受理の理由は一切述べられていません。 最高裁が上告を受理するには「Rule of 4」という規則があり4名(4名以上)の最高裁判事が賛同した場合に上告受理となります。 そもそも合衆国最高裁においては裁量上告制であり不受理の場合に最高裁は理由を述べる必要もありません。



そもそも2010年のBilskiに始まり、Mayo判決、Alice判決と101条判断に関して最高裁が関与し(異例中の異例)、そのおかげで101条の保護適格性の判断基準が不明瞭になり審査及び地裁、CAFCの裁判官による適格性判断に混乱を齎した。繰り返しになりますがMayo/Aliceテストは以下の通り:

ステップ1:Is the claim directed to a judicial exception (i.e., a law of nature, a natural phenomenon, or an abstract idea)?
ステップ2:Does the claim recite additional elements that amount to significantly more than the judicial exception?
ステップ1に関しては2019年に当時のPTO長官であるIancu氏が以下のようにProng1とProng2にBreak Downし、実務上の運用をし易くした:

ステップ1:
Prong One: Does the claim recite a judicial exception?
Prong Two: The claim as a whole integrates the judicial exception into a practical application?

但し、Iancu氏もステップ2の判断に関しては呆れて、これをどうすれば良いのかという正直な疑問を2018年に公に包み隠さず吐露されていました(2018_09_24_Chicago_IPO_& 2018_11_26_@GeorgeTownU_LawSchool)。このIancu氏においても解消できない元凶は、最高裁がステップ2では「Inventive Concept」の存在を判断すると判決文で述べたからです。これも繰り返しになりますがinventive conceptは101条ではなく103条のobviousness (inventiveness)で判断するのが米国特許法の基本です。即ち、司法、それも司法の頂点が立法趣旨に反する意見を述べたことに行政府である商務省の下に設置された連邦政府機関であるUSPTOの長官の権限でできることは限られておりIancu氏はその限界を既に達成しPTOを後にしたと思います。

現長官Vidal氏(2022年4月より)もキャリア的にはIancu氏に引けを取らない人物で(MSEE@Syracuse U. & JD from U of Penn Law: Law Clerk for Fed Cir Judge Schall; Litigator Fish & Richardson)で101条に関する訴訟(SAP America v. InvestPic Fed. Cir. 2018; Chamberlain Group v. Techtronic Indutsrise Fed. Cir.2019)において最高裁のMayo/Aliceのテストに関して適格性を主張する側として真正面から取り組まれたようです(前者は勝訴、後者は敗訴)。Vidal氏に望まれるのはステップ2をUSPTOではこのような基準で判断するという新たなシンプルなガイダンスを出すことです。

例えばステップ2においてクレームのJudicial Exception以外の構成要素に何らかの技術的要素が含まれていればステップ2を満たすというようなガイダンスを作成した場合であっても審査において問題は生じないと思います。仮にそのようなガイダンス(パート2の判断を形骸化、或いは、無視する)を出したとしても、後は、102条の新規性と103条の進歩性のハードル、及び、112条の記述要件、実施可能要件、クレームの明瞭性の要件というハードルがあるので、特許になるものはなるし、特許不可となるものは何れかのハードルに引っ掛かり振るい落とされると思います。

考察:
そう考えると(新規ガイダンスでステップ2を無視する)過去のCAFCの判例で101条の保護適格性無しと判断されたクレームを(101条判断を満たすと仮定し)102条、103条、或いは、112条のハードルで振るい落とされるのか否かを検討することでMayo/Alice判決のステップ2が実質的な意味合いを持っているか否かを確認できるかもしれない。

PTOの動きが無ければ後は法改正に期待するしかない。現時点では101条の法改正の動きは見えないが、今回の最高裁での上告不受理を受けて愈々連邦議会も腰を上げることになるかもしれない。

以上筆者



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追加コメント:
例えば、American Axleで問題となったクレーム22で駆動系システム駆動軸の製造方法を簡略化した以下の2種類のクレームを起草する。左コラムのクレームは自然法則(フックの法則)を言及していないクレームであり、右コラムのクレームはAm Axleで言うところのフックの法則を利用することを規定しているとする。左のクレームは101条で拒絶されることはない(勿論新規性欠如という理由で間違いなく拒絶される)のに拘わらず左のクレームにフックの法則を利用することを追記した右側のクレームを何故101条で拒絶しないといけないのか?筆者には理解できない。

 Judicial Exceptionを一切言及しないクレーム  Judicial Exceptionを追加したクレーム 
駆動系システムの駆動軸の製造方法であって、
中空軸を準備する;
ライナーを調整し、準備する;
当該ライナーを前記中空軸に挿入する。
駆動系システムの駆動軸の製造方法であって、
中空軸を準備する;
ライナーを調整し準備する;
当該ライナーを前記中空軸に挿入する、wherein
前記ライナーの前記調整とは前記駆動軸の曲げモードの振動を
を減衰するための調整である。
上記のクレームが101条で拒絶されることはない。
但し、新規性欠如で間違いなく拒絶される。或いは
調整とは何なのか不明とし112条(b)項で拒絶される。
Am Axleでは曲げモードに振動を減衰するという特徴を
フックの法則によると述べている(筆者はフックの法則とは
F=kxと理解しており、Am Axleで述べている
フックの法則を理解できない。) 便宜上、上記クレームは
左コラムのクレームにフックの法則が追記されそれが利用
されていると理解しよう。