U.S. Supreme Court Decision

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Teva Pharm. USA Inc. v. SANDOZ, Inc.

U.S. No. 13-854

2015/01/20

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クレーム解釈の基礎となる地裁の事実認定に

対する控訴審(Fed. Cir.)によるレビュ基準は

DE NOVOではなく、CLEAR ERROR(明白な

間違いがあったか?)である。

By Tatsuo YABE

2015-01-21

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合衆国最高裁(72)は、クレーム解釈の基礎となる地裁の「事実認定」に対する控訴審でのレビュー基準はCLEAR ERROR基準(de novo基準を否定)が妥当するとした。

 

本事件の争点(控訴審における地裁のクレーム解釈に対するレビュ基準)は1995年のMarkman判決(CAFC大法廷判決)で始まり、翌年1996年のMarkman最高裁判決、そして1998年のCybor判決(CAFC大法廷)を経て2014年にLighting Ballast判決(CAFC大法廷)に至った。 CAFC大法廷判決(Markman: Cybor: Lighting Ballast)は全て満場一致ではないが多数意見では地裁のクレーム解釈に対しては事実判断であるか否かに拘らずde novo基準が妥当するとした。2014年のLighting Ballastにおいては64で際どいところでCybor判決の判示(de novo基準)が先例の拘束性という消極的理由でもって支持された。Cybor判決及びLighting Ballast判決において元Judge Raderは真っ向から反対意見を述べていた。特にCybor判決においてJudge Rader1996年のMarkman最高裁判決を引用し、最高裁は地裁でのクレーム解釈に事実審理を基礎とする場合があることを明言していることを強調していた。 今回の最高裁判決はCybor判決で元Judge Raderが指摘していたように自身のMarkman判決において地裁の事実認定に関してもde novoレビューをすることを認めていないとした。 最高裁は自身のMarkman判決での争点は憲法修正第7条に鑑みた陪審の役割に焦点を絞ったと述べている。

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そもそも1996年のMarkman判決において今回の争点に関して最高裁がもう少し明瞭に言及できたのにそれをしなかったことで約20年経過した今になって当時のMarkman判決で言及できたであろうことを最高裁が名言した。然るに、1998年のCybor大法廷判決及び2014年のLighting Ballast大法廷判決は共に否定されたことになる。

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今回の最高裁判決の直接的な影響は、地裁における外部証拠(辞書、他の文献、専門家証言)が以前よりも重要になることが予想される。クレーム解釈において事実認定の占める割合が高い事件であればあるほど控訴審で地裁判決が破棄される可能性は低くなるであろう。然し、専門家の証言に依存しないとクレーム解釈を完結できないというようなクレームと明細書は決して望ましいものとはいえない。 2014年のNautilus最高裁判決でクレームの明瞭性の判断基準が厳しくなった(*1)こともあり、今後は可能な限り内部証拠(出願書類と経過書類)でクレーム解釈を完結できるように明細書を作成するのが望ましい。 

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(*1) CAFCの判断基準、即ち、「クレームが解消不能(insolubly ambiguous)な程度まで不明瞭な場合に112(2)項の要件を満たさない」を否定し、「明細書および経過書類を参酌しても当業者が合理的な確証をもって発明の権利範囲を理解できない場合には112(2)項の要件を満たさない」とした。

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尚、本事件の当事者間における重要争点はクレームの明瞭性(112条第2項)であった(クレームで規定された分子重量”Molecular weight”という用語が明瞭か否か)。然し、地裁及び控訴審の判断は201462日のNautilus最高裁判決の前になされているので、差戻し審(CAFC)においてはこの判例法の変更も考慮に入れられるべきであろう。 本最高裁判決において2014年の自身のNautilus判決を2か所(多数意見)記載しているものの控訴審に差し戻すにあたりその点を言及していない。(以上筆者)

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最高裁での争点:

 “Whether a district court’s factual finding in support of its construction of a patent claim terms may be reviewed de novo, as the Federal Circuit requires (and as the panel explicitly did in this case), or only for clear error, as Rule 52(a) requires.”

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上級審(CAFC)は、クレーム用語の解釈の基礎となる地裁での事実認定を「de novo基準」でレビュするべきか、それとも連邦民事訴訟規則52(a)に基づき「clear error基準」でレビュするべきか?

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最高裁の判断(7:2):

クレーム解釈の基礎となる地裁の「事実認定」に対する控訴審でのレビュー基準はCLEAR ERROR基準が妥当する。

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Breyer裁判官による多数意見:

連邦民事訴訟規則52(a)(6)は、下級審で認定された事実は明白な間違い(clear erroneous)がない限り控訴審で否定できないと明白に規定している。当該規定は副次的事実の認定と究極的事実の認定の両方に適用される。Markman判決(1996年最高裁判決)は、憲法修正第7条に鑑み、クレーム解釈は裁判官の仕事かそれとも陪審によるものかに焦点を合わせた判決であって、連邦民事訴訟規則52条に例外を設定したわけではない。 Markman判決はクレーム解釈の究極判断は法律問題として処理されるべきであるが、クレーム解釈をする上で証拠の基礎とするために裁判官は事実論争を解消する必要があると述べた。 さらに、最高裁は事実論争には明白な間違いの(CLEAR ERROR)基準を、クレーム解釈の最終的な判断に対してはDE NOVO基準を採用することで訴訟を進行するのが困難になる、或いは、クレーム解釈に統一的見解を出すという控訴審の役割を妨げることになるという主張には説得力がない。

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さらに、地裁裁判官が事実論争を解決するのに控訴審の判事よりも遥かに恵まれたポジションにある(アクセス可能な証拠が充実)。

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本最高裁判決の判示を適用する場合、例えば、地裁において内部証拠(出願関係書類)のみでクレーム解釈をした場合には地裁判事の判断は純粋に法律問題と理解されるので、控訴審におけるレビュはDE NOVO基準が妥当する。 しかし地裁におけるクレーム解釈をするときに内部証拠を超えて外部証拠の収集が必要になる場合がある。 例えば、背景技術の理解、問題となる時代(時期)における技術用語の意味合いを理解するのに外部証拠を基礎とする副次的な事実認定をする必要が生じる場合がある。 これら事実認定がクレームを解釈する上で証拠の基礎となる場合があることをMarkman判決で論じた、そしてこの副次的な事実認定は控訴審において明白な間違いがあったか否かという基準(CLEAR ERROR基準))でレビュすることが妥当する。 仮に、その副次的な事実認定が究極の法律問題を解決するとしても、当該副次的事実問題を法律問題に変更できない。

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■反対意見(2名:Thomas裁判官とAlito裁判官)

連邦民事訴訟規則52条で規定された事実認定の控訴審のレビュ基準は、特許クレームの解釈には適用されない。何故なら、クレーム解釈は法律問題であって事実問題ではないからである。 最終的なクレームの意味合い(解釈)は条文の解釈と同様に、概して公共を拘束することになるので、特定の侵害訴訟の事件で提示された特定の証拠に委ねられるべきではない。

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■事件の背景:

Tevaは多発性硬化治療薬の製造方法に関する特許の権利者である。TevaSandozを相手に米国特許法第271(e)(2)(A)を基に侵害訴訟を提起した。 

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地裁:

Sandozは、Teva特許のクレーム用語“molecular weight”の意味合いは三種類の解釈(明細書に3つの算出手法が例示されていた)があり、いずれで解釈するべきかが不明であるとして112条(2)項の要件を満たさないとして特許無効を主張した。 地裁はTevaSandozの専門家証言を考慮したうえでTevaの専門家証言に理があると判断した(即ち、Sandozの専門家証言を否定した)。 Tevaの専門家証言では、クレームの用語“molecular weight”は明細書に開示された3つの手法のうちの第1手法と当業者が理解できる。 従って当該用語は解消不能な程度に不明瞭であるというSandozの主張を否定した。 依って、地裁は問題となるTeva特許の有効性を維持し、Sandozの販売を意図する行為を侵害[271(e)(2)(A)侵害]と判断した。

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控訴審:

当該クレーム用語は不明瞭であるとし、地裁判決を破棄・差し戻しした。控訴審は、問題となる特許の内部証拠によって当該クレーム用語の不明瞭さは解消されないと判断した。 控訴審は地裁で採用されたTevaの専門家証言は説得性がないと判断した。

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最高裁判決:

控訴審判決を破棄・差し戻し。

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控訴審の地裁事実認定に対するレビュー基準に関する判例:

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Markman I (Markman v. Westview)

Fed. Cir. en banc – 1995

Claim construction is a question of law to be decided by a judge. The appeal court should review an interpretation of claim with de novo standard.

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発明者Markman氏のUS4550246から派生した再発行特許33054号:

商品の管理・報告システムに関する特許:データ入力装置と処理装置、および、プリンター(バーコード情報を出力し、商品に附ける)。

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クレーム110means to maintain an inventory total…to generate a report of the total and the transaction….the system can detect and localize spurious additions to inventory as well as spurious deletions therefromで使用されている用語 inventory”がクリーニングの対象物以外にも金銭(ドル)を含むのか否かが争点となった。Westviewの装置はドライクリーニングの管理システムに関するものだが、金銭支払いを追跡できるがクリーニングの対象物の行方を追跡できるものではない。 

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Correctly reasoning that claim construction is a matter of law for the court, the district court (非侵害)properly rejected the jury‘s verdict (侵害と判断した)and granted JMOL. Upon our de novo review of the court’s construction of the claim language, we agree that “inventory” in claim 1 includes within its meaning “articles of clothing.” It is undisputed that Westview‘s device does not and cannot track articles of clothing. Accordingly, there is no substantial evidence to support the jury’s finding of infringement of claims 1 and 10 of United States Reissue Patent No. 33,054 when those claims are correctly construed. The district court‘s grant of judgment of noninfringement as a matter of law is AFFIRMED.

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Markman II (Markman v. Westview)

Supreme Court – 1996

Claim construction of a patent, including terms of art within a claim, is exclusively within the province of the court.  Did not directly address the issue of the proper standard of review by an appellate court.

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争点:クレーム解釈は法律問題であり裁判官にその全てが委ねられるべきか、それとも合衆国憲法修正7条に基づく陪審によるものか?

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修正7条(陪審裁判を受ける権利)は英国のコモンローに由来するものである。 侵害裁判は陪審裁判が実施されていることに疑問の余地はない。 しかしクレーム解釈が陪審或いは裁判官によるものかに対する先例による明白な回答はない。コモンローの形成段階において修正7条がクレーム解釈に適用されることに必然性を持たせていない。

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Where history and precedent provide no clear answers, functional considerations also play their part in the choice between judge and jury to define terms of art. We said in Miller v. Fenton, 474 U.S. 104, 114 (1985), that when an issue "falls somewhere between a pristine legal standard and [ MARKMAN v. WESTVIEW INSTRUMENTS, INC., ___ U.S. ___ (1996) , 17]   a simple historical fact, the fact/law distinction at times has turned on a determination that, as a matter of the sound administration of justice, one judicial actor is better positioned than another to decide the issue in question." So it turns out here, for judges, not juries, are the better suited to find the acquired meaning of patent terms.

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Accordingly, we hold that the interpretation of the word "inventory" in this case is an issue for the judge, not the jury, and affirm the decision of the Court of Appeals for the Federal Circuit.

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Cybor Corp. v. FAS Tech:

Fed. Cir. en banc – 1998

Claim construction should be reviewed by appellate court by de novo because it is a question of law. Judge Rader dissents, arguing that the Supreme Court’s language in Markman II repeatedly suggested that claim construction is not a pure issue of law.

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特許:US5167837FAS-Tech): Fluid Dispensing System

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CyborFAS相手にDJアクション(非侵害、無効、権利行使不能)を起こした。 FASは反訴でCyborの侵害を主張した。 陪審(地裁)はFASのクレームは有効で侵害と判断した。 CAFCは大法廷で審理し地裁判決を支持した。 

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大法廷での争点は地裁のクレーム解釈に対する控訴審(上級審)におけるレビューの基準である。

多数意見は最高裁Markman II 判決でフルサポートがあるとし de novo reviewが妥当すると判断した。

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En banc多数意見:

1996年の最高裁判決(Markman II)で、1995年のMarkman判決(CAFC大法廷決:Markman I)が支持されたという理由で、クレーム解釈は純粋に法律問題であって上級審においてde novo基準でレビュされると判示した。

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★ Plager判事の意見:

CAFCが地裁のクレーム解釈を de novo基準でレビュすると言えども地裁判事の判断を無視することはできない。多数意見はCAFC判事と弁護士がクレーム解釈をするときに、地裁のクレーム解釈の基礎となる判断事項が、事実問題と法律問題のどちらに依存するものかを判別する猥雑さから解放するのみであると述べた。多数意見は、CAFCにおけるクレーム解釈に対するレビュの仕方を容易にしたのみである。

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★ Bryson判事の意見:

クレーム解釈は法律問題であるがCAFCは地裁のクレーム解釈を無視できない。

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★ Mayer判事の意見:

CAFCの地裁判断(クレーム解釈)に対するレビュ基準は、最高裁判決(Markman II:1996)に従うべきであり、自身のMarkman I(1995)判決ではない。 Markman IIにおいて最高裁は法律問題に対する判断基準が de novoであるということを言及するのを意図的に避けたのである。地裁においてクレーム解釈にとって重要な事実判断を要するときがある。 例えば、当業者の理解に関し相反する証拠の信ぴょう性を判断しなければならないときがある。裁判官がそのような事実判断をした場合にはde novo基準ではなく、

尊重されるべきである。

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★ Rader判事反対意見

Markman IIにおいて最高裁はクレーム解釈は純粋に法律問題ではないことを示唆している。 De novo基準を採用すると地裁の主たる役割を脆弱にし、訴訟の勝敗の予想を不安定にすることにつながる。即ち、クレーム解釈は結局CAFCで審理されるまで不確定ということになる。多くの場合に地裁判事の方がCAFC判事よりもクレーム解釈に対して有利な立場にある(CAFCでは見れない証拠を判断できる立場にある)。地裁判事のクレーム解釈に一定の敬意を称することで地裁がその本来の任を果たし、特許訴訟における初期段階で訴訟の行方が明確になる。

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Lighting Ballast  v. Universal Lighting Tech:

Fed. Cir. en banc – 2014/02/21

争点は1998年のCybor事件の大法廷判決(クレーム解釈は純粋に法律問題であって裁判官の専権事項であり、上級裁判所は下級審裁判所の判断を尊重する必要はない。)を支持するべきか否かであった。 今回10名の判事による大法廷の多数意見(6:4)で1998年のCybor判決を支持すると判断された。

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Cybor判決を支持するとした多数意見の主たる理由は「先例の拘束性」であり、法の安定性と予見可能性を維持するために「先例の拘束性」を否定あるいは修正する場合には切迫した理由が存在するべきであるとしている。Cybor判決の法理が過去15年間(1998年より今日まで)で機能していないという顕著な例がないこと、さらに、本裁判に対して提出された21通の裁判所の助言者による意見、さらには、本法廷(CAFC)の反対意見においてもCybor判決をどのように変更するべきか、あるいは、Cybor判決よりも適切に運用できそうなレビュ基準が提案されていないとしている。 

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