CAFC判決 SONIX
v. Publication International, Ltd., et al 2017年1月5日 Claim
Term, “Visually Negligible”,
is NOT Indefinite under 112, 2nd Summarized
by Tatsuo YABE – 2017-03-05 |
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本事件ではクレームの”visually negligible(目視で無視できるレベル)”という用語が112条第2項の要件(明瞭性)を満たすか否かが争点となった。地裁では112条第2項の要件を満たさないと判断した。CAFCは地裁の略式判決を破棄した。地裁もCAFCも共に最高裁のNautilus判決(2014年)の基準(明細書と経過書類を参酌し、クレームの意味合い「権利範囲」を当業者に合理的明白性をもって(with
reasonable certainty)通知できるか否か)を採用した。CAFCが明瞭であるという判断に至った主たる理由は、[i]
明細書にその度合いを当業者が再現できるレベルに実施例(説明)が充足していたこと、さらに、[ii]
訴訟が提起され被疑侵害者が26項目のクレーム用語に対して112条第2項の明瞭性の要件を満たさないと主張していたのに拘わらず当該用語は26項目の中に含まれていなかった(事実、訴訟開始後7年もの間、当該用語は争点にはならなかった)。さらに当該用語が112条第2項の要件を満たすか否かの地裁判断において主として内部証拠を基礎としていることがある(内部証拠を基礎とする地裁の事実認定に対してはde
novo基準によってCAFCで審理される)。
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本判決からのレッスンとしては、クレームで主観的な用語(即ち、定量的な表現ができない程度、度合いを示す用語)を使う場合には、その「程度」を当業者が理解できる(つまり、再現できる)ように明細書で開示しておくことが重要である。言い換えると112条第2項の明瞭性の要件を満たさないという場合には112条第1項の実施可能要件(明細書を参酌して過度の実験をすることなく当業者が発明を実施できるか否か)をも満たさないということになる。(以上筆者)
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特許権者:SONIX
被疑侵害者: Publication
International Ltd.,
SD-X Interactive, Inc., Encyclopedia Brittannica,
Inc., Herff Jones, Inc.,
問題となった特許の概要:US
7,328,845(以下845特許と称する)
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明細書(概要) |
図5 |
845特許はグラフィック表示技術と当該表示との関連技術に関する。一つの実施例としては図5に示すように、紙などの媒体にアイコン511がプリントされており、当該アイコン511と同じ領域にグラフィック表示(情報)512が肉眼では見えない程度に小さくプリントされており、電子システム31を当該アイコン511に向けることでグラフィック表示情報512が読み取られ電子処理され、目視可能な情報と音声による説明がなされる。 |
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図12A 図12B |
図12Aのように画像(Object)にバーコード(グラフィック表示)が重ねてプリントされたような技術はかなり昔からあるが、本願においては図12Bに示すようにバーコードに相当する情報がグラフィック表示部10002に含まれており、目視で無視できるレベルで印字されていると述べている。 |
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CAFC判決で争点となったClaim
1
A
processing system comprising: |
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本事件の背景:
845特許は2回の査定系再審査を経たものである。2013年、SONIXはPublication
International社を含む出版会社(以下、被疑侵害者と称する)を相手に侵害訴訟を提起した。被疑侵害者は845特許クレームの26項目の特徴(クレームの文言)を112条2項の明白性を満たさないとして845特許の無効を主張した。その26項目の特徴(クレームの文言)の中に本事案で争点となった”visually
negligible(目視で無視できるレベル)”という文言は含まれていなかった。さらに、権利者と被疑侵害者の両専門家の証言記録においても”visually
negligible”という用語が何度も繰り返され、当該用語が不明瞭であるという記録はない。
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“Visually
negligible”という用語が争点となったきっかけは権利者側の専門家(Ashok博士)のデポジションにおいて当該用語の客観的な基準があるのかという質問がなされた時点である。Ashok博士は当該用語のユニバーサルな基準はないが、拡大表示しないと目視できないというレベルであると述べた。被疑侵害者側の専門家(Engels博士)は自身のデポジションにおいて“visually
negligible”という用語は主観的に判断されるものであって、”visually
negligible”と”visually non-negligible”との境界線を規定する客観的なテストはないと述べた。これら両当事者のデポジションの記録を基に、被疑侵害者は845特許の無効理由を補正し、当該用語の不明瞭性を主張し地裁に略式判決を求めた。
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地裁は、内部証拠(出願書類及び経過書類)を参酌し、”visually negligible”というクレームの用語はその意味合いを当業者に合理的な明白性をもって伝えることはできない[Nautils
v. Biosig: 2014年最高裁]とし、845特許のクレームは不明瞭であると判断した。
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■ CAFC判決の概要
CAFCは上記地裁判決を破棄した。地裁判決の概要は以下のとおり:
(尚、外部証拠を基礎とする地裁の事実認定を除いてCAFCにおけるクレームの112条2項適合性のレビュ基準はde
novoである。)
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112条2項の適合性の判断は2014年の最高裁判決(Nautilus)に準ずる。即ち、明細書と経過書類を参酌し、クレームの意味合い(権利範囲)を当業者に合理的明白性をもって(with
reasonable certainty)通知できるか否かである。Nautilus判例においてもクレームの用語に絶対的な明白性を期待することはできないと述べている。しかしクレームの明白性とは合理性(妥当性)を超えるレベルではない(1916年最高裁判決:Minerals
Separation Ltd., v. Hyde)。長年に渡り度合いを示すクレーム用語は明瞭であると判断されてきた。
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昨今の判決との比較:
Enzo事件(Pre-Nautilus事件)において”not
interfering substantially”という用語は内部証拠を参酌すると不明瞭ではないと判断された。しかし、Interval
Licensing事件(Post-Nautilus事件)において”in
an unobstrusive manner that does not distract a user”という用語、及び、Datamize事件(Post-Nautilus判決)における、”aesthetically
pleasing”というクレーム用語は不明瞭であると判断された。
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明細書を参酌し”visually
negligible”というレベルを測定できる記載がある。Enzo事件においても“not
interfering substantially”という用語の度合いを当業者が理解するための例示がある。しかし、Interval
Licensing事件においては度合いを理解するための開示がなかった。同様に、Datamize事件においても“aesthetically
pleasing”という用語の意味合いを理解するための例示或いはそれを満たすための因子(要素)明細書に開示されていない。Datamize及びInterval
Licensingと比較すると、845特許の明細書にはかなり詳細に“visually
negligible”の度合いを当業者が理解するための説明がある。
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明細書における”visually
negligible”に対する説明:
845特許の明細書にグラフィック表示を目視で無視(“visually
negligible”)できるレベルにするための識別可能性、明るさ、均一さ、に関して説明されている。一例としてMatrix状に配置された複数の小さなドット(人間の目には見えない程度の大きさ)で、ドットの大きさ、ドットの数、そのピッチ(密集度合い)などが記載されている。
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審査及び再審査の経過:
845特許は2回の再審査を経ているが、第1回目と第2回目の再審査において審査官及び再審査請求人において
“visually negligible”の解釈は争点にはならなかった(勿論、再審査において112条は無効理由にはならない:筆者)。第1回目の再審査は侵害を訴えられたSunPlus社によって申請されたがすべての845特許のクレームは維持された。 第2回目の再審査はGeneralPlus社によって申請され、申請人はLamoure(USP
5,416,312)とPriddy
(USP 5,329,107)を引用しクレームの自明性を主張した。それに対して権利者側の専門家Serjersen氏(30年の経験)は845特許の開示に基づくグラフィック表示とLamoureとPriddyに基づくグラフィック表示を再現し、845特許に基づき作成されたグラフィック表示の方のみが”visually
negligible”であることを宣言書で説明し、審査官もSerjersen氏の説明に同意し、再審査請求人の主張を否定した。
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訴訟における争点:
2013年に訴訟が提起され26項目にも及ぶクレームの用語が不明瞭であると被疑侵害者側が主張していたにも拘わらず、訴訟開始後7年にも及ぶ期間において”visually negligible”という用語の明瞭性が争点になっておらず、権利者側の専門家、Ashok博士のデポジションで初めて争点となった。但し、Ashok博士の証言において”visually
negligible”という表現の万人に共有される基準はなく、その度合いを説明することができなかったということであって、不明瞭であるという結論には至っていない。被疑侵害者側の専門家、Eagles博士において当該用語が不明瞭であって当業者が理解できないとは証言していない。
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注意:
注記すべきは、本判決において明細書において用語の度合いを示す例示(Examples)が開示されているからと言ってクレームが明瞭であるとは断言できない。あくまで明細書の開示内容及び経過書類を参酌しクレームが明瞭であるか否かを判断しなければならない。本事件においては、”visually
negligible”という用語は単に主観的なものではなく、明細書の開示内容及び経過書類に鑑み”visually
negligible”という用語の意味合い(権利範囲)を当業者に合理的な確証を与えるレベルで通知できると判断される。
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結論:
上記理由により下級審の判決(クレームは不明瞭である)を破棄する。
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