CAFC判決 SKKY v. MINDGEEK 2017年6月7日 | By Lourie, Reyna, Wallach, Circuit
Judges Wireless Device Meansは112条6項解釈されず。 Summarized
by Tatsuo YABE – 2017-08-03 |
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本事件は112条6項解釈に対する興味深い判決である。7年
(2002/6/26 – 2009/6/16)にもわたる審査経過中の最終ステージで出願人は引例と識別するべくクレームを補正をした。出願人はクレーム1に、wireless
device meansという用語(明細書にはwireless
deviceという用語が使用されているが、敢えて、meansという用語を付記した)を追加し、6項解釈(MPF解釈)を意図し、明細書の開示と均等物という減縮解釈を希望した。7年にも及ぶ審査で、出願人の熱意に根負けしたと思われる(??)審査官は出願人の追加したwireless
device meansという用語に6項解釈を適用し、引例と識別されたとし権利化に至った。875特許は2008年12月に許可とされたが、この当時の審査においては6項解釈に対して厳格な基準を適用することなく6項解釈をするか否かはどちらかというと審査官の裁量に任せて運用されていた。6項解釈をしたか否か、6項解釈をした場合には当該用語の解釈を拒絶通知
(Office Action) に記載することになったのは”Make
Record Clear”という合衆国政府の方針で2011年以降である(要はトロール対策の一環として審査官がどのようにクレームを解釈したかをOAに明瞭に記録することが義務付けられた。即ち、6項解釈されたか否かが明白に記録に残ることでトロールの理不尽なクレーム解釈を少しでも是正できるという趣旨だった)。
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1. A method of wirelessly delivering over the air one or more
digital audio and/or visual files from one or more servers to one or more wireless device means comprising:
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compressing said one or more digital audio and/or visual files,
wherein said audio and/or visual files comprise one or more full or partial
master recordings of songs, musical scores or musical compositions, videos or
video segments, movies or movie segments, film or [film] segments, one or more
image clips, television shows, human voice, personal recordings, cartoons, film
animation, audio and/or visual advertising content and combinations thereof, and
wherein said compressing comprises normalizing, sampling and compressing said
digital audio and/or visual files;
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storing compressed audio and/or visual files in one or more storage
mediums; and
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transmitting to said wireless device means said compressed
audio and/or visual files wirelessly over the air, with or without an Internet
network.
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(注意:2008年11月のクレーム補正時にはキャンセルされたクレームを含めて360項のクレームが記録されていた。上記875特許のクレーム1は2008年11月に補正されたクレーム219である)
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しかし被疑侵害者によって提起されたIPR(Inter
Partes Review)において当該用語には6項解釈は適用されないと判断され、一般的な意味合いで且つBRI基準で解釈すると判断され、出願審査において識別された引例を再度引用され自明と判断された。
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上記クレーム1から理解されるようにwireless
device meansはそもそもwireless deviceという構造体と理解されmeansという用語がおまけで付いているだけである。[例えば、a
spring(ばね、即ち、関西弁で云う“こてこて”の構造物)をa
spring meansとクレームしたようなものである]
さらに、wireless device meansには機能(例えば、for
… ing; configure to …等)が規定されていない。従って、2015年のWilliamson大法廷判決を適用することもなく6項解釈の適用を受けないと判断されるべきだったであろう。さらに、もし仮にwireless
device meansを6項解釈し明細書の開示に制限されたとしても出願人が意図したような引例と識別されるような減縮解釈はされないという結論に達した。即ち、明細書にはwireless
deviceに関する実施例が豊富であり、識別したい引例の開示も含むように記載されていた。
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追記:出願人が6項解釈を望むのであればクレーム補正としてwireless
device meansの代わりに、例えば、 means for
wirelessly transmitting and receiving the digital audio and/or visual filesという用語を追加するべきだったであろう。但し、本事案においては当該構成要素に対応する明細書の開示が充実しすぎていたので出願人の所望する減縮解釈(引例と識別されるような減縮解釈)はされなかったであろう。(以上筆者)
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以下CAFC判決の概要:
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特許権者:SKKY
被疑侵害者:MindGeek
USA Inc.; Playboy Enterprises Inc.
関連特許:USP 7,548,875(以下875特許)
特許発明の概要:
音声及び画像ファイルを搬送する方法に関する。875特許による従来例としては、工場でインストールされるか、インターネットを通じて直接ダウンロードされる音楽或いはビデオクリップが既存の装置では必要であるが、875特許の装置ではワイヤー連結されたデバイス或いはインターネットに接続されたコンピューターを利用することなく音楽或いは画像ファイルを閲覧し、ダウンロードし、視聴できる。875特許には幾つかの実施例が開示されており、その一実施例として当該機能を実現するためのソフトが製造時にインストールされた携帯電話がある。
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7年 (2002/06/26 –
2009/06/16) にも及ぶ審査中には何度も拒絶理由を受けた。最終的には、ネットワークを介してワイヤーレスで音楽を送信することを開示したRolf引例(US7,065,342)を審査官が引用した。当該拒絶理由を解消するために出願人がクレームにwireless
device meansを追加し、審査官が112条6項解釈したことでRolf引例と識別されると判断され許可となった。
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MindGeek社は875特許を無効にするべくIPRを申請した。PTAB(特許庁審判部)はIPRを開始することを決定した。IPRを開始するという初期の決定時においてもPTABはwireless
device meansは112条6項の適用を受けないと判断した。IPR審理中に、Skkyはwireless
device meansが6項解釈されないとしても当該構成要素は特別のプロセッサを含む複数のプロセッサに限定的に解釈されると主張した。IPRの最終判断(審決)においてもwireless
device meansには機能が規定されていないので6項解釈は適用されないと判断し、当該構成要素(wireless
device means)は複数のプロセッサを含むとは解釈されないと判断した。依って、Rolf引例はクレームのwireless
device meansを開示していると判断し、OFDM/FM引例と組み合わせて875特許クレームを自明であり無効と判断した。
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代表的なクレーム:
クレーム |
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1. A method of wirelessly delivering over the air one or more
digital audio and/or visual files from one or more servers to one or more wireless device means comprising: compressing said one or more digital audio and/or visual files,
wherein said audio and/or visual files comprise one or more full or
partial master recordings of songs, musical scores or musical
compositions, videos or video segments, movies or movie segments, film or
[film] segments, one or more image clips, television shows, human voice,
personal recordings, cartoons, film animation, audio and/or visual
advertising content and combinations thereof, and wherein said compressing
comprises normalizing, sampling and compressing said digital audio and/or
visual files; storing compressed audio and/or visual files in one or more
storage mediums; and transmitting to said wireless device means said compressed audio and/or visual files wirelessly over the
air, with or without an Internet network. |
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第1争点:
PTAB(審判部)の判断、即ち、「875特許クレームの構成要素”wireless
device means”に112条6項解釈を適用しない」は正しいか?
第2争点:
PTAB(審判部)の審決、即ち、「875特許のクレームはRolf引例と他の引例と組み合わせて自明」は正しいか?
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第1争点:
クレームの構成要素に6項解釈を適用するか否かの判断は法律問題であり、de
novo基準(下級審の判断に一切拘束されない)で審理する。IPRにおけるクレーム解釈はBRI基準(Broadest
Reasonable Interpretation)が適用される (Cuozzo Speed Techs
LLC v. Lee:
最高裁2016年)
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6項解釈するか否かはWilliamson判決(Williamson v. Citrix
Online:
Fed. Cir. 2015)の法理を適用する。即ち、meansという用語が使用されているかではなく、問題となる構成要素を構造で規定していると当業者が理解できるか否かで判断する。wireless
device meansという用語自体に構造(wireless
deviceという用語自体が構造と理解される)が規定されており112条6項解釈を適用しないというMindGeekが主張に同意する。審査官は当該構成要素を6項解釈した理由を明示していない。仮に審査官が理由を明示していたとしてもCAFCは審査官の判断に拘束されない。
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Skkyはwireless device meansが6項解釈されないとしても圧縮された複合媒体データを処理する特別のプロセッサを含む複数のプロセッサに限定的に解釈されると主張するが説得性がない。875特許には確かにwireless
deviceは複数のプロセッサを含む実施例を開示しているが、プロセッサを一つ使用する実施例も開示されている。さらにソフトウェアの実施例に875特許の発明は別売のハードを使用することなく既存の携帯電話でも実施可能であると記載されている。
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然るに審判部の6項解釈を適用しないとした判断(審決)を支持する。
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第2争点:
上記したようにwireless
device meansには6項解釈が適用されないという審判部の判断は正しい、且つ、審判部のクレーム解釈は妥当する。故に問題となった875特許のクレームは自明であるという審決を支持する(詳細な理由は割愛する。結論のみ)。
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Reference:
2008年11月25日に提出されたクレーム補正。以下のクレーム219が許可され875特許のクレーム1となった。[近年では信じがたいほどのクレーム数である。合計1〜360]
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