CAFC判決 Samsung
Electrics America v. PRISUA Eng’g Corp. 2020年02月04日 OPINION
by Chief JUDGE Prost: Newman and Bryson IPR手続き進行中にクレームが不明瞭で新規性及び進歩性の判断ができない という理由でPTABはクレームを無効にできるのか? | Summarized by Tatsuo
YABE – 2020-02-25 |
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本判決はIPR手続きにおけるPTABの権限に関する。2011年に成立したAIA米国特許法大改正によってPTAB
(Patent Trial and Appeal Board: USPTO)での無効手続きが2つ誕生した。一つはPGRで特許成立後9か月以内に申請可能であり無効理由は101条、112条、102条、103条と特許適格性と特許性の要件でクレームの無効を主張できる。もう一つはIPRであり成立後9か月以降であれば何時でも申請できる手続きではあるが無効理由は102条の新規性と103条の自明性に限られる。且つ、無効証拠は特許及び刊行物でありPublic
Use等は証拠として利用できない。
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本事案ではIPR申請(Reasonable
Likelihood that the petitioner would prevail at least one claim challenged in
the petition)が認められたがPTABはIPR審理途中で問題となる特許クレームが不明瞭であり新規性と自明性の判断ができないと結論づけた。CAFCはIPR手続きにおいてPTABにクレームを不明瞭と判断し無効にする権限はないと断言した。本来であればIPR申請時にクレームが不明瞭であり新規性及び自明性の判断ができないとしPTABはIPR手続きの申請を却下するべきであった、或いは、新規性及び自明性の判断が可能なクレームに絞りIPR手続きを認めるべきであった。然しIPR手続きが開始された以上はSAS
Institute判決(2018年最高裁判決)の基に、仮にクレームが不明瞭であったとしてもPTABはIPR申請時の対象となるクレーム全てに関して新規性及び自明性の判断をするべきであるとし差戻した。
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さらにもう一点はクレームの”digital
processing unit”という構成要素にMPF解釈を適用するか否かであった。PTABは当該構成要素はMPF解釈されるとし、当該構成要素に対応する構造物が明細書にないという理由でクレームを不明瞭と判断した。CAFCは当該構成要素はコンピュータ或いはCPUの代わりを意味し、それらは構造であると理解されるとしMPF解釈されないと判断した。(実務上も審査においてdigital
processing unitはCPU(即ち、Structure)であり、MPF解釈されることはない、仮にMPF解釈されたとしても反論可能である)
(以上筆者)
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■ 事件の背景:
Prisua氏はSamsungの携帯電話などに搭載されている「Best
Face」というアプリが自身のUSP8650591を侵害しているとし侵害訴訟を提起した。Samsungは当該特許クレームを無効にするべくIPR(PTAB)を申請した。当該申請が認められたがPTABにおいてUSP591のクレーム11は自明であり無効、しかしクレーム1-4,8に関しては新規性或いは自明性の判断をせずには不明瞭であると結論づけた。SamsungはPTABはUSP591特許のクレーム1-4,8をキャンセルするべきである、或いは、PTABは当該クレームをキャンセルする権限がないとするならばそれらクレームの新規性と自明性を判断するべきであるとしCAFCに控訴した。
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■ 特許権者:PRISUA
ENG’G Corp.,
■ 関連特許:USP
8,650,591
■ IPR申請人:SAMSUNG
Electrics America
■ 特許発明の概要:
ビデオ編集装置に関し、所定のビデオデータの一部にユーザーの所望するデータを置換することを特徴とする。個人発明家(Prieto氏)の発明を基礎とする明細書で理解しがたいが唯一図3が示す通りで、一実施形態としてはゲーム装置の画面に表示される人物の顔をユーザーの選択するデータ画像150で置換することで図3の右図のようなビデオ編集画像となる。
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■ 代表的なクレーム:
クレーム1 |
Claim
1 of USP 8,650,591 |
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An interactive media apparatus for generating a displayable edited video
data stream from an original video data stream, wherein at least one pixel
in a frame of said original video data stream is digitally extracted to
form a first image, said first image then replaced by a second image
resulting from a digital extraction of at least one pixel in a frame of a
user input video data stream, said apparatus comprising: |
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591特許のクレーム1は、[1]編集されたビデオデータを生成する装置と方法を規定しているのでIPXL
Holdings v. Amazon.com (Fed. Cir. 2005)に鑑み不明瞭であり、且つ、[2]
クレーム1の“digital
processing unit”という構成要素にはMPF解釈が適用され、それに対応するstructureが明細書に欠落しているので591特許のクレーム1は不明瞭である。然るに当該クレームの新規性及び自明性を判断できない。
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■ 争点に関して:
第1争点:
PTABは、591特許のクレーム1は編集されたビデオデータを生成する装置と方法を規定しているのでIPXL
Holdings v. Amazon.com (Fed. Cir. 2005)に鑑み不明瞭であり新規性及び自明性を判断できないと結論づけた。この判断は正しいか?
第2争点:
PTABは、591特許のクレーム1の“digital
processing unit”という構成要素はMPF解釈され、それに対応するstructureが明細書に欠落しているという理由で不明瞭なのでその新規性及び自明性を判断できないと結論づけた。この判断は正しいか?
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■ CAFCの判断
第1争点に関して:
IPR手続きを遂行するPTABは先行技術文献(特許及び刊行物のみ)に鑑み新規性及び自明性のみを判断するInstitution(機関)でありクレームの112条要件を判断する場ではない。連邦議会は、PTAB(IPR手続き審理)に112条の要件(クレームの明瞭性等)を判断し、クレームをキャンセルする権限を与えていない。(PTABにおけるPGR(特許発効後9か月以内に申請)においてはその権限は与えられているが)
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591特許クレーム1が不明瞭であり新規性或いは自明性判断ができないということであればSamsungがIPRを申請した時点でIPR手続きを開始できないという判断をするか、或いは、新規性及び進歩性を判断できるクレームに絞りIPR手続きを開始するべきであった。
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しかし、この時点においては2018年の最高裁判決(SAS
Institute v. Iancu)に基づきIPR手続きで申請されたクレーム全てに関してPTABは判断をする義務を負う。
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PTABはクレーム1の新規性、自明性が判断できないという理由を”digital
processing unit”をMPF解釈しその対応するstructuresが明細書に無いという点を主たる理由としている。しかし、IPXL
Holdings v. Amazon.com判例よってクレームがなぜ不明瞭であり新規性及び進歩性判断ができないのかというPTABの説明は不十分である。そもそもIPXLにおいては、クレームが方法と装置の構成要素が混在しており、侵害・非侵害の判断ができないという判決であった。IPXL判決においてクレームが方法なのか装置のどちらで判断するべきかが決定できなかったとしても、それを理由にクレームの自明性に関しては言及していない。
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勿論、IPR申請人はPTAB以外のForumにおいてクレームが不明瞭であり無効とする判断を求めることも可能である。
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尚、以下の判決においてクレームが不明瞭で且つ自明であると判断されている。
Standard Oil Co. v. Am. Cyanamid Co.
(Fed. Cir. 1985); In re Collier (CCPA 1968)
従って、IPXL判決の基にクレーム1が仮に不明瞭であるとしても新規性及び自明性の判断ができないということにはならない。依って、差戻し審においてPTABはIPXL判決があるにせよ、IPR申請書の無効理由(新規性、自明性)に基づきクレーム1の新規性と自明性を判断するべきである。
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■ 第2 争点に関して:
クレーム1の”digital
processing unit”をMPF解釈するのは間違いである。まず最初にmeans
forという用語を使用していないのでMPF解釈しないという推定が働く。当該推定に反駁するには挑戦者(challenger)は当該構成要素に機能表現されているが当該機能を実現する十分な構造が規定されていないことを主張しなければならない。Williamson
v. Citrix Online (Fed. Cir. en banc: 2015)
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591特許クレーム1で使用されている”digital
processing unit”という用語は一般的なコンピューター或いはCPUの代わり意味することは明白であり(機能を実現するための如何なる装置も含むという意味ではなく)いずれも構造であると理解される。事実、PTABはクレーム11の”digital
processing unit”をMPF解釈していないということにも矛盾する。さらにクレーム1においてはキーボードなどのdata
entry deviceに作動連結されている(“digital
processing unit” be operably connected to a “data entry device”)と規定されており、この記載によってdigital
processing unitが構造体という意味合いで使用されているさらなる証拠となる。
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依って、クレーム1の”digital
processing unit”をMPF解釈したPTABの判断は間違いである。
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