Rivera v. ITC 112条第1項の開示要件 (Written
Description)に関するCAFC判決 2017年5月23日 Summarized by Tatsuo YABE – 2017-07-20 |
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2007年7月に出願され3度のRCE、インタビューも数回、100ページを超える審判趣意書、審査官によるクレーム補正、明細書補正を経て2014年5月に(7年もの月日を掛けて)権利化されたUSP8720320特許(一杯毎に抽出するコーヒーの抽出器に関する)のクレームの有効性が争点となった。そもそもは320特許を侵害しているとしてSolofill社を相手にITC(アメリカ国際貿易委員会)で差止を請求したがそもそもSolofill社は抽出器に用いられるコーヒーのカートリッジ(以下のK-Cupタイプの図を参照)を輸入しているのみで教唆侵害或いは侵害幇助も成立しないとして非侵害と判断した。そこで終われることなくITCにて問題となるクレームは112条第1項の開示要件を満たさないとして無効と判断された。
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320特許の発明は以下図で示すPodタイプとK-Cupタイプのコーヒーカートリッジの両方を一つのコーヒー抽出器で対応できるようにアダプターを改良したものである。以下の図にあるようにPodタイプもK-Cupタイプもそれぞれにフィルターが内在されているので、抽出器のコンテナーに載置するだけである。
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開示要件を満たさないと判断された理由を単純化すると、クレームで言及された「コンテナー(容器)がコーヒーの粉を保持する」という特徴のサポートがないと判断された。即ち、コーヒーの粉を保持するためにはフィルターの存在が必須となる。そもそも明細書にコンテナー(容器)という用語がない、コンテナーに類似する用語としてはreceptacleとかいう用語があるが、フィルターを内在するものではない。
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a container, disposed within the brewing
chamber and adapted to hold brewing material while brewed by a beverage
brewer, |
コーヒーの粉(brewing material)を保持するコンテナー |
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以下のようにクレームを補正することで開示要件を満たすのではなかろうか?以下のような補正であれば全く減縮補正なので再審査或いは再発行出願で対応可能と考えます。
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a container, disposed within the brewing
chamber and adapted to hold brewing material contained in a
filter while brewed by a beverage brewer, |
「フィルターに入ったコーヒーの粉(brewing
material contained in a filter)を保持するコンテナー」と記載するべきであった。 |
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本事件からのレッスン:
上記のように7年にも及ぶ審査段階で新規性・進歩性拒絶の対応にエネルギーを注ぎすぎ、112条第1項の開示要件の拒絶を受けていないとしても、権利化された後に(権利行使の段階で)開示要件違反で無効にならないかを出願人自身がクレームを最終チャックし、その危険性がある場合には自発補正することが重要である。(以上筆者)
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□□ 事件の概要:
特許権者:Adrian
Rivera
特許:USP
8,720,320号 (以下320特許)
被疑侵害者:Solofill,
LLC,
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Podタイプ |
K-Cupタイプ |
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問題となった特許発明の概要:
一杯毎にコーヒーを抽出するコーヒー抽出器(coffee
brewer)には通常2種類があり、上記2種類のPodタイプとK-Cupタイプのそれぞれ対応できるように構成されている。言うならば、Podタイプのカートリッジ用にはPタイプのコーヒー抽出器(簡易な構造で、カートリッジの載置部は浅底で、ニードル構造がない)、K-Cupタイプのカートリッジ用にはKタイプのコーヒー抽出器(Keurig®という市販品がある。カートリッジ内部に湯を注ぎこむため上面を貫通するニードル構造)を使用する。2種類のコーヒー抽出器を備えるのはスペース面・コスト面でもユーザーにとって好ましくない。そこで320特許はPodタイプとK-Cupタイプのカートリッジの両方に対応できるようにアダプターを備えたコーヒー抽出器を開発した。特許性に寄与した特徴は、例えば以下図4に示すようにコンテナーの底206の下側に設けられたニードル構造406が当該底206の上面に突出しないように調整されている点である。
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問題となった代表クレーム:
5. A beverage brewer, comprising:
a brewing chamber;
a container,
disposed within the brewing chamber and adapted to hold brewing material while
brewed by a beverage brewer, the
container comprising:
a receptacle configured to receive the brewing material; and
a cover;
wherein the receptacle includes
a base, having an interior surface and an exterior surface, wherein at least a
portion of the base is disposed a predetermined distance above a bottom surface
of the brewing chamber, and
at least one sidewall extending upwardly from the interior surface of the base,
wherein the receptacle has at least one passageway that provides fluid flow from
an interior of the receptacle to an exterior of the receptacle;
wherein the cover is adapted to sealingly engage with a top edge of the at least
one sidewall, the cover including an opening, and
wherein the container is adapted to accept input fluid through the opening and
to provide a corresponding outflow of fluid through the passageway;
an inlet port, adapted to provide the input fluid to the container; and
a needle-like structure, disposed below the base;
wherein the predetermined distance is selected such that a tip of the
needle-like structure does not penetrate the exterior surface of the base.
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争点:
第1争点:
K-Cupタイプのカートリッジを輸入する行為は320特許を侵害(教唆侵害或いは侵害幇助)となるか?
第2争点:
320特許の明細書(開示:pod;
pod adaptor assembly; receptacle )はクレームのcontainerに対する開示要件(112条第1項)を満たすか?
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CAFCによる結論:
第1争点:
Solofill社の輸入行為は320特許の侵害(教唆侵害或いは侵害幇助)とはならない。
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第2争点:
320特許クレーム5-7,
18及び20は112条第1項の要件を満たさないので無効。
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適用される法律:
米国特許第112条1項:
The specification
shall contain a written description
of the invention, and of the manner and process of making and using it, in such
full, clear, concise, and exact terms as to enable any person skilled in the art
to which it pertains, or with which it is most nearly connected, to make and use
the same, and shall set forth the best mode contemplated by the inventor or
joint inventor of carrying out the invention.
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Ariad
Pharm, Inc. v. Eli Lilly (Fed. Cir. 2010)
A
specification has an adequate written
description when it “reasonably conveys to those skilled in the art that
the inventor had possession of the claimed subject matter as of the filing date
of the patent.
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判決に至った理由:
クレームのcontainerはbrewing
chamber内部に取付け、飲料抽出器(a beverage
brewer)によって飲料を抽出する間、飲料材(beverage
material)を保持すると規定されている。
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a container, disposed within the brewing chamber and
adapted to hold brewing material
while brewed by a beverage brewer,
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尚、ここでbeverage
materialとは図1A(従来例の説明図)の抽出カートリッジ12のフィルター材18内に含有された飲料の原料16(例:コーヒーの粉)である。
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明細書にはcontainerという用語は記載されていないが、それに対応しそうな”pod
320”, “pod adaptor assembly 300”, “receptacle 302”という用語とそれらに対する説明がある。Podはクレームのcontainerのサポートにはならない、何故なら開示された実施例の全てがpodとcartridge(或いはcontainer)とを別個のものとして説明している。さらに、320特許の発明の出発点がそもそもpodとcartridge
(container)とが別体である。 明細書の用語に整合性が掛けているが、pod
adaptor assembly, receptacle (i.e., container)とpodとが別個のものであるという点に関しては一貫している。被疑侵害者側の専門家証言において320特許は別体であるpod無しには機能しないと述べている。 さらに、明細書に開示されているpod
adaptor assembly 300, receptacle 302の何れもフィルターを内蔵するものではない。
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320特許の代表図3A
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上記のようにクレームのcontainerがフィルターを内蔵するということを示す開示はない。Containerがフィルターを内蔵しても良いということが明細書の開示より自明であったとしても、明細書にはフィルターを内蔵するcontainerに対する開示はないと判断する。Lockwood
v. American Airlines (Fed. Cir. 1997)事件で述べたように、明細書に何が開示されているかを理解するために当業者の知識を活用できる場合がある。 仮に、明細書の開示から問題となる特徴が自明であったとしても明細書に開示されていない当該特徴を教示するために当業者の知識を活用することはできない。
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本事案においては320特許明細書のどの箇所にもフィルターを内蔵するカートリッジ(container)の可能性を示す開示はない。
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結論:
上記理由によって問題となった320特許のクレームは112条第1項の開示要件違反で無効とである。Solofill社は非侵害である。然るにITC委員会の判断を支持する。
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