CAFC判決 Rapid Litigation Management
v. CellzDirect 2016年07月05日 OPINION by JUDGE Prost (Chief Judge) Summarized
by Tatsuo YABE – 2016-09-06 |
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本事案における特許(US7,604,929特許:以下929特許と称する)の発明者は肝細胞(製薬の肝臓による代謝性、毒性、その他の効果を測定するのに有効理由できる)の幾分かが複数回の凍結融解(解凍)を経ても生存するという肝細胞に内在する能力を発見した。従来は肝細胞を持いて実験をする場合には肝細胞を一度凍結融解(解凍)し即刻実験に使用するという制約があった。929特許は当該発見を活用するための手法を規定した。但し、929特許クレーム1で規定されたステップは個々には従来技術に開示されている。即ち、従来では凍結融解(解凍)を一度実施するのに対して929特許クレームにおいては複数回実施するということだ。地裁は略式判決で929特許クレームは例外規定(自然法則)を主題とするもので101条の保護適格性を有さないとして929特許を無効と判断した。CAFCは当該判決を破棄差し戻しとした。その理由はAlice判決2パートテストのステップ1において929特許は自然法則を主題(directed
to natural law)とするものではなくその新規且つ有益な適用手法を規定するものであるとした。
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注目すべきはCAFCが101条保護適格性を認めた理由に、新規且つ有益な手法を規定したというように101条の条文[*1]の文言を根拠にした。先般のBascom判決(Fed.
Cir. 2016-06-27)のNewman判事のConcurrent
Opinion[*2]において保護適格性を認める理由の骨子と合致している。さらにはAlice最高裁判決(2014年)の前段階のCAFC大法廷判決(2013年)でJudge
Newmanが示唆した意見(101条の条文で適格性を判断できないのか?[*3])及び当時のChief
Judge RaderのAdditional Reflection[*4]にも合致している。
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また昨今のEnfish判決(Fed.
Cir. 2016-05-12[*5])においてAlice2パートテストのステップ1の”directed
to an abstract idea”を判断するハードルを上げた。
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Alice最高裁判決(2014年)後、数多くのソフト関係の特許が保護適格性を満たさないとして裁判所で無効と判断された。Alice最高裁判決直後はCAFCでAlice(Mayo)2パートテストがどのように運用されるか懸念された。しかし昨今の101条に関するCAFCパネル判決から見えるのは、Alice2パートテストのステップ1の判断のハードルが揚がり、さらに、「新規、且つ、有用」であるか否かという101条の文言に依拠する傾向が強くなってきているようにみえる。
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尚、PTOは本判決とSequenom判決(Sequenom
v. Alison: Fed. Cir. 2016-06-27)に鑑み審査官にMemorandum(2016-07-14)を通知した。当該メモランダムにおいてこれら2件の判決によってPTOのこれまでの審査ガイダンスに影響をあたえるものではないと結論づけた。(以上筆者)
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本事件の背景:
下級審(地裁)において、US7,604,929特許は肝細胞が複数回の凍結融解サイクルを経ても生存するという自然法則を主題とするもので、問題となる方法クレームに発明概念(Inventive
Concept)がないという理由で101条の要件(保護適格性)を満たさない、依って929特許は無効であると判断された(略式判決)。肝細胞は各種テスト、診断、処置のために活用できるという多くの属性を備えており、製薬の肝臓による代謝性、毒性、その他の効果を測定するのに有効理由できる。従来、肝細胞を保存するために凍結融解サイクルという手法が利用されたが、当該サイクルを経ても生存する肝細胞は少ないと考えられていた。即ち、肝細胞は一度凍結すると、その後使用するか、処分するかというのが従来の理解であった。しかし929特許の発明者は肝細胞のうち幾分かは凍結融解(解凍)サイクルを複数回繰り返しても生存できるということを発見した。この発見に基づき929特許のクレームで以下の3つのプロセスを規定した。(A)凍結、溶解したセルを生存能力のあるものとそうではないものとに分離する;(B)生存能力のあるセルを正常な状態に戻す;(C)当該セルを再度凍結する。上記プロセスを経ることによって肝細胞の集合体を容易に準備することが可能となる。
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IVT(当事者の各種変更を経てRapid
Litigation Managementを含みIVTと称する)はLTC(同じく当事者の各種変更を経てCellzDirectを含みLTCと称する)を相手に929特許を侵害しているとし侵害裁判を提起した。LTCは929特許は101条と112条を満たさないという理由で無効を略式判決を請求した。地裁は929特許は101条の保護適格性を満たさないと理由で無効の略式判決をだした。無効に至った理由はAlice最高裁判決のステップ1において929特許のクレームは自然法則(肝細胞は複数回の凍結融解(解凍)のステップにおいても生存能力がある)に対するものであり、ステップ2において発明概念を有さない(細胞が複数回の凍結融解(解凍)ステップを経ても存在能力があることを発見したが、従来の一回の凍結融解(解凍)のステップを繰り返したにすぎない)と判断した。
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IVTは上記略式判決を不服としCAFCに控訴した。
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以下CAFC判決の概要:
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裁判官:Taranto
(Opinion); Bryson; Stoll
特許権者:Rapid
Litigation Management (formerly Celsis Holdings, Inc.)v. CellzDirect et al.
関連特許:USP 7,604,929
特許発明の概要:
929特許の発明者は肝細胞のうち幾分かは複数回の凍結融解(解凍)サイクルを複数回繰り返しても生存できるということを発見した。この発見に基づき929特許のクレームで以下の3つのプロセスを規定した。(A)凍結、溶解したセルを生存能力のあるものとそうではないものとに分離する;(B)生存能力のあるセルを正常な状態に戻す;(C)当該セルを再度凍結する。上記プロセスを経ることによって肝細胞の集合体を容易に準備することが可能となる。
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代表的なクレーム:
クレーム |
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クレーム1 Hepatocytes:肝細胞(へパトゥサイト) Freeze-thawed:凍結溶解(解凍) Cryopreserve:凍結(冷凍)保存 |
1. A method of producing a desired preparation of multi-cryopreserved
hepatocytes, said hepatocytes being capable of being frozen and thawed
at
least two times, and in which greater than 70% of the hepatocytes of said
preparation are viable after the final thaw, said method comprising: (A) subjecting hepatocytes that have been frozen and thawed
to density gradient fractionation to separate viable hepatocytes from
nonviable hepatocytes, (B) recovering the separated viable hepatocytes, and (C) cryopreserving the recovered viable hepatocytes to
thereby form said desired preparation of hepatocytes without requiring a
density gradient step after thawing the hepatocytes for the second time,
wherein the |
クレーム5 |
5. The method of claim 1, wherein said preparation
comprises a pooled preparation of hepatocytes of multiple sources. |
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Alice判決2パートテストの第1ステップに関して:
929特許のクレームは例外規定(Judicial
Exception)に対するものか否か(directed to a
judicial exception)を判断する。929特許のクレーム1は複数回凍結され準備された肝細胞を製造する方法を規定している。地裁判断のようにクレームは凍結融解(解凍)のステップを複数回繰り返しても生存可能であるという自然法則を利用している。しかし当該クレームは細胞の生存可能性を規定するものではない。寧ろ、当該クレームは肝細胞を保存するための新規で且つ有用な実験技術を規定している。この種の明白な手法によって当業者が新規で且つ有用な結果を得ることができるということは101条の保護適格性を満たすということは明らかである。Alice判決引用(Gottschalk
v Benson:1972年)発明者は確かに細胞の生存可能性を発見したが、そこで終わっていない。このように細胞の生存可能性を発見した最初の人はその発見(知識)の利用(活用)手法をクレームするのに最適の立場にある。
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929特許のクレームはMayo判決及びAlice判決において保護適格性が否定された事例と明白な違いがある。929特許クレームで得られる結果は複数回の凍結融解(解凍)を経ても生存可能な細胞を観察或いは検知したということではない。当該クレームは寧ろ肝細胞を保存するための新規且つ有用な手法を規定するものである。当該クレームの手法を実施することで肝細胞をより良く保存できる。言い換えると929特許は所望される結果を得るための手法を規定する何千もの他の特許と類似するものである。従属クレーム5は複数のドナーからの肝細胞の保存準備を規定しており、従来技術では不可能とされた保存手法であり、当該クレームの保護適格性はさらに明白である。
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Alice判決2パートテストのステップ1を検討するにあたり、クレームが基礎とする例外規定(自然法則)に対応するクレームの構成要素を特定することのみでは不十分で、当該例外規定がクレームの主題であるか否かということを判断しなければならない。929特許クレームの文言はまさに例外規定をクレームの主題とするものではない。929特許は複数回の凍結融解(解凍)を経て所望される調整済の肝細胞を製造する手法を規定しており、この新規で且つ改良された技術はAlice判決2パートテストのステップ1で云うところの例外規定を主題とするというカテゴリーの外にあることは明白である。
Alice判決2パートテストの第2ステップに関して:
仮にステップ1において929特許が肝細胞の幾分かが複数の凍結融解(解凍)のサイクルを経ても存在できるという自然の可能性を主題としてもステップ2を検討しなければならない。ステップ2を検討するにあたり、クレームが例外規定を主題としていても、当該クレームが既存の技術手法を向上する場合には当該手法を発明性のある利用と理解される。929特許のクレームはまさに後に使用できる肝細胞を保管する改良された手法を主題としている。929特許クレームで主題とする手法は公知技術に鑑み著しい改良がある。従来技術においては十分な肝細胞が集積できるまで待って、集積されたら即刻それを使用しないといけないところが、929特許においては肝細胞を後の使用のために保存することができる。このように929特許の手法は肝細胞に備わった生存できるという能力の発見を利用し、新規且つ有益に保存することを実現したのである。
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方法クレームで規定するステップが個々に周知であるということのみでクレームが特許保護適格性を否定されるということではない。従来は一度凍結融解(解凍)すると肝細胞に大きな損害を与えるので生存可能性が低くなると理解されており、即ち、凍結融解(解凍)を複数回実施することを否定していたのである。従って、凍結融解(解凍)は一度実施するとそれ以上は無理であると理解していた従来のステップを複数回実施することは決して通常或いは一般的ではない。
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929特許は例外規定を主題とするものではない、依って、地裁の略式判決を破棄差差戻しとする。
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REFERENCES
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[*1] 35 U.S.C. 101 – Inventions
Patentable
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Whoever
invents or discovers any new and useful process, machine,
manufacture, or composition of matter, or any new and useful
improvement thereof, may obtain a patent therefor, subject to the
conditions and requirements of this title. (July
19, 1952, ch. 950, 66
Stat. 797.) |
新規且つ有用な、いかなるプロセス(方法)、機械、製造物、或いは、組成物、又はそれらについて新規且つ有用な、いかなる改良を発明ないし発見をした者は、本条文に定める条件及び要件を満たすことによって、それに対して特許を受けることができる。 |
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[*2] Bascom Global Internet Service v.
AT&T (Fed. Cir. 2016-06-27)におけるJudge
NewmanのConcurrent Opinionの関連部:
米国特許法第101条:
101条で規定されたカテゴリーに属する発見或いは発明は特許保護適格性を備え、後の特許性(新規性・進歩性)の判断をパスすることで特許可能となる。Chakrabarty判決(1980年)において最高裁は101条の条文において立法者(連邦議会)がANY(いかなる)という用語を追加した理由は特許法の保護範囲を広範にする意図があったことを示していると述べた。
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歴史的に観た場合に、裁判所は保護適格性の判断は不確定なものになってきている。本事案においても地裁とCAFC(控訴審)においてBascom特許に対する「発明概念」の理解の仕方が異なっている。私は保護適格性の判断に対して101条の文言に戻ることを提案する。この条文に戻る限り定義されてもいない「発明概念」という基準を保護適格性判断の基準に適用する必要がなくなる。広範な権利範囲を有するクレームは他者が改良を生み出す道を閉ざしかねないという懸念があるが、新規なる広範な発明をなしたる者にも狭い範囲にしか権利を与えないという規則はない。
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特許性と保護適格性に関して:
新規且つ有用な機械、手法、製造物、組成物はAbstractアイデアではない。もしもクレームが広範すぎて抽象的(Abstract)な場合には特許性の判断をすることで問題(特許が有効か否か)は解決する。112条(a)項は明細書の記載要件を規定しており、112条(b)項はクレームが発明を明白且つ特定することを要求しているので過度に広範な抽象的なクレームはこれら要件を満たさない。このように112条の要件は特許性を判断する要件で特許保護適格性を判断するものではないが、Abstractアイデア(抽象的なアイデア)を除外する機能がある。最高裁(Mayo判決)も自認するようにすべての発明は幾分かはAbstractアイデアを利用、適用、或いは、それに根差すものである。101条適格性の判断は現実的には102条及び103条に類似する判断によって促進されること先例が示している。
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[*3] □ Judge Newmanの意見(概要):
今回の大法廷(2013年Alice大法廷判決)での審理は、そもそもは101条の特許保護適格性に対する不確定さを少しでも緩和することが目的であったが、複数の判事グループが互いに整合性のない意見を出すことになってしまった。 司法(最高裁を意味していると考える(筆者))においてこの混乱を早期に解消することが必要である。少なくとも次の3点に関する明確な司法判断を希望する:(1)101条の条文に「保護適格性」が規定されているのか?(101条の条文のみで、そもそも保護適格性を判断したら良いのか?)(2)クレームの形式(方法、媒体、システム)によって101条適格性の判断基準が変わらないということを確認する;(3)実験使用は特許侵害を構成しないことを再確認する。Diamond
v Diehr判決を引用し、”…the system of
patents embraces “anything under the sun that is
made by man”であり、コンピューター実行形式で記載されたクレームがどれだけ広範な範囲をクレームしているか否かで判断するのではない。 クレームの権利範囲の妥当性に関しては102条、103条、或いは、112条によって決定されるのである。今回問題となる方法クレーム、媒体クレーム、及び、システムクレームの全ては101条の保護適格性を有する。
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[*4] □ Chief Judge Raderの嘆き(Additional Reflection):
(2013年Alice大法廷判決)・・・最後にRader判事長は今回の大法廷判決(大法廷が合意に至らなかったことに)に対する嘆きを5ページの追加コメントとしてまとめておられる。特に自分よりもシニアの判示(Lourie判事とNewman判事)が101条の解釈に関してここまでつまずいていることに驚きを隠せない。また、Diamond
v Diehr(1981年最高裁判決)で引用された1952年の特許法の立法趣旨(議事録)の有名な句である「anything
under the sun that is made by man」を引用し、ソフトウエア自身に対しても保護適格性を与えている欧州と日本の特許事情を述べている。 一言で言うならば、これだけ101条の解釈に混乱が生じているので、今回の事情を解消するには、条文に戻ることだ。 101条の条文は”any”という用語を使用しており、また特許法第282条で規定している裁判における侵害者の防御(“defense”)としての特許の要件(‘condition
for patentability’)に101条の特許保護適格性は含まれない。 Rader判事長は今年で25年の判事の経験を踏まえて上記を述べるとともに、未来に今回のコメントをプラスに思い起こすことを期待すると括っている。
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[*5]
Enfish
v. Microsoft
2016-05-12
Mayo判決の2パートテストのステップ1ではクレームがAbstractアイデアに関わる構成要素を含む、或いは、クレームがAbstractアイデアに関わる(“related
to…”)というレベルで”directed to…”を満たすのではなく、明細書を参酌しクレームがAbstractアイデアを着眼(主題と)しているのか、それともコンピューターの機能を向上することに着眼(主題と)しているのかを判断するべきであるとした。 即ち、形骸化傾向にあったステップ1(USPTOのフローチャートSTEP
2A)のハードルを上げた。
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