Pavo Solutions v
Kingston Tech Company Opinion by Lourie, Prost, and Chen (Circuit
Judges) |
本CAFC判決は、クレーム用語に誤記がある場合に侵害裁判において地裁がクレーム解釈時にどの程度の誤記を訂正可能かに対する判断基準の一つを示すものである。一言で言うならばクレームの誤記が当業者にとって明々白々であって誤記訂正によってクレームの権利範囲に影響を及ぼさない、且つ、経過書類を参酌しても禁反言は生じないという場合に裁判所において誤記訂正或いは誤記訂正無いままで誤記訂正されたとしてクレームが解釈される。本判決で興味深いのは2件のCAFC判決、一つは誤記訂正されて当然と思われたが誤記訂正NGだった判決(Chef America v. Lamb-Weston: Fed. Cir. 2004)、他は誤記訂正が認められた判決(CBT Flint v. Return Path & Cisco
Ironport Systems: Fed. Ci. 2011)である。
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■ 特許権者:Pavo Solutions
■ 関連特許:USP No. 6,926,544
■ 被疑侵害者:Kingston Tech
Company
■ 特許発明の概要:
544特許は所謂フラッシュメモリーに関し、USBポートの損傷を防ぐためにメモリー本体がカバー部に揺動可能に形成され不使用の時にカバー部内に収容な可能な構造を特徴とする。
(注意:左のような従来型のキャップON-OFF型のUSBメモリではキャップを失う場合があるので右図のように揺動収納型にした:544特許の説明に基づき筆者が追加、権利者Pavoの製品或いはKingstonの侵害品とは無関係)
1. A flash memory apparatus comprising:
a flash memory main body (30) including a rectangular shaped case (31)
within which a memory element is mounted, an USB (Universal Serial Bus)
terminal piece (32) electrically connected with the memory element and
installed at a front end of the case in a projecting manner, and a hinge
protuberance (33) formed on at least one side of the case (31); and
a cover (40) including pair of parallel plate members facing each other
and spaced by an interval corresponding to the thickness of the case, the
cover having an open front end and a closed rear end with a pair of lateral
side openings; the parallel plate members having at least one hinge hole
(41) receiving the hinge protuberance (33) on the case (31) for pivoting the case
with respect to the flash memory main body (30), whereby the USB terminal
piece is received in an inner space of the cover or exposed outside the cover.
代表的な図面
2014年8月、CATR(後にPavo)はKingstonがPavoの544特許を侵害しているとしカリフォルニア州中央地区地裁に提訴した。それを受けてKingstonはIPRを申請し無効を主張したが幾つかのクレームは残り、地裁での裁判が再開された。問題となったのは代表的なクレーム1の特徴で「pivoting the case with respect to the flash
memory main body」であり、ケースがフラッシュメモリー本体周りに揺動可能ではなくカバーがフラッシュメモリー本体周りに揺動可能である。この明らかな間違いを裁判所で訂正可能かが争点となった。
地裁において544特許クレーム1には明らかな誤記があることを認め以下のように訂正しクレーム解釈することを許可した。
(誤り)pivoting the case
(31) with respect to the flash memory main body (30);
(訂正)pivoting the cover
(40) with respect to the flash memory main body (30);
そもそもケース31はフラッシュメモリー本体30の一部であるので揺動できない。従って、地裁において上記誤記は明らかでありケース31をカバー40に訂正しクレームを解釈すると判断した。さらに、この訂正は合理的な論争の基になるレベルではないと判断した。即ち、Kingston側が主張する訂正案、即ち、以下:
(誤り)pivoting the case (31)
with respect to the flash memory main body (30);
(訂正)pivoting the case (31)
with respect to the cover (40);
にしてもクレームの意味合いは同じである。
■ Fed Cir:
CAFCにおける争点に関して:
Kingstonの以下3点の反論(2点に関してのみ言及する):
[2] Kingstonは544特許クレーム1の訂正前の文言を侵害していなかったので故意侵害の責任を負わない。
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[1] 地裁において、上記したクレーム1の用語「pivoting the case with respect to the flash memory main body」を訂正するべきではなかった。
地裁は特許の明白な以下の2要件[a],[b]が満たされる場合に誤記を訂正することは可能であるとした。
Novo Indus v. Micro Molds (Fed.
Cir. 2003)。
[a] クレーム及び明細書に鑑み、誤記訂正によって合理的な論争を生じない;及び
[b] 経過書類に鑑み訂正前後でクレームの意味合い(権利範囲)が変わらない;
(誤り)pivoting the case
(31) with respect to the flash memory main body (30);
カバー(40)とケース(30)との間で揺動するのは明らかである。フラッシュメモリー本体の部分であるケース(30)がフラッシュメモリー本体に対して揺動するという記載は明らかな誤記である。さらにwhereby句において、USBターミナルPCSがカバーの内部に収容、或いは、カバー内部から露出するという特徴を規定しており、この特徴を満たすにはカバー(40)がフラッシュメモリー本体(30)に対して揺動するときにのみ可能である。
本事案とChef America事件では誤記訂正に関して明白な違いがある。即ち、Chef America事件においてはパン生地が灰になるにせよクレームで規定された温度にパン生地を加熱することは非現実的ではあるが可能である、しかし、本事案ではケース31をフラッシュメモリー本体30の周りに揺動させることは不可能である。
[訂正1]:
(誤り)pivoting the case
(31) with respect to the flash memory main body (30);
(訂正)pivoting the cover
(40) with respect to the flash memory main body (30);
[訂正2]:
(誤り)pivoting the case (31)
with respect to the flash memory main body (30);
(訂正)pivoting the case (31)
with respect to the cover (40);
the computer being programmed to detect analyze the electronic mail communication
sent by the sending party to determine whether or not the sending party is an
authorized sending party or an unauthorized sending party, and wherein
authorized sending parties are parties for whom an agreement to pay an
advertising fee in return for allowing an electronic mail communication sent by
the sending party to be forwarded over the network to an electronic mail
address associated with the intended receiving party has been made.
(i) detectを削除する;
(ii) analyzeを削除する;
(iii) detectとanalyzeの間に andを挿入する。
上記の何れの対応の仕方で誤記訂正をするにせよクレームの権利範囲に影響はなく、当業者であれば(iii)の誤記訂正でクレームを解釈することは自明であると判断した。本事案においてもCBT
Flint事件における上記説明が適用される。即ち、上述した(訂正1)及び(訂正2)の何れによってもフラシュメモリー本体(30)とカバー(40)が互いに揺動関係にあるという構造と解釈される。従って、地裁の判断(誤記訂正によって合理的な論争を生じない)は正しい。
(訂正1)pivoting the [[case]]
cover (40) with respect to the flash memory main body (30);
Kingstonは陪審による故意侵害の評決は撤回されなければならないと主張した。即ち、Kingstonは誤記訂正前のクレームを侵害していない、且つ、後に裁判所が誤記訂正を認めるということを予期できなかったと反論した。問題となった誤記は明らかな間違いであり、そのようなクレームの誤記を盾とし故意侵害を防御できないとCAFCは述べた。Kingstonの反論は、即ち、地裁において誤記訂正によってクレームの権利範囲が変更され、クレームの文言に実体的な変化をもたらしたと言っていることになる。しかし地裁における誤記訂正はクレームを再構築したことにはならない、寧ろ、クレームに本来意図された意味を与えたのみである。明らかな間違いがあるということでクレームの本来の意味合いが隠されるわけではなく、故に、Kingstonは当該誤記を理由にして陪審の評決(故意侵害を認定)を回避することはできない。
Kingstonは、陪審の評決を支持することは、即ち審判部が当該誤記の訂正を認めなかったという事実に基づくKingstonの判断が無謀であったと言うことになる(言い換えるとKingstonが審判部の判断に忠実であったことは馬鹿らしいことだったのか?:筆者)と主張している。しかし、故意侵害認定に対する有責性は、行動を起こす者(この場合にはKingston)が問題となる行動を起こした時点におけるその行動が齎す結果をどの程度周知(認識)していたか(侵害行為を構成することをどの程度知っていたか)で判断される Halo Elecs. Inc., v. Pulse Elecs. Inc. (最高裁判決:2016年)。当該侵害行為(行動)が起こなわれたのは審判部が誤記訂正の申請を否決した時点ではない(侵害行為が起こったのは申請を否決する遥か前である:筆者)。
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CAFC判決:
地裁判決を支持する。
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