Pavo Solutions v Kingston Tech Company
Fed. Cir. Case
202263
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Opinion by Lourie, Prost, and Chen (Circuit Judges)
Summarized by Tatsuo YABE  2022-06-09

CAFC判決は、クレーム用語に誤記がある場合に侵害裁判において地裁がクレーム解釈時にどの程度の誤記を訂正可能かに対する判断基準の一つを示すものである。一言で言うならばクレームの誤記が当業者にとって明々白々であって誤記訂正によってクレームの権利範囲に影響を及ぼさない、且つ、経過書類を参酌しても禁反言は生じないという場合に裁判所において誤記訂正或いは誤記訂正無いままで誤記訂正されたとしてクレームが解釈される。本判決で興味深いのは2件のCAFC判決、一つは誤記訂正されて当然と思われたが誤記訂正NGだった判決(Chef America v. Lamb-Weston: Fed. Cir. 2004)、他は誤記訂正が認められた判決(CBT Flint v. Return Path & Cisco Ironport Systems: Fed. Ci. 2011)である。

本判決において、これら2件の判決を説示すると共に本事案が誤記訂正を認めたCBT判決の法理に準ずることを述べている。本来であれば権利者は警告書を送付する前、或いは、訴訟を提起する前にクレームの文言を見直し軽微なものであればCertificate of Correction、実体的なレベルにちかいものであればReissue出願で治癒するべきであったと考える。そうすることで、権利者は数千万円以上もの弁護士費用(地裁において誤記訂正のための弁護士費用とCAFCでの訴訟費用)を使わずに今回の判決に到達できたであろう。(以上筆者)
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■ 特許権者:Pavo Solutions
■ 関連特許:USP No. 6,926,544
■ 被疑侵害者:Kingston Tech Company
■ 特許発明の概要:
544特許は所謂フラッシュメモリーに関し、USBポートの損傷を防ぐためにメモリー本体がカバー部に揺動可能に形成され不使用の時にカバー部内に収容な可能な構造を特徴とする。

(注意:左のような従来型のキャップON-OFF型のUSBメモリではキャップを失う場合があるので右図のように揺動収納型にした:544特許の説明に基づき筆者が追加、権利者Pavoの製品或いはKingstonの侵害品とは無関係)

 代表的なクレーム:
1. A flash memory apparatus comprising:
a flash memory main body (30) including a rectangular shaped case (31) within which a memory element is mounted, an USB (Universal Serial Bus) terminal piece (32) electrically connected with the memory element and installed at a front end of the case in a projecting manner, and a hinge protuberance (33) formed on at least one side of the case (31); and

a cover (40) including pair of parallel plate members facing each other and spaced by an interval corresponding to the thickness of the case, the cover having an open front end and a closed rear end with a pair of lateral side openings; the parallel plate members having at least one hinge hole (41) receiving the hinge protuberance (33) on the case (31) for pivoting the case with respect to the flash memory main body (30), whereby the USB terminal piece is received in an inner space of the cover or exposed outside the cover.

代表的な図面

 ■事件の背景
20148月、CATR(後にPavo)はKingstonPavo544特許を侵害しているとしカリフォルニア州中央地区地裁に提訴した。それを受けてKingstonIPRを申請し無効を主張したが幾つかのクレームは残り、地裁での裁判が再開された。問題となったのは代表的なクレーム1の特徴で「pivoting the case with respect to the flash memory main body」であり、ケースがフラッシュメモリー本体周りに揺動可能ではなくカバーがフラッシュメモリー本体周りに揺動可能である。この明らかな間違いを裁判所で訂正可能かが争点となった。

■ 地裁において:
地裁において544特許クレーム1には明らかな誤記があることを認め以下のように訂正しクレーム解釈することを許可した。

(誤り)pivoting the case (31) with respect to the flash memory main body (30);
(訂正)pivoting the cover (40) with respect to the flash memory main body (30);

 そもそもケース31はフラッシュメモリー本体30の一部であるので揺動できない。従って、地裁において上記誤記は明らかでありケース31をカバー40に訂正しクレームを解釈すると判断した。さらに、この訂正は合理的な論争の基になるレベルではないと判断した。即ち、Kingston側が主張する訂正案、即ち、以下:
(誤り)pivoting the case (31) with respect to the flash memory main body (30);
(訂正)pivoting the case (31) with respect to the cover (40);
にしてもクレームの意味合いは同じである。

■ Fed Cir
CAFCにおける争点に関して:
Kingstonの以下3点の反論(2点に関してのみ言及する):

[1] 地裁において、上記したクレーム1の用語「pivoting the case with respect to the flash memory main body」を訂正するべきではなかった。
[2] Kingston544特許クレーム1の訂正前の文言を侵害していなかったので故意侵害の責任を負わない。

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[1] 地裁において、上記したクレーム1の用語「pivoting the case with respect to the flash memory main body」を訂正するべきではなかった。
地裁は特許の明白な以下の2要件[a],[b]が満たされる場合に誤記を訂正することは可能であるとした。 Novo Indus v. Micro Molds (Fed. Cir. 2003)

[a] クレーム及び明細書に鑑み、誤記訂正によって合理的な論争を生じない;及び
[b] 経過書類に鑑み訂正前後でクレームの意味合い(権利範囲)が変わらない;

[a]に関して以下の特徴でcasecoverに訂正することはクレーム全体からも明らかである。
(誤り)pivoting the case (31) with respect to the flash memory main body (30);

カバー(40)とケース(30)との間で揺動するのは明らかである。フラッシュメモリー本体の部分であるケース(30)がフラッシュメモリー本体に対して揺動するという記載は明らかな誤記である。さらにwhereby句において、USBターミナルPCSがカバーの内部に収容、或いは、カバー内部から露出するという特徴を規定しており、この特徴を満たすにはカバー(40)がフラッシュメモリー本体(30)に対して揺動するときにのみ可能である。

Kingstonは上記誤記訂正によってクレームの権利範囲を拡大することになると主張しているが、そもそも、クレームは、カバーがフラッシュメモリー本体に対して揺動するという前提で記載されている。

KingstonはさらにChef America v. Lamb-Weston (Fed Cir. 2004)判決によって今回のような裁判所におけるクレームの誤記訂正は禁じられていると主張している。Chef America事件で問題となった方法クレームにおいて「パン生地を400F850Fの温度加熱する(heating the resulting batter-coated dough to a temperature in the range of about 400F to 850F)」と規定していた。パン生地を当該温度レンジ加熱すると灰になってしまい、クレームの表現は明らかに間違っているので、特許権者は当該ステップを「パン生地を400F850Fの温度加熱する(heating the resulting batter-coated dough at a temperature in the range of about 400F to 850F)」に訂正しクレーム解釈することを希望したが裁判所はそれを許可しなかった。

本事案とChef America事件では誤記訂正に関して明白な違いがある。即ち、Chef America事件においてはパン生地が灰になるにせよクレームで規定された温度にパン生地を加熱することは非現実的ではあるが可能である、しかし、本事案ではケース31をフラッシュメモリー本体30の周りに揺動させることは不可能である。

本事案においては明細書(内部証拠)において揺動可能なカバー付きのフラッシュメモリー装置であることが明示されているが、Chef Americaにおいては明細書及び経過書類においても「パン生地を400F850Fの温度加熱する(heating the resulting batter-coated dough to a temperature in the range of about 400F to 850F)」のではなく「パン生地を400F850Fの温度加熱する(heating the resulting batter-coated dough at a temperature in the range of about 400F to 850F)」と解釈することに対するサポートがない。

さらに、Chef America事件において特許権者は当該誤記を訴訟(地裁)の段階で訂正することを一切試みなかった。

次に本事案において当該訂正を許可することで、明細書及びクレームを参酌し、合理的な論争を生じるか否かを検討する。地裁において以下の何れの訂正(訂正1:訂正2)においてクレームの権利範囲に影響を与えることはないと判断した。CAFCもその判断を支持する。

[訂正1]:
(誤り)pivoting the case (31) with respect to the flash memory main body (30);
(訂正)pivoting the cover (40) with respect to the flash memory main body (30);
[訂正2]:
(誤り)pivoting the case (31) with respect to the flash memory main body (30);
(訂正)pivoting the case (31) with respect to the cover (40);

我々CAFCは、2011年のCBT Flint事件 (CBT Flint Partners v. Return Path and Cisco Ironport System: Fed. Cir. 2011)において以下のように判示した。CBTのクレームの要部は以下の通り:

a computer in communication with a network,

the computer being programmed to detect analyze the electronic mail communication sent by the sending party to determine whether or not the sending party is an authorized sending party or an unauthorized sending party, and wherein authorized sending parties are parties for whom an agreement to pay an advertising fee in return for allowing an electronic mail communication sent by the sending party to be forwarded over the network to an electronic mail address associated with the intended receiving party has been made.

上記クレームの文言の detect analyzeという用語がクレームドラフトのエラーであることは明らかであり、当該文言を訂正するには3つの対応の仕方があり、
i            detectを削除する;
ii            analyzeを削除する;
iii            detectanalyzeの間に andを挿入する。

上記の何れの対応の仕方で誤記訂正をするにせよクレームの権利範囲に影響はなく、当業者であれば(iii)の誤記訂正でクレームを解釈することは自明であると判断した。本事案においてもCBT Flint事件における上記説明が適用される。即ち、上述した(訂正1)及び(訂正2)の何れによってもフラシュメモリー本体(30)とカバー(40)が互いに揺動関係にあるという構造と解釈される。従って、地裁の判断(誤記訂正によって合理的な論争を生じない)は正しい。

[b] 次に、経過書類の中で、クレームが異なる意味合いで解釈されることを示唆しているかを検討する。地裁は経過書類に鑑み異なる意味合いとは理解されないと判断し、CAFCも同意する。実は出願の初期段階において既にクレームに誤記があり、そこからスタートしながらもケースがカバー内で揺動するという解釈で審査官と出願人との間で審査が行われた。許可通知において、審査官は、平行配置されたプレート(カバー40)がケース(31)の揺動部と協動するという特徴が引例には開示されていないと述べた。

審判部においても同じ意味合いでクレームが解釈された。即ち、審査部門、審判部(IPR)、及び、本法廷においてcase (31)をカバー(40)に置換してクレームを解釈する(以下、[訂正1])としてクレームを解釈したということで一致している。
(訂正1)pivoting the [[case]] cover (40) with respect to the flash memory main body (30)

実は、IPR手続き進行中にPavoは審判部に上記の訂正を申請したが認められなかった。そもそも訂正するまでもなく上記(訂正1)の意味合いでクレームが解釈されていた。さらに、PavoIPR開始後に予備補正書を提出していながら当該訂正を盛り込まなかった、そして当該訂正を申請した時点において口頭審理が2か月と迫っていたので被疑侵害者Kingstonに不利益を齎さないようにという配慮から審判部は当該申請を受理しなかった。即ち、審判部が誤記訂正の申請を受理しなかったことは実体的なクレームの解釈には影響しないと判断したからである。

上記理由によってCAFCは地裁の判断([a] 誤記訂正によって合理的な論争は生じない、且つ、[b] 審査経過において異なるクレーム解釈を示唆する箇所はない)に同意する。従って、上記(訂正1)に基づきクレームを解釈した地裁の判断は正しい。

[2] Kingston544特許クレーム1の訂正前の文言を侵害していなかったので故意侵害の責任を負わない。
Kingstonは陪審による故意侵害の評決は撤回されなければならないと主張した。即ち、Kingstonは誤記訂正前のクレームを侵害していない、且つ、後に裁判所が誤記訂正を認めるということを予期できなかったと反論した。問題となった誤記は明らかな間違いであり、そのようなクレームの誤記を盾とし故意侵害を防御できないとCAFCは述べた。Kingstonの反論は、即ち、地裁において誤記訂正によってクレームの権利範囲が変更され、クレームの文言に実体的な変化をもたらしたと言っていることになる。しかし地裁における誤記訂正はクレームを再構築したことにはならない、寧ろ、クレームに本来意図された意味を与えたのみである。明らかな間違いがあるということでクレームの本来の意味合いが隠されるわけではなく、故に、Kingstonは当該誤記を理由にして陪審の評決(故意侵害を認定)を回避することはできない。

Kingstonは、陪審の評決を支持することは、即ち審判部が当該誤記の訂正を認めなかったという事実に基づくKingstonの判断が無謀であったと言うことになる(言い換えるとKingstonが審判部の判断に忠実であったことは馬鹿らしいことだったのか?:筆者)と主張している。しかし、故意侵害認定に対する有責性は、行動を起こす者(この場合にはKingston)が問題となる行動を起こした時点におけるその行動が齎す結果をどの程度周知(認識)していたか(侵害行為を構成することをどの程度知っていたか)で判断される Halo Elecs. Inc., v. Pulse Elecs. Inc. (最高裁判決:2016)。当該侵害行為(行動)が起こなわれたのは審判部が誤記訂正の申請を否決した時点ではない(侵害行為が起こったのは申請を否決する遥か前である:筆者)。

上記理由によって、Kingston544特許権の故意侵害を認定した地裁判決を支持する。

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CAFC判決:
地裁判決を支持する。

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