CAFC判決

ONE-E-Way v. ITC

2017612

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Virtually Free from InterferenceNautilus基準で明瞭?

By Wallach, Stoll, Circuit Judges

Dissenting Opinion by Prost, Chief Judge

Summarized by Tatsuo YABE – 2017-08-03

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本事件は112条第2項のクレームの明瞭性に関する。問題となった特許発明(米国特許7865258号)はワイヤレスヘッドホンを含む音響システムに関し、近隣の他者の音声発生装置から生じる音声信号に邪魔されることなく自身の音楽を聴けるということを特徴としている。クレームでは当該特徴を”virtually free from interference”という用語で表現している。しかし明細書のどの箇所にもvirtually(実質的に)という用語は使用されておらず当該特徴に対応する明細書のサポートは ”without interference”とのみ記載されていた。ITC”virtually free from interference”virtually(実質的)はどの程度なのか当業者に合理的な確証を与える程度ではないとして不明瞭と判断した。CAFC21の多数意見でvirtually free from interferencefree from interferenceには権利範囲に違いがあることを認めるも、当該差異が技術的(定量的)には規定されていないがそうであるからと言って不明瞭とはならないと判断した。Prost判事長はvirtuallyという用語によってどの程度のinterferenceを許容するのか当業者に合理的な確証を与えるレベルに明瞭ではないと反対意見を述べた。

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本事件はCAFCの異なるジャッジパネル(3人の判事)で審理されていれば不明瞭(112条第2項要件を満たさない)と判断されていても決して不思議ではないと考える。寧ろ、本事件のProst判事長の反対意見の方が説得力がある。

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違う観点で本事件を考察するに、本事案の特許US7865258は親出願(現US7412294)からの継続出願であり、親出願(明細書及びクレーム)にはvirtuallyという用語は一切なく、唯一without interferenceとのみ記載されている(以下参照)。

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[0016] Each receiver headphone 50 user may be able to listen (privately) to high fidelity audio music, using any of the audio devices listed previously, without the use of wires, and without interference from any other receiver headphone 50 user, even when operated within a shared space. The fuzzy logic detection technique 61 used in the receiver 50 could provide greater user separation through optimizing code division in the headphone receiver.

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即ち、virtually(実質的に)という用語は本件特許US7865258の出願時に新たに追加された用語である。”virtually”という用語のサポートが親出願に一切ないのに拘わらず、virtually free from interferenceという文言を継続出願でクレームすること自体、112条第1項の開示要件を満たさないとして審査段階で拒絶或いは権利行使(ITC或いはCAFC)で無効と判断されていても不思議ではないと考える。

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追記:

米国出願クレームにおいてsubstantially, approximately, aboutなどの用語の使用は審査において許容される場合が多い。しかし、これら用語をクレームで使用する場合には少なくとも明細書にサポートが存在すること、さらにその程度(度合)を当業者が理解できるような記載が明細書にあるかをチャックすることが望ましい。(以上筆者)

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以下CAFC判決の概要:

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■ 特許権者:One-E-Way

■ 関連特許:USP 7,865,258(以下258特許)& USP 8,131,391(以下391特許)

■ 特許発明の概要:

258特許及び391特許は共に無線型のディジタル音声システムに関し、無線型のヘッドホン(wireless headphone)を使用し、近隣で音声デバイスを使用する他のユーザーからの音声信号を拾うことなく(他のユーザーのデバイスに邪魔されることなく)自身のデバイスの音楽を聴けるという発明に関する。

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■ 代表的なクレーム:

クレーム

258特許クレーム8

 

8. A portable wireless digital audio system for digital transmission of an original audio signal representation from a portable audio source to a digital audio headphone, said portable wireless digital audio system comprising:
a portable digital audio transmitter configured to couple to said portable audio source and transmitting a unique user code bit sequence with said original audio signal representation in packet format, said digital audio transmitter comprising:
an encoder operative to encode said original audio signal representation to reduce intersymbol interference; and
a digital modulator configured for independent code division multiple access (CDMA) communication operation; and said portable digital audio transmitter configured for direct digital wireless communication with said digital audio headphone, said digital audio headphone comprising:
a direct conversion module configured to capture packets embedded in the received spread spectrum signal, the captured packets corresponding to the unique user code bit sequence;
a digital demodulator configured for independent CDMA communication operation;
a decoder operative to decode the applied reduced intersymbol interference coding of said original audio signal representation;
a digital-to-analog converter (DAC) generating an audio output of said original audio signal representation; and
a module adapted to reproduce said generated audio output, said audio having been wirelessly transmitted from said portable audio source virtually free from interference from device transmitted signals operating in the portable wireless digital audio system spectrum.

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■ 争点:

クレーム8(代表的なクレーム)の用語(virtually free from interference)は112条第2項の明瞭性の要件を満たすか?

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■ 適用される法律

米国特許法第1122

判例法:Nautilus v. Biosig Instruments2014年最高裁判決)

Definitenessの判断基準 (Reasonable Certaintyテストと称する)

We (Supreme Court) hold that a patent is invalid for indefiniteness if its claims, read in light of the specification delineating the patent, and the prosecution history, fail to inform, with reasonable certainty, those skilled in the art about the scope of the invention.”

明細書と審査経過書類を参酌してもクレームの権利範囲が当業者にとって合理的な確証を与える程度に理解できない場合には不明瞭であると判断する。

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■ ITCの判断:

当該用語”virtually free from interference”の意味合いは当業者によってどの程度なのか理解できないので不明瞭である。

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■ CAFCの多数意見(概要):

クレームでは、ヘッドホンの音声出力部が他の音声と実質的に干渉しないことを要件としている。さらにクレームでは干渉の原因たる音源が他のユーザーの音声発信装置から発せられる信号であると規定している。明細書には無線型のヘッドホンを用いるユーザーが他の音源に邪魔されることなく私的に音楽を楽しめると記載している。私的に音楽を聴く(private listening)という意味は他のユーザーの音源発生装置の影響を受けることなく音楽を聴けるという意味である。審査経過(本件特許の親出願)において出願人はvirtually free from interferenceという用語は他者の音声を拾う(盗み聞きする:eavesdropping)ことなく聞けると述べている。

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筆者注:上記は本事案で問題となった特許の親出願の経過書類における出願人のコメントであり、本事案で問題となった特許の出願経過書類で同様のコメントは一切存在しない。CAFCTeva Pharm v. Sandoz2015Fed Cir大法廷)を引用し、問題となった特許のクレームを解釈するときにファミリー特許出願の経過書類を参酌することは良くあると述べている。

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ITCは上記経過書類での主張はクレームの free from interferenceという用語に対するものであって本事案の258特許に対するものではないので出願経過書類が virtually free from interferenceの意味合いを説明しているとは言えないとしている。

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しかし我々(CAFC)は上記経過書類の主張は当業者に当該文言の意味合いに対する説示となっている。上記経過書類の主張がなされた時点においては free from interferenceと記したクレームと virtually free from interferenceと記したクレームが共に存在していた。さらに、上記経過書類において出願人は virtuallyという用語を用いて引例との差異を説明している。審査官が引用した先行技術Lavelleと識別するためには free from interferenceという用語をクレームに記載するだけでよかったが、Lavelle引例には virtually free from interferenceという特徴すら開示されていなかったので出願人はより広い権利範囲を所望したのである。

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さらに控訴人は、virtually free from interferenceとはどの程度のinterferenceであれば許容されるのかが当業者には理解できないと主張している。One-E-Wayは確かに virtually free from interferenceという用語を技術的(定量的に:筆者)に説明していない。ITCも控訴人も技術的な定義が常に必要であるかのように理解しているようにみえる。しかし技術的に定義されていない用語であるからという理由で不明瞭であるとは言えない。本事案の258特許ではそもそも interferenceという用語を技術的に説明しておらず、寧ろ、無線型ヘッドホンのユーザーが他者の音声を盗み聞きすることなく自分の音楽を聴けると説明している。この説明によってクレームの virtually free from interferenceという用語の権利範囲を当業者が合理的な確証をもって理解できるであろう。依って、本事案におけるクレームの文言、virtually free from interferenceの明瞭性を判断する上において干渉の度合いを技術的に測定する必要はない。

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さらに米国特許庁とITCOne-E-Way“free from interference””virtually free from interference”の意味合いがどう違うのか説明できていないと主張している。One-E-Wayの権利行使の対象となるクレームは”virtually free from interference”という用語を含むもののみで “free from interference””virtually free from interference”を共に規定するものはない。依って、権利行使の対象となっていない” free from interference”という用語の意味合いを本法廷(CAFC)で審理する必要はない。いずれにせよクレーム、明細書、経過書類を参酌するに virtually free from interferenceという用語の意味合いは、無線ヘッドホンのユーザーが他者の音源より発せられる信号を聞くことなく自身のヘッドホンからの音楽のみを聴くことができるという意味と理解される。然るにクレームは他者の音楽を盗み聞きすることなく自身の音楽を聴けることを virtually free from interferenceと規定している。

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上記したように、明細書と経過書類を参酌すると、クレームの virtually free from interferenceという用語の意味合いを当業者に合理的な確証をもって伝えることができると判断する。”virtually”という「程度を示す用語」が加わることで完全に”free from interference”よりもクレームの権利範囲が若干拡大されるが、それによってクレームが不明瞭とはならない。然るに、他者の音源から発せられる信号をキャッチしてしまうシステムは258特許の権利範囲に属さない。

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Virtually free from interference112条第2項の要件を満たすと判断する。

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■ Prost裁判長による反対意見:

明細書には virtually free from interferenceという用語はない。それに最も近い説明文の中では without interferenceと記載されている。Without interferenceという用語は絶対的な用語(干渉・妨害が一切ない)である。Virtuallyという形容詞を付け加えることによってfree from interferenceの状態よりもある程度のinterferenceを許容することになり、virtuallyという用語はクレームの権利範囲解釈に重要な意味合いを持つ。この「ある程度」に関して多数意見は突っ込んだ議論をしていない。然るに内部証拠(経過書類、初期の出願書類)のいずれの箇所にもvirtuallyという用語がもたらす度合いを明瞭に理解できる根拠がない。本事案におけるvirtually free from interferenceという用語の意味合いを例示したのは唯一本事案の関連出願の意見書における唯一回のみである。本事案の特許出願経過書類及び他の関連出願においてvirtuallyの意味合いを説明或いは例示した箇所は一切存在しない。このような事情に鑑み virtually free from interferenceという用語の権利範囲を当業者に合理的な確証をもって伝えることを要求するNautilusの基準を満たすには不十分である。

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