合衆国最高裁判決 Oil States Energy v. Greene’s Energy
Group 2018年 04月
24日 IPRは合憲 OPINION
by Justice THOMAS Summarized
by Tatsuo YABE – 2018-04-26 |
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2018年4月24日、IPR関連の最高裁判決が2件でた。1件目はOil
States事件でIPRを合憲と判断した。2件目はSUS事件で、IPRが開始された場合、USPTOはIPR申請人によって無効を主張されたクレーム全ての有効性を判断しなければならないとした(2件目の話はここで終わり)。
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そもそも1980年に査定系再審査の制度が開始され、何人も成立した米国特許の有効性に対する疑義を提起しUSPTOに判断を仰ぐことができるようになった。1999年には査定系再審査に加えて当事者系再審査の制度が開始され、権利者と再審査請求人との間で特許性の議論を交わし、最終的にはUSPTOに判断を仰ぐという手続きが可能となった。その後、2011年にAIA(アメリカ特許改正法)が成立し、査定系再審査は残ったが、当事者系再審査制度がIPR(Inter
Partes Review: 当事者系レビュ手続き)に置換された。IPRは当事者系再審査制度に比べて、その手続きの内容が訴訟に類似している。即ち、限定的ではあるがDiscovery、Deposition、Cross-examination
of Witness、和解による手続きの中止など、当事者系再審査には存在しなかったコンテンツがある。そもそも2011年にIPRが設立されたメインの理由として非常に高額で時間の掛かる訴訟手続き(米国経済に大打撃)よりも短期で且つ安価で簡略化した手法をUSPTOでできるように意図したものだ。そのような簡略化された手続きをUSPTOで実施するために、USPTO審判部のメンバーに訴訟経験豊富な弁護士をIPR部門のAdministrative
Judgeとして多数導入した。
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この度、自社の特許をIPRで無効とされたOIL
Statesが最後の足掻きとしてIPRの合憲性にチャレンジをし、最高裁がその裁量上告を受理し、合憲であると判決した。そもそもUSPTOは発明をなしたる者に所定条件を満たせば特許という公共に対する排他権を付与でき、再審査手続きによって付与された権利の有効性を再検討し判断する権限も与えられていた。 仮にPTOが権利を無効と判断したとしても同判断に不服がある場合には最終的にはCAFCに控訴できる道(即ち、司法判断を仰ぐ道)が権利として留保されていた。IPRはその手続き内容が訴訟を模倣した部分があるというものの、再審査と同様、USPTOには付与された権利の有効性をIPRという手続きによって判断する権限が連邦議会によって与えられている。且つ、USPTOの判断に不服がある場合にはCAFCに控訴できる道(即ち、司法判断を仰ぐ道)が特許権者及びIPR請求人の権利として留保されている。
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以下に合憲という判断に達して最高裁の理由を列記しているが、多くの実務者に予想された結果であり特筆することはないと考える。
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■■■■■■■■以下、最高裁が合憲と判断した理由の概要■■■■■■■
IPRは合憲:
[1] IPRは合衆国憲法第3章(司法)を違反するものではない。
連邦議会は、憲法第3章で規定された裁判所以外に公共の権利に対する裁決をする権限を委託することができる。そもそも特許権を付与するということは合衆国政府とそれ以外との間の事情に関連し、公共の権利に関与することである。さらに特許権を与えるということは司法の判断を得ることなく、行政府或いは立法府による国事行為の一つである。IPRとは、許可されたもの(権利)を再検討する手続きに過ぎず、連邦議会は米国特許庁にその手続きを遂行する権限の保留を許容している。
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18世紀、英国では特許権の有効性は裁判所で判断されていた。この歴史的事実は、今日米国において連邦議会がIPRという手続きを設立し特許権の有効性の判断を司法判断の域から外すことを禁止するという確固たる理由にはならない。事実、英国においても枢密院(Privy
Council)において特許権の無効を請求するという手続きがあった、これはIPRの手続きに類似する。米国において伝統的に裁判所において特許の有効性が判断されていたという事実もあるが永久にそれを続けるということを義務付けているわけではない。
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IPRにおいては情報開示手続き、供述録取、証人の陳述、反対尋問、和解による手続きの中止など連邦訴訟手続きと類似する点が多い。 しかし、IPRは裁判手続きと”looks
like”だからといって憲法第3章の司法以外で実施するのは不適切であるということにはならない。(手続きがよく似ているなあという理由によって憲法第3章で規定された司法以外で実施不可ということにはならない)
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注記:本判決はIPRの合憲性に関してのみであって、特許権の侵害を憲法第3章で規定する司法以外で判断することには一切触れていない。さらに、IPRが誕生する前(2011年のAIAでIPR手続きが成立した)に成立した米国特許にIPRを適用することの可否に関しては争点になっていないので本法廷(合衆国最高裁)は判断していない。 さらに本判決は、特許権が適正手続きの保証(修正第14条)、或いは、政府による私的財産の収用(修正5条)の対象となる所有権に該当しないということを示唆するものではない。
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[2] IPRは修正第7条を違反しない。
修正第7条は訴額が20ドルを超える民事の場合に陪審による裁判を受ける権利を保証している。合衆国最高裁の先例において連邦議会が憲法第3章で規定する司法以外の裁決機関に判断を委任した場合には修正第7条の陪審を経ることなく事実認定を行えると判断した。
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結論:
下級審(CAFC)の判決(IPRは合衆国憲法第3章、且つ、修正第7条を違反しない)を支持する。
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References:
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■ 合衆国憲法第3章第1条:
(第2条から第3条は略す)
The
judicial Power of the United States shall be vested in one supreme Court, and in
such inferior Courts as the Congress may from time to time ordain and establish.
The Judges, both of the supreme and inferior Courts, shall hold their Offices
during good Behavior, and shall, at stated Times, receive for their Services a
Compensation which shall not be diminished during their Continuance in Office.
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■ 合衆国憲法修正第7条:
In
Suits at common law, where the value in controversy
shall exceed twenty dollars, the right of trial by jury shall be
preserved, and no fact tried by a jury, shall be otherwise re-examined in any
Court of the United States, than according to the rules of the common law.
[1791年に成立した修正条項なので訴額が20ドルというような少額となっている。現行もそのまま。]
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合衆国最高裁判決 SAS
Institute Inc. v. IANCU 2018年
04月 24日 USPTOはIPRを開始する場合、IPR申請人により争点となった クレーム全てに対して有効性を判断しなければならない。 OPINION
by Justice GORSUCH Summarized by Tatsuo YABE – 2018-04-26 |
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合衆国最高裁はCAFCの判断を破棄した。即ち、IPRが開始された場合、USPTOはIPR申請人によって無効を主張されたクレーム全てに対してその有効性を判断しなければならない。米国特許法第318条(a)項の文言通り。
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U.S.C. 318(a)
Final
Written Decision.—
If
an inter partes review is instituted and not dismissed under this chapter, the
Patent Trial and Appeal Board shall issue a final written decision with
respect to the
patentability of any patent claim challenged by
the petitioner and any new claim added under section 316(d).
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LINKS
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