Medtronic v. Mirowski

Sup. Court Decision Jan. 22, 2014

CAFC判決・破棄差戻し

ライセンシーによるDJアクションにおいても特許権者が

侵害の挙証責任を負う。 

 Tatsuo YABE

  January 26, 2014  

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争点: 

通常、侵害訴訟において特許権者が侵害の挙証責任を負う。 ライセンシーによる確認訴訟(非侵害を主張するDJアクション)においては、挙証責任は特許権者から被疑侵害者(ライセンシー)にシフトするか? 即ち、被疑侵害者(ライセンシー)が非侵害の挙証責任を負うか?

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最高裁の判断:

ライセンシーによる確認訴訟においても挙証責任がシフトすることはない。 即ち、挙証責任は常に特許権者(侵害の立証)に残る。

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事件の背景:

2006年、特許権者(Mirowski)と被疑侵害者(Medtronic)との間でライセンスの合意がなされた。 当該合意書によるとMedtronicが特許権者Mirowskiより侵害の警告を受けた場合には、第3(escrow)の口座に実施許諾料を継続的に振り込みながらDJアクションを提起でき、勝訴側が第3者口座に預けられた実施許諾料を受け取れるという内容である。 2007年に両当事者の間で侵害の論争が起こった。 そしてMedtronicはDelaware連邦地裁でDJアクション(非侵害と無効の確認訴訟)を提起した。 地裁ではDJアクションの原告(Medtronic)ではなく侵害を主張する特許権者(Mirowski)が侵害の挙証責任を負うと判断した。 

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連邦巡回区控訴裁判所に控訴され、当裁判所においては、通常のDJアクションにおいては特許権者が挙証責任を負うが、本事件のようにライセンス契約中にあるライセンシーによるDJアクションの場合には特許権者の反訴の機会が除外されているので、挙証責任はDJアクションの原告(ライセンシー側)にシフトすると判断した(2012)

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Medtronicの裁量上告が認められ最高裁で審理することになった。

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判決に至った理由:

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(1) 確立した判決によって、侵害の挙証責任は常に特許権者が負う。 訴答において侵害が否定されたとしても挙証責任がシフトすることはない。 確認訴訟の遂行は手続き法の範疇と考えられており、実質的な権利が変わることはない。 挙証責任は請求権に対する本質的な側面である。

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(2) 挙証責任をシフトすると訴訟終結後の特許権の権利範囲を不確かにする可能性がある。 例えば、DJアクションにおいて原告(被疑侵害者)の証拠が不十分で非侵害の立証ができずにDJアクションで敗訴した場合を想定する。 この場合に、DJアクション後に被疑侵害者(それに類する者)は問題となる被疑侵害行為を継続するかもしれない。 拠って、結果的には特許権者が侵害裁判を提起することになる。 また、被疑侵害者に挙証責任がシフトして、特許権者の方が侵害の立証(反訴)が不十分で特許権者が敗訴する場合もある。 このように、侵害判断に関して、両当事者が敗訴する場合があり、侵害判断が未解決のままで関連者(同業者など)がどのような製品・手法であれば非侵害であり自由に使用できるかがわからない。 この例は非現実的な仮想例ではない。 

 

Restatement (Second)に以下のように規定されている:

ある争点に対して一方当事者が挙証責任を満たさないということで負けたとしても、後の訴訟において挙証責任を負う他方の当事者が当該争点に関して勝利することを確約するものではない。 18 C. Procesure sec 4422,Pg. 592 (2n ed. 2002)

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(3) 複雑な特許ではクレームおよびその構成要素が何ページにもおよび記載されており、特許権者が自身の特許を被疑侵害物が、どのように、何故、侵害しているのかをより適切に説明できる立場にある。 特許権者が侵害の状況・理由を説明するまでは、(挙証責任がシフトした場合には)被疑侵害者の側は暗中模索の状態で可能な限りの侵害状況を否定する必要に迫られることになる。

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(4) 連邦巡回区控訴裁判所(Fed. Cir.)Schaffer v. Weast (2005)を引用し挙証責任がシフトすることの根拠判例としているが、本件はDJアクションであってSchaffer判決(積極的抗弁においては挙証責任がシフトするかもしれない)は適用できない。 Schaffer事件は通常の挙証責任に対する例外的な判決であるが、本事件はSchaffer事件の判示(法理論)に対するさらなる例外の位置づけである。

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(5) 連邦巡回区控訴裁判所は、本事件は特許権者による反訴を排除されている(ラインセンス契約を継続することによって)という限られた状況における事件であるという理由づけには説得力がない。 特許のライセンシーによるDJアクションの多くは、控訴裁判所の言う「限られた状況における事件」であり、MedImmune判決(最高裁判決)で最高裁が認めた状況(ライセンス契約を解消することなくDJアクションを提起するのは合憲)である。

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(6) 裁判所の助言者としてIPOは、「挙証責任がシフトしない場合にはライセンシーの気まぐれで特許権者をフルスコープの特許侵害訴訟に誘導することになる」と主張する。 しかし端的に言うと、訴訟は真の論争、緊急度合と現実性、がない場合には起こせない。 本事件においても特許権者であるMirowskiが論争の火付け(Medtronicに侵害の警告をした)をしたのである。

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(7) 多くの場合、ライセンシーが侵害訴訟において特許権の権利範囲を明確にするインセンティブを持っており、一般(民間)にとって特許権者が侵害の挙証責任を負うというルールを維持することが公共の利益との均衡を保つことができる。