Media Rights
Tech. v. Capital One Fed.
Cir. Decision 2014-1218 2015-09-04 Williamson大法廷判決(2015年6月)後のMPF関連の判決 “Compliance
Mechanism”という用語はMPF解釈となるか? | By Tatsuo YABE 2016-01-10 |
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本事件はWilliamson大法廷判決(2015年6月16日)以降のMPFクレームに関する判決であり、Media
RightsのUS7,316,033特許(以下033特許)で問題となったクレーム用語の一つはcompliance
mechanismで、確かにmeansという用語は使っていない。しかし当該用語には当業者が理解しうる構造体を含んでいるとは理解できないとして地裁およびCAFCは当該用語をMPF用語であると判断し、112条第6項解釈を適用した。 そして、問題となるクレーム用語で規定する機能を実現するための構造体(アルゴリズム:すなわち、MPF用語に対応する構造体)が明細書に開示されているか否かを判断した。結論としてはcompliance
mechanismというクレーム用語に対応する機能(4つの機能)に対応する構造体(機能を実現するための十分な開示)が開示されていないとして112条第2項のクレームの明瞭性の要件を満たしていないとして当該クレームを無効と判断した。 尚、compliance
mechanismという用語は033特許のクレーム1〜27(独立クレームはクレーム1、10、19)すべてに関与していたため033特許全体を無効と判断した。
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CAFCは、自身のNoah
System Inc v. Intuit Inc判決(2012年)を引用し、「”compliance
mechanism”は4つの機能を規定しており(地裁判決においても)、そのうちの一つに対応する構造が明細書に開示されていないとしても当該構成要素”compliance
mechanism”に対する十分なアルゴリズムが開示されていないと判断する」と述べている。033特許はクレーム1−27を有し、そのうちクレーム1と10、19が独立クレームである。 独立クレーム1に関しては2つの機能(A、B)を規定し、独立クレーム10では3つの機能(B、C、D)、独立クレーム19では2つの機能(BとD)を規定している。従って、本CAFC判決を額面通りに解釈すると機能C(クレーム10にのみ規定されている)に対応する構造体(アルゴリズム)が明細書に開示されていないという理由のみで機能Cを規定していない他の独立クレーム(及びその従属クレーム)も112条第2項を満たさないという理由で無効となる。
しかし本事件でCAFCが判決に至ったその根拠とするNoah判決(Fed.
Cir: 2012年)はそうはいっていない。Noah判決ではクレーム10−17(USP5,875,435:クレーム10が独立クレームでクレーム11−17はその従属クレーム)が権利行使の対象クレームで独立クレーム10において”access
means”という構成要素の2つの機能([i]
providing access to the fileと[ii] enabling the
performance of delineated operations)が問題となり[i]に対応する構造体(アルゴリズム)は開示されているが、[ii]に対応する構造(アルゴリズム)が開示されていないとして独立クレーム10は不明瞭であると判断され、その結果、従属クレーム11−17も不明瞭であると判断された。
尚、本CAFC判決で033特許を無効にした理由(112条第2項違反)においてクレーム1のcompliance
mechanismで規定する機能A、Bに関して対応する構造体(アルゴリズム)を当業者が理解できるレベルに明細書に開示されていないと述べている。然るに、CAFCの本意は独立クレーム1の”compliance
mechanism”で規定している複数の機能(A、B)の少なくとも一つ(機能A或いは機能Bの一方、または機能Aと機能B)含む独立クレーム10(機能B、C、Dを規定)及びクレーム17(機能B、Dを規定)も無効と判断され、対応する従属クレーム2〜9、従属クレーム11〜16、及び、従属クレーム18−27も無効と判断されると理解するのが正しいと考える。 言い換えると”compliance
mechanism”で規定する機能Cに対する構造体(アルゴリズム)のみが明細書に開示されていないと判断された場合には独立クレーム10とその従属クレーム11−16のみが不明瞭で無効と判断されるのであって他のクレーム1〜9及びクレーム17〜27は無効にはならない。
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尚、特許権者Media
Rightsは問題となった機能Aに対応する開示が明細書のプログラムのソースコードにあると主張したが、当該箇所のソースコードは機能Aに対応するものではなかった(専門家の証言による)。しかし033特許出願時にはcompliance
mechanismの機能Aに対応するプログラムも試作レベルではおそらく完成していたのではなかろうか? 確かに、プログラム全文を明細書に載せるのはページ数との関係で問題があるとしても、試作レベルでもプログラムが完成していたのであればどこかCrowd(後に日付等が特定可能で且つ検索可能なドメイン)にアップ(保管)しておき、当該保管箇所を示すURLを明細書に記載するなどで対応できたのではなかろうか?
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今後、特にコンピューター関連発明(ソフト)の出願審査においてWilliamson大法廷判決によって112条第6項解釈の適用を受ける可能性が高くなることと、Nautilus判決(2014年最高裁判決)に基づく明瞭性の判断基準が厳格になったので、MPF用語が不明瞭と判断される可能性が高くなると予想される。この状況に鑑み少なくともプログラム(ソースコード)を出願明細書と関連付けてクラウドにアップしておくことが重要ではなかろうか。
(以上筆者注)
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Fed. Cir. 判事-
O’Malley判事長; Plager判事;
Taranto判事(No Dissent: 反対意見なし)
特許権者:
Media Rights Technologies (“Media Rights”)
被疑侵害者:
Capital One Financial Corp. (“Capital One”)
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■問題となった特許USP
No. 7,316,033号の概要:
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クレーム1
A method of preventing unauthorized
recording of electronic media comprising:
activating a compliance mechanism in response to receiving media content by a
client system, said compliance mechanism
coupled to said client system, said client system having a media content
presentation application operable thereon and coupled to said compliance
mechanism;
controlling a data output pathway of said client system
with said compliance mechanism by diverting
a commonly used data pathway of said media player application to a
controlled data pathway monitored by said
compliance mechanism; and
directing said media content to a custom
media device coupled to said compliance
mechanism via said data output path, for selectively restricting output of
said media content.
■Background:
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033特許は著作権保護されたメディアコンテンツ等の違法ダウンロードを防止する手法に関し、特許権者、Media
Right、はCapital Oneを相手にバージニア州東部地区連邦地裁に侵害裁判を提訴した。同日にCapital
Oneは033特許が101条及び112条違反であるという趣旨の訴答に対する略式判断を求めた。裁判所は同日にマークマンヒアリングを実施した。 後に地裁は(1)033特許クレーム1のcompliance
mechanismという用語は112条第2項違反(不明瞭)であり、すべてのクレームに当該用語が関連しているという理由で033特許全体を無効と判断した。 地裁はクレームのcompliance
mechanismはMPFで112条6項に基づく解釈をし、当該用語に対応する構造体(アルゴリズム)は明細書に開示されていないという理由で無効と判断した。地裁はcompliance
mechanismに加えてcustom media deviceという用語も不明瞭であると判断した。
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地裁判決を不服としMedia
RightsはCAFCに控訴した。CAFCは、compliance
mechanismに関してのみ審理し、地裁判決を支持した。
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■争点:
クレーム1のcompliance
mechanismをMPF用語とし112条6項解釈することは正しいか?MPFと解釈する場合に当該用語に対する構造体は明細書に開示されているか、すなわち112条第2項の明瞭性を満たすか?
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■CAFC判決の概要:
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判決
地裁判決を支持する。
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最初に、”compliance
mechanism”がMPF用語であるか否かを審理する。112条第6項は構造体でクレーム用語を規定する代わりに、機能でもって表現することを許容している。しかし112条第6項を適用する場合には、当該用語の意味(権利範囲)は、当該用語に対応する明細書の構造、材料、あるいは、行為とその均等物に減縮解釈される。Williamson
v. Citrix Online No. 2013-1130 (Fed. Cir. June 16,
2015) クレーム用語がmeansという用語を使用する場合には112条第6項解釈するという反証可能な推定が働く。逆に、meansを使用しない場合には112条第6項解釈をしないという反証可能な推定が働く。 然しながら、問題となるクレーム用語の機能を実現する十分な構造が当該用語に記載されていないということを主張することで当該推定を反証可能である。Watts
v. XL Sys., Inc (Fed. Cir. 2000) 或いは、明細書の開示を参酌すると問題となるクレーム用語に十分な構造が開示されていると理解できる場合には112条第6項解釈を回避できる。
Robert Bosch, LLC v, Snap-On Inc.
(Fed. Cir. 2014) – (citing Inventio AG v. Thyssenkrupp Elevator Ams. (Fed. Cir. 2011))
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上記判例法を本事件に適用する。Compliance
mechanismという用語にはmeansという単語は使用されていないが、十分な構造が開示されていないのでMPF用語と解釈する。 Media
RightsはInventio判決を参照し、Inventio判決のmodernizing
deviceという用語がMPF解釈されなかった理由が033特許の”compliance
mechanism”という用語の解釈にも適用されると主張した。
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Inventio判決においてmodernizing
deviceという用語は112条第6項解釈の適用を受けなかった。Modernizing
deviceという用語は共通に理解できる用語ではないが、電気回路を意味し、十分な構造体が用語自体に内在されていることが明細書から理解できる。クレームにはmodernizing
deviceが信号を受信し、他の部材に信号を出力することが規定されており、明細書にはmodernizing
deviceとその構成物を記載し、それらがどのようにクレームの機能を実現するかが記載されているのでmodernizing
deviceをMPF用語として解釈しなかった。 本事件ではInventioのようにcompliance
mechanismという用語が電気回路の代替え用語あるいは明瞭な構造体を内在する用語とは理解できない。むしろクレームではcompliance
mechanismはいくつかの機能を実施するようにしか記載されていない。明細書のいずれの箇所にもcompliance
mechanismが特定の構造体であることは記載されていない。さらに明細書を参酌してもクレームのcompliance
mechanismという用語に十分な構造体の意味合いが付随しているとは理解できない。
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さらに、Inventio判決は推定(Meansを使用しない場合のMPF解釈しないという推定)の強さを変更したWilliamson大法廷判決(2015年)前なのでmeansという用語を使用しない場合の推定(MPF解釈しない)が強力な時代であった。しかし現在はそのような強力な推定は発生しない。Mechanismという用語は特定の構造を含有しているとは理解できない、その用語にcomplianceという用語を追加したとしても特定の構造を含むことにはならない。
See Mass. Inst. Of Tech
裁判所はクレーム用語の形容詞が当業者にとって一般的に理解される構造体を意味するか否かを検討しなければならない。 本事件の明細書でcomplianceという用語に当業者が一般的に理解できる構造体の意味合いをもたらす開示はない。
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よって、当該用語、「Compliance
mechanism」をMPF解釈する。従って、次に当該用語に対応する構造体を明細書で特定する。クレームのcompliance
mechanismは4つの機能を実現すると規定されている。従って、明細書には4つの機能のそれぞれに対応するアルゴリズムが開示されていなければならない。仮に、そのうちの一つの機能に対するアルゴリズムが開示されていないとしても、当該用語の機能に対応するアルゴリズムが開示されていないと解釈される。Robert
Bosch, 769 F.3d at 1097
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両当事者はクレームの
“compliance mechanism” が以下の4つの機能を実行することを同意している:
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(1) “controlling a data output of [the] client system . . . by
diverting a commonly used data pathway of [the] media player application to a
controlled data pathway” (Claim 1);
(2) monitoring the controlled data pathway
(Claims 1, 10 and 19);
(3) “managing an output path of [the] client system . . . by diverting
a commonly used data pathway of [the] media player application to a controlled
data pathway” (Claim 10); and
(4) “stop[ping] or disrupt[ing] the playing of [the] media content at
[the] controlled data pathway when said playing of said media file content is
outside of [the] usage restriction applicable to said media file” (Claims 10
and 19).
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112項第6項解釈が適用されるMPF形式のクレーム用語は112条第2項の明瞭性の要件を満たさなければならない。EON
Corp. IP Holdings v. AT&T Mobility LLC (Fed.
Cir. 2015)
依って、次に問題となるのは明細書でこれら4つの機能のすべてを達成する十分な構造の開示があるかである。Noah
Sys., Inc. v. Intuit Inc., 675 F.3d 1302 (Fed.
Cir. 2012) さらに、明細書で対応する構造を開示していたとしてもその開示によってクレームされた構成要素を当業者が理解できるレベルでなければならない。
本事件の場合にはコンピューターによって実行される機能なので、明細書で記載される構造は汎用コンピューターあるいはマイクロプロセッサというレベルの開示では不十分である。
Aristocrat Techs. Austl.
Pty Ltd. V. Int’l Game Tech (Fed. Cir. 2008) 本事案の場合にはクレームされた機能を実行するアルゴリズムの開示が明細書に開示されていなければならない。ここでいうアルゴリズムは数式、フローチャート、あるいは、他の手法による十分な開示を意味する。 Noah,
675 F.3d at 1312 (citing Finisar Corp. v.
Direct TV Grp. Inc., 523 F.3d 1323,1340 (Fed. Cir. 2008)
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上記した2つの機能、”controlling
a data output”および”managing output path”はdiverting
a data pathwayによって実行されると規定されており、Media
Rightsは033特許明細書のコラム11:37−コラム12:20(C++ソースコード)にdivertingに対応するアルゴリズムが開示されていると主張している。専門家の証言によると当該開示は幾種かのエラーメッセージを返信するプログラムコードであることが明白となった。依って、033特許の明細書にはdivertingに対する十分な開示(アルゴリズム)がないと判断される。従って、033特許の明細書にはクレーム1の”compliance
mechanism”という用語に対する十分な構造体を開示していないと判断される。
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033特許明細書のコラム11:37−コラム12:20(C++ソースコード)
さらに、明細書には”monitoring”という機能に対する十分な構造体を開示していないと判断される。(理由省略)
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上記理由によって地裁の判断(”compliance
mechanism”はMPF用語であって4つの機能を実現するための開示が明細書に欠落している。然るに033特許のクレーム1−27は無効である)を支持する。
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