|

本事案で問題となった特許は、凶器としての使用を防ぐために全体的に柔軟な構造に構成された刑務所或いは精神科の施設で使用される歯ブラシに関する。クレーム1では、(a)長手状部材102がその全体に渡って柔軟(“being flexible throughout the elongated body”)であるのかそれとも(b)長手状部材102のヘッド部分124にヘッド104（ブラシヘッド104：以下図の青色部分）を取り付けた状態においてもその全体に渡って柔軟であるのかがやや不明瞭に規定されていた。地裁はクレーム1を(b)の意味合いと解釈し被疑侵害品（イ号）はヘッドの部分が柔軟ではないとし略式判決で非侵害とした。CAFCは長手状部材102がその全体に渡って柔軟であり、ヘッド104に柔軟性は要求されていないと判断し地裁判決を破棄した。

|

|

本来の発明が明瞭となるように以下右コラムのようにクレームできたのではないでしょうか。

|

尚、CAFCの言うように上記(b)の解釈が妥当するとしても、Maxill（被疑侵害者）側に立てば、クレーム1では長手状部材102（第1材料）は柔軟でありヘッド104（第2材料）よりも剛性が低いとのみ規定しておりこれでは長手状部材がどの程度柔軟であるのかは不明瞭であるという理由で112条(b)項のクレームの明瞭性の要件を欠く、あるいは、112条(a)項のWD要件（出願時にクレーム1の広さに相応しい発明を所有していたのか？）を満たしていないという理由で無効を主張できると考えます。さらには、先行技術を調査しより関連性のある先行技術文献でもってクレーム1の新規性及び進歩性（非自明性）を攻撃できる余地もあると考えます。特許権者としてはクレーム1の権利範囲を維持するのは無理となれば再審査で従属クレーム4（具体的な硬度”固さ“を規定）、あるいは従属クレーム5（第2材料の詳細を規定）のレベルまでの減縮補正が必要になる可能性は十分にあると思料します。そうなった場合にはMaxillは非侵害となりそうです（クレーム4，5に関しては侵害の対象になっていない）。（以上筆者）

|

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■ 特許権者： Loops

■ 被疑侵害者: Maxill

■　問題となった特許：US Patent No.8,448,285

■　特許発明の概要：

刑務所或いは精神科の施設で使用される歯ブラシであって凶器としての使用を防ぐために全体的に柔軟な構造となっている。

|

|

■　被疑侵害品（イ号）：

Supermaxx Prison / Institutional Toothbrush

https://www.maxill.com/us/supermaxx-institutional-toothbrush-2537.html

Just like the name implies, the Supermaxx toothbrush is a premium secure toothbrush for Prisons and Correctional facilities where safety is at a hyper premium. The Supermaxx Prison / Institutional toothbrush is the safest toothbrush on the market, but doesn't come at a hyper premium price.

The textured grip makes this brush easy to handle, while it's rubber based body provides an unparalleled level of tamper resistance. The Supermaxx family of correctional rubber products has been on the market for over 25 years and has gained acceptance as the premium ultra-safe toothbrush.

イ号は刑務所或いは精神科の施設で使用される歯ブラシと名付けられ長手状の部材自身（青色）は全体に渡って柔軟な材料で形成されているが、ブラシヘッドが取り付けられた状態において長手状部材のブラシヘッド（ブラシ装着部）に相当する部分が柔軟に曲がるということはない。

|

■　事件の概要：

2017年12月5日、MaxillはLoopsの当該特許に対して非侵害であり当該特許は無効であると主張し確認訴訟を起こした。両当事者間において地裁に幾度かの申し立てがあったが2019年11月12日に地裁は被疑侵害品（イ号）の提出を求めた。11月27日に地裁はイ号を検討し特許権者Loopsの申し立てを認めず、非侵害とする略式判決を言い渡した。2019年12月9日、当該判決を不服としLoopsは地裁に再考を求めた。しかし2020年2月21日に地裁は再考の申し立ては受理されず本控訴審での審理となった。

|

■　争点：

クレーム1で”flexible throughout the elongated body”は歯ブラシのヘッド（ブラシヘッドの部分）も含んで柔軟であるのか？

 |

■　問題となったクレーム：

|

|

|

■　地裁の判断：

地裁は被疑侵害者（Maxill）の略式判決（非侵害）の申し立てを受理し、被疑侵害品（イ号）の長手状部材はその長手方向全体に渡って柔軟ではないので非侵害である。

|

イ号においてヘッドが長手状部材に装着されると長手状部材のヘッドの部分はハンドル部分のように曲がることはない。依ってイ号は長手状部材の全体にわたって柔軟ではないので非侵害である。 

|

■　CAFCの判断：

クレーム解釈は法律問題であって新た(de novo review)に検討する。Teva Pharms v. Sandoz (US Sup Ct. 2015) クレームの用語の解釈はクレームの文言、明細書、出願経過書類を基に法律判断とする。Trs. Of Columbia Univ. v. Symantec Corp (Fed. Cir. 2016) クレームを解釈するにあたりまずはクレームの用語自体を検討する。クレームの用語を解釈するうえで明細書を参酌し、さらには経過書類を検討することが必要である。Phillips v. AWH (Fed. Cir. 2005 en banc)

クレームの要件は長手状部材自身の柔軟さを規定しているが、地裁は長手状部材にヘッドが装着された状態でその全体の柔軟さと解釈している。クレーム1にも規定されているように歯ブラシは（１）長手状部材、（２）ヘッド、および、（３）ブラシの部分の3要素を規定している。さらに長手状本体はヘッド部分とハンドル部分を備え、第1材料で形成されており、長手状部材はその全長にわたり柔軟である。ヘッドは長手状部材とは別部材であり第2材料で形成されている。

|

クレーム4において第2材料の固さをShore Aスケールで75〜95と規定しておりクレーム1の柔軟であるという特徴はヘッドを除くことが明らかである。このようにヘッドが固い材料で構成されているのでクレーム1の柔軟であるという特徴は本体部分とヘッドの組み合わせを意図しているという解釈を否定することになる。

|

さらに明細書によるとヘッド104と長手状本体102は互いに独立した部材であり長手状部材102は柔軟な材料で形成されているのに対しヘッド104は固い材料で形成されている。然るにヘッドは長手状の本体と比べると剛性のある材料で形成されていると解釈するのが妥当である。

|

また、経過書類を参酌してもクレーム1の柔軟性という特徴がヘッドも含んで長手状本体の全体に渡って柔軟であるという記録はない。

|

上記に鑑みクレーム1を解釈すると長手状本体はその全体に渡って柔軟であることが要求されるが、ヘッドが（ヘッドが長手状本体のヘッド部分にモールド結合されたとしてもそのヘッドに）柔軟であることを要求していない。

|

地裁はクレーム1を長手状本体とヘッドの組み合わさった状態においてその全体にわたり柔軟であると解釈した。この地裁のクレーム解釈は間違いであり、その上でイ号は非侵害であるとした略式判断は間違いである。依って、地裁判決を破棄する。

|

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■　考察：

|

本事案においてそもそも(a)長手状部材がその全体に渡って柔軟であるのか、それとも、(b)長手状部材にヘッドを取り付けた状態においてもその全体に渡って柔軟であるのかが明瞭となるように以下のようにクレームできたと思います（即ち発明者は(a)の解釈を意図していた）。

|

1.  A toothbrush, comprising:

an elongated body (102) including a head portion (124) and a handle portion (126), the elongated body being flexible throughout the elongated body and comprising a first material and having a head portion and a handle portion;

a head (104) comprising a second material, wherein the head is disposed in and molded to the head portion of the elongated body; and

a plurality of bristles (106) extending from the head (104) forming a bristle brush,

wherein the elongated body (102) is made of a first material and the head (104) is made of a second material and the first material is less rigid than the second material.