Marine Polymer Tech. v. HemCon, Inc.

 

CAFC大法廷判決

 

2012315

 

 

CAFC大法廷(6−4)は、自身のパネル判決(2−1)を破棄し、再審査においてIntervening Rightsが生じるのは新規に追加されたクレーム或いは補正されたクレームに対してのみであり、意見書で述べられた議論によってIntervening Rightsは生じないと判示した。

 

Summarized by Tatsuo YABE

April 15, 2012

   

 CAFC大法廷は6−4の多数意見で、自身のパネル判決(2−1)を破棄し、地裁判決を支持した。 同地裁判決では特許権者Marine社の勝訴であり、HemCon社の侵害、損害賠償$29ミリオン(約25億円)の支払いを支持した。

 

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筆者コメント:

米国特許においてIntervening Rightsという用語は、通常、再発行出願(特許発行後2年以内のBroadening Reissue)によって権利範囲が拡大された場合に、権利範囲の拡大によってのみ侵害となった第3者の行為(クレームが拡大される前は非侵害)を特許再発行後も一定の範囲で許容しようとする米国特許法252条の規定に基づく権利である。 

 

注意:Intervening Rightsは「中用権」と訳されるが、実際にはかなり意味合いが異なる。

 

再審査においてはクレームの権利範囲を部分的であっても拡大することはできないので再発行出願におけるIntervening Rightsの考え方とは性質を異にする(米国特許第307b項で規定されたIntervening Rights)。即ち、307条b項のIntervening Rightsとは、再審査によってクレームが減縮補正された場合には、(減縮補正された後も第3者の行為が侵害と認定されたとしても)再審査以前の侵害行為に対する損害賠償を免除するという侵害者にとって非常に有利な権利である。  再審査によって減縮補正されたクレームの侵害を回避できない状態にあるに拘らず第3者の再審査前の侵害行為を免責されるというのは少し理解に苦しみますが、この法理の考え方は、再審査によってクレームが減縮補正されるということは再審査前、即ち、減縮補正前のクレームは無効であったと解釈できる、依って、無効な特許クレームの権利範囲を侵害する行為はそもそも損害賠償の対象とならないという考え方である。

 

今回CAFC大法廷での審理において、問題となったのは再審査においてクレームが補正(即ち、減縮補正)された場合には307条b項によってIntervening Rightsが発動されることは判例の集積で疑問の余地はないが、再審査中に特許権者が明白な意見を述べ、クレームの文言は補正されずとも、実体的にクレームの文言の解釈を限定した場合には307b項のIntervening Rightsが発動されるかであった。 僅差、64で、大法廷の多数意見は再審査においてクレームの文言が補正されていない場合には、いかに特許権者が反論で文言の権利範囲を減縮することを主張したとしてもIntervening Rightsは発動されないと判示した。 このように僅差故に合衆国最高裁が裁量上訴を認める可能性は否定できないが、それが為されない場合には本大法廷判決が実質の法律となる。

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以下本判決に至る経緯と本判決の要旨:

 

 

  地裁判決:(2010922日)

 

Marine社の特許クレーム(US6864245)で問題となったのは”biocompatible”という用語であり、この用語の意味合い(権利範囲)の解釈であり、侵害判断の争点となった。 HemCon社は訴訟と同期し、査定系再審査を請求し、問題となったクレームは再審査の入り口では拒絶されたがMarine社の反論(狭い意味合いで解釈することを主張した)で、結果的には当該クレームの文言を一切補正することなく当該クレームの有効性が認められた。 地裁ではMarine社が勝訴し、HemCon社に損害賠償額$29Million(約25億円)の支払いと差し止めを言い渡した。

 

Marine社特許6864245号のクレーム1

1. A biocompatible poly-.beta.-1.fwdarw.4-N-acetylglucosamine comprising up to about 150,000 N-acetylglucosamine monosaccharides covalently attached in a conformation and having a molecular weight of up to about 30 million daltons.

 

  CAFCパネル判決:(2011926日)

 

CAFCパネル判決(2−1)の多数意見は地裁判決を破棄した。 その理由は、Marine社が再審査において問題となったクレームに対して提出されたArgumentbiocompatibleの意味合いに関して議論を提示した)によって米国特許法307条(b)項のIntervening Rightsが発生すると判断した。 Marine社は再審査において当初審査官が理解していたbiocompatibleという用語に対する広範な意味合いを否定し、より狭い解釈が妥当することを意見書で説明した。 CAFC多数意見は、結果としてクレームを一切補正することなくMarineの当該特許は再審査を通過したが、審査官の当初の理解よりも狭い権利範囲であると主張し、その主張が認められたのでMarine社はクレームの所定の権利範囲を放棄したと理解され、依って307条(b)項のIntervening Rightsを発動させる(減縮)補正と等価なものと理解されると判断した。 307条(b)項のIntervening Rightsが発動されると再審査証明書(Reexam Ceritificate)の発行日までの損害賠償の全てが免除されるのである。

 

2012120日にCAFCHemCon社の大法廷での再審理の請願を受理し、315日の今回の大法廷判決に至った。

 

  CAFC大法廷判決:(2012315日)

 

多数意見:

大法廷の多数意見(6−4)では自身のパネル判決(2−1)を破棄し、再審査において実際に補正されていないクレームに対しては307条(b)のIntervening Rightsは発動されないと判示した。

 

35 U.S.C. 307 Certificate of patentability, unpatentability, and claim cancellation.

 

(a) In a reexamination proceeding under this chapter, when the time for appeal has expired or any appeal proceeding has terminated, the Director will issue and publish a certificate canceling any claim of the patent finally determined to be unpatentable, confirming any claim of the patent determined to be patentable, and incorporating in the patent any proposed amended or new claim determined to be patentable.

 

(b) Any proposed amended or new claim determined to be patentable and incorporated into a patent following a reexamination proceeding will have the same effect as that specified in section 252 of this title for reissued patents on the right of any person who made, purchased, or used within the United States, or imported into the United States, anything patented by such proposed amended or new claim, or who made substantial preparation for the same, prior to issuance of a certificate under the provisions of subsection (a) of this section.

 

多数意見は307条(b)項のIntervening Rightsが生じるか否かの判断は、再審査でクレームが補正されたか、或いは、新規に追加されたものかを確認する。その判断において答えがNOの場合には、それ以上の検討は不要である。 クレームの文言が再審査において補正されている場合においてのみ、307条(b)項で規定されたクレームが補正されたか、新規に追加されたものかという意味である。 今回のように特許権者によるクレームの権利範囲に対する意見のみでは(クレームの文言の補正はない)307条(b)項のIntervening Rightsは発動されない。

 

反対意見:

64の反対意見(Dyke, Gajarsa, Reyna, Wallach判事)においては、クレームの文言が一切補正されていなくても特許権者の意見によって明白にクレームの権利範囲の一部が否定、或いは、放棄された場合には307条(b)項におけるIntervening Rightsを発動させることになると意見を述べた。同反対意見のサポートとしては合衆国法典151193条、或いは、合衆国法典5551条において法律は文言を補正することなくとも擬制的に改訂することが可能であるとしている。