Littelfuse v. Mersen USA

2022年4月4日

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OPINION by Bryson, Prost and Stoll 
Summarized by Tatsuo YABE – 2022-04-21

本事件ではクレーム解釈における従属クレームの意義が問われた。結論から言うと独立クレームはその従属クレームより権利範囲は広いと推定され、従属クレームは独立クレームに対して何らかの特徴を追記するものである(Claim Differentiation Theoryに基づく考え方)。(Claim Differentiation Theoryに関しては2005年の大法廷判決Phillips v. AWH参照)

 本事件の審査経過においては初期のクレームではAとBの構成要素が規定されており拒絶理由に対応するべくCの要素を加えた。このCの要素は特定の実施例と図面(A,Bがそれぞれ独立した部材:以下左)にしか開示されていない。さらにCに対応する部材は従属クレーム(A,B,Cが統合され単一の部材:以下右)に対応する実施例と図面には存在しない。

許可された独立クレームの実施形態

従属クレームに対応する実施形態

 CAFCは[i]Claim Differentiation Theoryと[ii]クレーム解釈においてクレームは実施例を参酌するが実施例の形態に限定されないというCannon(クレーム解釈における基本)に基づき独立クレームはA,B,Cが統合され単一の部材で構成された形態を含む(地裁判決を破棄)とした。然しながら、経過書類禁反言に鑑みるとCの構成要素を追加しクレーム補正した時点でそれに対応する実施例に限定解釈となり、それと矛盾する従属クレームは削除されるべきではなかったのではないか(即ち、審査のエラー)という判断も妥当すると思料する。

被告(被疑侵害者)側の代理人となればたとえClaim Differentiation Doctrineによるクレーム解釈が推定されるとしても、禁反言により従属クレームの特徴は独立クレームの構成要素と矛盾するので無効であると説得性をもって主張できる。勿論、地裁においてそのように主張し認められたということだ。

 しかし、この辺りは、成立した特許には282条の有効性の推定が働き無効にする挙証基準が高くなるので本判決に至ったとも考えられる。まさにタイトロープを歩いたような判決(どちらに転んでいても仕方ない・・・)と考える。 

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■ 事件の背景:
LittelfuseはMersen社を特許侵害で地裁に提訴した。地裁はクレームを解釈し、非侵害の略式判決を下した。Littelfuseは同地裁のクレーム解釈を不服としCAFCに控訴した。

■ 特許権者:Littelfuse
■ 被疑侵害者:Mersen USA EP Corp.,
■ 関連特許:USP 9,564,281 (以下281特許)
■ 特許発明の概要:

当該特許はヒューズと電極を電通するヒューズ端部のキャップに関する。

■ 代表的なクレーム: 

クレーム

Claims

 

1
A fuse end cap comprising:
a mounting cuff defining a first cavity that receives an end of a fuse body, the end of the fuse body being electrically insulating;
a terminal defining a second cavity that receives a conductor, wherein the terminal is crimped about the conductor to retain the conductor within the second cavity; and
a fastening stem that extends from the mounting cuff and into the second cavity of the terminal that receives the conductor.

 

  8

8. The fuse end cap of claim 1, wherein the mounting cuff and the terminal are machined from a single, contiguous piece of conductive material.

 

  9

9. The fuse end cap of claim 1, wherein the mounting cuff and the terminal are stamped from a single, contiguous piece of conductive material.

■ 出願経過
281特許の出願明細書には3種類の実施例(3種のSpecies)が開示されており、出願人は第1回目のOAで審査官の限定要求に対して「複数の部材を組付けた端部キャップ」に対応するSpeciesを選択した。出願人の当該選択に応答し審査官は従属クレーム8-9の審査を保留した。従属クレーム8-9は「単一の部材から機械加工された端部キャップ(“machined end cap”」と「単一の部材から鍛造された端部キャップ”stamped end cap”」の実施例に対応している。

許可された独立クレームの実施形態

図4

従属クレームに対応する実施形態

図2(図3は省く)

尚、出願時のクレーム1では「”mounting cuff” (取付カフ [260: 460])」と「”terminal” (端部 [232: 432])」のみを規定しており、「”fastening stem” (連結ステム [465])」は規定していなかった。出願人は102条の拒絶を回避するために「”fastening stem” (連結ステム [465])」を追加するようにクレーム1を補正し、審査官は補正クレーム1を許可すると共に従属クレーム8-9を補正クレーム1の従属クレームとしてrejoinすることを許可した。

■ 地裁の判断
地裁においては独立クレーム1の「連結ステム」は他の2つの部材と連結するものと解釈された。地裁はクレームの「連結ステム」は「取付カフ」から延設し、「端部」の空隙に挿入されると理解した。即ち、地裁によると独立クレーム1は単一の素材で形成される端部キャップ(図2、図3の形態)をその権利範囲に含まないと解釈した。

■ CAFCにおける争点:
両当事者にとって上記地裁クレームの解釈(端部キャップは複数の部材により構成されたものに限定解釈される)が妥当するのか否かである。

■ CAFCの判断
上記地裁でのクレームの解釈(端部キャップは複数の部材により構成されたものに限定解釈される)には同意できない。CAFCにおいて下級審の内部証拠に基づくクレーム解釈に関してはde novo基準で判断し、事実認定に関してはclear errorの基準で判断する。Phillips v. AWH (Fed. Cir. en banc 2005)

281特許クレーム1では「取付カフ(袖口)」、「端部」、及び、「連結ステム」を規定している。従属クレーム8-9において端部キャップは単一の連続している導電材で製造されていると規定することで独立クレーム1をさらに限定している。

クレームの規定により、独立クレームはそれに従属するクレーム(従属クレーム)より広い権利範囲を備え、従属クレームで特定の実施形態を規定している場合には独立クレームは当該実施形態を含まねばならない。Baxalta Inc. v. Genentech, Inc. (Fed. Cir. 2020) さもなくば従属クレームは意味をなさない。従って、従属クレーム8-9によって端部キャップが単一の部材から製造されていると規定しているということは独立クレーム1が当該単一の部材による端部キャップを含むことに対する説得性のある証拠である。

但し、成立した特許クレームの権利範囲がそれぞれ異なるという法理論(doctrine of claim differentiation)は確定的なものではない。寧ろ、当該クレームの権利範囲の相違論(“claim differentiation theory”)の推定は経過書類の禁反言によるクレーム解釈によって覆すことは可能である。 Retractable Techs. Inc. v. Becton, Dickinson (Fed. Cir. 2011)

地裁においてクレーム1は複数の部材により構成される装置を規定しており、従属クレーム8-9は単一の部材で構成される装置を規定しているので、互いに矛盾することを認識している。その矛盾を認識したうえで審査官が従属クレーム8-9をRejoinderしたことがそもそも審査における間違いであると示唆した。しかし経過書類と明細書を参酌すると審査官が従属クレーム8-9をクレーム1が許可された後にRejoinderしたことは間違いであったと結論づける根拠はない。即ち、審査官が従属クレームをRejoinderしたのは許可された独立クレーム1の特徴の全てを含むと解釈したと理解される。独立クレーム1は複数の部材で構成されるものに限定されることなく、従属クレームのそれぞれがクレーム1で規定される「取付カフ」、「端部」、及び、「連結ステム」を含む端部キャップを規定していると解釈するのが理に適っている。

明細書の実施形態によると「連結ステム」は複数の部材によって組立てられた端部キャップのメンバーとして開示されている。しかし、クレームを好適な実施形態、或いは、明細書で開示された特定の例示に限定的に解釈するべきではないというのが裁判所におけるクレーム解釈の基本である。Teleflex v. Ficosa N. Am. Corp (Fed. Cir. 2002) さらに明細書のどこにも「連結ステム」が単一の部材により構成される端部キャップには存在しないとは記載されていない。

従って、クレーム1の「連結ステム」という構成要素は端部キャップが複数の部材で構成されないという解釈が明細書と経過書類に鑑み最も整合性がある。依って、地裁のクレーム解釈と判断を否定する。

地裁判決を破棄差戻とする。

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