112条(a),(b)関連の判例
■RAI Strategic Holdings v. Philip Morris - Fed. Cir. 2024-02-09
明細書で開示した数値レンジよりも狭い数値レンジを規定するクレーム(但し、狭い数値レンジは明細書には記載されていない)は112条(a)項の「記述要件」を満たすか否か?
■Amgen v. Sanofi - (Supreme Court: 2023-05-18)
2023年5月18日、米国特許法第112条(a)項の明細書に課せられた「実施可能要件」に関する合衆国最高裁判決がでました。一言で云うと最高裁はAmgenの特許クレームは112条(a)項の実施可能要件を満たさないとした地裁・CAFCの判決を認容した。
■ Amgen v. Sanofi: 合衆国最高裁で口頭審理 2023-03-27
米国特許法第112条(a)項の実施可能要件に関する最高裁での口頭審理、1952年立法されて最高裁が「実施可能要件」を審理するのは初めて(機能表現された抗体に対するGenusクレーム)
■ Amgen v. Sanofi 最高裁上告受理 - 2022-11-04
合衆国最高裁は112条の「実施可能要件」に関して審理することを決定した。1952年に現行法の基礎たる米国特許法112条が立法されてから「実施可能要件」に対して最高裁がレビュするというのは初めてという意味で画期的なことである。
■ Alison v. ITC
& Aspen - Fed. Cir. 2019-08-27
112条2項のクレームの明瞭性(造語の使用とそのサポート):
本判決は112条第2項のクレームの明瞭性に関するものであり、Aspen社の359特許で問題となった用語は、エアロゲル(軽量でありながら高い絶縁性を有する)の材料を規定するクレーム1の”lofty fibrous batting”という用語である。明細書によると”lofty
batting”とは孔(気泡:空気)と圧縮後に復元する弾性という性質を備えた繊維材料である。被疑侵害者であるAlisonは当該用語の解釈で「弾性(圧縮後復元する)」という意味合い(どの程度の復元なのか)が当業者にとって合理的な確証を与える程度の明瞭性がないと主張したがITC及びCAFCでも当該主張を認めなかった。
■ Hologic v. Smith
& Nephew - (Fed. Cir.
April 5, 2018)
112第1項、明細書の記述要件に関する判決:
予想可能な技術分野において、単一のSpecies (a fiber optics bundle)を開示していたことでGenus (a light guide)に補正が認められた判決。
■ BASF Corp v.
Johnson Matthey - (Fed. Cir.
November 20, 2017)
112条2項の明瞭性(・・触媒作用を起こすのに有効な組成物):
本事件の争点は、USP8524185特許クレーム1の”composition effective
to catalyze (触媒作用を起こすのに有効な材料組成物)”という用語は、Nautilusの基準、即ち、明細書の説明及び当業者の知識に鑑み、どのような材料組成物がそれに該当するのか当業者が合理的な確証をもって理解できるのかである? CAFCは「触媒作用を起こするのに有効な材料組成物」というクレームの表現はNautilus基準を満たすと判断。
■ One-E-Way v. ITC - (Fed. Cir. June 12, 2017)
112条2項の明瞭性(程度を示す用語の使用):
Virtually Free from Interferenceは112条2項要件を満たすか? CAFCは2:1の多数意見でvirtually
free from interferenceとfree from interferenceには権利範囲に違いがあることを認めるも、当該差異が技術的(定量的)には規定されていないがそうであるからと言って不明瞭とはならないと判断した。Prost判事長はvirtuallyという用語によってどの程度のinterferenceを許容するのか当業者に合理的な確証を与えるレベルに明瞭ではないと反対意見を述べた。
■Rivera
v ITC - (Fed.
Cir. May 23, 2017)
112条1項の記述要件:
112条第1項「記述要件」に関する判決。7年も掛けて権利化した特許(発明はコーヒーの抽出機に関し、3回のRCE、100頁を超える審判理由書・・・)も審査中に問題にならなかった開示要件で無効となった。審査で許可されたクレームであっても登録料納付前にクレームをチェックするのが望ましい(特に権利行使に使えそうな重要出願)。
■ Sonix
v. Publication International - (Fed. Cir. January 5, 2017)
112条2項(主観的な表現):
クレームの”visually negligible(目視で無視できるレベル)”という用語が112条第2項の要件(クレームの明瞭性)を満たすか否かが争点となった。地裁では112条第2項の要件を満たさないと判断した。CAFCは地裁の略式判決を破棄した。
■Media
Rights v. Capital One (Fed. Cir. September 4, 2015)
MPF解釈と112条2項のクレームの明瞭性:
本事件はWilliamson大法廷判決(2015年6月16日)以降のMPFクレームに関する判決であり、Media
RightsのUS7,316,033特許(以下033特許)で問題となったクレーム用語の一つはcompliance mechanismで、確かにmeansという用語は使っていない。しかし当該用語には当業者が理解しうる構造体を含んでいるとは理解できないとして地裁およびCAFCは当該用語をMPF用語であると判断し、112条第6項解釈を適用した。そして、問題となるクレーム用語で規定する機能を実現するための構造体(アルゴリズム:すなわち、MPF用語に対応する構造体)が明細書に開示されているか否かを判断した。結論としてはcompliance mechanismというクレーム用語に対応する機能(4つの機能)に対応する構造体(機能を実現するための十分な開示)が開示されていないとして112条第2項のクレームの明瞭性の要件を満たしていないとして当該クレームを無効と判断した。
■Williamson
v. Citrix - (Fed.
Cir. en banc: June 16, 2015)
MPF解釈と112条2項のクレームの明瞭性:
CAFC大法廷はmeansという用語を使用しない構成要素にMPF解釈(112条第6項解釈)を適用する基準を明示した。しかし、当該基準(3Prongテスト)はWilliamson判決以前からMPEP2181に記載されていたので審査においてクレーム用語のMPF解釈の判断基準は変わらない。問題となった構成要素は”distributed leaning control module”で”module”は”means”を置換したにすぎない、”module”以外でも、例えば、mechanism、 element、 deviceなども十分明白な構造をその用語に内在(含意)するものではなくmeansを使用するのと等価である。さらにlinking wordとして”for ・・・ing[機能]”の代わりに”configured to”或いは”so that”に書き換えてもMPF解釈に影響を与えない(詳細はMPEP2181参照)。
■EON
v. AT&T Mobility LLC - (Fed. Cir. May 6, 2015)
MPF解釈とアルゴリズム:
ソフトウエア関連発明を規定するMPF用語の機能を実現するための構造(アルゴリズム)を記載しておくことの重要さを再警告した判決。地裁判決と本CAFC判決の間にTeva判決(2015)とNautilus最高裁判決(2014)が出た。
■Biosig
v. Nautilus - (Fed. Cir. April 27, 2015)
112条2項の明瞭性の要件:
2014年6月2日、最高裁(Nautilus v. Biosig)は、112条第2項の要件の判断基準をCAFCの “solubly ambiguous(当業者がなんとか理解できるレベル)”を否定し”reasonable certainty(当業者に合理的な確証を与える程度の明瞭さが必要:新基準)“を判示した。 依って、本事件をCAFCに差戻した。CAFCによると最高裁の新基準によっても”in spaced relationship”という用語を含むBiosigのクレームは112条第2項の要件を満たすと判断した。
■ Nautilus v. BioSig - (Supreme Court: June 2, 2014)
112条2項の明瞭性の要件:
最高裁はCAFCの112条(2)項要件の判断基準、即ち、「クレームの意味合いが分析可能(“amenable to construction”)である場合、或いは、クレームが解消不能(“insolubly ambiguous”)な程度まで不明瞭ではない場合には112条(2)項の要件を満たす」を否定した。 最高裁が示した新基準は、112条(2)項の要件を満たすには「明細書および経過書類を参酌しても当業者が合理的な確証をもって(with reasonable certainty)発明の権利範囲が理解できる」ことである。即ち、”solubly ambiguous”から”reasonable certainty”とクレームの明瞭性のハードルを上げた。
■ Ibormeth v.
Mercedes-Benz (Fed. Cir. October
22, 2013)
MPF解釈と112条(b)項の関係:
112条(f)項解釈されるクレームの構成要素(computational means)が112条(b)項のクレームの明瞭性を充足する要件を判示した。即ち、MPF解釈された当該構成要素の機能に対応する構造あるいはアルゴリズムを当業者が理解できるレベルに明細書で開示されていなければならない。(2015年のWilliamson判決の基礎)
■ Laryngeal Mask Co.,
(LMA) v. Ambu AS (Fed. Cir. September 24, 2010)
112条1項の開示要件と明細書の「発明の要約部」:
本判決は、Ariad判決(2010年3月:CAFC大法廷)以降、112条第1項の「開示要件」を基礎とする無効理由が侵害裁判において頻繁に利用されていることを示す。また本件特許は100%機械発明であり、112条第1項の「開示要件」をメカ関連のクレームでどのように判断するべきかの一つの指針になる判決と考えます。また、発明の要約部(Summary of the Invention)の記載がクレーム解釈に重要であることを再認識させる事件である。
■ Ariad Pharmaceuticals
v. Eli Lilly & Co. (Fed. Cir. en
banc: March 22, 2010)
112条第1項の「記述要件」と「実施可能要件」:
9:2の大法廷判決は112条第1項の「記述要件」は「実施可能要件」とは識別される要件であり、発明者がクレームしている発明を本当に所有していたかどうかを当業者が理解できるように明細書に記載しなければならないとした。大法廷は、「記述要件」を満たす明細書の開示に対する明白な判断基準を示さなかったが、包括的なクレームが当該記述要件を満たすには、当該クレームの範囲に属する代表的な実施例(複数)が明細書で開示されていることで満たされるであろうと説示した。 拠って、今後は、実施例のわりに広すぎるクレームがある場合には、発明者が当該広さに対応する発明を所有していなかったという理由で出願審査時には記述要件違反で拒絶、或いは、そのようなクレームは裁判所で無効と判断されるケースが増えると予想される。
■ Taltech Limited v.
Esquel Apparel (Fed. Cir. May 22,
2008)
ベストモード要件:
112条第1項のベストモード要件に対する明瞭なガイダンスを与えた判決である。⇒ 2011年のAIA(米国特許改正法)によってベストモード要件は2011年9月16日以降に提起される訴訟では無効理由から排除された。但し、USPTOでの審査においては拒絶理由の根拠として残る。
■ Arisocrat Tech. v.
International Game Tech. (Fed. Cir. March 28, 2008)
MPF解釈(制御手段):
クレーム1のMeans Plus Functionで表現された "game control means" に相当する明細書の構成(structure)が一般的なマイクロプロセッサとしか開示されていなかった。 CAFCは、当該明細書の開示のみでは、112条第6項で言う構造・構成(Structure)が開示されていないと判断した。プログラム関連発明の場合には、112条第6項で言う明細書で開示されたstructureとはTangibleな構造体(構成要素)という意味ではなく、一般的なマイクロプロセッサであれ、それがプログラムによって特定の機能を実行することになるので、この場合にはプログラムに相当するアルゴリズムが112条第6項でいうstructureに相当する。従って、ソフトウェア関連発明においてクレームで「制御手段」或いは「制御部」を機能で規定する場合には明細書にマイクロプロセッサなどを記述するとともに、機能を実行するアルゴリズムを記載しておくことが必要である。機能を実現するアルゴリズム(Structure)の開示が不十分な場合には112条第2項のクレームの明瞭性の要件を満たさないとしてクレームは無効とされる。⇒ 2015年のWilliamson大法廷判決で112条6項解釈の適用基準と112条2項の明瞭性との関連性が明白に判示された。