自明性に関する判決:
■ UCB v. Actavis Lab - Fed. Cir. 2023-04-12
本事案はクレームの数値レンジと引例との数値レンジが重複する場合における新規性と自明性の判断に関わる判例である。
■ Campbell Soup v.
Gamon Plus - Fed. Cir. 2021-08-19
米国意匠特許(Design Patent)の自明性判断の法理を再確認:
即ち、Utility特許の自明性判断基準と同様に1966年最高裁Graham判決のGrahamテスト[1]-[4]の項目を考慮に入れて判断する。然し、Grahamテストの[1]-[3]の項目を検討する際にはDurlingテスト(Durling v. Spectrum: Fed. Cir. 1996)を用い、当業者はデザイナーが引例同士を組み合わせることでクレームされた意匠と全体として同じ印象を与えるか否かで判断する。尚、Grahamテストの[4]二次的考察事項はUtility特許と同様に挙証の対象となる製品とクレームとのNexus(緊密な関連性)の有無を判断する。
■ Chemours v. Daikin - Fed. Cir. 2021-07-22
自明性(クレームに対するTeach Awayの適用):
PTABは単一の引例でクレーム(数値限定)を自明と判断したが、CAFCは当該引例の記載を基にTeach Awayの法理を適用し審決を破棄した。クレームに対するTeach Awayの法理を適用する解りやすい判例。
■ Raytheon Tech v
GE - Fed.
Cir. 2021-04-16
自明性(実施可能要件に問題のある単一の先行技術文献):
Obviousness by a single Non-Enabling Prior Art? 唯一の先行技術は1987年のNASAの技術メモ(未来のターボエンジンの構想(仮想案)を記録)。当該技術メモでクレームを自明にできる?
■ McCoy v Heal
Systems -
Fed. Cir. 2021-04-01
自明性(当業者のレベル):
103条(自明性)判断における「当業者のレベル」とは?
■ Deere v. Gramm- Fed. Cir. 2021-02-04
自明性(敢えてMPF解釈):
"coiled spring"の代わりに"biasing means for biasing.."とクレームすることでMPF解釈され余裕で非自明と判断された。
■Ex
Parte Lebovich: PTAB 2020-09-15 (Objective Evidence)
自明性(客観的証拠と審査官の拒絶理由とを比較衡量):
本事例はPTABによる審決であり自明性の判断に関する。特に、出願人が提示する客観的証拠の取り扱いに関する。審決で明示されているように、自明性の最終判断は、審査官の自明性拒絶と出願人の提示する客観的証拠の強さを天秤(比較衡量)に掛けて判断する。
■Ex
Parte Morey PTAB 2020-07-02
自明性(Result-Effective
Variable):
Online Seminar (注意:Clickして視聴できない場合にはURLをコピーし視聴ください): https://www.youtube.com/watch?v=hWYk4bGmOlg
本事例はPTABによる審決であり自明性拒絶に関する。特に材料系の出願において(メカでもときどき)変数を所定範囲に規定するクレームはResult-Effective-Variable(結果を得るために有効な変数)であり当業者にとって当該変数を最適化することは自明であるという拒絶を受けることがあります。この種の拒絶を受けたときには比較的最近改訂された審査便覧2144に基づき対応することが望ましい。即ち、審査官がResult-Effective-Variableとする変数は先行技術において所望する結果を得るために影響を与える(有効な)変数であることが認識されていないことを証明し反論する。
■ Collabo v. SONY - Fed. Cir. 2020-02-25
自明性:
引例の図で示された形状は「カップ形状」か、それともクレームされた「台形」と解釈されるか否か? SONYの勝利!
■ Google v. Phillips - Fed. Cir. 2020-01-06
自明性(当業者にとって自明の試み):
本事案は103条(自明性)判断に関する判決で、自明性判断の中でもObvious to Try(当業者にとって自明の試み)の適用に関して説示した。より詳細には方法クレームの最後のステップのみが引例との差異であり、その差異が当業者にとって限られた数のオプションと理解される場合にはObvious to Tryと理解されると判示した。
■ Fox Factory v.
SRAM LLC -
Fed. Cir. 2019-12-18
自明性(客観的証拠):
本事案は103条(自明性)判断における2次的考察事項(商業上の成功など)と問題となるクレームとのNexus(緊密な関連性)に関して判示した。即ち、問題となる特許クレームにAとBの特徴のみが規定されており、商業上の成功を収めた製品がAとBに加えてCという重要な特徴を備えている場合にクレームと2次的考察事項との間にNexusが存在すると言えるのかが争点となった。
■Liqwd
v. L'OREAL USA - Fed. Cir. 2019-10-30
自明性(客観的証拠):
本事案は自明性判断における「客観的証拠」の取り扱いに関する。1966年のGraham最高裁判決で自明性を判断するのに客観的証拠(secondary considerationとも称する)も考慮に入れると判示された。客観的証拠の例としては商業上の成功(但しクレームとのNexusが必要)、長年望まれたニーズ、業界紙による賞賛、他者によるコピー(copying by others)などがある。本事案では他社によるコピー(copying by others)が問題となった。
■Campbell
v. Gamon - Fed. Cir. 2019-10-15
自明性:
久々の全くもってメカ発明の自明性に関するCAFC判決。問題となった特許発明はスープなどのシリンダー状の製品を陳列し取り出しを容易にしたラック(スーパーなどに設置するラック)に関し、購買者が製品をピックアップした後に気が変わりラックに戻すときに最前列の製品の上に容易に載置する(戻す)ことができるという構造に関する。そのような構造はスープ缶で有名なキャンベルのラックに採用されている。難解な発明に関する判例を解読するのに疲れた人向けのスッキリ判決。
■ Forest Lab v
Sigmapharm - Fed. Cir. 2019-03-14
明細書の記載によってクレームが減縮解釈:
自明性:発明者にしか認識されていなかった問題点
本事件の第1の争点は明細書で [i]“the invention relates to…”;[ii]”the title of the invention”;及び[iii]本願発明のメリットの記載によるクレームの文言解釈への影響に関する。即ち、[i]; [ii]; [iii]での開示に整合性があり、それらと非整合或いは異にする発明の開示がない場合には「the invention relates to “X”」の”X”をクレームの権利範囲に読み込んで解釈されても仕方ないということが学べる。第2の争点は自明性の判断に関する。興味深い点は本事案特許の発明者にしか認識されていなかった問題点(アセナピンを飲み込むという服用に起因する心毒性)を解決したという事実が認定され当業者にとって予期せぬ結果(“unexpected
result”)を得たと地裁は判断した。然し、CAFCは当該地裁判決を否定した。即ち、CAFCは当業者に周知されていなかった問題点を解決したということ自体でunexpected resultを挙証したことにはならないと判示した。第2争点に関してはCAFC大法廷による見直しが必要と考える(筆者)。
■ In re Conrad - Fed. Cir. 2019-03-22
自明性:
本判決は自明性に関する内容で、争点は発明者が従来技術の問題点を発見しそれを解決する構成要素がクレームに存在する場合に当該問題点(即ち発明者が発明に至った動機付け)に対して一切言及していない2件の引例同士を(発明者の動機付けとは全く異なる理由で)組み合わせて自明とするのは妥当かという点である。
■ In re VAN OS - (Fed. Cir. January 3, 2017)
自明性(引例同士の組み合わせが一般常識):
KSR判決(2007年最高裁判決)において、自明性を主張する場合に引例同士を組み合わせる理由としてTSM (Teaching, Suggestion, Motivation)が明示されていなくとも当業者にとっての一般常識或いは想像力を考慮にいれることが可能であり、TSMルールを硬直的に適用することを否定した。本判決はKSR判決でTSMルールの適用が緩和されたことを再確認するも、引例同士を組み合わせることの動機(Motivation)が当業者の一般常識(common
sense)である、或いは、当業者にとって直感的に理解できる(intuitive)というだけでは不十分であると判示した。
■ Apple v. Samsung (Fed. Cir. en banc: October 7,
2016)
自明性:
CAFC大法廷は自身のパネル判決(3件のApple特許に対する判決)を8-3で破棄し異例の速さでApple勝訴の判決をだした。Appleの申し立てを受け、何故、CAFC大法廷が異例の速さで審理を開始し、僅か7か月足らずで判決を言い渡したのか不明である。判決文が非常に長いのでその中でもAppleのslide to
unlockという特徴をクレームした特許に関してまとめた。このSlide to unlock(画面のアイコンを横方向にスライドしないと携帯が作動しない)という特徴はまさに発明者の年齢、学歴・職歴を一切不問で本来の特許の醍醐味と言えよう。即ち、日々の暮らしで不便を感じたとこに着眼し、ふと思いついたことを文字にしたら権利が取れたというレベル。しかしこのような特許が何十億円もの価値になるのは面白い(筆者)。
■ CLS bank v. Alice
CAFC en banc (Fed. Cir. en
banc: May 10, 2013)
101条、特許保護適格性の判断に「発明概念」?:
この度(2013年5月10日)、長らく待たれたCLS
bank判決(CAFCの大法廷判決)が出た。10人の判事による大法廷判決は過半数の多数意見(Majority Opinion)に至らず、5人の判事を代表しLourie判事によって書かれた意見がPer Curium(今回の大法廷判決とする)の判決となった。そもそも101条(保護適格性)のハードルは低いもので多くの場合には他の条文、記載要件或いは新規性・非自明性の判断をすることで特段101条の審査さえする必要はなかった。しかし、2012年に最高裁がMayo判決において適格性に対する新しい法理(保護適格性に対する新規判断基準)を判示した。当該法理論には「発明概念」の必要性を盛り込むなど、実務者には到底理解し難いもので裁判官が適用するには余りにも無理があり、過去にはあり得ないSplit Decisionとなった(6 opinions)。
■ C.W. Zumbiel v
Graphic Packaging (Fed. Cir. December 27, 2012)
自明性:
アメリカのコンビニ或いは食料品店においてよく見る1~2ダース入りの炭酸飲料水を収容するカートンボックスに関する発明であって、その前端部を開口するための指差込フラップの位置を規定した従属クレーム2は非自明である。この技術の難易度はかなり低いがこれがまさに特許の醍醐味(簡単で他社が真似したい)。
■ Wake Forest v.
Smith & Nephew (Fed. Cir. August 13, 2012)
上級審における下級審の事実認定に対する判断基準:
米国特許出願審査中における自明性の判断は審査官或いは審判部が行うわけだが、訴訟において特許クレームの自明性を判断する際には、事実問題(陪審の判断事項)と法律問題(裁判官の判断事項)が入り組み、どこで線引きをするのかが必ずしも明確ではない。 今回の事件はその線引きを確認するとともに、その線が実はボヤケタ状態で地裁において運用されていること、及び、その運用をCAFCも認めていることを示す判決のひとつである。⇒ 3年後の最高裁(Teva v. Sandoz )によって事実問題と法律問題に対するレビュ基準が明瞭に判示された。
■ MS
v. i4i Limited P'ship (Supreme Court: June 9,
2011)
被疑侵害者の挙証責任:
争点は、訴訟において特許の有効性を争うときに審査段階で考慮されなかった先行技術で無効を主張するときの挙証責任の基準は「明白、且つ、説得性のある証拠: “Clear and Convincing evidence”:以下C&C基準とも称する」によるべきか、それとも「証拠の優越性: Preponderance of Evidence: 以下、P基準とも称する」の基準によるべきかである。即ち、審査段階で引用されたか否かでそれぞれの先行技術に対して挙証基準を変えるのかが争点となった。そもそも、そのような判断は現実的に不可能(引用されたA引例「C&C基準」と引用されなかったB引例は「P基準」との組み合わせで自明性を主張する)であり結論として最高裁はいずれの先行技術に対してもC&C基準が妥当すると判示した。
■ Ex Parte CAROLYN
RAMSEY CATAN PTO審決: 2007年7月3日
USPTOでの自明性の判断:
本事件はKSR最高裁判決が出てからUSPTOで先例(Precedent)の地位が与えられた最初の審決である。依って、今後暫くは、米国特許庁での審査及び審判における自明性の論争は本審決が参酌されることになる。従って、米国特許実務者は本先例で引用された最高裁判決並びにCAFC判決の判示事項を再確認することが重要。
■ Leapfrog
Enterprises, Inc., v. Fisher-Price, Inc.
and Mattel, Inc., (Fed.
Cir. May 09, 2007)
自明性:
本事案は、KSR判決後10日以内に出た自明性判断に対するCAFC判決である。本事件で問題となった特許クレーム25の有効性に対して2件の引例装置と周知の構成要素の一つが組み合わされて自明であると判断された。これら3件の公知技術の組み合わせに対してはKSR最高裁での判示が引用され、その組み合わせの是非を判断するためTSMテストを硬直的に適用させず、当業者の一般知識に鑑み妥当か否かという判断基準で審理され、同組み合わせの動機付けを認めクレームを自明と判断された。
■ KSR v. Teleflex (Supreme Court April 30,
2007)
自明性:
2007年4月30日、合衆国最高裁判所のKSR事件の判決が出た。 CAFCの判決は破棄された。即ち、自明性の判断において、引例の組み合わせに対するTSM(teaching, Suggestion, Motivation)の存在が証明されない場合には自明と判断しないとしたCAFCの判示は否定された。 即ち、TSMテストを厳格に(硬直的に)適用することは最高裁のこれまでの判決と矛盾するとし、TSM以外にも当業者にとっての一般知識・常識が参酌され、自明性の判断が行われることが判示された。
■ KSR v. Teleflex (Supreme Court 合衆国最高裁で口答審理 November 28, 2006
自明性:
去る11月28日午前11時より約1時間に渡り、合衆国最高裁判所においてKSR事件の口答審理が開催された。被疑侵害者KSR側の代理人Dabney弁護士; 政府側(米国特許庁の代表弁護士)としてHungar弁護士(KSR側を支持している);及び、特許権者であるTeleflexを代理するGoldstein弁護士の順に最高裁判所で意見が述べられた。口答審理のトランスクリプトとAIPLA(アメリカ知財弁護士協会)の速報を基に抜粋した。口答審理のトランスクリプトを読んでも今後の判決の行方は明瞭には浮かばないが、(筆者の個人的見解ですが)少なくともTSMテストは維持されるが、TSMテストを硬直的に適用するのではなく、TSMの存在を主張する根拠(証拠)の拡大が明示されると予想する。 注意: TSMテスト(Teaching,
Suggestion, Motivationの存在を判断するテスト)
■ CAFCの103条(自明性の判断基準)に関して最高裁に裁量上訴
KSR International - against -Teleflex and Technology Holding Co.,
自明性:
KSR社は地裁判決(特許無効)を破棄差戻ししたCAFC判決に不服を唱え、最高裁に裁量上告している。争点は、「先行技術の教示内容をクレームされた態様に組み合わせるように当業者を導いたであろうという教示、示唆、或いは、動機付け(TSM)の存在を示す証拠がない場合には、103条(a)項の基に自明と言えないとしたCAFCの硬直的な法理が正しいか否か」である。下級審地裁においては自明性故に問題となったTeleflex特許クレームの無効が認められたが、CAFCにおいて同無効判決が破棄された。その理由は、Asano特許と市販品の制御装置をクレーム4のように組み合わせることに対する Teaching/Suggestion/Motivationが挙証されていないということである。24名で構成される全米ロースクールの知財専門の教授陣もKSR社の裁量上告を支持するとともに、法廷助言者としての意見書を提出しており、より適切な自明性(特に引例を組み合わせて自明とする)の判断基準を判示することを要請している。
本件の裁量上訴が認められ、最高裁において自明性判断基準のガイドラインがでることを希望する(筆者)。
■ In re ALBERTO LEE BIGIO (Fed. Cir. August 24, 2004)
Analogous or Non-Analogous (先行技術は同類か否か:MPEP
2141.01(a))
CAFC多数意見はヘアブラシに対する特許出願の先行技術として歯ブラシを類似技術と判断した米国特許庁審査官と審判部の判断を支持した。 Newman判事は反対意見を述べ、歯ブラシはヘアブラシと同類の引例にはなりえないと主張しております。そもそも歯ブラシに要求される機能とヘアブラシに要求される機能は全く異なる。⇒ 然し、後に2007年のKSR最高裁判決によって設計変更のニーズ或いは市場の必要性に応じて異なる技術分野のものも先行技術となりうると傍論で述べて先行技術として引用されうる技術分野の広がりを示唆している。KSR事件の直後に出たLeapfrog
Enterprises判決ではまさに先行技術として引用できる技術分野の広がりが判示されている。