自明性(Teaching/Suggestion/Motivation)に関する判決:
■ In re VAN OS - (Fed. Cir. January 3, 2017)
自明性(引例同士の組み合わせが一般常識):
KSR判決(2007年最高裁判決)において、自明性を主張する場合に引例同士を組み合わせる理由としてTSM (Teaching, Suggestion, Motivation)が明示されていなくとも当業者にとっての一般常識或いは想像力を考慮にいれることが可能であり、TSMルールを硬直的に適用することを否定した。本判決はKSR判決でTSMルールの適用が緩和されたことを再確認するも、引例同士を組み合わせることの動機(Motivation)が当業者の一般常識(common
sense)である、或いは、当業者にとって直感的に理解できる(intuitive)というだけでは不十分であると判示した。
■ Apple v. Samsung (Fed. Cir. en banc: October 7,
2016)
自明性:
CAFC大法廷は自身のパネル判決(3件のApple特許に対する判決)を8-3で破棄し異例の速さでApple勝訴の判決をだした。Appleの申し立てを受け、何故、CAFC大法廷が異例の速さで審理を開始し、僅か7か月足らずで判決を言い渡したのか不明である。判決文が非常に長いのでその中でもAppleのslide to
unlockという特徴をクレームした特許に関してまとめた。このSlide to unlock(画面のアイコンを横方向にスライドしないと携帯が作動しない)という特徴はまさに発明者の年齢、学歴・職歴を一切不問で本来の特許の醍醐味と言えよう。即ち、日々の暮らしで不便を感じたとこに着眼し、ふと思いついたことを文字にしたら権利が取れたというレベル。しかしこのような特許が何十億円もの価値になるのは面白い(筆者)。
■ C.W. Zumbiel v
Graphic Packaging (Fed. Cir. December 27, 2012)
自明性:
アメリカのコンビニ或いは食料品店においてよく見る1~2ダース入りの炭酸飲料水を収容するカートンボックスに関する発明であって、その前端部を開口するための指差込フラップの位置を規定した従属クレーム2は非自明である。この技術の難易度はかなり低いがこれがまさに特許の醍醐味(簡単で他社が真似したい)。
■ Ex Parte CAROLYN
RAMSEY CATAN PTO審決: 2007年7月3日
USPTOでの自明性の判断:
本事件はKSR最高裁判決が出てからUSPTOで先例(Precedent)の地位が与えられた最初の審決である。依って、今後暫くは、米国特許庁での審査及び審判における自明性の論争は本審決が参酌されることになる。従って、米国特許実務者は本先例で引用された最高裁判決並びにCAFC判決の判示事項を再確認することが重要。
■ Leapfrog
Enterprises, Inc., v. Fisher-Price, Inc.
and Mattel, Inc., (Fed.
Cir. May 09, 2007)
自明性:
本事案は、KSR判決後10日以内に出た自明性判断に対するCAFC判決である。本事件で問題となった特許クレーム25の有効性に対して2件の引例装置と周知の構成要素の一つが組み合わされて自明であると判断された。これら3件の公知技術の組み合わせに対してはKSR最高裁での判示が引用され、その組み合わせの是非を判断するためTSMテストを硬直的に適用させず、当業者の一般知識に鑑み妥当か否かという判断基準で審理され、同組み合わせの動機付けを認めクレームを自明と判断された。
■ KSR v. Teleflex (Supreme Court April 30,
2007)
自明性:
2007年4月30日、合衆国最高裁判所のKSR事件の判決が出た。 CAFCの判決は破棄された。即ち、自明性の判断において、引例の組み合わせに対するTSM(teaching, Suggestion, Motivation)の存在が証明されない場合には自明と判断しないとしたCAFCの判示は否定された。 即ち、TSMテストを厳格に(硬直的に)適用することは最高裁のこれまでの判決と矛盾するとし、TSM以外にも当業者にとっての一般知識・常識が参酌され、自明性の判断が行われることが判示された。
■ KSR v. Teleflex (Supreme Court 合衆国最高裁で口答審理 November 28, 2006
自明性:
去る11月28日午前11時より約1時間に渡り、合衆国最高裁判所においてKSR事件の口答審理が開催された。被疑侵害者KSR側の代理人Dabney弁護士; 政府側(米国特許庁の代表弁護士)としてHungar弁護士(KSR側を支持している);及び、特許権者であるTeleflexを代理するGoldstein弁護士の順に最高裁判所で意見が述べられた。口答審理のトランスクリプトとAIPLA(アメリカ知財弁護士協会)の速報を基に抜粋した。口答審理のトランスクリプトを読んでも今後の判決の行方は明瞭には浮かばないが、(筆者の個人的見解ですが)少なくともTSMテストは維持されるが、TSMテストを硬直的に適用するのではなく、TSMの存在を主張する根拠(証拠)の拡大が明示されると予想する。 注意: TSMテスト(Teaching,
Suggestion, Motivationの存在を判断するテスト)
■ CAFCの103条(自明性の判断基準)に関して最高裁に裁量上訴
KSR International - against -Teleflex and Technology Holding Co.,
自明性:
KSR社は地裁判決(特許無効)を破棄差戻ししたCAFC判決に不服を唱え、最高裁に裁量上告している。争点は、「先行技術の教示内容をクレームされた態様に組み合わせるように当業者を導いたであろうという教示、示唆、或いは、動機付け(TSM)の存在を示す証拠がない場合には、103条(a)項の基に自明と言えないとしたCAFCの硬直的な法理が正しいか否か」である。下級審地裁においては自明性故に問題となったTeleflex特許クレームの無効が認められたが、CAFCにおいて同無効判決が破棄された。その理由は、Asano特許と市販品の制御装置をクレーム4のように組み合わせることに対する Teaching/Suggestion/Motivationが挙証されていないということである。24名で構成される全米ロースクールの知財専門の教授陣もKSR社の裁量上告を支持するとともに、法廷助言者としての意見書を提出しており、より適切な自明性(特に引例を組み合わせて自明とする)の判断基準を判示することを要請している。
本件の裁量上訴が認められ、最高裁において自明性判断基準のガイドラインがでることを希望する(筆者)。