CAFC判決 LIQWD v. L’OREAL USA, INC. 2019年10月30日 自明性判断における客観的証拠(Copying
by Others)の取り扱い OPINION
by REYNA (HUGHES and STOLL) Summarized
by Tatsuo YABE – 2019-11-11 |
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本事案は自明性判断における「客観的証拠」の取り扱いに関する。1966年のGraham最高裁判決で自明性を判断するのに客観的証拠(secondary
considerationとも称する)も考慮に入れると判示された。客観的証拠の例としては商業上の成功(但しクレームとのNexusが必要)、長年望まれたニーズ、業界紙による賞賛、他者によるコピー(copying
by others)などがある。本事案では他社によるコピー(copying
by others)が問題となった。他社によるコピーを挙証するには他社が特許製品を模倣するべく努力したという証拠を提示しなければならない。注意すべきは侵害行為が起こったという事実のみで他社によるコピーは挙証されないということだ。
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本事案ではPTABにおいてLIQWDの特許クレームは自明と判断された。しかしL’OREALはLIQWDの出願時の明細書を守秘義務を負った状態で学習したという事実がある。本事案ではL’OREALの侵害は争点ではないにしてもL’OREALとしては侵害を認知しているためにPTABで無効を争ったのである。即ち、PTABでLIQWDの特許クレームは自明という判断を貰ってほっとしたのも束の間、自身の過去におけるLIQWDの技術(問題となる特許の出願明細書)を学習させてもらったという事実が非自明性を主張する証拠として考慮されなければならないとCAFCは結論づけた。
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差戻し審においてL’OREALの過去の学習行為(問題となるLIQWD特許の出願明細書)が客観的証拠のコピー(copying
by others)に相当すると判断されると直ちにPTABで一度自明と判断されたLIQWDの特許クレームが非自明になるとは限らない。然し、もし非自明と判断されればL’OREALの販売行為は故意侵害(侵害を周知していながら侵害行為を継続した)と判断される可能性もある。筆者の邪推ではあるが単一の競合者(L’OREAL)がコピーをしたという事実のみで一旦自明と判断されたクレームが非自明とされる可能性は低いであろう。LIQWDの特許クレームが先行技術で自明であるという判断が微妙であれば可能性はあるが、LIQWDの特許クレーム1の権利範囲はとても広い(以下参照)ので単一の競合者がコピーをしたという事実のみで先行技術による自明性判断を覆すくらいの客観的証拠にはならないであろう。(以上筆者)
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■ 事件の背景:
2017年1月31日、L’OREALはLIQWDの特許9498419号のクレームを無効にするべくPGR手続きををPTABに申請した。PTAB(審判部)において419特許のクレーム1は3件の引例(Ogawa:Berkemer:KR’564)によって自明であると判断された。さらに、PTABはL’OREALはLIQWDの秘密情報にアクセスしない限りはマレイン酸を使用した製品を製造しなかったであろうと判断した。即ち、L’OREALはLIQWDの製品をコピー(自明性判断に対する客観的証拠)したという事実がPTABで審理されたのに拘わらず非自明性の判断では考慮されていない。当該PTABの審決を不服としLIQWDはCAFCに控訴した。
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■ 特許権者:LIQWD
■ PGR申請人:L’OREAL
USA
■ 関連特許:USP
9,498,419 (以下419特許)
■ 特許発明の概要:
当該特許はケラチン処理Formulation及びその方法に関し、髪の毛、肌、或いは、爪をカラーリング(着色)或いは脱色(Bleach)する技術に関する。問題となったクレーム1は髪を脱色する手法に関し、活性剤としてマレイン酸或いは塩を使うことと、当該活性剤の混合物中の重量%を0.1%から50%と規定している。(非常に広いクレームと思料する:筆者)
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■ 代表的なクレーム:
クレーム1 |
USP 9,498,419: Claim
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1. A method for bleaching hair comprising: (a) mixing a formulation comprising an active agent with a
bleaching formulation, wherein the active agent has the formula:
or salts thereof; and (b) applying the mixture to the hair; wherein the active agent in the mixture is at a concentration
ranging from about 0.1% by weight to about 50% by weight; and wherein
the mixture does not contain a hair coloring agent. |
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■ CAFCにおける争点に関して:
L’OREALが守秘義務下でLIQWDの特許出願情報(現419特許)にアクセスしコピーしたという事実(copying
by others)を自明性の判断において考慮しないと言及したPTABの判断は妥当か。
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■ PTAB(審判部)の判断
PTAB(審判部)は419特許のクレーム1は3件の引例(Ogawa:Berkemer:KR’564)によって自明であると判断した。さらに、PTABはL’OREALはLIQWDの秘密情報にアクセスしない限りはマレイン酸を使用した製品を製造しなかったであろうと事実認定した。しかしLIQWDはL’OREALがLIQWDの特定の製品をコピーしたということを挙証していないのでL’OREALがコピーしたという事実を自明性の判断には考慮に入れない。
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- Ogawa: US PG Pub No. 7,044,986
- Berkemer: (DE 1,220,969
- KR’564: Korean Patent Pub No. 2006-0059564
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■ CAFCの判断
PTABはL’OREALはLIQWDの公開されていない情報にアクセスしない限りはマレイン酸を使用した製品を製造しなかったであろうと判断した。CAFCはPTABのこの事実認定を自明性判断基準の客観的証拠(Secondary
Consideration)として考慮にいれなかったことが正しいのかを検討した。
客観的証拠は、非自明性を挙証するのに多くの場合に最も説得性がある。客観的証拠は後知恵によるバイアス(偏見)の掛かった判断を避けるためにも有効である。然るに非自明性を判断する上で客観的証拠を考慮するのは基本である。即ち、競合他社によって特許技術がコピーされるという事実は客観的証拠を判断する上で重要である。しかし客観的証拠としての「コピー(copying)」という事実を挙証するには特許権者の製品にアクセスし、その特徴を模倣するということが必要である。言い換えると、侵害行為を間違って客観的証拠としてのコピー(Copying)と取り違えないようにすることが重要である。We
recognized that “copying requires duplication of features of the patentee’s
work based on access to that work, lest all infringement be mistakenly treated
as copying” and that the relevant inquiry was whether there was evidence of
copying efforts. Id. (citing Iron Grip Barbell, 392 F.3d at 1325).
客観的証拠としてのコピーを挙証するには、競合者が特許権者の特定の製品を模倣する努力(copying
efforts)をしたことを証明する必要がある。侵害行為が発生した「クレームの構成要素が競合者の製品に存在する」という事実のみでコピー(客観的証拠としての)が行われたという判断するのを防ぐことが重要である。
本事案においてはL’OREALが守秘義務に同意のうえでLIQWDの非公開情報にアクセスしたという証拠(2015年5月の会合)がEmailに記録されており、その証拠をLIQWDが提示している。さらに、2015年5月の会合時に855出願(419特許)のコピーをL’OREALに渡したということをLIQWD側の博士2名が証言している。
The
evidence presented by Liqwd and cited by the Board included a L’Oreal email
referring to a non-disclo-sure agreement and a planned May 2015 meeting with
Liqwd’s founder Dean Christal and others involved with the project, including
the ’419 patent’s co-inventor, Dr. Eric Pressley. Id. (citing J.A.
2895). The Board also cited to declarations from Dr. Pressley and Mr. Cristal
that dis-cussed details of the May 2015 meeting, providing L’Oreal with a copy
of the then-confidential ’885 application that disclosed the patented method
of using maleic acid in keratin treatment, L’Oreal’s receipt and review of
the ’885 ap-plication, and L’Oreal’s subsequent loss of interest in
purchasing Liqwd’s technology. Id. (citing J.A. 3001–13). The
Board also considered a lab notebook, which L’Oreal contended showed that
L’Oreal independently developed its own products. Id. (citing J.A.
2397–573). The Board rejected L’Oreal’s contention. Id. Accordingly,
we affirm the Board’s factual finding that L’Oreal used maleic acid because
of L’Oreal’s access to Liqwd’s confidential information.
にも拘らずPTABはL’OREALのコピーする努力(copying
efforts)を非自明性の判断には考慮しないと述べている。The
Board, however, disregarded its finding that L’Oreal copied Liqwd’s patented
method, determining that the evidence of L’Oreal’s copying efforts was
irrelevant be-cause Liqwd had not shown that L’Oreal “copied a patented
product.”
このPTABの判断は明らかに間違いである。 依って、これらL’OREALのコピー努力(copying
efforts)に関する証拠を再考し非自明性の判断をするためにPTABの判断を破棄しPTABに差し戻す。
We
therefore vacate the Board’s obviousness determination and remand the case for
the Board to consider this evidence in its obviousness analysis. See Knoll
Pharm. Co. v. Teva Pharms. USA, Inc., 367 F.3d 1381, 1385 (Fed. Cir. 2004)
(“The so-called ‘objective’ criteria must always be considered and given
whatever weight is warranted by the evidence presented.” (internal citation
omitted)); Stratoflex, Inc. 713 F.2d 1530, 1539 (Fed. Cir. 1983) (the
obviousness analysis requires that “all pieces of evidence on that issue have
been fully considered and each has been given its appropriate weight”).
破棄差し戻し
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