| Supreme Court Decision No. 12-786 June 02, 2014 Limelight Networks Inc. v. Akamai Tech. Inc. | 271条(a)項に基づく直接侵害行為がない場合には 271条(b)項による教唆侵害とはならない。 | Summarized by Tatsuo YABE June 12, 2014 |
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昨今恐ろしい頻度で最高裁は特許関係事件の裁量上告を認めるとともに異常に早期に判決文を出している(4月29日にOctane事件、Highmark事件、6月2日に本事件とNautlis事件の判決が出された)。 ところが判決文が異常に短くなってきている(ある意味、助かる場合も多いが・・・「最高裁判決によってより混乱する場合が多いので」)。 今回も10ページと2行という短かい判決文である。
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最高裁はCAFC大法廷判決(Akamai
v. Limelight: 2012-08-31)を破棄・差し戻した。 最高裁によると271条(a)項による直接侵害を構成しない場合には被告Limelightが271条(b)項の教唆侵害の責任を負うことはないと判示した。 LimelightはAkamai特許の方法クレームの一部を実施し、残りのステップ(“tagging:タグ付”)は顧客が実施する。 最高裁は271条(a)項の直接侵害の構成要件に関して、CAFCによるMuniauction事件(2008年)の判示を正しいと推定し(最高裁は皮肉交じりに”正しいと推定する“と判決文で言及している)、最高裁は自身のAro
Mfg.事件(最高裁1961年)の法理を適用し、271条(a)の直接侵害が認定されないので、271条(b)項の責をLimelightは負わないとした。 但し、最高裁は判決文の末尾にCAFCに対して271条(a)項の直接侵害の構成要件を再度レビュするように示唆している。
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Muniauction事件は複数人(AさんとBさん)によって方法クレームの全てのステップ(S1+S2+S3とする)が満たされる場合に直接侵害を構成する場合があることを認め、その要件を判示した。 その要件とは即ち被疑侵害者(Aさん:S1+S2を実施)が残りのステップS3の実施に関しても自身の指揮・管理下で行っていると言えるのか(即ち、Bさんによる“S3”の実施はAさんの指揮・管理下で行われている)否かで判断し、当該判断がYESの場合にはAさんは方法クレームを直接侵害する。 CAFCは差戻し審においてLimelightが顧客のTagging(タグ付)というステップを自身の指揮・管理下で実行させたと解釈できるのか、或いは、「方法クレームのステップすべての実施を自身の指揮・管理下におく」というMuniauction事件で判示された要件が厳格すぎるとし、Muniauctionの法理を見直すのか、このあたりが注目するべきポイントと思料します。 (以上筆者注)
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以下最高裁判決の概要:
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Limelight v. Akamai -- Sup. Ct. No. 12-786
CAFC大法廷判決(6:5):2012年8月31日
最高裁上告受理:2014年1月10日
口頭審理: 2014年4月30日
最高裁判決: 2014年6月2日 (CAFC判決破棄差し戻し)
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本事件は271条(b)項で規定される教唆侵害の構成要件に関する。
AkamaiはCDN(Content
Delivery Network:コンテンツ配信ネットワーク)を利用する電子データ配信手法に関する特許(USP6,108,703)の専用実施権者である。 LimelightはCDNを利用し、当該特許クレームの幾つかのステップを実行している。 しかし、”tagging(タグ付)”と呼ばれるステップは顧客が実施することになっている。 271条(a)項による直接侵害の責を負うものは方法クレームの全てのステップを自らで実施している場合である。 この法理は昨今のCAFC判例、Muniauction
v. Thomson(2008年)によって再確認された。 本事件において、地裁判決によると、Limelightは方法クレームで規定されるステップの全てを実施していないという理由で当該特許を直接侵害していないと判断した。 CAFCにおいてはLimelightを271条(b)項に基づく教唆侵害の責任を負うと判断した。
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以下、最高裁判決の要旨:
271条(a)項による直接侵害行為を構成しない場合には被告が271条(b)項の責任を負うことはない。
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最高裁(Alito最高裁判事による全一致の判決文)は、上記CAFC大法廷判決を破棄し、差戻した。
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1. 271条(a)項の侵害が認定されない場合に271条(b)項の責を負うことはない。 Aro
Mfg. Co. v. Convertible Top Replacement Co*1.,
365 U.S. 336, 341 Muniauction事件*2(2008年CAFC判決)の法理が正しいという推定の基に、Akamaiの方法クレームはそのすべてのステップが単一の者によって実施されていないので侵害されていない。 直接侵害のなきところに教唆侵害はない。 CAFCの見方(見解)は271条(b)項の規定の確実性を否定し、侵害行為の認定に対し2つの法律を設定することになる。 271条(b)項に対する本法廷の解釈の正当性は271条(f)(1)によって裏付けられる。 Deepsouth判決(Deepsouth
Packing v. Laitram Corp*3
: U.S. 518 - 1972年最高裁判決)において特許クレームの構成要素を個別に製造し、それらを外国に輸出し、外国において組み合わせることで当該クレームの構成要素の全てを満たすという事実関係に基づき、最高裁は当該製造者の行為は271条の侵害を構成しないと判断した。 後に(1984年)、合衆国連邦議会は271条(f)(1)を立法し、特許された製品を構成する部材Aと部材Bを個別に外国に輸出する者を271条(f)(1)の侵害の責に負うとした(筆者注記)。 即ち、連邦議会は侵害を構成しない行為に対してどのように教唆侵害の責を負わせるかを271条(f)(1)で規定している。 依って、教唆侵害に対して異なる法理を適用する理由はない。
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2. Akamaiは不法行為法および刑法における犯罪行為教唆の法理、および、1952年に成立した特許法以前の特許法の法理を用いてCAFCの271条(b)項の解釈を正当化しようとしているが、それら理由付けは説得性を欠く。 方法クレームの侵害者となる可能性のある者が方法クレームのステップの一部を他者が実行するように体裁を整えることで侵害の責任を免れるという理解は、CAFCの271条(a)項の解釈に起因するものである。 このように、ステップの一つを他者に実施させることで侵害の責を免れるという結果を回避するという思いから米国特許法で明確に規定されている教唆侵害の規則を抜本的に変更することを正当化することはできない。
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3. 本事件は271条(b)項の解釈が争点であり271条(a)項ではない、且つ、本事件の争点はLimelightが271条(a)の直接侵害をしていないという推定に基づくので、我々(最高裁)はCAFCのMuniauction事件の判決の正当性に関しては論じない。
然るに、CAFCは差戻し審において271条(a)項の直接侵害を再度レビュされたい。
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*1)
Aro Mfg.事件(最高裁1961年)
Aro Mfg. Co. v.
Convertible Top Replacement Co 365
U.S. 336, 341
直接侵害なきところに教唆侵害は成立しえないと判示した。 Aro事件は実は271条(b)項の教唆侵害ではなく、271条(c)項の寄与侵害に関する判決であるが、271条(b)項も271条(c)項も同じ株から派生したものなので、今回の事件に際し、法理論として識別する必要はないと本法廷(最高裁)は理解している。
*2)
Muniauction事件(2008年CAFC判決)
Muniauction Inc. v.
Thomson Corp. 532
F.3d 1318 (CAFC: 2008)
被告は方法クレームで規定されたステップの幾つかを実施し、当該被告のシステムにアクセス許可された顧客が残りのステップを実施するという事実関係において、CAFCはまずは単一の者がクレームされた方法クレームの全てを実施することが271条(a)項の直接侵害の要件であるという理解に基づき審理した。 但し、この要件は、方法クレームのステップが複数の者によって実施されるとしても、単一の者がすべてのステップの実行を自身の指揮・管理下に置いている場合には満たされると判断した。 当該理解の基に、CAFCは、顧客が残りのステップを実行するのは被告の指揮・管理下にないとして被告の行為は方法クレームの直接侵害を構成しないと判断した。
“Accordingly,
where the actions of multiple parties combine to perform every step of a claimed
method, the claim is directly infringed only if one party exercises “control
or direction” over the entire process such that every step is attributable to
the controlling party, i.e., mastermind.” (2007-1485: Fed. Cir. decided on
2008-07-14)
*3) Deepsouth
Packing判決(最高裁1972年)
Deepsouth Packing v.
Laitram Corp : U.S. 518
271条(f)(1)が立法される前の判決であって、特許された製品を構成する部材Aと部材Bを個別に外国に輸出する行為が侵害になるか否かが争われた。 当時は非侵害と判断された。 合衆国連邦議会は1984年に当該行為を侵害とすべく271条(f)(1)を立法化した。
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参考資料:BACKGROUND INFO
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Limelight v. Akamai
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