Lighting Ballast v.
Phillips Electronics Fed.
Cir. En banc Decision 2014/02/21 Fed.
Cir. (6:4) Reaffirmed Cybor
Decision (1998) “De
novo review of claim construction” Tatsuo YABE March 3, 2014 |
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2014年2月21日に、Lighting
Ballast v. Phillips Electronics大法廷判決がくだされた。 争点は1998年のCybor事件の大法廷判決(クレーム解釈は純粋に法律問題であって裁判官の専権事項であり、上級裁判所は下級審裁判所の判断を尊重する必要はない。)を支持するべきか否かであった。 今回10名の判事による大法廷の多数意見(6:4)で1998年のCybor判決を支持すると判断された。
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今回Cybor判決を支持するとした多数意見の主たる理由は「先例の拘束性」であり、法の安定性と予見可能性を維持するために「先例の拘束性」を否定あるいは修正する場合には切迫した理由が存在するべきであるとしている。 Cybor判決の法理が過去15年間(1998年より今日まで)で機能していないという顕著な例がないこと、さらに、本裁判に対して提出された21通の裁判所の助言者による意見、さらには、本法廷(CAFC)の反対意見においてもCybor判決をどのように変更するべきか、あるいは、Cybor判決よりも適切に運用できそうなレビュ基準が提案されていないとしている。 また、Cybor判決の法理を修正し、下級審の事実判断には「明らかに間違っていない場合には尊重する」、法律判断に対しては「新たに審理する」という上級審の判断基準を正式に変更すると、控訴審における争点が下級審の判断が事実問題に関するものか否かが主たるものになる可能性があると述べている。 このように本事件の多数意見において1998年のCybor判決を支持する積極的なメリットが明白に説示されていない。平たく言うとCybor判決の法理よりも明らかに良いと思える判断基準がないということだ。
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1998年のCybor判決は1997年のMarkman判決(最高裁判決)を先例とした適用したCAFCの大法廷判決であって、Markman判決に整合性があるとしているが、Markman判決(1996年最高裁)においてもクレーム解釈には事実判断と法律判断が混在することを認めている。 当該Markman判決において、クレーム用語を解釈する上で裁判官も専門家の証言を必要とするときがあり、その際に証言する専門家の信頼性は専門家の態度から陪審が判断する事項(事実判断)であるとしても、専門家の証言内容をそのまま受け入れる必要はないとしている。*1
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今回の多数意見を簡略し数式「Y = F(X)」で表現すると以下のように述べていると理解する(筆者):
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Y= F(x)
クレーム解釈@上級審 = F(x1, x2, x3, x4,…)
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クレーム解釈@上級審 = LEGAL判断(a1x明細書; a2x経過書類; a3x下級審において事実認定された専門家の証言;
a4x辞書・専門書;・・・・・)
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where a1〜a4は係数で、上級審裁判官の裁量で決定できる。
a3を0.1あるいは0.8の重み付にしてクレームを解釈するか否かは上級審裁判官の裁量である。
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本事件の反対意見は、 a3を通常は1(地裁で事実認定されたのだから”明白な間違いがない場合には”その判断を受け入れる)にしてクレーム解釈をするべきでありそれを判例法で正式に変更するべきであると理解する(筆者)。
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取敢えず今回の大法廷判決では上記係数 a3を判例法できっちりと決めるのではなく上級審裁判官の裁量にしようということだ。最高裁が裁量上告を受理しない限りは(Rader判事長を含む4人の判事が反対しているとしても)この判決に基づき上級審でクレーム解釈がなされることになる。
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今回の大法廷判決はクレーム解釈の根幹に関わる最重要な判決であることは間違いがない。 しかし侵害裁判の実務に対する影響はどの程度なのか? 本事件の多数意見の35,36頁にあるデータを基に見ると、地裁で提訴された侵害裁判のうち最終のトライアルまで行くのが2013年のデータで2.8%であり*2、CAFCに控訴されるのが同年のデータで8.5%である*3。 地裁からの中間控訴などを無視してかなりラフな見積もりではあるが、僅かに2.8%
x 8.5%がCAFCで審理されると理解される。 即ち、地裁で提訴された侵害裁判のうち0.24%ほどが控訴審でクレーム解釈されることになる。1000件の事件のうち2〜3件の事件が控訴審で正式にクレーム解釈されるということのようだ。
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昨今の最高裁の知財(特に特許法の根幹に関わる)事件に対する関与の度合い*4から見て、本件が最高裁で上告受理される可能性は否定できないだろう。 要Watchである。(筆者)
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以下、大法廷判決の概要:
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争点:
以下の争点に関して審理された。
(1)1998年のCybor判決*5を破棄するべきか?
(2)地裁のクレーム解釈(いずれかの箇所)を尊重をするべきか?
(3)上記(2)でYESの場合には地裁判断のどの部分を尊重するべきか?
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大法廷判決:
6:4でCybor判決を支持する。
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事件の背景:
問題となったのはLighting社の特許クレームの構成要素、「voltage
source means」であって、地裁においては112条(6)項の解釈をせずに有効性を認めたが、控訴審(CAFC)において当該構成要素を112条第6項と解釈し、明細書にそれに対応する構成要素が開示されていないという理由でクレームを112条第2項違反とし無効と判断した。 Lighting社は当該判決を不服とし、その理由は控訴裁判所(CAFC)は連邦地裁のクレーム解釈(実質的に事実に基づく書類の解釈である)に敬意を表するべきであり、1998年のCybor判決(クレーム解釈は純粋な法律問題であり上級審において新たに判断する:
de novo review)の見直しを請求した。
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本法廷(CAFC)はCybor判決(大法廷判決1998年)を再度検討するべきかヒアリングをした結果、大法廷で見直すことになった。
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大法廷判決:
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多数意見(判事6名)+
同意意見; 反対意見(判事4名)
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■ 多数意見(6名):Newman判事による(Lourie判事;Dyk判事;Prost判事;Moore判事;Taranto判事が同意)
1998年のCybor判決(大法廷判決)の法理を支持する。即ち、下級審のクレーム解釈に対して上級審は覆審(de
novo)の基準で審理する。言い換えると、下級審裁判官のクレーム解釈には一切拘束されない。
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36の組織・団体から21件の裁判所に対する助言(amicus
curiae brief)が寄せられた。 これら助言は次の3つに大別される。
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(第1)Cybor判決には真っ向から反対。 クレーム解釈は事実と法律問題が混在したうえでの判断となる。Markman判決*6(最高裁判決)は裁判官と陪審との役割分担を判示したもので、クレーム解釈に事実問題が存在することを認めたもので、控訴審(上級裁判所)における審理基準を示したわけではない。 事実に対する下級審の判断には一定の敬意を称する(尊重する)という基準は事実問題が特許のクレーム解釈に関するものであっても同じである。
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(第2)米国特許庁を含む助言者の意見で、Markman判決(最高裁判決)は、特許は法律の文書(契約書)であって、特許クレームの解釈は純粋に法律問題であるとしたことを認めている。 但し、控訴審(上級裁判所)におけるクレーム解釈の基準は、下級審において事実判断をした部分には明白な間違いがあるか否かで判断し、最終的な判断は法律判断をするというのが正しい。
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(第3)Cybor判決はMarkman判決(最高裁判決)に鑑み正しい。
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多数意見がCybor判決を支持した理由は概要以下の通り:
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先例の拘束性
(Stare Decisis):
先例の拘束性は根本的に重要な法原則である。 それは法の行使時における予見可能性と効率を維持する。 依って、差し迫った正当な理由がない場合には変更するべきではない。
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連邦巡回区控訴裁判所が設立された理由:
CAFCの設立理由の目的として先例の拘束性を基礎とする整合性と安定性がある。
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15年間の間にCybor判決の法理、「上級審は下級審のクレーム解釈を覆審基準”de
novo”で審理する」(以下単純に「Cybor判決」あるいは「Cybor判決の法理」と称する)が機能しないという証明がされていない。
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助言(amicus
curiae brief)において、de novo基準以外を採用する具体的な手法が提示されていない; 多数意見として、Cybor判決あるいはMarkman判決に対して全く論争がないとは言わない。しかし、Cybor判決の先例の拘束性から離反するべき正当な理由がない。
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助言者の意見の中でDe
novo基準以外によりよい運用可能なレビュー(審理)の基準が提案されていない。
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裁判所は専門家証言あるいは専門書から知識を得ることでクレーム解釈の一助にする場合があるが、そうだからといって、クレーム解釈を事実問題に変換することにはならない。
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米国特許庁の助言(amicus
curiae brief)において、ハイブリッドの基準でクレーム解釈をすることでどのような違いがでるかを具体的に例示していない。
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同じ特許で複数の被疑侵害者(被告)を相手に別々の裁判所で侵害裁判が行われることがあるが、それぞれの裁判所(連邦地裁)のクレーム解釈の判断に一定の敬意を表することになればクレームの有効性、侵害の判断に齟齬が生じる可能性がある。
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反対意見において、Cybor判決の法理は和解を遅らせ、訴訟費用を増大させると述べているが、そのデータは古い、昨今はそうではない。 また、de
novo基準で審理をすると、控訴審における地裁判決が破棄される率が高くなっていると述べている(破棄率の統計データはなし)。 控訴率は1994年から減少傾向にある(因みに1994年には20.4%で、2013年では8.5%)。 また、地裁裁判で最終段階(トライアル)まで進む率は1994年には5.9%で、2013年には2.8%である。
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■ 同意・補足意見: (”Concurring
Opinion”)Lourie判事による:
Cybor判決を否定するコメントの多くは地裁判事によって適切になされたクレーム解釈のすべてが無視されるという前提に立っているようだ。 そのような前提は正しくない。 控訴審(CAFC)においてクレーム解釈をする場合に、下級審(地裁)においてどのようにクレームが解釈されたかを十分に検討する。 下級審のクレーム解釈に控訴審(CAFC)が反対する場合には、控訴審(CAFC)におけるクレーム解釈の判断基準によるものではなく、寧ろ、明細書と経過書類に基づく場合が多い。
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地裁の事実判断と法律判断によって控訴審(CAFC)での審理の基準を正式に変更(Cybor判決の法理を正式に変更)すると、控訴審(CAFC)においてクレーム解釈を入念に検討しにくくなる。 さらに、事実問題と法律問題とでCAFCの判断基準を変更すると、控訴審におけるメインの争点が本来の争点(クレーム解釈)よりも事実問題なのか法律問題なのかを決定することになると予想される。
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クレーム解釈に対する下級審判断が破棄される率が高いという主張があるが、それは事実問題であるか否か(例えば、専門家証言の信頼性の判断ミス)に起因するものではなく、主として控訴審(CAFC)において明細書を参酌しクレーム解釈をした結果である。
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本事件においては、クレーム用語、「voltage
source means」を112条第6項で解釈するか否かが一つの争点であって地裁は6項解釈をしなかった。 しかし控訴審(CAFC)の3人の判事によって当該用語を112条第6項で解釈し、その用語に対応する構成要素が明細書に開示されていないということでクレームを不明瞭と判断し、地裁判決を破棄した。 依って、控訴審(CAFC)の判断は地裁の事実問題に対する判断に起因するものではない。
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■ 反対意見(4名):O’Malley判事による(Rader判事長;Reyna判事;Wallach判事が同意)
Cybor判決に対して法学会、特許弁護士、および、控訴審(CAFC)の裁判官の間でも論争が絶えず、Cybor判決を支持する多数意見の主たる理由である先例の拘束性(Cybor判決は、強固に確立した先例である)によって説明がつくのか?
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Cybor判決の中において今回多数意見を書いたNewman判事の反対意見を指摘している。
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Cybor判決は連邦民事訴訟規則第52条(a)(6)で規定されている事実認定に対する上級審の審理基準に反する。
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Cybor判決は敗訴側に(地裁のクレーム解釈が破棄される可能性が十分にあるとして)控訴するインセンティブを与えることになる。依って、和解を遅らせ、訴訟費用を増大させることになる。 さらに、CAFCの裁判官(通常3人のJudgeパネル)によって同じクレームであっても異なる解釈を許容することになり、多数意見が主張するCybor判決は統一的見解と予想可能性を担保するというのは正しくない。
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参加せず(2名): Chen判事;Hughes判事
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以上
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References:
*1 If the line drawn in these two opinions is a fine one, it is one that the Court has drawn repeatedly in explaining the respective roles of the jury and judge in patent cases, [n.13] and one understood by commentators writing in the aftermath of the cases Markman cites. Walker, for example, read Bischoff as holding that the question of novelty is not decided by a construction of the prior patent, "but depends rather upon the outward embodiment of the terms contained in the [prior patent]; and that such outward embodiment is to be properly sought, like the explanation of latent ambiguities arising from the description of external things, by evidence in pais." A. Walker, Patent Laws §75, p. 68 (3d ed. 1895). He also emphasized in the same treatise that matters of claim construction, even those aided by expert testimony, are questions for the court:
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"Questions of construction are questions of law for the judge, not questions of fact for the jury. As it cannot be expected, however, that judges will always possess the requisite knowledge of the meaning of the terms of art or science used in letters patent, it often becomes necessary that they should avail themselves of the light furnished by experts relevant to the significance of such words and phrases.
The judges are not, however, obliged to blindly follow such testimony." Id., §189, at 173 (footnotes omitted).
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*2: The
Annual Reports also show the trend in the percentage of patent cases that
proceed to trial in the district courts. The data from Table C-4 in the Reports
show the percentage declining from 5.9% in 1994 to 2.8% in 2013:
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*3: The graph shows the ratio, as a percentage, of the number of patent appeals filed per year (Report Table B-8), against the number of district court patent cases filed in that year (Report Table C-2):
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*4: 昨今の最高裁の関与:
2007年の自明性の判断基準に関するKSR事件に始まり、2010年には101条特許保護適格性に関わるBilski事件、2011年の侵害訴訟における挙証責任に関するMS
v. i4i事件、2012年にはBilski事件と同じく101条に関わるPrometheus事件、2013年には特許権の消尽に関わるMonsanto事件、単離されたDNAの特許保護適格性に関わるMyriad事件、さらに、2014年初頭にはDJアクションにおける挙証責任に関するMedtronic事件に判決を下し、2014年初頭にはAkamai事件(方法クレームのステップが複数の者によってのみ満たされる場合の教唆侵害の成立要件)、CLS
Bank事件(CAFC大法廷で多数意見がでなかった101条関係)、Nautlius事件(112条第2項のクレームの明白性に関わる事件)、さらには285条の「例外的なケース:相手側弁護士費用を支払う基準」に関するHighmark事件およびOctane
Fitness事件などの上告を受理している。
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*5: Cybor
Corp. v. FAS Technologies Inc. (Fed. Cir. 1998: en banc)
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*6: Markman
v. Westview Instruments Inc. 517 U.S. 370 (1996)
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