Knorr-Bremse v. DANA Corp.

CAFC 大法廷判決 2004年9月13日

米国弁護士の鑑定書と秘匿特権


後にAIA改正法(2011年9月16日)で成文化された(298条)。

 

Summarized by Tatsuo YABE on September 20, 2004


概要:

被疑侵害者が弁護士・顧客間の秘匿特権によって弁護士の助言を開示しない(或いはそのような弁護士の助言を得なかった)ことによって、弁護士の助言の非開示部分に被疑侵害者にとって不利益となる内容が含まれているという推論が生じると判断したバージニア東部地区連邦地裁の判決を破棄し、そのような不利益の推論は生じないとCAFC大法廷が判決を言い渡しました。

■ 判示事項:

以下を判示する:

被疑侵害者が弁護士の助言を得なかったこと、或いは、弁護士・顧客間の秘匿特権で保護された意見を開示しなかったことによって、同弁護士の意見は不利益なものであった、或いは、不利益になったであろうという不利な推論を生じることはない。 先例において本判示に反するものは却下とする。 従って、本裁判所は地裁(本審の下級審であるバージニア東部地区連邦地裁)の故意侵害の判決を破棄し、同地裁に本件の弁護士の意見は不利益なものであった、または、そうであったであろうという不利益の推論を廃し再審理するよう差戻す。

破棄、差し戻し

■ 事実関係:

問題となった特許:  

米国特許第5,927,445号 (以下445特許)

1999年7月27日発行

挿入可能なアクチュエーターを備えた車両用のディスクブレーキに関する発明

Knorr-Bremse System Fuer Nutzfahrzeuge GmbH社の米国特許

バージニア東部地区連邦地裁において、本法廷への控訴人である Dana社、Haldex Brake Products社、Haldex Brake Products AB社は侵害と故意侵害の責任を負うと判断された。しかし侵害品であるブレーキが販売されていなかったので損害賠償は認められなかった。 控訴人は Haldex社が特許に関する弁護士の意見を開示しなかったこと、及び、Dana社が弁護士より助言を得なかったということを理由として、不利益な推論が生じるべきではないとして、故意侵害の判決の破棄を求めて控訴した。 本裁判所の先例を上記争点に関して再審理するために、議論の末、 我々は本事件を大法廷で審理することに決定した。 両当事者は4つの質問に対する意見を述べることと、裁判所の助言者の意見が求められた。 Knorr-Bremse, 344 F. 3d 1336 (Fed Cir 2003) (En banc Order)

  ■        4つの質問に対する回答:

 

質問

  回答:

Q1

弁護士・顧客間の秘匿特権及び/或いは弁護士が作成した物に対して秘匿特権(非開示特権)を被告が行使した場合に、事実審が被告の故意侵害に対する不利を推論することは適切か?

 NO: 

 

弁護士・顧客間の秘匿特権及び/または弁護士の作成物の秘匿特権を行使することによって不利益の推論が生じることはない。 最高裁は弁護士・顧客間の秘匿特権をコモンローの守秘通信手段のための最古のものであると説明する。 本法廷においても、弁護士の特許に関する意見は守秘義務を維持する秘匿特権がないということを示唆したことは一度もないが、そのような意見が守秘の状態のままである場合に非開示の意見(情報)が顧客の行為に対して不利益なものであるという推論は弁護士・顧客関係の基礎を廃退させることになると判断する。 本法廷は、特許関連事件において弁護士・顧客関係に影響を与える特別の規則を作ることを認めないということを決定する。 ⇒ 参照判例: McCormick on Evidence -- Section 72,299 (5th ed. 1999)  弁護士・顧客間の秘匿特権を行使することによって不利益な推論が成立しないという規則が特許事件においても特許以外の法分野におけるそれと同じように適用されるということを判示する。

 

Q2

被告が法的な助言を得ていない場合に被告の故意侵害に対する不利を推論することは適切か?

 NO:

 

ここで争点となるのは秘匿特権に関するものではなく、被疑侵害者である以上は弁護士に相談するということが法的な義務であるか否かということにある。 即ち、弁護士に相談しないという事実によって、弁護士の意見が被告にとって不利益なものになるという推論または証拠推定を成立させることになるか否かである。 Dana社はKnorr-Bremseに445特許に関し注意を喚起されたときも、さらに後に侵害訴訟を提起されたときも弁護士から法的助言を得なかった。 弁護士・顧客間の秘匿特権が行使されることによって非開示状態の法的助言の内容が被告にとって不利益な内容であろうと推論することが不適切であるという本法廷の判示に加えて、本法廷は弁護士の助言を得なかったこと(相談しなかったこと)によって同様の不利益の推論をすることは不適切であると判示する。

 

Q3

本法廷が、判決を変更する必要があり、且つ、本事件において適用された不利の推論を取り下げると判断するのであれば、本事件の結論は何か?

  NO:

 

下級審において故意侵害と判断した理由はHaldexの弁護士・顧客秘匿特権の行使及びDanaの法的助言を得ていなかったという事実によって生じた不利益の推論以外にも幾らかの要因を基礎とするものであった。 下級審(連邦地裁)において成立した不利益の推論を除外するということは裁判全体の状況を実態的に変更することになるので、被告が故意侵害をしたか否かを証拠を基に新たに判断することが要求される。 この種の判断は下級審(地裁)の責任範疇なので地裁の判決を破棄し、同判断の審理を地裁に差戻す。 さらに弁護士費用の支払いに関して言うと、先例及び条文285条において例外的な事件において弁護士費用を勝訴側が得ることができるとされており、故意侵害は同285条に基づく例外的な事件を成立させる可能性があることを示している。 本事件においては地裁の判決は破棄されたので、弁護士費用の支払いの判決も破棄とし、これに関しても地裁において再審理することとする。

 

Q4

侵害に対する実態的な防御がある場合には、法的助言を得ていなくとも故意侵害を回避するのに十分であるか?

 NO:

 

先例においてもこの要件(侵害に対する防御)は全体状況の中で考慮されるべきと判断しており、ポイントとなるのは、特許非侵害であること、或いは、特許の無効性、または、当該特許の権利行使不能状態、故に訴訟においても同判断がされるであろうことを、慎重な人が信じるに十分に健全な理由が存在するかどうかが重要である。 SRI Int'l, Inc. v. Advanced Tech. Labs Inc., 127 F.3d 1462, 1465 (Fed. Cir. 1997) 

 


国特許法第298条(2011年の法改正により条文となった)

新法第 298 条は,上記Knorr-Bremse 事件判決を成文法化している。新法第 298 条は,次のように規定している。 侵害者がいずれの被擬侵害特許についても米国弁護士の助言を取得していないこと又は侵害者がかかる助言を裁判所若しくは陪審に提出していないことを,被疑侵害者が故意に特許を侵害したこと又は被疑侵害者が特許侵害を誘発しようとしたことを立証するために用いることは許されない。