In Re FLOAT’N’GRILL 2023年7月12日 再発行出願(権利範囲拡大) OPINION by LINN, joined by Prost and Cunningham (Circuit Judges) Summarized by Tatsuo YABE – 2023-08-10 |
本事案はBroadening Reissue(拡大補正をした再発行出願)に関する判決である。そもそもは個人の発明家(Micro Entity)であるBashawaty氏は水上でもBBQができたら楽しいだろうという発想からフロートにBBQセット(グリル)を搭載する発明を為した。発明はシンプルでフロートに一対のグリル支持部を配置し、当該支持部に複数の磁石を埋め込み、グリルの底面に当接することで磁力によりグリルを保持するという構成である。
https://internetcom.jp/207352/float-n-grill
しかし特許に不慣れな個人発明家故にクレームを減縮しすぎてしまった(Stevenson IP LLCという代理人によってクレームドラフティングはされてはいるものの特許戦略を一切考慮されていないクレームとなっていた)。後に権利を譲渡されたFNG(Float ’N’ Grill)は権利範囲を拡大するべく再発行出願をし、何とか「複数の磁石」という要件をクレームから除外しようとしたが原明細書の開示(図面を含めて6ページ)に鑑み米国特許法251条の”the original patent requirement”を満たさないという理由で審判部及びCAFCでも特許の再発行は認められなかった。(以上筆者)
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■ 特許権者:FLOAT’N’GRILL
■ 関連特許:USP 9,771,132 (以下132特許)
出願日:2016年6月13日
特許日:2017年9月26日
再発行出願:2018年8月23日
■ 特許発明の概要:
US132特許は水上でBBQを可能にする装置であって、グリルをサポートするフロートに関するもので以下に実施例(写真)を示す。要となる特徴はグリルの底面を固定するために左右の支持部にマグネット(永久磁石)を設けた点にある。
https://internetcom.jp/207352/float-n-grill
■ 代表的なクレーム:
1. A floating
apparatus for supporting a grill comprising. . .
. . .
a plurality of magnets disposed within the middle
segment (58) of the upper support of each of the right grill support (46) and
the left grill support (48) . . .
. . .
wherein a flattened bottom side of a portable
outdoor grill is removably securable to the plurality of magnets and removably disposed
immediately atop the upper support of each of the right grill support (46) and
the left grill support (48).
上記はUS132の要となる構成要素のみを抽出したクレーム1であり、実際のクレーム1にはカップホルダー66まで構成要素として記載されている。
■ 事件の背景:
US132は所謂picture claim(実施例そのものを文言で描写したクレーム)と呼称されるもので、マイクロエンティティに該当する個人の発明家による出願から権利化されたもので、上図で示す特徴全てをクレーム1に盛り込んでいる(カップホルダー66までクレームの構成要素としている)。後の権利者FNGは再発行出願をすることで権利範囲の拡大を図った(不要な構成要素を削除する)。再発行出願において以下のようなクレーム4-20を追加し、権利範囲の拡大を図った:
[1] Claims 4, 19 and 21 do not require any magnets;
[2] Claims 8, 20 and 22 require only a single magnet;
[3] claim 14 does not recite any magnets in the body of claim but refers in the preamble “a float adapted to magnetically attach to a grill”;
カップホルダーを省くのは問題ないが主たる構成要素である「複数の磁石」という削除、或いは、プレアンブルに記載した。
再発行出願で最も広いクレーム4
■ USPTO審査官の判断(再発行出願):
審査官は上記追加クレーム[1], [2], [3]の全てを米国特許法112条(b)項、及び、再発行出願の基準を規定した米国特許法251条の基に拒絶した。(112条(b)項はクレームの明瞭性に関する条文であり、本来は明細書の開示に鑑みて広すぎるクレームの場合には112条(a)項の記述要件違反が妥当すると考える:筆者注)
特に251条に関しては、
[i] FNGの特許はそもそも「複数の磁石」によってグリルの底面を支持(着脱)するものであって、この特徴はグリルを安定的に、且つ、安全に保持(着脱)するための唯一の構成要素である。
[ii] 明細書には「複数の磁石」を利用した単一の実施例しか開示されておらず、当該複数の磁石を任意選択可能なものであるとは記載されていない;
■ 審判部の判断(審決):
審査官の判断を支持する。
■ CAFCの判断:
争点:再発行出願で追加されたクレームは米国特許法251条の要件を満たすか否か?
結論:米国特許法251条は再発行出願のクレームは原明細書で開示された発明に対するものでなければならないと規定しており、FNGの再発行出願クレームは当該要件を満たさないので審決を支持する。
FNGは以下のように反論した:
[i] 「複数の磁石」はUS132特許にとって必須の構成要素ではない;
[ii] 明細書では「複数の磁石」によってグリルとグリル支持部(フロート)との着脱を為すことを開示しており、当該開示は再発行特許出願で追加したクレームのサポートとして十分である;
[iii] 当業者であればフロートがどのようにグリルを支持するかはさして重要でないと理解するであろう;
CAFCは数件の判例を紹介し251条で規定する「原明細書に開示された発明」という意味合いを説示した。特にCAFCは1942年の最高裁判決を引用し(化学反応を効率的に行う上で「水を含む」が重要であったが権利者は再発行出願のクレームで「水」という構成要素を削除した。最高裁は水を含むことが原出願発明において必須のプロセスであるとし再発行出願クレームは不当であると判断した。U.S. Industrial Chemicals, Inc. v. Carbide & Carbon Chemicals, Corp., 315 U.S. 668 (1942)
FNGの再発行出願クレームにおいても上記最高裁判決の法理が適用される。即ち、
[i] 原出願明細書において単一の実施例しか開示されておらず、当該実施例において「複数の磁石」はグリルをフロートに着脱するものである;
[ii] 原出願書類には「複数の磁石」と同様の機能を達成する他の構成が開示されていない;
[iii] ボルト・ナット(他の着脱に対する構成部品)に比べると「複数の磁石」というのは2つのものを接触させるだけで保持可能となるのでユニーク(独特)な構成要素である;
[iv] 原出願明細書においても「複数の磁石」をもちいることは不可欠であり必須アイテムであると説明している;
結論:
上記理由によりFNGの再発行出願クレームは米国特許法251条で規定する「原出願の特許に対するもの」を満たしていないとした審決に間違いはない。依って審決を支持する。
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References:
再発行出願に関して:35 U.S.C. 251: Rules 1.171-1.179: MPEP 1401-1470
再発行という制度は、米国特許法251条にあるように、特許の誤り(error)を訂正するためのものであり、その誤りが、それにより特許の全部または一部が実施不能(inoperative)または無効(invalid)となるような場合に、訂正が認められると規定している。従って、スペルミス、文法、タイポエラーのような軽微なミス(誤り)は再発行出願では訂正できない、そのようなミス(誤り)はCertificate of Correction(USC 254-255:Rule 1.322: MPEP1480-05)で対応可能。クレームの権利範囲が広すぎた、或いは、狭すぎたという理由で再発行出願をすることも可能であるが、クレームの権利範囲を拡大する場合には原特許発行から2年以内に申請する必要がある。
35 U.S.C. 251:
(a) In General.—Whenever any patent is, through error, deemed wholly or partly inoperative or invalid, by reason of a defective specification or drawing, or by reason of the patentee claiming more or less than he had a right to claim in the patent, the Director shall, on the surrender of such patent and the payment of the fee required by law, reissue the patent for the invention disclosed in the original patent, and in accordance with a new and amended application, for the unexpired part of the term of the original patent. No new matter shall be introduced into the application for reissue.
(b) Multiple Reissued Patents.— 略す
(c) Applicability of This Title.— 略す
(d) Reissue Patent Enlarging Scope of Claims.—No reissued patent shall be granted enlarging the scope of the claims of the original patent unless applied for within two years from the grant of the original patent (特許発行後2年以内であればクレームの権利範囲を拡大可能).
再発行の効果:
35 U.S.C. 252:
同条文には再発行の効果が規定されている;第2段落には再発行出願によって原クレームよりもクレームの権利範囲が変わって(広がり)再発行特許によって侵害となる第3者に対するintervening right(日本の特許法で類似するのは「中用権」とか言われているがしっくりこない)という救済措置が規定されている。当該救済は2種類あり、[a] absolute intervening rightと[b] equitable intervening rightという。
[a]は再発行特許が発行される前の第3者の行為(原特許では非侵害)に対して再発行特許の権利者が損害賠償を求めることはできないとし、[b]は第3者が(再発行特許の前に)善意でもって相当額の投資をしていた場合に再発行特許が成立した後も当該投資に見合う一定期間の侵害行為を裁判所が許容しても良いとしている。
再発行出願の審査:
規則1.176; MPEP1440 - 1455
通常の出願と同じように審査される(IDS義務:RCE可能:継続出願可能:審判請求可能)。
再発行出願費用:
通常の出願(PTO費用:1820ドル)と比べて3340ドルと高くなるが、再審査、或いは、補充審査(共にPTO費用が12000ドル以上)と比べると手頃な費用と言えよう。権利化の後に新たな先行技術が見つかった場合には再審査ではなく再発行出願をするのが得策と言えよう。但し、出願係属中に本来IDSとして提出しておくべき先行技術が権利化後に見つかり、その特許で権利行使をするというような場合には補充審査(不公正行為の反論を封じる効果あり)が妥当する。
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