In re Baxter Int’l Inc. Request for panel rehearing & rehearing en banc are denied. Oct.
26, 2012 Summarized
by Tatsuo YABE Jan. 16, 2013
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筆者コメント:
本事件はもともと確認判決を求める訴訟(DJ-Action)から始まり、特許を無効にするにあたり裁判所と特許庁との2つのフォーラムにおける所謂ダブルトラックの是非に発展した事件である。
即ち、裁判(CAFC)において特許の有効性が確定したとしても、その後、PTOにて再審査によって訴訟で使用されたのと同じ先行技術によって有効性が否定される場合がある。これに対して、その正当性がEthicon
v. Quigg (Fe. Cir. 1988)で判示され、昨今では
In re Swanson (Fed. Cir. 2008*1)で確認された。 その理由は、裁判所でクレームを無効にするときの挙証責任は「明白且つ説得性のある証拠による」という高い基準で判断されるに対して、PTOにおいては「証拠の優越性」という低い基準で判断される(35USC316(e))。 さらに、PTOにおいては、「合理的で、可能な限り広い範囲」をクレームに与え審査される(37CFR42.100)。 裁判においてはマークマンヒアリングで両当事者の主張を参考に裁判官がクレームの範囲を決定する。 依って、挙証責任とクレーム解釈の2つの要因に起因しPTOでクレームを無効にする方が裁判で無効にするよりも容易となる。
本事件においては、2003年〜2009年に掛けて訴訟(地裁⇒CAFC)が継続し、2006年〜2010年までPTOで同じクレームに対して訴訟と同じ先行技術文献によって再審査(再審査⇒審判)が行われた。 2010年の審決が控訴され、2012年5月にCAFCによって審決が支持された(CAFC判決2と称する)。依って、訴訟6年間の結果(CAFCでの確定判決:CAFC判決1と称する)がPTOでの再審査で否定された。 即ち、これら不整合な結果(CAFC判決1ではクレームは有効;PTOでは問題となったクレームは同じ引例でもって無効)が出ることがCAFC判決2で正当化された。 最終的にクレームを無効とされた特許権者(Baxter)はCAFCに大法廷での再ヒアリングを求めたが、却下された(2012年10月26日)。
Newman判事はCAFC判決2においても反対意見を提示しており、大法廷での再ヒアリングの却下に対しても反対意見を述べています。要は、裁判において確定判決がくだされたとしてもPTOにおいて再審査で確定判決を否定する判断がでることを正当化するのであれば、確定判決の権威が形骸化し、米国特許権に対する信頼性が著しく低下するという事態となる。 事実、PTOでの過去1659件(2000年〜スタートし、2012年9月15日に終了)に基づく統計データ*2によると当事者系再審査においてクレーム全ての有効性が維持されるのは11%に過ぎず、全てのクレームが無効と判断される場合が42%で、少なくともクレームの一部が無効と判断される場合が47%というデータがある。 尚、67%が訴訟中において為されたものである。 勿論、これらデータは裁判所の確定判決が覆された場合を示すものではない。 然し、統計的見地に立つと67%が訴訟絡みであり、また、約9割の確率でいずれかのクレームの有効性が否定されている。従って、訴訟においては無効にできなかったクレームがPTOでの再審査において無効と判断される場合が充分にあり得ることを示唆していると言えよう。
昨年(2012年)の9月15日で2000年に新設された当事者系再審査制度は終了しました。 2012年9月16日からはAIA(America
Invents Act)により新設されたIPR(Inter-Partes
Review:「当事者系再審査」と識別するため「当事者系レビュー」と訳されている場合が多い)が開始された。 過去の当事者系再審査は特許庁(CRU:
Central Reexam Unit)の審査官によって再審査されていたのに対してIPRは審判部(PTAB:
Patent Trial and Appeal Board)の行政法判事3人(元は、法律事務所で活躍していた技術系の特許訴訟弁護士)によってディスカバリーも含め審理が行われるので、両者を単純に比較はできない。 然し、IPRにおいてもクレームを無効にするための挙証責任(証拠の優越性)とクレーム解釈の基準(合理的に最大限広く解釈する)は当事者系再審査と同じである。
そもそも本事件において訴訟経済の観点で最悪の事態となった主原因のひとつは被疑侵害者がまず確認訴訟を起こし、その3年も後に再審査を請求したことに起因すると考えます。2012年9月16日に施行されたIPRに関する規則では被疑侵害者がDJアクションを既に開始している場合、且つ、訴訟開始後(訴状を受理して)1年を超えるとIPRを請求できないと規定している(37CFR42.101)。 さらに、当事者系再審査の結果が平均36か月も掛かるということにも問題があったと思います。
尚、AIA条文上(勿論規則においても)IPR請求が認められれば(請求後半年以内)、基本1年で審理を終了する(37CFR42.100)ので、その間、訴訟はSTAYします。
このように、AIAとその規則では訴訟(確認訴訟或いは侵害裁判での抗弁)の代替手段として新設したIPRを1年で完了する審理と規定し、且つ、訴訟開始後速やかに(1年以内)提起することをIPRの開始時期の要件としたことで、本事件のような訴訟経済上の多大な負担を軽減することが可能になると思料します。
依って、今後は訴訟を提起された場合には(被疑侵害者となれば)、新規性と進歩性でクレームの有効性を争うのであれば、確認訴訟(DJ-Action)を提起するのではなく、侵害訴訟の訴状を受理して1年以内にIPRを請求するのが賢明であると思料します。 勿論、IPRでは不公正行為の主張あるいは112条、101条を要件としてクレームの有効性を争えないので、そのような場合には止む無く、確認訴訟或いは訴訟の中で抗弁することになるでしょう。
*1)
In re Swanson (Fed. Cir. 2008)
判示:PTO及び裁判所で審査或いは審理された先行技術に基づきPTOで再審査をすることは許容される。
説示:
-
特許法第303条(2002年)によって、先行技術文献がPTOで過去に審査されたという理由のみでSNQ(特許性に対する実質的に新たな疑義)の存在を否定できない。SNQとは同じ先行技術文献を使用しても、その文献が使用される特定の目的が違えばSNQが存在すると認識される。
-
裁判所での判決はPTOでのSNQ判断に影響しない(2つのフォーラムにおいて、有効性の判断基準
-
挙証責任が違う”が違うので異なる結論に達するということは正しい
Ethicon (Fed.
Cir. 1988))。
*2)
http://www.uspto.gov/patents/stats/index.jsp
These
historical statistics are data for requests for reexamination filed since
7/1/1981 (for ex
parte) or since 11/29/1999 (for inter
partes). They are updated quarterly.
·
ex
parte reexamination historical statistics
·
inter
partes reexamination historical statistics
*****************以下事件の概要*********************
特許権者:Baxter
International Inc.
DJアクション(確認訴訟原告):
Fresenius社
問題となった特許:US5247434
腎臓の透析装置に関し、当該装置を介して血液を循環させ、コンピューター制御により、血液中の栄養素はスムーズに通過させるが、毒素を吸収する機能を有し、透析の各種パラメータが表示され、操作者によって状態を監視、制御可能とした。
代表的な発明はクレーム26で規定されており、以下の通り:
26.
A hemodialysis machine (透析装置) comprising:
(a)
means for controlling a dialysate (透析液)
parameter selected from a group consisting of dialysate
temperature and dialysate concentration, and means for delivering the
dialysate to a dialysate compartment of a hemodialyzer; and
(b) a user/machine interface operably coupled to said dialysate-delivery means, the user/machine interface comprising a touch screen adapted to display an indicium corresponding to a parameter pertinent to operation of the hemodialysis machine for performing hemodialysis and to permit the user, by touching the indicium, to cause a change in the parameter.
背景:
問題となる434特許に対して、Fresenius(Baxter社の競合社)によって確認訴訟が提起された(2003年)。カリフォルニア北部地区連邦地裁で434特許のクレーム26−31の有効性が認められ(2007年2月13日)、同判決を不服とし、Fresenius社はCAFCに控訴したが、2009年にCAFCにおいても地裁の判決が支持された(即ち、問題となるクレームの有効性が認められた)。
上記訴訟の継続中に、Fresenius社によって再審査が請求され、2006年に再審査が開始され、審査官は問題となるクレーム26−31を地裁で審理されたものと同じ先行技術文献でもって自明であると判断した。 審判部でも再審査の結果が支持され(2010年)、同審決を不服とし、Baxterは控訴し、2012年5月17日にCAFC判決が発行された(審決を支持した:即ち、クレーム26−31は自明である)。 同CAFC判決において、Ethicon
v. Quigg (Fed. Cir. 1988); In
re Swanson (Fed. Cir. 2008)を引用し、クレーム26−31は裁判所においては無効とは判断されなかったが、PTO(再審査)においては、無効の挙証責任が低いことと、クレームに合理的な可能な限り広い範囲を与えて審査されるので、PTOは裁判所の判断に拘束されることはないと結論づけた。
上記2012年5月17日のCAFC判決(Lourie,
Moore, Newman判事)を不服とし、Baxter社はCAFCに再度ヒアリング(通常のパネルと大法廷によるヒアリング)の機会を求めたが、共に却下された(Rader,
Newman, Lourie, Bryson,Linn, Dyk, Prost, Moore, O’Malley, Reyna, Wallach:2012年10月26日)。
Newman判事は2012年5月17日のCAFC判決においても反対意見を提示しており、さらに、口頭審理の却下(2012年10月26日)に対しても反対意見を述べている。 反対意見の趣旨は、裁判における確定判決は、同じ証拠でもって審理される場合には後の行政手続き(特許庁による再審査)をも拘束するべきである。 そもそも行政手続き(再審査)は訴訟を簡略化(時間・コスト面)することを目的(立法趣旨)として議会によって設立されたものであるが、現実には、再審査が訴訟の確定判決を書き換えることになっており、特許の有効性を不確定にしている。