合衆国最高裁判決 Impression Products, Inc. v. Lexmark
Int’l, Inc. 2017年5月30日 トナーカートリッジ販売後の権利の消尽に関して 合衆国最高裁、「特許の国際消尽」認めた。 Summarized
by Tatsuo YABE – 2017-06-11 |
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去る2017年5月30日、売却後の製品に対する特許権の消尽に対する最高裁判決がでた。特許権者と買主との間で販売後の製品(特許された)に如何なる制限(*)を課していたとしても、特許法のもとにはそのような制限は無効であり、販売という行為によって特許権は消尽すると判示された。尚、最高裁は、販売行為は米国内に拘らず外国における販売に対しても販売という行為によって特許権は消尽すると判示した。即ち、最高裁は全員一致で特許権の国際消尽を認めた。
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尚、著作権の国際消尽は2013年の最高裁判決(Kirtsaeng v. John
Wiley & Sons)で6:3で認められた。
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(*) 当該制限は契約法の基には行使可能である。
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特許権者:Lexmark
International Inc.
被疑侵害者: Impression
Products Inc.
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Lexmarkはトナーカートリッジを設計・製造し、米国内と外国に販売している。Lexmarkはトナーカートリッジの部材及びその使用方法に関する数件の米国特許を所有しており、Lexmarkはトナーカートリッジを販売する際に消費者に2つのオプションを与えている。第1オプションは消費者にフルの販売価格で販売するが、販売後のカートリッジの処分に制限を与えない、第2オプションはReturnプログラムと称し、価格を減額する代わりに販売後にカートリッジをLexmark以外の他者には渡さないという制限を課す。
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世には使用後のLexmarkのカートリッジを回収し、トナーを充填し再販するという再生業者(remanufacturers)が存在する。これら再生業者は外国で販売されたLexmark社のトナーカートリッジも回収し、トナーを充填し再販している。これら再生業者に対してLexmark社が訴訟を提起し、そのうち和解に応じず、訴訟を継続したのがImpression社である。即ち、訴訟の対象となったImpressionのトナーカートリッジは2つのグループに分類される。
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第1のグループは、LexmarkがReturnプログラムで米国で販売し、使用後に回収され再販されたカートリッジで、第2のグループは、Lexmarkが外国で販売し、(外国の買主の)使用後に米国に輸入し、充填し再販されたImpressionのカートリッジである。第1グループのカートリッジに対してその再使用及び再販を誰にも許可していないのでImpressionの再販するカートリッジはLexmarkの特許を侵害する;さらに第2グループのカートリッジを輸入することを誰にも許可していないとしてImpressionの再販するカートリッジはLexmarkの特許を侵害すると主張している。ImpressionはLexmarkは自身のカートリッジを米国或いは外国で販売した時点で当該製品に対する特許権を消尽するのでImpressionのカートリッジを充填し再販する行為は自由であるとし訴え却下を申し立てた。
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地裁:
第1グループのカートリッジ(Returnプログラムに基づき米国内で販売されたカートリッジ)に対しては訴え却下の申し立てを認めたが、第2グループのカートリッジ(諸外国に輸出販売されたカートリッジ)に対しては訴え却下の申し立てを否認した。
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CAFC:
第1グループ及び第2グループのカートリッジに対してLexmarkの主張を認めた。第1グループのカートリッジに対して、明示し、通告することによってLexmarkが再販に合法な制限を課し、特許侵害裁判で権利行使が可能であると判示した。本事案の場合にはImpressionはLexmarkが課した合法な制限を周知しているので、Lexmarkはカートリッジの販売によって特許権を消尽しておらずImpressionの再販行為に対して訴訟を提起できると判示した。さらに第2グループのカートリッジ(外国に輸出販売)に対してLexmarkが外国で製品を販売する行為によって特許権は消尽しない、依って、Lexmarkは外国で販売され、後に米国に輸入されたカートリッジを侵害品として訴訟を起こせると判示した。
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最高裁の判断:
1.第1グループのカートリッジに関して:
Lexmarkは第1グループのカートリッジを米国で販売することで特許権を消尽する。如何なる制限を課したいたとしても特許権者は製品を販売すると決断することで特許権は消尽する。依って、Lexmarkとその顧客との間で交わされた制限に対する取決めは契約法の基に有効ではあるが、Lexmarkが販売された後の製品に対して特許権を維持することはできない。
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特許の権利は米国特許法第154条(a)項に規定されているように、自身の発明を他者が製造し、使用し、販売のオファーをする、或いは、販売することを禁止する排他権を権利者に与える。過去160年に渡り特許権の消尽という法理は当該排他権に制限を課してきた。即ち、特許権者がもの(特許で保護されたもの)を販売すると、販売されたものは特許権者の排他権の域にはあらず、買主の個人の所有物となる。Bloomer
v. McQuewan (SCOTUS: 1853) 買主の購入後のものの使用或いは再販に対する制限を契約によって同意した場合には、当該制限を契約法の基に行使できるであろう、しかし、当該制限を特許法に基づく権利行使によって実現できない。
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特許権の消尽という法理は、特許の権利が「譲渡制限を否定するコモンローの原則:common
law principle against restraints of alienation」に応じる(譲歩する)ポイントを示すものである。特許法は発明者に財政面での対価を得ることを許容することで技術革新を助長しており、特許権者がものを販売することで当該対価を確保できるのである。しかし特許法は買主にそのもの使用を制限したり、ものの価値を充足することに制限を与える基礎となることはない。このように販売後のものに対して制限を許容することは「譲渡制限を否定するコモンローの原則」に反する。 Kirtsaeng
v. John Wiley & Sons, Inc. (SCOTUS: 2013) 17世紀の英国においてCOKE裁判官は、所有者が販売後にそのものの使用或いは再販を制限することは無効であり、人と人との間の売買、交渉に反すると述べた。1
E. Coke, Institutes of the Laws of England (1628)
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然るに本法廷は長期に渡り、明示で合法な制限の基に特許されたものを販売したとしても、販売された後のものに対して特許権者は権利を維持することはできないと判示してきた。Quanta
Computer v. LG Electronics (SCOTUS: 2008) このように長年に渡り定着した法理に基づき販売後は特許の権利は消尽するので、LexmarkはImpressionを相手に販売後の製品に対して特許侵害訴訟を提起することはできない。
Fed Cirが違った判決に至った理由は消尽という法理を特許侵害に対する条文を基礎として解釈したからである。さらに、Fed
Cirは消尽の法理を、販売によって買主がその製品を使用或いは再販する権限が付与されると推定されるという解釈した。このようにFed
Cirの論理の問題は消尽の法理が推定されると理解した点である。 消尽の法理は推定的に発生するのではなく、特許権者の権利の範囲を制限するものである。特許法は権利者に限定的な排他権を与えるもので、消尽とは当該排他権を消滅させることである。買主は購入品を使用、販売、或いは、輸入する権利を有する。何故なら、当該権利は所有権に由来するのであって、特許権者からそのような行為をする権限を購入するのではない。
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2.第2グループのカートリッジ(外国で販売されたカートリッジ)に関して:
LexmarkはImpressionの製品(外国から輸入し、トナーを充填し再販された製品)に対して侵害訴訟を提起することはできない。米国内で販売するのと同様に、外国において正規に販売することで特許法に由来するすべての権利が消尽する。
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知的財産権の国際消尽の考え方は著作権との関係において生じた。消尽の準則(first
sale doctrine)によると著作権者が自身の作品の複製品を売却することで、買主が当該複製品を販売或いは処分することを制限する権利を喪失する。Kirtsaeng事件において、本法廷は、外国で作成され、売却された著作物の複製品に「消尽の準則(first
sale doctrine)」を適用した。当該判決に至った理由の核心部は「消尽の準則(first
sale doctrine)」は譲渡制限を否定するコモンローの原則に基づく。当該原則は地域に関係なく適用され、著作権法においても地域に関する適用の差異は規定されていないので、「消尽の準則」を著作権にストレートに適用可能であり、外国での売却にも適用されるという結論に達する。
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特許の消尽の法理も外国での売却に対してストレートに適用可能である。特許権消尽の法理も譲渡制限を否定するコモンローの原則に依拠し、特許法及び立法趣旨(議事録)の何れの箇所にも立法者が当該原則の適用を国内販売に制限しようとした記録(意図)は見いだせない。特許権消尽と「消尽の準則(first
sale doctrine)」とを識別することは理論的、或いは、現実的な意味をなさない。特許と著作権は権利としてかなり類似しており、目的を共有し、・・・・、且つ、日常においても多くの製品が特許と著作権の保護に直面している。
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Lexmarkは米国特許法は米国内における製造、使用、販売、或いは、米国に輸入する行為に対する排他権を与えるので(外国での行為に対する排他権ではないので)特許権の消尽は外国における販売には適用されないと主張している。外国における販売価格は米国内における価格よりも低くなり、米国特許法で認められた利益を享受できない。然るに、外国での販売行為で特許権は消尽しないとLexmarkは主張する。
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特許権の消尽とは特許の権利に対する明白な制限であって、消尽は特許権者が特許された製品を(いかなる価格であっても売却に際し同意した価格)同意価格で売却(販売)することを決意することで発生する。米国特許法は特許された製品を販売する際の特定の価格を保証するものではなく、特許権者が一度対価を得ることを保証するのみである。
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Lexmarkが主張するBoesch v
Graff事件(SCOTUS: 1892)の法理論(外国での販売行為で消尽がなかった)は本判決の理由づけと矛盾するものではない。当該事件(Boesch)において、外国での販売によって特許権者の権利が消尽しなかった理由は、外国での販売に特許権者が関与していなかったからである。依って、当該事件において、特許権者のみが販売するか否かを決定できるという特許法の大前提を再確認したのである。
米国政府(特許庁)は、特許権者が権利を明白に保留することを通知していない場合には外国での販売行為によって権利は消尽するという妥協案を支持した。この明白に権利を留保するという案は権利の消尽の発生は確定ではなく推定的に発生するという考えに基づく。さらに、下級審において権利の留保を明示したことによる消尽を制限することを許可してきたという事実がある。しかしこれらの非整合な判決は特許権者が外国での販売時に権利を留保できるということを確約するものではない。既に売却され市場で流通するものに特許権者が特許権を留保することは譲渡制限を否定するコモンローの原則に反するので、売却された時点で権利は消尽する。
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然るに、特許権の消尽は売却後の権利の留保或いは販売地域とは無関係である、消尽が起こるか否かは権利者による販売の決意に基づくのである。
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依って、破棄差し戻しとする。
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