CAFC判決 Hologic, Inc v. Smith & Nephew 2018年 03月
14日 予想可能な技術分野において、単一のSpeciesを開示していたことで Genusに補正が認められた。 OPINION
by JUDGE Stoll Newman, Wallach, and
Stoll Summarized
by Tatsuo YABE – 2018-04-05 |
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本事案は112条第1項の開示要件に関する判決である。問題となった359特許(USP8,061,359)は12年以上前のPCT出願を基礎とする米国国内移行出願からの継続出願(PCT出願から9年後に出願された)から派生したものである。しかし359特許の審査経過においてクレームに”a
light guide”という用語を用いたがその用語が図面に開示されていないとしてObjectionを受けた。出願人はインタビューを実施し、明細書に”a
light guide”という用語を追加するという補正(以下)を行ってObjectionを回避した。
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補正前(明細書) |
補正後(明細書) |
“a fiber optics
bundle |
“a
light guide such as a
fiber optics bundle” |
(光を伝えるガラス繊維束)” |
「fiber optics bundleなどの光ガイド部」 即ち、厳格に言えば、fiber
optics bundle以外のものを含むとする拡大補正である。 |
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後に、当事者系再審査が開始された。通常、再審査においては新規性と進歩性しか無効理由とならないが、先行技術の地位を判断するために上記の補正が許容できるのか否かが問題になった。即ち、上記クレームの用語及び明細書の補正がPCT出願の開示の範囲を超えるものであればPCTの出願日に遡及できなくなるので自身のPCT出願の公開公報でもって拒絶され、無効となりうる。再審査において審査官は359特許のクレームはPCT出願によってサポートされていないと判断し、359特許を無効と判断した。審判部においては359特許の発明の技術分野は予期可能な技術分野であり、PCT出願の開示から当業者にとって合理的に理解できるとし、359特許のクレームはPCT出願で十分にサポートされていると判断した。CAFCも審決を支持した。
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本事件の興味深い点は再審査において開示要件が争点となった点である。即ち、再審査においては新規性と進歩性のみが無効理由となるが(112条の開示要件違反或いは101条の保護適格性違反は拒絶(無効)理由とはならない)特に本件特許のように、親出願から9年も後の出願(継続出願)から権利化されたものなのでクレーム補正時にその根拠(サポート)が親出願にないと判断されると先行技術の適用範囲が大きく変わる。故に開示要件は102条及び103条に影響を及ぼす。今回は技術分野が当業者にとって予想可能な分野(言い換えると比較的簡単なメカの技術)なので通常他国(EP、中国、韓国)では認められない拡大補正(speciesからgenusへ)が認められた。(以上筆者)
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事件の概要:
■ 特許権者:Smith
& Nephew Inc.
■ 再審査請求人(控訴人):HOLOGIC,
INC
■ 関連特許:USP
8,061,359
■ 特許発明の概要:
359特許は、子宮の細胞組織を採取するための内視鏡とそれを実現するための手法に関する。
■ 359特許の経緯(TIMELINE):
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代表的なクレーム:
クレーム 1 |
USP 8,061,359 |
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A method for removal of tissue from a uterus, comprising: |
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争点:以下、第1争点に関して述べる(第2争点は割愛する)。
審査過程においてクレームの用語「a
light guide」に対応するものが図面に開示されていないという理由で図面にObjectionが掛かった。出願人は以下のように明細書を補正した。当該補正が親出願の開示内容に鑑み112条第1項の開示要件を満たすか? 言い換えると、a
light guide (Genus)は基礎出願に開示されたa
fiber optic bundle (Species)によって112条第1項の開示要件を満たすか?
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「fiber
optics bundle (光を伝えるガラス繊維束)」という用語を「a
light guide such as a
fiber optics bundle」と補正した。そして359特許が権利化された。
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Original
SPEC: USP 7,249,602 |
USP
8,061,359 |
With
reference to FIG. 2, it can be seen that the viewing/receiving part 3, is
composed of an outer tube 4 in which a main channel 5 and viewing channel
6 are defined. Viewing channel 6 ends at one side in a lens 13 and at the
other side in a viewing tube 7, on which an eyepiece or camera connection
is placed. A connection 8 for a light source is also present, for
connection to a fibre optics bundle which provides for lighting at the
end of lens 13. Near the control end, tube 4 is provided with a fluid
inlet 9 connected to a hose 12, for adding a physiological salt solution. |
With
reference to FIG. 2, it can be seen that the viewing/receiving part 3, is
composed of an outer tube 4 in which a main channel 5 and viewing channel
6 are defined. Viewing channel 6 ends at one side in a lens 13 and at the
other side in a viewing tube 7, on which an eyepiece or camera connection
is placed. A connection 8 for a light source is also present, for
connection to a light guide, such as
a fibre optics bundles which provides for lighting at the end
of lens 13. Near the control end, tube 4 is provided with a fluid inlet 9
connected to a hose 12, for adding a physiological salt solution. |
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図3には確かにレンズ13と光源8との間を連結する部分(光をガイドすると理解される部分)が開示されている。
■ 審査において:
359特許は、PCTからの国内移行で出願され権利化されたUSP7249602を親出願(2000年3月6日、出願)からの継続出願(出願日:2007年7月20日)であって、審査過程においてクレームの用語「a
light guide」が図面に開示されていないとしてObjectionが掛かった。出願人はインタビューを実施し、図3にその根拠があることを説明し、以下のように明細書を補正しObjectionを回避し、359特許が成立した。
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A connection 8 for a light source is also present, for connection to a light guide, such as
a fibre optics bundles which provides for lighting at the end of lens
13.
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■ 当事者系再審査において:
審査官(359特許の審査官ではない)は、上記補正はPCT出願(以下Emanuel
PCT)にサポートされていない、即ち、開示要件を満たさないとして、359特許はPCT
Emanuelから優先権を主張できないと判断した。依って、359特許の優先日は359特許の出願日(2007年7月20日)であるとしEmanuel
PCTの公開公報(PCT公開公報は102条b項の先行技術)によってクレームは自明であると判断した。依って、359特許は無効。
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■ 審判部の判断:
再審査の結果を破棄した。即ち、上記補正はEmanuel
PCTの明細書及び図面で十分にサポートされており開示要件を満たす。依って、359特許の優先日はEmanuel
PCTの出願日である。
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■ CAFCの判断:
112条第1項の開示要件を満たすか否かはAriad
v. Eli Lilly(2010年CAFC大法廷判決)の判示(判断基準)に基づき判断する。即ち、クレーム主題を発明者が所有していたということを当業者が合理的に理解できるレベルに優先権の根拠になる明細書に開示されているか否かで判断する。本事案における当業者とは工学系の学位を有し、低侵襲手術に使用される内視鏡の開発設計に5年以上従事した者とすることに対して当事者間で反論はない。本件特許の技術分野は予想可能な分野(Predictable
field)なので、112条1項の開示要件を満たすのに必要な詳述さのレベルは低いとした審決に同意する。
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Hologicは光ガイド部はEmanuel
PCTの開示にされていないと主張しているが、fiber
optic bundleは光ガイド部の一例であるということに当事者間に争いはない。さらに光ガイド部には多種多様なものが当業者に周知されていたということにも争いはない。依って、Emanuel
PCTは発明者が光ガイド部を発明として所有していたということを当業者が合理的に理解できるレベルの開示があったと判断できる。依って、審決を支持する。
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結論:
上記理由により審決を支持する。即ち、Emanuel
PCTは359特許のクレームに対する十分なサポートを開示している。依って、Emanuel
PCTは359特許の優先権の基礎となる。然るにEmanuel
PCTは359特許に対する先行技術にはならない。
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