Hill-Rom v. Stryker

 Fed. Cir. Decision

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2014/06/27

 Fed. Cir. Opinion

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クレーム解釈(明細書の書き方)に関する

ガイドラインとなる丁寧な判決

August 29, 2014

By Tatsuo YABE

 

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まとめ:

本事件は地裁の略式判決(クレーム用語の解釈)をCAFCが徹底的に否定し破棄差戻しした事件である。 4つの構成要素の意味合いが争点となったが、地裁におけるクレーム用語の解釈は実施例の特徴を盛り込み、或いは、関連しない出願において特許権者が言及した内容或いは審査官がコメントした内容を盛り込むなど明らかな間違いが散発し、地裁裁判官が特許事情に不慣れであったことが権利者Hill-Rom社にとって不運であったとしか言いようがない。 しかしCAFCにおいてそれら地裁判断の誤りを躊躇なく正している。 CAFCの多数意見は地裁裁判官(インディアナ州南部地区連邦地裁)にあたかもクレーム解釈基礎講座をしているようである。

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依って、我々実務者にとっても本判決はクレーム解釈(及び明細書作成時の留意事項)の復習をするのに良い機会である。 今回の判決においてCAFCが取りあげた重要判例とその法理を以下に取りまとめています。

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クレーム用語の解釈の法理及び実例

 

CAFC判例

法理1

クレームを解釈するにあたり、CAFCは地裁の判断をde novoでレビュする。

 

Lighting Ballast Control v. Phillips Elecs. (Fed. Cir. en banc 2014) –

法理2

一般に、クレーム用語には、明細書および経過書類を参酌したうえで、平易で且つ通常の意味合いが与えられる。  

 

Phillips v. AWH Corp. (Fed. Cir. en banc 2005)

法理3

上記一般ルールには2つの例外がある。 例外その1は特許権者がクレーム用語の定義を自らが辞書編集人として与えている場合(Lexicography)、そして2番目の例外は特許権者が明細書あるいは審査過程においてクレーム用語の本来の意味合いを否定(Disavowal)している場合である。 

 

Thorner v. SONY Computer Entm’t Am (Fed. Cir. 2012)

法理4

通常は明細書の実施例の開示内容をクレームに読み込まない。

 

Liebel-Flarsheim v. Medrad (Fed. Cir. 2004) 

法理4

明細書に単一の実施例しか開示されていなくとも、クレームがその実施例の詳細な開示内容に限定解釈されるということを明白に否定してきた。

 

Liebel-Flarsheim, 358 F.3d at 906

法理3‘

Disavowal(通常の意味合いの権利範囲の一部を否定すること)とは明細書(または経過書類)においてクレームされた発明が特定の特徴を含まないことを明示している場合、SciMed Life Sys (Fed. Cir. 2001)、或いは、クレームを特定の発明の形態に限定することを明示している場合である。 Edwards (Fed. Cir. 2009)

 

SciMed Life Sys. V. Advanced Cardiovascular Sys. (Fed. Cir. 2001)

 

Edwards Lifescience LLC v. Cook Inc., (Fed. Cir. 2009)

実例1

明細書において「製造方法を成功に導くためには特定のステップが必要である・・“successful manufacture” a particular step was “required」という記載は発明の一部を放棄していると理解される(特定のステップに限定的に解釈される)。

 

 

Andersen Corp v. Fiber Composites (Fed. Cir. 2007)

実例2

明細書における以下の記載も発明を限定する(disclaimer(クレームの限定解釈)と判断した:

”the invention operated by “pushing (as opposed to pulling) forces”, and then characterized the “pushing forces” as “an important feature of the present invention.”

 

SafeTCare Mfg., Inc. v. TeleMade, Inc. (Fed. Cir. 2007)

実例3

また、さらには、明細書における以下のような記載も限定と解釈(クレームの限定解釈)した: 

the patent repeatedly disparaged an embodiment as “antiquated”, having “inherent inadequacies” and then detailed the “deficiencies that make it difficult” to use.

 

Chicago Bd. Options Exch v. Int’l Sec. Exch LLC (Fed. Cir. 2012)

実例4

さらには以下のような記載も限定と解釈(クレームの限定解釈)した:

CAFC found disclaimer limiting a claim element to a feature of the preferred embodiment when the specification described that features as a “very important feature … in an aspect of the present invention” and disparaged alternatives to that feature. 

 

Inpro II Licensing v. T-Mobile USA (Fed. Cir. 2006)

実例5

明細書に以下の但し書きがある:

The “description of various embodiments” is not intended “to restrict or in any way limit the scope of the appended claims to such details”

 

本事件:

Hill-Rom v. Stryker

(Fed. Cir. 2014)

法理5

クレームdifferentiationの法理」によって、従属クレームがさらなる特徴を追加しているということはその親クレームには当該特徴に限定されないという推定が働く

 

Liebel-Flarsheim, 358 F.3d at 910

法理を本件に適用

038特許の明細書にワイヤーレス型の受信部が開示されていないことには特許権者も同意するだろうが、明細書には周知の技術(ワイヤーレス形式)を記載する必要はない。

 

Streck Inc. v. Research & Diagnostic Sys (Fed. Cir. 2012)

法理6

クレームの構成要素の意味合いを明細書に開示された唯一の好適実施例を含まないように解釈するというのは極ごく稀な状況であり、そのような特異(稀)な解釈をする場合にはかなり説得性のある証拠が必要である。

 

Vitronics Corp.v. Conceptronic Inc (Fed. Cir. 1996) 

法理を本件に適用

地裁はHill-Romが後に本件特許とは関連しない別出願(継続出願ではないという意味)において本件特許と同じ明細書を持つ特許が先行技術として引用され、当該先行技術の開示に対してコメントした内容を基に本件特許の「ベッド状態メッセージ」という用語を限定解釈すると述べているが、その考え方はPfizer (Fed. Cir. 2006)に鑑み間違いである

 

Pfizer v. Ranbaxy Lab. (Fed. Cir. 2006)

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Lighting Ballastの大法廷判決は現在最高裁で審理中の Teva v. Sandoz事件の判決によって変更される可能性あり。 Teva v. Sandoz事件において2014年のLighting Ballast大法廷判決で支持された1998年のCybor判決(クレーム解釈に対する地裁で認定された事実に関しても de novoレビュする)の争点を見直し中。(以上筆者)

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上記判決と法理によって、明細書を記載するとき(あるいは拒絶理由に対応するとき)には以下を心掛けること:

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(1)クレームの構成要素はできるだけ平易な言葉で表現する;(法理2:平易な用語を通常の意味合いで解釈することが権利範囲の観点ではベストである);

(2)クレームの構成要素を減縮解釈することを誘因するような記載を避けること。(法理3、実例1、実例2、実例3、実例4)実例1〜実例4で例示されている用語(“required”;  important feature”; ”essential”; “unavoidable”; “critical”; or 特定の形態を不必要に否定”disparage”するような記載) 或いは類義語(“this invention is”; “must include”)の使用を控える。

(3)拒絶理由通知に応答するときにも、上記(2)と同様。(先行技術との違いを説明するのは良いが、先行技術の形態を不必要に否定しすぎないこと;特に作用効果の違いを主張しすぎると後にクレームの減縮解釈を誘発する。或いは被疑侵害者の非侵害の主張をしやすくする。)

(4)後の減縮解釈を避けるために明細書に「但し書き:明細書で開示している実施形態は単に例示であり、本願発明は当該実施形態に限定されない;当業者にとって周知の形態も含む、例えば・・・」を追記しておくこと。拒絶理由対応時にも「但し書き」を適切に追加すること。(実例5)

(5)従属クレームで実施例レベルに相当する特徴を定義しておく。(法理5) そうすることで後に親クレームは従属クレームで規定している特徴とそれ以外のものも含むと主張できる。 実はPhillips v. AWH事件(法理2)でもこのclaim differentiation theoryが適用され、侵害判断に大きく影響した。

(6)クレームに包括されない実施形態(後に分割出願をする予定がなければ)を記載しない。 本事件とは直接関係ないがJohnson v. Johnston判決(Fed. Cir. en banc: 2002)に鑑み公共に寄与されたものと見做される。

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(以上、筆者)

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Moore, Schall, Reyna: Moore判事による意見(2014627日)の概要:

(Reyna判事による部分的な反対意見)

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特許権者: Hill-Rom

被疑侵害者: Stryker

問題となった特許:米国特許第5,699,038; 6,147,592; 7,538,659

後の2件は038特許出願からの継続出願で成立した特許(明細書は038号と同じ)。|

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上記3件の特許の代表的なクレーム(038特許クレーム1の概要):

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クレーム1

概要訳

1. A bed status information system for indicating to attending personnel the status of a patient bed, the bed status information system comprising:
 at least one bed condition input signal generator carried by said patient bed, the signal generator operable for monitoring a condition of the patient bed and generating an input signal indicative of the status of said monitored bed condition;
 an interface board including a processor which is electrically coupled with said signal generator, said interface board operable for receiving said bed condition input signal and processing said input signal to create bed condition messages indicating the status of the monitored condition;
 a processing station remote from the bed and coupled with said interface board by a datalink,

 the processing station operable for receiving said bed condition messages over the datalink and processing said messages, said station including an indication device for indicating, in a humanly perceptible form, the status of the monitored condition of the patient bed and the contents of the bed condition messages, such that the status of the monitored condition of the patient bed is indicated to attending personnel at a location remote from the bed.

患者用のベッドの状況をケアする人に知らせるためのベッド状態の方法システムであって、当該システムは以下の構成要素を含むことを特徴とする:

 前記患者のベッドに設置されたベッド状態入力信号生成部; 前記信号生成部はベッドの状態を監視し、同ベッド状態の状況(ステータス)を示す入力信号を生成する;

 処理部を含むインターフェース・ボード、当該インターフェース・ボードは前記信号生成部と電気的に連結されており、前記ベッド状態入力信号を受信し、当該信号を処理し、前記したベッドの状態のステータスを示すベッド状態メッセージを生成する;

 前記ベッドとは離間して配置され、データリンクによって前記インターフェースボードと連結された処理ステーション;

 前記処理ステーションは前記ベッド状態メッセージを前記出たリンクを介して受信し、同メッセージを処理し、さらに、前記処理ステーションは人が認識できる形態で前記のベッド状態のステータスおよび前記ベッド状態メッセージのコンテンツを示す表示装置を備えており、ベッドとは離間した位置にいるケアする人が監視された前記ベッド状態を知ることができる。

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背景及び判決文の概要:

特許権者Hill-RomStrykerを相手に侵害裁判をインディアナ州南部地区連邦地裁に提訴した。 地裁はStrykerの略式判決の申立てを受理し、地裁のクレーム解釈の基に非侵害と判断した。 Hill-Romは当該略式判決を不服としCAFCに控訴した。CAFCは地裁の非侵害の判断は間違ったクレーム解釈に基づくとし、略式判決を破棄し、地裁に差し戻した。 

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CAFCの判断:

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CAFCは以下の4つのクレーム用語の解釈に関して地裁の判断を否定した。

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クレームを解釈するにあたり、CAFCは地裁の判断をde novoでレビュする。 Lighting Ballast Control v. Phillips Elecs. (Fed. Cir. en banc 2014) 一般に、クレーム用語には、明細書および経過書類を参酌したうえで、平易で且つ通常の意味合いが与えられる。 See Phillips v. AWH Corp. (Fed. Cir. en banc 2005) 上記一般ルールには2つの例外がある。 例外その1は特許権者がクレーム用語の定義を自らが辞書編集人として与えている場合(Lexicography)、そして2番目の例外は特許権者が明細書あるいは審査過程においてクレーム用語の本来の意味合いを否定(Disavowal)している場合である。 Thorner v. SONY Computer Entm’t Am (Fed. Cir. 2012)

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1)datalink(データ・リンク):(038特許)

地裁は当該用語の意味合いをケーブル(ワイヤー)と解釈した。 CAFCは当該解釈を否定した。 その理由は、通常は明細書の実施例の開示をクレームに読み込まない。 Liebel-Flarsheim v. Medrad (Fed. Cir. 2004) 上記したようにクレームの通常の意味合いから離間するのは上記2つの場合(例外:辞書編集及び否認)にのみ可能である。 特許権者が辞書編集人として機能するのは問題となるクレーム用語の通常の意味合いとは異なる定義を明細書で明白に規定している場合である。 CAFCにおいては、特許明細書に単一の実施例しか開示されていなくとも、クレームがその実施例の詳細な開示内容に限定解釈されるということを明白に否定してきた。 Liebel-Flarsheim, 358 F.3d at 906 さらに、特許明細書に実施例がひとつしか開示されていなかったとしても特許権者がその実施形態に減縮されるということを明白に意思表示していない場合にはクレームを当該実施例に減縮されるように解釈してはならない。 Teleflex v. Ficosa N. Am. Corp (Fed. Cir. 2002)

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Disavowal(通常の意味合いの権利範囲の一部を否定すること)とは明細書(または経過書類)においてクレームされた発明が特定の特徴を含まないことを明示している場合、SciMed Life Sys. V. Advanced Cardiovascular Sys. (Fed. Cir. 2001)、或いは、クレームを特定の発明の形態に限定することを明示している場合である。 Edwards Lifescience LLC v. Cook Inc., (Fed. Cir. 2009)

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さらに、明細書において「製造方法を成功に導くためには特定のステップが必要である・・“successful manufacture” a particular step was “required”」という記載は発明の一部を放棄していると理解される(特定のステップに限定的に解釈される)。 Andersen Corp v. Fiber Composites (Fed. Cir. 2007)

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さらには、明細書における以下の記載も発明を限定する(disclaimer(クレームの限定解釈)と判断した:

”the invention operated by “pushing (as opposed to pulling) forces”, and then characterized the “pushing forces” as “an important feature of the present invention.” SafeTCare Mfg., Inc. v. TeleMade, Inc. (Fed. Cir. 2007)

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また、さらには、明細書における以下のような記載も限定と解釈(クレームの限定解釈)した: 

the patent repeatedly disparaged an embodiment as “antiquated”, having “inherent inadequacies” and then detailed the “deficiencies that make it difficult” to use. Chicago Bd. Options Exch v. Int’l Sec. Exch LLC (Fed. Cir. 2012)

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さらには以下のような記載も限定と解釈(クレームの限定解釈)した:

CAFC found disclaimer limiting a claim element to a feature of the preferred embodiment when the specification described that features as a “very important feature … in an aspect of the present invention” and disparaged alternatives to that feature.  Inpro II Licensing v. T-Mobile USA (Fed. Cir. 2006)

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上記法理を参酌し、datalinkという用語に対する限定的解釈あるいは辞書編集はない。 明細書のいずれの箇所にも datalinkという用語がワイヤー(ワイヤーレスを含まない)に限定解釈されるという根拠がない。 例えば、本願発明は「ワイヤー型のデータリンクである」、「ワイヤーを含む」、或いは「ワイヤーであることを参照している」(the present invention “is”, “includes” or “refers to” a wired datalink)、或いは、ワイヤー型のデータリンクを使用することの利点、その重要性が開示されていない。 さらにはワイヤーレスのデータリンクを使う代わりにワイヤー型を使うことが重要であるという記載がない。 明細書の実施形態にはデータリンク39、ケーブル39が開示されているものの好適実施例を示すもので発明の本質的な構成要素を示しているわけではない。 経過書類(審査経過)を参酌してもワイヤーにより連結の重要性が言及されていない。

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さらに、明細書に以下の但し書きがある:

The “description of various embodiments” is not intended “to restrict or in any way limit the scope of the appended claims to such details”

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上記したように明細書或いは経過書類のどの部分にもデータリンク(datalink)を好適実施形態に限定解釈することを示唆する記載はない。 依って、地裁のように、datalinkの通常の意味合いから離間し解釈することは正しくない。

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さらに、本事件の038特許の後の非関連出願(038特許の継続出願ではないという意味)であるUS Pat App. No. 13/336,044において038特許が引例として引用され、審査官が038特許のベッドにはワイヤーレスタイプの受信部が備えられていないとコメントしているが、当該審査官のコメントでもって038特許のクレームのdatalinkをワイヤー型に限定解釈するのは間違いである。 何故なら、審査官は038特許の開示(明細書の好適実施例)に対して言及したのみである。038特許の明細書にワイヤーレス型の受信部が開示されていないことには特許権者も同意するだろうが、明細書には周知の技術(ワイヤーレス形式)を記載する必要はない。 Streck Inc. v. Research & Diagnostic Sys (Fed. Cir. 2012)  言い換えると、明細書の実施例に記載されていないからといってクレームの用語に本来備わった通常の意味を与えることを否定することにはならない。 審査官が審査過程において引例(特許)の開示に対して言及することが、当業者が問題となるクレームの構成要素に対する通常の意味であると理解するのは間違いである。

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さらに、datalinkがワイヤー型とワイヤーレス型の両方を含むということはクレームにもサポートがある。 659特許(継続出願:038特許と同じ明細書)のクレーム2で「データリンクがワイヤー形式である」ことを規定している。 「クレームdifferentiationの法理」によって、従属クレームがさらなる特徴を追加しているということはその親クレームには当該特徴に限定されないという推定が働く(Liebel-Flarsheim, 358 F.3d at 910)。 特に問題となっている用語に関して独立クレームと従属クレームに違いがある場合には当該推定はより強力となる。 但し、当該推定は明細書および経過書類に異なる記載がある場合には反証可能ではある。 Seachnage Int’l v. C-COR, Inc. (Fed. Cir. 2005

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反対意見において当該用語「datalink」は機能表現による構成要素であると述べられているが、当該要素に112条第6項の解釈を適用するのは間違いである(詳細理由省く)。 さらに反対意見において、出願時において(発明時)データリンクという用語がワイヤーレスの形態をも含むということを当業者が理解していなかったであろうと述べているが、038特許の明細書の従来技術の欄に赤外線・・などのワイヤーレスによる信号の伝達手法が開示されている。

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上記理由により、本法廷(多数意見)は、「データリンク」という用語の通常の意味合いはワイヤーレス形態も含むと判示する。

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2)interface board including a processor:(038特許)

地裁はクレーム1の本構成要素(interface board including a processor)を、入力信号を処理しベッド状態メッセージを生成し、当該メッセージをウォールのインターフェースユニットを介して遠隔地に送信するボード(”a board that processes an input signal to create bed condition messages and sends those messages to a remote location via the wall interface unit”)と解釈した。

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CAFCは当該クレーム用語の意味合いを、「ベッドの各要素とベッド以外の要素との間のインターフェースであってベッドの入力信号を処理する」ものと解釈する。 

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次に、地裁は、038特許クレーム20(クレーム19から直接従属している)のインターフェースボードは遠隔地よりメッセージ受信すると解釈しているが、クレーム19においてインターフェースボードはベッド状態入力情報受信することを規定しているのみで、且つ、クレーム20において遠隔地よりメッセージを受信するという特徴は規定していない。 実のところクレーム24(クレーム19より直接従属している)においてメッセージを遠隔地より受信するという特徴を規定しているので、「クレームdifferentiationの法理」に基づきクレーム20が問題となる特徴を含まないという推定が働く。

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CAFCの理解では、インターフェースという用語の一般的な意味合いとして一方向或いは双方向のコミュニケーションを含む。 明細書には確かにインターフェースボードが遠隔地よりメッセージを受信することが開示されている。 しかし明細書のいずれの箇所にも当該インターフェースが双方向のコミュニケーションを可能にするものに限定するという開示はない、またその重要性、或いは、本件特許の本質部分であるという開示はない。

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さらに、クレーム1の当該構成要素(interface board including a processor)ウォールのインターフェースユニットを介して遠隔地にメッセージを送信するという地裁の解釈は正しくない。 確かに明細書に一実施例としてその旨が開示されているが、当該特徴はクレームに記載されておらず、当該特徴をクレームに読み込む理由はない。 従属クレーム7(クレーム1から直接従属)に当該特徴が規定されているので「クレームdifferentiationの法理」に基づきクレーム1は当該特徴に限定されないという推定が働く。 さらに、当該特徴を読み込むべきという辞書編集(lexicography)に相当する記載はない、或いは、そのように限定的に解釈するべく用語の意味合いの本来の範囲を放棄する(disavow)記載はない。

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依って、地裁のクレーム1による本構成要素(interface board including a processor)の解釈、即ち、「入力信号を処理しベッド状態メッセージを生成し、当該メッセージをウォールのインターフェースユニットを介して遠隔地に送信する」は間違いである。

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3)message validation information: (592特許)

地裁は592特許クレーム17の構成要素(message validation information:メッセージ検証情報)を送信したメッセージと正確に同じメッセージ(ビット・バイ・ビットで同じ)を受信したということを確認するためのメッセージ中のデータフィールドであると解釈している。

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Message validation(メッセージの検証)という用語の通常の意味合いはメッセージが有効であることを確認するという意味である。 明細書でも当該解釈が支持されている。 明細書において、メッセージの検証に関しては唯一の実施形態の開示があり、CHECKSUMフィールドを活用し、パリティー(等価性:同等)をチェックするルーチンによってメッセージが適切に受信されたか否かをチェックし、再送するべきかを確認することが開示されている。依って、当該構成要素を地裁の通りに解釈すると唯一の好適実施例を含めなくなる。 クレームの構成要素の意味合いを明細書に開示された唯一の好適実施例を含まないように解釈するというのは極ごく稀な状況であり、そのような特異な解釈をする場合にはかなり説得性のある証拠が必要である。 Vitronics Corp.v. Conceptronic Inc (Fed. Cir. 1996) 本件はそのような例外的なケースではなく、CHECKSUMの実施例においても許容可能なエラー比率が考慮に入れられている。

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4)bed condition message :(038特許)

地裁は当該構成要素(bed condition message:ベッド状態メッセージ)をユーザーの要請によって生成されるものではなく、ベッドがモニター可能な全てのベッド状態のステータス(状況)を含むと解釈している。 

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CAFCは当該解釈を否定する。 即ち、「ベッド状態メッセージ」の通常・一般的な意味合いは監視の対象であるベッド状態を示すメッセージである。 地裁のように解釈することを裏付けるように明細書で辞書編集(lexicography:用語が定義)されていない、あるいは、一般的なベッド状態メッセージの意味合いを地裁のように限定的に解釈をするというような記載(disavowal)はない。 さらに、ユーザーの要請云々という特徴は存在しない。

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地裁はHill-Romが後に本件特許とは関連しない別出願(継続出願ではないという意味)において本件特許と同じ明細書を持つ特許が先行技術として引用され、当該先行技術の開示に対してコメントした内容を基に本件特許の「ベッド状態メッセージ」という用語を限定解釈すると述べているが、その考え方は Pfizer v. Ranbaxy Lab. (Fed. Cir. 2006)に鑑み間違いである。 法廷禁反言(judicial estoppel)を成立させるためには当事者の後の立場(主張)が先の主張と明らかに矛盾することが要件である。そもそも非関連出願の審査中に、引例として自身の特許A(裁判で問題となる特許)が引用され、当該引例としての特許Aの開示(明細書)に対する出願審査中のコメント(見解)と侵害裁判における特許Aのクレームの構成要素の解釈とは異なることは通常のことである。また、本件においては後の主張と先の主張との間に明らかな矛盾はない。

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依って、CAFCは「ベッド状態メッセージ」という構成要素を監視の対象であるベッド状態の状況を示すメッセージと解釈する。

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結論:

依って、地裁略式判決を破棄し、差し戻す。

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Reyna判事による反対意見は略す。

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