合衆国最高裁判決

Halo Electronics Inc. v. Pulse Electronics, Inc.

Stryker v. Zimmer

2016613

判決文 by Chief Justice ROBERTS

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最高裁は284条の「懲罰規定:賠償額増額」の要件を下げた。

Summarized by Tatsuo YABE – 2016-06-15  

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2016613日、米国特許法284条に基づく懲罰規定(所謂上限3倍賠償)の発動に対する合衆国最高裁判決がでました。Seagate判決(2007年のCAFC大法廷判決)で判示された284条の賠償額増額の発動基準(主観要件客観的要件: Subjective knowledge & Objective recklessness)は全面的に否定された。即ち、地裁裁判官に与えられた裁量権の行使に適切な自由度があることが確認された。今回の判決は、285条の発動(弁護士費用の負担)に関する2014年のOctane判決及びHighmark判決からある程度予想された。要は、条文に特定の規定がない限り地裁裁判官に与えられた裁量権の行使はある程度の自由度が認められるということだ。とはいえ裁判官がきままに発動できるというほど安易なものではないと注意を喚起している。

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今回の最高裁判決で特許訴訟における挙証基準は「証拠の優越性」でありSeagate事件が判示した「明白且つ説得性」のある証拠という挙証基準が否定された。この箇所から読み取れるのはCAFC判決で大法廷で判示された基準であってもその根拠が条文に明示或いは暗示のない場合には当該基準は破棄される可能性がある。ということはTherasense事件2011年大法廷)でIDS開示違反による不法行為の認定の基準は最高裁に上がれば維持されるのだろうかという疑問が生じる。

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Therasense事件で判示された不法行為認定に対する基準は、事情は違うもののSeagate事件(2007年大法廷)の認定基準と凄く類似している。即ち、Therasense事件での不法行為の認定基準は[1]出願人が特許庁を騙す意図(intent to deceive)という主観要件、と[2]隠蔽された情報が特許庁に正確に知らされていれば成立した問題となる特許の権利範囲で特許されていなかったであろう(materiality)という客観的要件がある。Therasense事件でこれら2つの要件を「明白且つ説得性」という基準で個別に挙証されることが要求された。 

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Therasense事件2011年大法廷)

Seagate事件(2007年大法廷)

IDS等提出不備による不法行為の認定基準

 

284条の損害賠償増額を認定する基準

[1] 主観的要件:

特許庁を騙す意図

(Intent to Deceive)

[1] 主観的要件:

侵害者が特許の存在を周知していたという事実(subjective knowledge)

[2] 客観的要件:

重要性の要件(PTOに正しく情報が伝わっていれば同じ権利範囲で特許されていなかったであろう。(Materiality of Information)

[2] 客観的要件:

侵害者の行為が客観的に無謀であること(objective recklessness)

[3] 挙証基準

上記[1][2]ともに明白且つ説得性のある証拠

[3] 挙証基準

上記[1][2]ともに明白且つ説得性のある証拠

最高裁で上記基準が否定される可能性あり(筆者)。

今回最高裁は上記[2]の挙証を否定した。

さらに[3]の挙証基準を否定し、証拠の優越性という基準であると判示した。

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今回最高裁はSeagateの2つの要件(主観要件と客観要件)の[2]客観的要件を否定するとともに[3]挙証基準も否定した。Therasense事件の基準は最高裁でレビュされていない。しかしSONY ENTERTAINMENT事件(2013年)[※1]が最高裁に上告される一歩手前までいったが、客観的要件に対する下級審での審理が不十分であったこととTherasense事件(2012年)から十分な時間が経過していないということで最高裁でのレビュは時期尚早という理由でSolicitor Generalが最高裁に助言した(上告棄却とされた)。

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依って、今回の最高裁判決によってTherasense事件の判示事項(特許を権利行使不能にしうる不法行為の認定基準)が最高裁で将来変更される可能性があるということを注記しておきます。(筆者)

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以下本論

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米国特許法284条に基づく懲罰規定(Enhanced Damages:以下下線部)の適用に対する合衆国最高裁判決がでました。

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35 U.S.C. 284

 

Upon finding for the claimant the court shall award the claimant damages adequate to compensate for the infringement but in no event less than a reasonable royalty for the use made of the invention by the infringer, together with interest and costs as fixed by the court.

 When the damages are not found by a jury, the court shall assess them. In either event the court may increase the damages up to three times the amount found or assessed. Increased damages under this paragraph shall not apply to provisional rights under section 154(d).

    The court may receive expert testimony as an aid to the determination of damages or of what royalty would be reasonable under the circumstances.

 

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最高裁はCAFC大法廷判決(Seagate事件:2007年)の判断基準、「284条、懲罰規定を適用するには侵害者の行為が客観的に無謀(“objective recklessness”)であることを明白且つ説得性のある証拠で挙証を要する」を否定した。さらに挙証に対して「明白且つ説得性という挙証基準(“clear and convincing evidence”)」を否定し、米国特許法第273条(b)項で規定されている事情以外には「証拠の優越性(“preponderance evidence”)」という挙証基準が妥当するとした。 さらに、控訴審(上訴)において下級審の284条判断をレビュする基準は「裁量権の濫用(“abuse of discretion”)」であると判示した。

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事件の背景:

Halo v. Pulse:

2002年当時、Halo(特許権者)はPulseに対してラインセンス契約をするように打診していた。しかしPulseの技術者の一人がHaloの特許は無効であると判断し被疑侵害品の製造販売を継続した。2007年にHaloPulseに対して特許侵害訴訟を提起し陪審はPulseの侵害行為を故意であると判断した。しかし地裁はPulseの行為はSeagate判決の「客観的な無謀性」を満たしていないとして284条の賠償額の増額を認めなかった。Haloは控訴したがCAFCも地裁判決を支持した。

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Stryker v. Zimmer

StrykerZimmerは整形用パルス洗浄装置の技術分野で競合関係にある。当該装置は整形手術時の細胞組織を洗浄するための噴射ガンと吸引チューブによる構成される。 2010年、StrykerZimmerを相手取り侵害訴訟を提起した。陪審はZimmerの行為(Zimmerは侵害の危険を重々承知の上で競合市場での利益を即刻得るために自社の設計チームにStrykerの製品をコピーするように指示したという事実を認定)を極悪な故意侵害であると判断し地裁裁判官は284条の裁量権を発動し、3倍賠償($228 Million)を認定した。CAFCは地裁の侵害判断を支持するもZimmerが合理的な抗弁を地裁審理において主張していたという理由で3倍賠償を認容しなかった。

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上記2つの事件から共に特許権者の方から裁量上告があり最高裁が受理した。

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最高裁判決の概要:

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米国特許第284条は、侵害判断時に損害賠償額を3倍まで増額することを許容している。CAFCIn re Seagate(大法廷判決:2007年)で以下の2つの要件が満たされたときに284条の賠償額の増額を認めるとした:

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[1]客観的に観て「有効な特許を侵害する」ことがかなり確からしいにも拘らず侵害行為をしていたということを“明白且つ説得性”のある証拠で証明;--客観的に無謀であること(objective recklessness)

[2] 侵害行為が起こることを周知或いは起こるであろうことが自明であったことを“明白且つ説得性”のある証拠で証明。--主観的な周知の事実(subjective knowledge)

控訴審における上記[1]のレビュ基準はde novoである(地裁判断には全く左右されない)。

控訴審における上記[2]のレビュ基準はsubstantial evidenceである(地裁で十分に挙証されたか)。

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最高裁判決:

Seagate判決における上記判断基準は284条の趣旨に合致していない。

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(A)  284条の文言に損害賠償額の増額に対し制限或いは条件を課していない。寧ろ、284条の含意(暗示的な意味合い)は地裁に裁量を与えている。 然しながら、地裁の裁量といってもそれは地裁裁判官の気まぐれで行使してはいけない。 284条の適用に対する明確なルールがあるわけではないが裁量権を行使するか否かを熟考したうえで判断しなければならない。過去180年にも及ぶ期間において損害賠償額を増額する理由は通常の侵害行為を厳罰に処するというのではなく、侵害の甚だしい行為に対する制裁のためであるということは判例として定着した。

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(B)  Seagate判決は多くの側面でこの長年に渡り確立された判例法の趣旨を反映している。然しながら、Seagateの基準は284条の適用に対して無用に硬直的であり、地裁の裁量権の行使を容認できないほど阻害するものである。

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(i) Seagateの「客観的に無謀」という要件は、特許権者のビジネスを略奪するという目的のみで、特許の有効性に疑義、或いは、非侵害の抗弁に疑問の余地がない状態で、当該特許を意図的に侵害するという最も咎められるべき行為者に対して裁量権を行使し罰することすら阻害する。 何故ならそのような侵害者に対しても地裁はその行為が客観的に無謀であることを証明することを要求されるからである。このように悪意に基づく行為を処罰するために、法的に独立した「客観的な無謀性」を挙証することが前提となるのか? 285条(弁護士費用)に対するOctane Fitness事件は本事案に教訓を与えていると理解される。Octane事件において、CAFCの基準、即ち、「2つのテスト(“objectively baseless and brought in subjective bad faith”)を満たしたときに事案は例外的であるとし、弁護士費用の支払いを認める」は否定され、主観的な悪意(“subjective bad faith”)の証明のみで弁護士費用の支払いを認めるとした。この考え方が本事案にも妥当する。行為者の行為が客観的に無謀であるか否かに関係なく侵害行為者の主観的な故意(subjective willfulness of an infringer)が挙証されれば特許権者に損害賠償額の増額が認められる。 さらにSeagate事件において、侵害者が妥当な抗弁(非侵害或いは権利行使不能)を集積することで、仮に当該抗弁を基礎として行為を行っていたか否かを不問とし、284条の適用なしとした点は間違いである。法的な有責性は行為者が問題となる行為を実行するときの認識(自覚)によって判断される。 284条は行為者の有責な行為をあらゆる角度から処罰することを許容している。然るに、地裁は個々の事案における特有な事情を考慮し、通常故意の不法行為による甚だし事案を処罰する権限を留保するべきである。

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(ii)  Seagate事件における客観的な無謀性を「明白且つ説得性のある証拠」で挙証するという判示事項も284条の趣旨に反する。これに関してもOctane Fitness判決が参考になる。Octane Fitness事件において弁護士費用支払いの認定に対しても「明白且つ説得性」のある挙証基準が否定された。この基準は通常の挙証基準よりも高いものであって条文にその根拠がないという理由でOctane Fitness判決においても否定された。284条においても挙証基準を上げるということが規定されていない。273条(b)項に見られるように立法者(連邦議会)は特許法条文で「明白且つ説得性」という挙証基準を明瞭に規定したが284条に関しては挙証基準を上げるという規定は一切ない。 特許訴訟における挙証基準は証拠の優越性という基準で行うことが過去の判例の蓄積でも確立している。284条の損害賠償額の増額に関しても例外ではない。

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(iii)  284条の発動に際し硬直的な規則を適用することを否定するとともに、本法廷(最高裁)はCAFC3部からなる控訴審のレビュ基準を否定する。Highmark事件で判示したように複雑なレビュ基準を否定し、控訴審におけるレビュ基準を「裁量権の濫用」とした。本事案においても同じ結論が導き出せる、何故なら、損害賠償額を増額するか否かの判断は地裁裁判官の裁量権であり、このように下級審裁判官の裁量判断に対する控訴審のレビュ基準は「裁量権の濫用」が妥当する。過去200年にも及ぶ損害賠償額の増額に対する認定は地裁裁判官の裁量権の発動を制限してきた。

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(c)  2011年のAIA(アメリカ特許法改正法)で再度明文化された284条にはSeagate判決を暗に内在させたという主張には賛同できない。議事録にもそのような記録は存在しない。

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Pre-AIA

35 U.S.C. 284 Damages.

 

 

Under AIA

35 U.S.C. 284 Damages.

 

 

Upon finding for the claimant the court shall award the claimant damages adequate to compensate for the infringement but in no event less than a reasonable royalty for the use made of the invention by the infringer, together with interest and costs as fixed by the court.

When the damages are not found by a jury, the court shall assess them. In either event the court may increase the damages up to three times the amount found or assessed. Increased damages under this para­graph shall not apply to provisional rights under sec­tion 154(d) of this title.

 

The court may receive expert testimony as an aid to the determination of damages or of what royalty would be reasonable under the circumstances.

 

Upon finding for the claimant the court shall award the claimant damages adequate to compensate for the infringement but in no event less than a reasonable royalty for the use made of the invention by the infringer, together with interest and costs as fixed by the court.

 When the damages are not found by a jury, the court shall assess them. In either event the court may increase the damages up to three times the amount found or assessed. Increased damages under this paragraph shall not apply to provisional rights under section 154(d) of this title.AIAによってこの部分が削除されたのみ

 

The court may receive expert testimony as an aid to the determination of damages or of what royalty would be reasonable under the circumstances.

 

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地裁裁判官に制限なく裁量権の行使を許すということは特許権者の権利保護と技術の革新というバランスを乱すことになるという主張がある。この主張は確かに重要な点をついている。284条が軽率に発動されれば確かにこのバランスが乱される。無論284条の発動はそうであってはならない。然し、だからといってSeagate判決の判断基準を採用することを正当化することはできない。

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結論:

284条は地裁裁判官に侵害行為者に対して損害賠償額を増額することを決定する裁量権を与えている。 しかし284条を発動するには約200年にも及ぶ過去の判例の蓄積から得られる堅実な指針を順守するべきである。これら判例による指針によって284条の発動は一般的な侵害行為を超えた甚だしい侵害行為に対して発動をするという制限が課せられる。Seagate事件の基準は地裁裁判官が284条の裁量権を行使するのを極度に制限することになる。 本裁判における2つの事件は共にSeagate基準で判断されたものなので破棄・差し戻しとする。

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参考:

[※1] 1st Media LLC v. Electronic Arts, Sony Entertainment America, et al. (Fed. Cir. Sep. 2012)

許可可能通知発行後であって登録料納付前の期間(所謂第3ステージ)に対応欧州特許出願のSRY表示の引例が引用された。当該Y引例をIDSしなかった理由に対する発明者とその代理人の証言は信憑性に欠くところがあるが、Therasense判決による「騙す意図」は証明されていない。 即ち、発明者も代理人も(a)引例の存在を周知していた;(b)引例の関連度合(重要性)が高いことを周知していたかもしれない;(cUSPTOに知らせなかった; 

 

上記(a)〜(c)の事実認定ではTherasenseで判示されたIC (Inequitable Conduct)の証明には不十分である。「騙す意図」を証明するには(A)引例の存在を周知していた;(B)その重要性を周知していた;(C)意図的にそれを開示しなかった。という3つの要件が証明されなければならない。本事件では特に(C[made a deliberate decision to withhold it.]の証明が欠落している。

 

最高裁: 上告棄却

Sony Entertainment America v. 1st Media LLC

最高裁は2013513日にSolicitor General(合衆国の総務長官)に助言を求めた。 20139月にSolicitor Generalの意見がでた。 それによると最高裁で裁量上訴を認めるべきではないとのこと。 その理由は、Therasense大法廷で判示された法理は正しいということと、SONYが当該法理を極端に硬直的に解釈しているということと、本事件の下級審において「重要性」に関して議論がされていないのでTherasense大法廷の法理を見直すには不十分である。 要は、「騙す意図」の証明には(1)情報を周知している;(2)当該情報が重要であることを認識している;そして(3)当該情報を審査官に意図的に知らせなかった。という3つの項目を証明する必要がある。 即ち、情報の「重要性」は「騙す意図」を証明するためにも不可欠な要件である。 さらに、Therasense大法廷判決が出てから2年程しか時間が経過しておらず当該法理を見直すために十分なPost-Therasense判決がでていない(即ち時期尚早である)。

 

20131015日、最高裁はSolicitor Generalの助言の基に上告を棄却した。