州裁判所は特許クレーム(連邦法)に絡んだ

弁護士の弁護過誤(malpractice)に対する事物管轄権を有するか?

 

Gunn v. Minton

合衆国最高裁判決

Feb. 20 2013

 

by Tatsuo YABE

March 26, 2013

 

 

合衆国最高裁は、特許クレームに絡む弁護士の過失に対する事物管轄権(弁護士の過失を判断するうえにおいて連邦特許法の解釈を必要とする)を州の裁判所は有すると判断した。

 

連邦法281338(a)項は、弁護士の過失を判断するうえにおいて連邦特許法の解釈をする必要がある場合であっても、州の裁判所がそれを行うことを否定するものではないとして合衆国最高裁は全員一致で州裁判所の事物管轄権を認める判決をくだした。

 

事件の背景と概要:

Minton1990年初頭に商取引の安全性を増長するセキュリティーのシステムを開発した。 19953月にTEXCENというシステムをStark社にリース(賃貸)した。 当該リース行為の後、1年を少し超えてから米国特許出願をし、20001月に当該システムに対する米国特許が発行された。 

 

その後、特許権者MintonGunn氏を訴訟代理人とし、NASD及びNASDAQを相手にテキサス州東部地区連邦地裁で侵害訴訟を提起した。 NASD及びNASDAQTexcenシステムをStark社に米国特許出願日の1年以上前にリースしたという事実を基に、102条(b)項の 「on sale bar」が成立するという主張で略式判決を申請した。テキサス州東部地区連邦地裁は同略式判決の申請を認め、問題となる特許を無効と判断した(Minton v NASDAQ: ED Tex. 2002)。 地裁判決の後に、Mintonは問題となったTexcenシステムのリースという行為は当該システムの信頼性をテストしている段階であり、102条(b)項の on –sale barに対して実験使用による例外規定が適用されるとし、テキサス州東部連邦地裁に再審理(再考)を申立てた。 同テキサス連邦地裁は当該申立てを却下した。 MintonCAFCに控訴するも、CAFCMintonが実験使用による例外規定の議論を放棄したと(反論の機会を逸した)判断し、テキサス連邦地裁の判決を支持した (Fed Cir. 2003)

 

その後、Mintonは訴訟代理人であったGunn氏が反論の機会を逸した(反論の期限を渡過した)ことによって、これだけの訴訟費用が発生し、さらに特許の無効という事態になったとし、Gunn氏の弁護過誤を理由にテキサス州の地裁(州の裁判所)に訴訟を提起した。 Gunn氏はStark社へのリース行為は実験使用の例外を構成しないので連邦地裁にてそのような反論を仮にしていたとしても特許は無効になったと主張し、略式判決を求めた。テキサス州の地裁は略式判決の申立てを認め、Gunn氏の主張を支持した。

 

その後、Mintonは同判決を不服とし、テキサス州の控訴裁判所に控訴した。 但し、Mintonの控訴理由は問題となる弁護過誤は連邦法である特許法を基礎とするので、そもそもテキサス州の地裁は28 USC 1338(a)に基づく事物管轄権を有していないので、当該地裁の判決は無効であると主張した。 テキサス州の控訴裁判所において合衆国最高裁判決Grable & Sons Metal Products v. Darue Eng’g & Mfg (2005)を引用し、1338(a)項を発動させるに十分で実質的な連邦法との利害関係がないと判断し、さらに、州裁判所で弁護過誤を争うことが連邦政府の管轄と州政府の管轄とのバランスを乱すものではないと判断し、州地裁判決を支持した。 

 

然しながら、テキサス州の最高裁においてはMintonGunn弁護士に対する弁護過誤の請求の勝敗は、リース行為が連邦法によるon-sale barに対する実験使用の例外規定(防御)に該当するか否かであり、Glabel最高裁判決で判示された実質的な連邦法の問題であると判断した。さらに、本事件を連邦裁判所で審理することが連邦と州の管轄権のバランスを維持すると判断した。 (テキサス州最高裁における反対意見は略す)

 

合衆国最高裁は自身のGlable判決の判示を適用し、テキサス州最高裁の判決を破棄した。 Glable判決において、次の4要件が満たされた場合に州裁判所における請求は連邦裁判所での管轄となる:(1)連邦法上の争点を提起する;(2)当該争点が実際に争われている;(3)当該争点が実質的(本質的)である; 及び、(4)連邦政府と州政府とのバランスを乱すことなく連邦裁判所で解決することができる。

 

合衆国最高裁はGlable判決の(1)と(2)は満たすと判断したが、(3)と(4)に関してはそれら要件を満たしていないと判断した。 合衆国最高裁によると、Mintonが請求する弁護過誤の解決手法は連邦政府にとって重大な関心事ではない。 事実、Miltonが請求する弁護過誤訴訟は仮定の問題を提起している、即ち、争点はもしもMiltonの訴訟代理人が適切なタイミングで実験的使用の例外に基づく反論をしていたら侵害訴訟の結果は異なっていたであろうかである。 いずれにせよMiltonの特許は無効と判断され、Miltonの訴訟代理人の弁護過誤の請求が認められたとしても、当該特許は無効のままである。 即ち、弁護過誤の裁判の結果如何に拘わらず、テキサス州東部地区連邦地裁での過去の無効判決に影響はなく、連邦特許法の統一的見解に影響を与えることはない。

 

合衆国最高裁は、Miltonの「Miltonの提起する弁護過誤の請求は特許法に精通した連 邦裁判所において審理するのが相応しい」という主張を退けた。 仮に州の裁判所が連邦特許法の適用に誤りを生じる可能性があるにしても、それのみで連邦裁判所がMiltonの弁護過誤の請求を審理する唯一管轄権を持つ裁判所であると理由づけるのには不十分である。

 

合衆国最高裁は、州自身の方が、州内における弁護士の行動を規制することに実質的な関心があると述べ、Miltonの弁護過誤の請求を連邦裁判所で審理することの方が州と連邦の管轄権のバランスを乱すことになるであろうと理由づけた。